悪魔の孫は時の王者となって世界最強   作:MTHR

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 思ったよりも早く書き上がったので、二話目を投稿します。
 今回は少し短めです。


70話 闇夜の襲撃

 薄暗く明かり一つ無い部屋の中に、格子の嵌った小さな窓から月明かりだけが差し込んで黒と白のコントラストを作り出していた。

 部屋の中は酷く簡素な作りになっている。鋼鉄造りの六畳一間、木製のベッドにイス、小さな机、そしてむき出しのトイレ。地球の刑務所の方がまだましな空間を提供してくれそうだ。

 

 そんなどう見ても牢獄にしか思えない部屋のベッドの上で壁際に寄りながら三角座りをし、自らの膝に顔を埋めているのは畑山愛子その人だ。

 愛子が、この部屋に連れて来られて三日が経とうとしている。

 愛子の手首にはブレスレット型のアーティファクトが付けられており、その効果として愛子は現在、全く魔法が使えない状況に陥っていた。それでも、当初は、何とか脱出しようと試みたのだが、物理的な力では鋼鉄の扉を開けることなど出来るはずもなく、また唯一の窓にも格子が嵌っていて、せいぜい腕を出すくらいが限界であった。

 

 もっとも、仮に格子がなくとも部屋のある場所が高い塔の天辺な上に、ここが【神山】である以上、聖教教会関係者達の目を掻い潜って地上に降りるなど不可能に近いのだが。

 そんなわけで、生徒達の身を案じつつも、何も出来ることがない愛子は悄然と項垂れ、ベッドの上で唯でさえ小さい体を更に小さくしているのである。

 

「……私の生徒がしようとしていること……一体何が……」

 

 僅かに顔を上げた愛子が呟いたのは、攫われる前に銀髪の修道女が口にしたことだ。愛子が、入間から聞いた話を光輝達に話すことで与えてしまう影響は不都合だと、彼女の言う“主”とやらは思っているらしい。そして、生徒の誰かがしようとしていることの方が面白そうだとも。

 愛子の胸中に言い知れぬ不安が渦巻く。思い出すのは、ウルの町で暴走し、その命を散らした生徒の一人、清水幸利のことだ。もしかしたら、また、生徒の誰かが、取り返しのつかない事をしようとしているのではないかと愛子は気が気でなかった。

 

 こうして何もない部屋で監禁されて、出来る事と言えば考えることだけ。そうして落ち着いて振り返ってみれば、帰還後の王宮は余りに不自然で違和感だらけの場所だったと感じる。愛子の脳裏に、強硬な姿勢を崩さない、どこか危うげな雰囲気のエリヒド国王や重鎮達のことが思い出される。

 きっと、あの銀髪の修道女が何かをしたのだと愛子は推測した。彼女が言っていた、“魅了”という言葉がそのままの意味なら、きっと、洗脳かそれに類する何かをされているのだ。

 

 しかし、同時に、会議の後で話した雫やリリアーナについては、そのような違和感を覚えなかった。その事に安堵すると共に、自分が監禁されている間に何かされるのではないかと強烈な不安が込み上げる。

 どうか無事でいて欲しいと祈りながら、思い出すもう一つの懸念。それは、“イレギュラーの排除”という言葉。意識を失う寸前に聞いたその言葉で、愛子は何故か一人の生徒を思い出した。

 

 命の恩人にして、自分を先生として認めてくれた生徒。圧倒的な強さと強い意志を秘めながら、愛子の言葉に耳を傾け真剣に考えてくれた男の子。そして……色々とあって、色々と思うところがあったり、なかったり、やっぱりあったりするのだけど、ないと思うべきで、でも思ってしまう人。

 

 封印しようと努力しているのに中々できないとある記憶を、再び脳内で再生してしまい、そんな場合ではないと分かっていながら頬が熱くなってしまう。頭をぶんぶんと振って記憶を追い出した愛子だったが、入間の安否を憂慮する気持ちと何故か無性に逢いたい気持ちに押されて、ポロリと零すように彼の名を呟いた。

 

「…………鈴木君」

「何ですか、先生?」

「ふぇ!?」

 

 半ば無意識に呟いた相手から、あるはずのない返事が返ってきて思わず素っ頓狂な声が上がる。部屋の中をキョロキョロと見回すが自分以外の人などいるはずもなく、愛子は「幻聴だったのかしら?」と首を捻った。しかし、そんな愛子へ幻聴でないことを証明するように、再度、声がかけられた。

 

「こっちだ、先生」

「えっ?」

 

 愛子は、体をビクッと震わせながら、やっぱり幻聴じゃない!と声のした方、格子の嵌った小さな窓に視線を向ける。するとそこには、壁に背中を預けている入間の姿があった。

 

「えっ?えっ?鈴木君ですか?えっ?ここ最上階で…本山で…えっ?」

「僕なら、扉を開けずに牢屋には入るなんて何て事ないですよ」

 

 

 

 混乱する愛子を尻目に、フォーゼコズミックステイツウォッチを使い侵入を果たした入間は苦笑する。愛子のいる部屋は地面から百メートル近くある。にもかかわらず、最初からそこにいましたと言うように登場した入間に、愛子は目を白黒させた。

 そんな愛子に入間は小さく笑みを浮かべながら歩み寄る。

 

「何でそんなに驚くんですか?俺が来ていることに気がついていたんじゃないですか?」

「へっ?気づいて?えっ?」

「いや、だって、僕の名前呼んだじゃないですか。僕がワープドライブで来たのを察知したんじゃないんですか?」

 

 もちろん、愛子がワープドライブを行使した空間の歪みに気が付けるはずもなく、ただ入間を想って自然と呟いてしまっただけなのだが……愛子は、まさか、貴方の事を考えていて半ば無意識に呟いてました等と言える訳もなく、焦った表情で話題の転換を図った。

 

「そ、それよりも、なぜここに……」

「もちろん、助けに」

「わ、私のために?鈴木君が?わざわざ助けに来てくれたんですか?」

「園部さんに頼まれましてね」

「そ、園部さんに?」

「説明がややこしいから省きますけど、要するに貴方が拐われるのを見ていたんですよ。それで僕の知人の協力で僕達が滞在していたエリセンにまでやって来て、貴方を助けてくれって頼まれたんですよ」

「園部さんが……鈴木くんは、それに応えてくれたんですね」

「まぁ……元を正せば、貴方がこうして誘拐された原因は、貴方に神の真実を話した事が原因ですからね。貴方の事は結構好きですし、これくらいは当然ですよ」

「わ、私の事を好き…!?」

「?畑山先生?」

 

 何やら赤面してあわあわし始めた愛子に、先程から妙に落ち着きが無いことも相まって、まさか既に洗脳でもされたのか?と眉をしかめる入間。

 ベッドに腰掛ける愛子の元に歩み寄り、間近で愛子を観察し始めた入間に、愛子は益々赤面し動悸を早めていった。なにせ、直前まで脳裏に浮かんでいた男の子が、自分の窮地に助けに来てくれた挙句、深夜にベッドの傍で、自分を真剣な表情で見つめてくるのだ。これがただの生徒と教師なら、特に何の問題もなくどうしたのか?と尋ねるところだが……そう言い切れない愛子は、ただ硬直して間近にある入間の瞳を見つめ返すしかなかった。

 

 入間は愛子に魔法が掛けられている痕跡を発見できなかったことから一先ず大丈夫だろうと考え、愛子の手を取った。魔力封じのアーティファクトを取り除くためだ。

 その時、いきなり手を取られた愛子の脳裏に、声が響いた。

 

……殺せ

 

「ッ!?嫌ッ!!!」

「ッ!」

 

 その声が聞こえた瞬間、愛子は咄嗟に入間が触れた手をバシッ!と振り払った。

 頭に過る謎の声に未知の恐怖を覚えた愛子は、ベッドの上で頭を抱えて過呼吸になるが、直ぐに声は聞こえてこなくなると、冷静になった愛子は、入間が目を丸くしているのを見て慌て始める。

 

「ご、ごめんなさい!す、鈴木君!私、決して貴方に触れられるのが嫌だった訳じゃ……」

「……やっぱり、嫌でしたか?」

「え?」

 

 普段と変わらないようで、少しだけ気落ちしたような声を聞いて、愛子は目を丸くする。

 

「誤魔化さなくて良いですよ。ウルの町では僕達の油断のせいで貴方はアナザーライダーにされて清水を自分の手で殺して、今回は僕が原因で貴方は誘拐されたんですから。僕には会いたくなかったんでしょうけど……園部さん達と合流するまでは我慢してくれませんか?」

 

 自嘲するような笑みをこぼしつつ、愛子の魔力を封じるアーティファクトを素早く解除して立ち上がった入間。その言葉を聞いた愛子は、思わず入間の手を握り締めた。そして、訝しむ入間に愛子は真っ直ぐな眼差しを向けると、嘘偽りない本心を語った。

 

「君を拒絶するなんて、絶対にありません。助けに来てくれて、本当に嬉しいです。……確かに、清水君の事はまだ完全に割りきれていません。でも、君がいてくれたから…君が私の言葉に耳を傾けてくれたから……。だから、君を恨んだり、嫌ったりなんてあり得まません」

「……先生」

 

 目を丸くする入間に、愛子は、憂いと優しさを含ませた微笑みを向ける。

 

「あの時は、きちんと言えませんでしたから……今、言わせて下さい。……助けてくれてありがとう。貴方を戦わせしまってごめんなさい」

「……僕は、僕のやりたいようにやっただけです。礼は受け取るけど、謝罪はいらない。それより、そろそろ行きましょう。あのピーターパン症候群達のところには園部さん達が行ってるはずだ。合流してから、これからどうするか話し合えばいい」

「わかりました。……鈴木君、気を付けて下さい。教会は、頑なに君を異端者認定しました。それに私を攫った相手は、もしかしたら君を……」

「わかってます。どっちにしろ、先生を送り届けたら、僕は僕の用事を済ませる必要があるし、貴方を誘拐・監禁した教会の連中は皆殺しにしないと気が済まない……」

 

 強靭な意志を秘めた眼差しで愛子に頷く入間。その眼差しと、自分のために怒りを露にする姿に再び頬が熱くなるのを感じながら、愛子は再び憂慮の言葉をかけようとした。

 

 と、その時、遠くから何かが砕けるような轟音が微かに響き、僅かではあるが大気が震えた。

 何事かと緊張に身を強ばらせた愛子が入間に視線を向けると、入間は遠くを見る目をして何かに集中していた。現在、入間は地上にいるユエ達から念話で情報を貰っているのである。

 

「……どうやら、僕が出るまでもないかもね。この国の終わりも目の前か」

 

 しばらくすると、入間は鼻をならしながら視線を愛子に戻す。愛子は、入間が念話を使えることを知らないが、非常識なアーティファクト類を沢山見てきたので、それらにより何か情報を掴んだのだろうと察し、視線で説明を求めた。

 

「先生、魔人族とバダン連合軍の襲撃です。さっきのは王都を覆う大結界が破られた音らしい」

「魔人族の襲撃!?それって……」

「今、ハイリヒ王国は侵略を受けている。仲間から“念話”で知らせが来た。魔人族と魔物、そしてバダン怪人の大軍だそうですよ。完全な不意打ちでしたね」

 

 入間の状況説明に愛子は顔面を蒼白にして「有り得ないです」と呟き、ふるふると頭を振った。

 それはそうだろう。王都を侵略できるほどの戦力を気づかれずに侵攻させるなどまず不可能であるし、王都を覆う大結界とて並大抵の攻撃ではこゆるぎもしないほど頑強なのだ。その二つの至難をあっさりクリアしたなどそう簡単に信じられるものではない。

 

「先生、取り敢えず園部さん達と合流しましょう。話はそれからです」

「は、はい」

 

 緊張と焦燥に顔を強ばらせた愛子を、入間は片腕に座らせるような形で抱っこする。「うひゃ!」と再び奇怪な声を上げながらも、愛子は咄嗟に、入間の首元に掴まった。

 と、その瞬間……

 

 

カッ!!!

 

 

 外から強烈な光が降り注いだ。

 

「ッ!?」

 

 部屋に差し込んでいた月の光をそのまま強くしたような銀色の光に、本能がけたたましく警鐘を鳴らす。

 入間はコズミックステイツウォッチを起動し、脇目も振らず空間転移の穴から飛び出した。急激な動きに愛子が耳元で悲鳴を上げギュッと抱きついてくるが、今は気にしている場合ではない。

 入間が隔離塔の天辺から飛び出したのと銀光がついさっきまで愛子を捕えていた部屋を丸ごと吹き飛ばすのは同時だった。

 

 

ボバッ!!!

 

 

 物が粉砕される轟音などなく、莫大な熱量により消失したわけでもなく、ただ砕けて粒子を撒き散らす破壊。人を捕えるための鋼鉄の塔の天辺は、砂より細かい粒子となり、夜風に吹かれて空へと舞い上がりながら消えていった。

 余りに特異な現象に、入間は“重力操作”で空中に留まりながら、目を見開き思わずといった感じで呟く。

 

「……分解……でもしたのかな?」

「ご名答です、イレギュラー」

 

 返答を期待したわけではない独り言に、鈴の鳴るような、しかし、冷たく感情を感じさせない声音が返ってくる。

 入間が声のした方へ鋭い視線を向けると、そこには、隣の尖塔の屋根から入間達を睥睨する銀髪碧眼の女がいた。入間は、愛子を攫おうとしてディエンドにフルボッコにされた女だろうと察する。

 

 もっとも、リリアーナが言っていたのと異なり修道服は着ておらず、代わりに白を基調としたドレス甲冑のようなものを纏っていた。ノースリーブの膝下まであるワンピースのドレスに、腕と足、そして頭に金属製の防具を身に付け、腰から両サイドに金属プレートを吊るしている。どう見ても戦闘服だ。まるでワルキューレのようである。

 銀髪の女は、その場で重さを感じさせずに跳び上がった。そして、天頂に輝く月を背後にくるりと一回転すると、その背中から銀色に光り輝く一対の翼を広げた。

 

 バサァと音を立てて広がったそれは、銀光だけで出来た魔法の翼のようだ。背後に月を背負い、煌く銀髪を風に流すその姿は神秘的で神々しく、この世のものとは思えない美しさと魅力を放っていた。

 だが、惜しむらくはその瞳だ。彼女の纏う全てが美しく輝いているにも関わらず、その瞳だけが氷の如き冷たさを放っていた。その冷たさは相手を嫌悪するが故のものではない。ただただ、ひたすらに無感情で機械的。人形のような瞳だった。

 

 銀色の女は、愛子を抱きしめ鋭い眼光を飛ばす入間を見返しながら、おもむろに両手を左右へ水平に伸ばした。

 

 すると、ガントレットが一瞬輝き、次の瞬間には、その両手に白い鍔なしの大剣が握られていた。銀色の魔力光を纏った二メートル近い大剣を、重さを感じさずに振り払った銀色の女は、やはり感情を感じさせない声音で入間に告げる。

 

「ノイントと申します。“神の使徒”として、主の盤上より不要な駒を排除します」

 

 それは宣戦布告だ。ノイントと名乗った女は、神が送り出した本当の意味での“神の使徒”なのだろう。いよいよ、入間が邪魔になったらしい。直接、“神の遊戯”から排除する気のようだ。

 ノイントから噴き出した銀色の魔力が周囲の空間を軋ませる。大瀑布の水圧を受けたかのような絶大なプレッシャーが入間と愛子に襲いかかった。

 

 愛子は、必死に歯を食いしばって耐えようとするものの、表情は青を通り越して白くなり、体の震えは大きくなる。「もうダメだ」と意識を喪失する寸前、愛子を青黒い蝙蝠の翼のような形の魔力が包み込んだ。愛子を守るように輝きを増していく青い魔力は、ノイントの放つ銀のプレッシャーの一切を寄せ付けなかった。

 

 愛子は目を見開いて、原因であろう間近い場所にある入間の顔に視線を向ける。するとそこには、途方もないプレッシャーを受けておきながら微塵も揺らぐことない入間の姿があった。

 

「変身」

 

 

ライダータイム!

 

仮面ライダー!ジオウ!!

 

 

 入間は素早くジオウに変身。「ライダー」の文字が目に張り付く。

 見蕩れるように、あるいは惹きつけられるように視線を逸らせなくなった愛子を尻目に、“重力操作”で滞空するジオウはジカンギレードを取り出し、ノイントに向けて挑発的に嗤いながら同じく宣戦布告した。

 

「少しは骨がありそうだね。折角だし、5分だけ遊んであげるよ」

 

 その言葉を合図に、標高八千メートルの【神山】上空で、“神の使徒”と、全ての仮面ライダーの力を継承した“若き時の魔王”が衝突した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 入間がノイントの襲撃を受ける少し前、ユエ・シア・アメリ・アスモデウス・クララ・ミレディ・リリアーナ・優花の8人は夜陰に紛れて王宮の隠し通路を進んでいた。リリアーナを光輝達の下へ送り届ける為だ。

 

 本来なら、ユエ達の目的は愛子の救出と【神山】の何処かにある大迷宮──基神代魔法であり、王国の異変解決やリリアーナと光輝達の合流の手助けなどお断りであった。

 ただ、取り敢えず愛子の安全を確保する為には救出後の預け先である光輝達が洗脳の類を受けていないか、彼等が安全と言えるかの確認が必要だった。

 それに【神山】は文字通り聖教教会の総本山であり、愛子の救出までは出来るだけ騒動を起こさない事が望ましいところ。彼等に気付かれず愛子の監禁場所の捜索と救出を行う為にも、入間一人の方が都合が良かった。

 

 その為、王都に残る事になったユエ達は最初適当に待機していようとしていたのだが、リリアーナから必死に懇願され、入間がそれなりに認めている優花がリリアーナに付きそうと言って聞かない事もあり、渋々一緒に行動しているのである。

 尚、ティオは万一に備えて王都の何処かで待機している。全体の状況を俯瞰できる者が一人位居た方が良いという判断だ。

 

 そんなユエ達が隠し通路を通って出た場所は、何処かの客室だった。振り返ればアンティークの物置が静かに元の位置に戻り、何事も無かったかの様に鎮座し直す。

 

「この時間なら、皆さん自室で就寝中でしょう。……取り敢えず、雫の部屋に向かおうと思います」

 

 闇の中でリリアーナが声を潜める。向かう先は雫の部屋の様だ。勇者なのに光輝に頼らない辺りが、彼女の評価を如実に示している。

 リリアーナの言葉に頷き、索敵能力が一番高いシアを先頭に一行は部屋を出た。雫達異世界組が寝泊まりしている場所は現在いる場所とは別棟にあるので、月明かりが差し込む廊下を小走りで進んでいく。

 

 そうして暫く進んだ時、それは起こった。

 

 

ズドォオオン!!

 

パキャァアアン!!

 

 

 砲撃でも受けたかの様な轟音が響き渡り、直後ガラスが砕け散る様な破砕音が王都を駆け抜けたのだ。衝撃で大気が震え、ユエ達のいる廊下の窓をガタガタと揺らした。

 

「わわっ、何ですか一体!?」

「これは……まさかっ!?」

 

 索敵の為にウサミミを最大限に澄ましていたシアが、思わずペタンと伏せさせたウサミミを両手で押さえて声を漏らす。すぐ後ろに追従していたリリアーナは、思い当たる事があったのか顔面を蒼白にして窓に駆け寄った。ユエ達も様子を見ようと窓に近寄る。

 そうして彼女達の眼に映った光景は……

 

「そんな……大結界が……砕かれた?」

 

 信じられないといった表情で口元に手を当て震える声で呟くリリアーナ。彼女の言う通り、王都の夜空には大結界の残滓たる魔力の粒子がキラキラと輝き舞い散りながら霧散していく光景が広がっていた。

 リリアーナが呆然とその光景を眺めていると、一瞬の閃光が奔り、再び轟音が鳴り響く。そして、王都を覆う光の膜の様な物が明滅を繰り返しながら軋みを上げて姿を現した。

 

「だ、第二障壁まで!どうして……どうしてこんなに脆くなっているのです!?これでは直ぐに……!」

 

 リリアーナの言う大結界とは、外敵から王都を守る三枚の巨大な魔法障壁の事だ。

 三つのポイントに障壁を生成するアーティファクトがあり、定期的に宮廷魔術師が魔力を注ぐ事で間断なく展開維持している王都の守りの要だ。その強固さは折り紙つきで、数百年に渡り魔人族の侵攻から王都を守ってきた。戦争が拮抗状態にある理由の一つでもある。

 その絶対守護の障壁が、一瞬の内に破られたのだ。

 そして今正に、二枚目の障壁も破られようとしている。内側に行けば行く程展開規模は小さくなる分強度も増していくのだが、数度の攻撃で既に悲鳴を上げている二枚の障壁を見れば、全て破られるのも時間の問題だろう。

 結界が破られた事に気が付き、王宮内も騒がしくなり始めた。あちこちで明かりが灯され始めている。

 

「まさか、内通者が?……でも、僅かな手勢では寧ろ……なら敵軍が?一体どうやって……」

 

 呆然としながら思考に没頭しているリリアーナに答えを齎したのはユエ達だった。

 

『聞こえるかの?妾じゃ、状況説明は必要かの?』

 

 アメリの持つファイズフォンXから着信音がなり、応答すると声が響いた。王都に残してきたティオの声だ。口振りから、何が起きているのか大体のところを把握しているらしい。

 

「ん……お願いティオ」

『心得た。王都の南方1km程の位置に、魔人族の魔物とバダンの怪人の大軍じゃ。それに、大火山にいたフリードとかいう奴もおるぞ』

「まさか本当に敵軍が?そんな、一体どうやってこんな所まで……ライセンの監視部隊は何をやっていたのです!?」

 

 ティオの報告に、リリアーナが表情を険しくしながらも疑問に眉をしかめる。

 

 その疑問に対して、ユエ達には想像がついていた。【グリューエン大火山】で死闘を繰り広げたアミィ・キリヲや、入間に瞬殺されたフリード・バグアーは空間魔法を手に入れていたし、そもそもバダンにはオーロラカーテンを操る術がある。監視の目を潜り抜けて王都までのショートカットを作るなど、バダンからすれば朝飯前なのだろう。

 

 そうこうしている内に、再び硝子が砕ける様な音が響き渡った。第二障壁も破られたのだ。焦燥感を滲ませた表情でリリアーナが光輝達との合流を促す。しかし、それに対してユエが首を振った。

 

「……ここで別れる」

「なっ、ここで?一体何を……」

 

 一刻も早く光輝達と合流し態勢を整える必要があるのに何を言い出すのかとリリアーナは訝しそうに眉を顰めた。対するユエは、窓を開けると、不機嫌そうな顔でリリアーナに理由を述べる。

 

「……勘違いしないで。私達は貴方の味方じゃない。バダンが来たなら、優先するべきなのはこっち。…それに、あの緑の変態眼鏡を泣くまでボコらないと気が済まない」

 

 どうやら【グリューエン大火山】でのキリヲがなした不意打ちを根に持っているらしい。ユエらしからぬ物騒な物言いと雰囲気にリリアーナと優花が若干引き気味になっているが、バビルの面々は違った。

 

「ユエの言う通りだな。イルマ様の命令に背く様だが、私としても大火山でイルマ様を苦しめた連中には制裁を与えねば気が済まん」

「まぁ、向こうにイルマが行ったのなら愛子の安全“だけ”は保証されている様な物だからな。私も行くぞ」

「私もやるやるー!」

「私も行きます!あのイカレポンチをこのガシャコンブレイカーⅡで粉々にしてやりますぅ!」

「いや、粉々はやりすぎでしょう。せいぜい全身の骨が擦り潰れるまで押し潰すにしておこうよ」

「いや、ミレディ。お前が一番怖いこと言ってるぞ?」

 

 しまいには、リリアーナと同行をしていたバビルの全員が参戦すると言い出した。

 元々バビル一行にとって、自分達と明確に敵対しているハイリヒ王国が滅ぼうとどうでもよかった。だが、バダンの連中が暴れているとなれば、例え相手が自分達にとっては利にしかならない行為……ハイリヒ王国を滅ぼそうとしているとしても止めなければならない。

 

 と言うわけで、最早リリアーナの護衛などどうでもよくなっているバビル一行が壁を破壊して飛び出そうとするが、優花は慌てて彼女達を引き留め、涙目になったリリアーナと共に必死に説得した末に、どうにかアメリだけ同行してくれることとなった。

 

「そう言うわけで、私達は、ちょっと調子に乗っているバダンと腰巾着の魔人族を一人残らずぶっ潰してくるので、ここで失礼します」

「……ん。ついでにこの国をブッ壊してくる。アメリ、そっちはイライラするだろうけど頑張れ」

「アホクララ。お前はここでバダン怪人を倒せ。それくらいは分かるだろう?」

「分かるわい!!」

「よし、それじゃあ皆!しゅっぱーーつ!!」

 

 ミレディがそう言うや否や、ユエ達五人は、壁に開けた大穴から王都へ向かって飛び出して行ってしまった。キリヲの命は風前の灯である。逃げてぇ、キリヲ!超逃げてぇ!と、ここにキリヲの仲間がいればそう叫んでいたに違いない。

 

 開けっぱなしの窓から夜風と喧騒が入り込んでくる。しばらく、互いに無言のまま佇む優花とリリィだったが……

 

「おい、何を呆けている?ずっとそうしているなら、私も向こうに行かせて貰うぞ」

「「ッ!い、行きます!!」」

 

 アメリがイライラしたような口調で大穴に足を掛けたので、二人は慌てて廊下を進み始めた。アメリは溜め息を吐いてから二人についていく。

 

「どうしてこんな事に……」

「リ、リリィ!元気だして!!」

「お前達ハイリヒ王国がしてきた愚行のツケが回ってきたんだろう」

「ちょっ、アメリさん!!」

 

 あっさりどうでもいいもの扱いにされ、王国が辿る末路にリリィが何処か悲しげな声音で呟き、優花がフォローをするが、その直後にアメリは容赦なく吐き捨てた。

 涙目のリリィと、慌てる優花と、バダンとの戦いに参加できず不機嫌そうなアメリは、光輝達のもとへ急いだ。 

 

 

 

 

 

 




・スキ魔

入間「先生、一つ聞きたいんですが……やっぱり僕の事恨んでます?」

愛子「ふぇ?そ、そんな事ないですよ!!何でそう思うんですか!?」

入間「だって……この牢屋、いたる所に僕の名前が血文字で書かれてるし……新手の呪いかなにかですか?」

愛子「ッ!?(こ、これはやる事が無さすぎて書いた奴!!)な、何でもありませんッ!こ、これは鈴木君を考えてたらつい無意識に……って、違いますから!!」

入間「えぇ……(汗)」

ー完ー



感想、評価お待ちしております。

本作でのリリアーナをどうするべきか、ご意見をお聞かせください。

  • 入間くんのヒロイン入り
  • 生存
  • BADEND(死亡)
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