今回はシアの無双回ですが、その過程でミハイル達が気の毒に思ってしまうようなシーンがあるかもしれませんが、どうか広い心でお楽しみください。
突然の結界の消失と早くも伝わった魔人族とバダンの襲撃に、王都は大混乱に陥っていた。
人々は家から飛び出しては砕け散った大結界の残滓を呆然と眺め、そんな彼等に警邏隊の者達が「家から出るな!」と怒声を上げながら駆け回っている。決断の早い人間は、既に最小限の荷物だけ持って王都からの脱出を試みており、また王宮内に避難しようとかなりの数の住人達が門前に集まって「中に入れろ!」と叫んでいた。
夜も遅い時間である事からまだこの程度の騒ぎで済んでいるが、もう暫くすれば暴徒と化す人々が出てもおかしくないだろう。王宮側も暫くは都内の混乱には対処出来ない筈なので尚更だ。
なにせ今一番混乱しているのは、その王宮なのだ。
全くもって青天の霹靂とはこの事で、目が覚めたら喉元に剣を突きつけられた様な状態だ。平和ボケして久しいのなら無理も無いだろう。
彼等も急いで軍備を整えている様だが……
──パキャァアアン!!
間に合わなかった様だ。
遂に最後の結界が破られ、大地を鳴動させながら魔人族の戦士達と神代魔法により生み出された魔物達、そしてバダンが誇る強力無比な化物が大挙して押し寄せた。残る守りは、王都を囲む石の外壁だけ。それだけでも相当な強度を誇る防壁ではあるが……長く持つ筈がない。
魔人族が複数人で上級魔法を組み上げる。魔物も固有魔術で炎や雷、氷や土の礫を放ち、体長4mはありそうなサイクロプス擬きがメイスを振り被って外壁を削りにかかり、別の場所でも体長5mはありそうな猪型の魔物が風を纏いながら猛烈な勢いで外壁に突進し、その度に地震かと思う様な衝撃を撒き散らして外壁を崩していく。更には、【エラモステリウムオルフェノク】【ツチグモ】【バケガニ】【ギガンデスヘル】といった巨大な体躯とパワーを誇る怪物達がまるで発泡スチロールを壊すように外壁を破壊していく。
更に上空には黒鷲の様な飛行型の魔物や飛行能力を持つ怪人や怪物達が飛び交い、外壁を無視して王都内へと侵入を果たした。
外壁上部や中程に詰めていた王国の兵士達が必死に応戦しているが、全く想定していなかった大軍相手ではその迎撃も酷く頼りない。突進してくる鋼鉄列車にエアガンで反撃している様なものだ。
そんな様子を城下町にある大きな時計塔の天辺からどうしたものかと眺めていたティオの傍に、王宮から飛び出してきたユエ達が降り立った。
「ティオちゃん、状況は?」
「……お主等……いや、まぁ、手を貸したくない気持ちは分かるがの?土下座せんばかりの勢いで同行を懇願しておったリリアーナ姫が少々不憫じゃ……あっさり放り出して来おって」
「知らんな。私達はあの女の味方でもなければ、この国には縁も所縁もない。この国が滅ぼうと私達が救う義理はない」
「……ん、変態眼鏡を殺す方が重要」
「そのとーり!気にしない気にしない!」
「そうです、気にする必要ありません」
ティオが呆れた様な表情をしてユエ達5人を見るが、元々、興味のない相手にはドライな連中だが、ハイリヒ王国は自分達と明確に敵対しているのだ。いわば、この国の連中は全員敵。バビルにこの国を救う気もなければ、救ってやる義理もない。魔人族と戦争しているのは自分達なのだから、自分達で何とかしろという話だ。
ユエとシアが目を皿のようにしてキリヲを探していると、念話石が反応する。入間からの通信だ。
『ティオ!悪いんだけど、今すぐこっちに来てくれないかな!?』
『ぬおっ!ご主人様?どうしたのじゃ?』
念話石から思いのほか強い声音が響き、名を呼ばれたティオが思わず驚きの声を上げた。
『木偶人形を倒した後、少し面倒なことになっててね!手を貸してほしいんだ!!』
『!?相分かった!直ぐに向かうのじゃ!』
入間が“面倒”と呼ばなければならない状況に陥っているという事を直ぐに悟ったティオは、一瞬で“竜化”すると咆哮一発、標高8000mの本山目指して一気にその場を飛び立った。
『……入間、気を付けて』
『入間さん!あの変態眼鏡は私とユエさんが殺っちまいますから安心して下さい!』
『キリヲ先輩を?あぁ、そういう……おっと!ごめん、ちょっと話してる暇はなさそう!何するつもりか知らないが、そっちも気を付けてね!』
入間は、シアの言葉に何を言っているんだと疑問を抱いたようだが、よほど戦闘が激しいのか直ぐに通信を切ってしまった。ユエとシアは、愛子を庇いながらとはいえ、入間を苦戦させる相手が居るという事に、一瞬、自分達も救援に駆けつけるべきかと考えた。
「皆さん、どうします?」
「……入間なら大丈夫。ティオもいる。それより、変態眼鏡率いるバダンと腰巾着魔人族を殺る」
と、その時、時計塔の天辺にいるユエ達に気がついたのか、翼のはえた蛇と魚が合体したような怪物【ウブメ】が二体、左右から挟撃するようにユエ達5人を狙って急降下してきた。
そんな雄叫びを上げて迫ってきたウブメに、アスモデウスは見もせずに“
今まさにアスモデウス達を喰らおうとしていた二体のウブメは、一瞬にして炎に飲み込まれた末に全身の皮膚が焼き爛れた無惨な焼き魚になり、民家の屋根に落ちていった。今頃、家の中のいる人達は屋根に何かが落ちてきた音にビクッとなって戦々恐々としていることだろう。
バダンから貸し与えられた強力な兵力のひとつウブメが無残に絶命させられたことでユエ達の存在に気がついた飛行型の魔物達が二人の周囲を旋回し始めた。よく見れば、その三分の一には魔人族が乗っているようだ。彼等は、ウブメを落とされたことで警戒して上空を旋回しながら様子を見ていたようだが、その相手が長身の青年と兎人族と小柄な少女3人であるとわかると、馬鹿にするように鼻を鳴らしユエ達向かって、魔法の詠唱を始めた。
ユエ達としては、王都を守るために身命を賭して大軍とやり合うつもりなど毛頭なく、ただバダンと魔人族の征討が目的だったので、町を破壊するなら勝手にやっておけという気持ちだったのだが、馬鹿にされたとあっては反撃しないわけにはいかない。
一応、シアが「私達は敵じゃないですよぉ~、さっきのは襲われて仕方なくですよぉ~」と呼びかけているが、彼等はますます馬鹿にしたように笑うだけで攻撃を止める気配はなかった。
取るに足らない相手だと侮って幾人かの仲間だけを残し先行した魔人族達は、次の瞬間、背後から響いた断末魔の悲鳴と轟音、そしてその原因を見て驚愕に目を見開くことになった。
全身から雷を迸らせながら雷鳴の咆哮を上げる龍が、彼等の仲間と魔物達を次々と喰い散らかしていたのだ。
その光景に、あり得べからざる事態に呆然とする魔人族達。何とか命からがら雷龍から逃げ出し、先行していた仲間のもとへ必死に飛んできた魔人族の一人が、助けを求めるように手を伸ばす……が、次の瞬間には背後から殺意と共に飛来した魔力球の重力波に押し潰され、騎乗していた灰竜ごと木っ端微塵となった。
魔人族のものか灰竜のものか分からない血肉が先行していた魔人族達にビチャビチャと降りかかる。
硬直していた魔人族達が、ハッと我に返り、追撃に備えて最大限の警戒をする。そして、仲間を一瞬で粉砕した原因たる者達を探した。全く予想外のところから振るわれた死神の鎌に己の死を幻視しながら、緊張に流れる汗を拭うことも忘れて視線を巡らせる。そして、向けた視線の先にユエ達はいた。
しかし、その姿は彼等にとって、全くの予想外。なぜなら、自分達への追撃態勢に入っているどころか、ユエ達は彼等を見てすらいなかったのだ。最初と同じく、ただ外壁の外を何かを探すように眺めているだけ。その背中は、何よりも雄弁に物語っていた。
すなわち、眼中にない、と。
それを察した瞬間、緊張に強ばっていた魔人族達の表情が憤怒に歪んだ。戦友を粉微塵にしておいて、路傍の石を蹴り飛ばした程度の認識しかしていないユエ達に、戦士として、または一人の魔人族としての矜持を踏みにじられたと感じたのだ。彼等の全身を血液が沸騰したかのような灼熱が駆け巡る。
「貴様等ぁーーーー!!」
「うぉおおおお!!」
「死ねぇーー!!」
怒りに駆られながらも、戦士としての有能さが自然と陣形を整えさせ、絶妙な連携を取らせる。四方と上方から逃げ場をなくすように包囲し、一斉に魔法を放った。魔法に長けた魔人族達の魔法だ。普通なら、絶望に表情を歪める場面である。
しかし、当のアスモデウスが浮かべるのは呆れた表情。魔力を集中させ、自身の周囲に炎を発生させた。
「“
その瞬間、放たれた特大の槍が、魔法に長けた魔人族達の魔法をマッチの火を吹き消すかのように打ち消し、逃げる暇もなくその体はマグマの中に咲く花の炎の前に消し炭にされる。
ならば反対側からと複数人で貫通性に優れた上級魔法を唱えようとすると、ウサミミをなびかせたシアが砲弾もかくやという速度で飛び出した。
咄嗟に、近くにいた魔人族が、詠唱の邪魔をさせてなるものかと、ほとんど無詠唱かと思う速度で完成させた初級魔法の炎弾を無数に放った。
しかし、シアは、まるで気にした様子もなく、ガシャコンブレイカーⅡの激発の反動で軌道を変えると全弾あっさり躱し、ギョッとしている詠唱中の魔人族三人に向けて、ドラゴナイトハンターZガシャットを装填したガシャコンブレイカーⅡを横殴りにフルスイングした。
「りゃぁあああ!」
気合一発。シアはドラゴンの顎をもした巨大なオーラを纏わせて振るわれたガシャコンブレイカーⅡを、最近更に上昇した身体強化で振るった。結果は言わずもがな。魔人族の三人は為すすべもなくまとめて上半身を爆砕され、騎乗していた魔物も衝撃で背骨を砕かれて断末魔の悲鳴を上げながら吹き飛んでいった。
空中にあるシアは、その場で自身の重さをガシャコンブレイカーⅡも含めて五キロ以下まで落とし、再度、激発を利用して羽のように軽やかに宙を舞う。そして、もう片方の手に出現させたガシャコンキースラッシャーをガンモードに切り替え、先程炎弾を放ってきた魔人族に向けてビーム弾を放った。狙い通り、王都の夜空にまた一つ、真っ赤な花が咲いた。
シアは“宝物庫”から【仮面ライダーアギト】の愛車である“マシントルネイダー・スライダーモード”を取り出し、重力を無視して空中に浮くそれを足場にした。そして、その場に留まりガシャコンブレイカーⅡで肩をトントンしながら周囲を見渡す。
ちょうど、少し離れたところで、ユエ達に襲いかかってきた魔人族の最後の一人が死に物狂いでミレディに特攻しているところだった。
「
血走った目が、刺し違えてでも! という決死の意志を感じさせる。しかし、そんな彼に対するミレディの態度は明るい。
「二万年早いよ、
ミレディが、なにもしないのを見て、仕留められると口元を歪めた魔人族は、直後、出現した漆黒の魔力球が放つ重力波に押し潰され、物言わぬ肉塊へと成り果てた。
ミレディとユエのもとに、シア達が集まってくる。
「完全に、王国側の戦力と思われたんじゃないですか?」
「知らんな。奴等と標的は一緒だろうと、協力するなど虫酸が走る」
「……関係ない。思いたければ勝手に思っていればいい」
「ドライだねぇ、アズアズもユエちゃんも。……まぁ、確かにそうなんだけどさ……」
「ドライ?」
軽口を叩き合いながらも、アミィ・キリヲを探す面々だったが、中々見つからないので、よもや、既に大迷宮の場所を把握していて空間転移したんじゃ……と内心不安になり始めた、その時、
「ッ!?皆さん!」
「あぁっ!」
「んっ」
「オッケー!」
「わわわっ!?」
シアが警告を発すると同時に、ユエ達は躊躇うことなく時計塔から飛び退いた。直後、何もない空間に楕円形の膜が出来たかと思うと、そこから特大の極光が迸った。極光は、一瞬でユエ達が直前までいた時計塔の上部を消し飛ばし、それだけにとどまらず射線上にあった建物を根こそぎ吹き飛ばしていく。
「やはり、予知の類か。忌々しい……」
男の声が響くと同時に、楕円形の膜から白竜に乗った赤髪の魔人族フリード・バグアーが現れた。その表情には、渾身の不意打ちが簡単に回避されたことに対する苛立ちが見て取れる。
白竜が完全に“ゲート”から現れると、タイミングを合わせたように黒鷲や灰竜に乗った魔人族やが数百単位で集まり、ユエ達を包囲した。
同時に……凄まじい轟音を響かせて遂に外壁の一部が崩され、そこから次々と魔物やそれに乗った魔人族が王都への侵入を果たし、いくつかの部隊や怪人軍団が、ユエ達の方へ猛然と駆け寄ってくるのが見えた。どうやら、ここでユエとシアを完全に仕留めるつもりらしい。
「……やはり、バダンが危惧しているあの男は、危険だ。まずは、確実に奴の仲間である貴様等から仕留めさせてもらおう」
フリードの憎しみすら宿っていそうな言葉を向けられて、しかし、ユエ達は5人とも異にも介さない。そして、ユエ、シア、アスモデウス、ミレディの四人は同時に言葉を返す。
「「「「お前みたいな雑魚はお呼びじゃない!!!」」」」
その言葉が合図になったかのように、周囲の魔物と魔人族が一斉に魔法を放った。
大気すら焦がしかねない熱量の炎槍が乱れ飛び、水のレーザーが空間を縦横無尽に切り裂き、殺意の風が刃となって襲い掛かり、氷雪の砲撃が咆哮を上げ、石化の礫が永久牢獄という名の死を撒き散らし、蛇の如き雷の鞭が奇怪な動きで夜天を奔る。そして、駄目押しとばかりに極光が空を切り裂いた。
魔人族四十人以上、魔物の数は百体以上。四方上下全てが敵。視界は攻撃の嵐で埋め尽くされている。
しかし、彼等は逃げ場のない死に囲まれながら焦りは一切なく、まして回避する素振りも見せずに佇んでいた。何人かの魔人族が「諦めたか……」と若干拍子抜けするような表情になったが、フリードだけは猛烈に湧き上がった嫌な予感に警戒心を一気に引き上げた。
「“界穿”」
ユエが指輪を魔法を発動させる。
直後、二つの光りのゲートが飛来する極光の前に重なるようにして出現した。フリードは訝しそうに眉を潜める。あんな座標にゲートをつなげては、極光を空間転移させても、直ぐにもう一つのゲートから出てきて直撃するだけだろうと。
しかし、その予想は、ゲートを一対しか展開していないという事を前提とした考えだ。フリードが自身の限界を基準にした考えでもある。
だから、ユエ達が眼前のゲートに飛び込んだ意味が咄嗟に理解出来なかったし、いつの間にか自分達の背後にゲートが開いている事にも直ぐに気がつくことが出来なかった。
「しまっ、回避せよっ!!」
ユエ達がゲートの向こう側に消え、極光がゲートを通る瞬間、自分の思い違いに気が付いたフリードが部下達に警告を発するが、時すでに遅し、だった。
フリード自身は回避が間に合ったものの、部下の多くは
「おのれ、私に部下を殺させたな。……まさか同時発動出来るとは……まだ見くびっていたということか……」
瞳に憤怒を浮かべ、同時に自分には出来ないゲートの二対同時発動という至難の業を実戦で成功させたユエに畏怖にも似た念を抱くフリード。詠唱した形跡も魔法陣を用いた様子もなく、その正体が気なるところだったが、今は、消えた五人を探さなければならない。
「フリード様!あそこにっ!」
フリードの部下の一人が外壁の外を指差す。そこには、確かにユエ達がいた。
バビルの面々としては、この国が破壊されようがどうでもよかったし、寧ろ喜んで破壊する気でいたのだが、真下に民家があっては戦いづらかった。フリード自身がユエ達との対決を望むなら、そのまま王都侵攻に踵を返すとも思えなかったので、外壁の外へ空間転移したのである。もちろん、万一、フリード達がユエ達を無視して王都侵攻を続行すれば、その背中に向けて死神の鎌を振り下ろすだけだ。
フリード達もそれがわかっているので、ユエ達に背を向けることはない。そして、遠目にユエが右手をフリード達に伸ばし手の甲を向けると指をクイクイと曲げる仕草をした時点で、魔人族達の怒りは軽く沸点を超えた。
明らかな挑発だが、見た目幼さの残る少女と、蔑む対象である兎人族の少女にしてやられて多くの戦友を失い、その上で「相手をしてあげる」という上から目線……自分達を少数ながら優れた種族と誇ってはばからない魔人族の戦士達にとっては看過できない挑発だった。
「小娘ごときがぁ!」
「薄汚い獣風情が粋がるなぁ!」
そんな罵詈雑言を叫びながら、魔人族達が一斉に襲いかかった。タイムラグのない致死性の魔法を連発するユエを警戒して魔物を先行させる。地上からも、大軍の一部がユエ達を標的に定め猛然と襲いかかってきた。
「アホクララ。私が支えてやるから、思いっきり撃て!」
「えぇっ!?わ、わかったぁっ///」
「ヒュ~♪やるねぇ、アズアズ」
「クララさん、顔を赤くして可愛いですぅ」
「……ん、同感」
アスモデウスの胸の中に背中を預けられたクララは顔を赤くしながらも、“
と、そこへ、白竜と灰竜から一斉に吐かれたブレスが殺到する。直撃すれば身体強化中のシアといえどもただでは済まない破壊の嵐。しかし、シアが慌てることはない。
「そんなの眩しいだけだよ!“絶禍”!」
シアの眼下にミレディの放った黒く渦巻く球体が出現する。超重力を内包する漆黒の球体は、さながらブラックホールのようにシアに迫っていた極光群の軌道を下方に捻じ曲げてその内へと呑み込んでいった。
「くっ、あの時も使っていたな。……私の知らぬ神代魔法か」
「やはり、お前では役不足だったようだな。フリード・バグアー」
「っ!?」
その時、フリードは背後から聞こえてきた声に驚いてバッと振り替える。
そこには、【ハイドラグーン】と呼ばれるトンボ型の怪物の上に乗る、銀色の鎧を身に纏う男だった。何処と無く仮面ライダーを彷彿させる仮面に緑の複眼を持ち、その手には深紅の刀身を持つ剣“サタンサーベル”が握られている。
この男こそ、かつて『BLACKの世界』で仮面ライダーBLACKや仮面ライダーBLACK RXを幾度となく苦しめ、その後も数多くのライダー達の前に強敵として立ちはだかった猛者であり、現在はBADANで大幹部を勤める戦士──【シャドームーン】だ!
思わぬ来訪客の存在に、魔人族の将は眼を見開く。
「シャドームーン……なぜお前がここにいる!?」
「部下の報告で、鈴木入間率いるバビルがハイリヒ王国に向かっていると聞いてな。貴様如きでは障害物にもならんだろうから、こうして私が出向いたまでだ」
「…ッ!」
平静としながら、明らかに此方を見下したシャドームーンの言葉にフリードは忌々しげに彼を睨む。
しかし、そんな彼の視線など蚊に刺された程度にも感じないシャドームーンはフリードに指示を出す。
「私は、あのメンバーの中でも危険度の高い仮面ライダーウォズ、仮面ライダーツクヨミ、仮面ライダーゴーストの相手をしてやる。貴様はその間に仮面ライダーウィザードと仮面ライダーエグゼイドを各個撃破するといい。その方がまだ確率はある」
「くっ、そんな事は分かっている!総員聞け!私は金髪紅眼の術師を殺る!お前達は全員で兎人族を殺るのだ!引き離して、連携を取らせるな!」
「「「「「了解!」」」」」」
その言葉と共に、先ずはシャドームーンが、大きく右手を振り上げながら声を上げた。
「いでよ、バダンの怪人達よ!!」
「ッ!皆さん、後ろです!!」
「「「グォオオオオオオオオッ!!!!」」」
「「「「「っ!?」」」」」
その言葉と共に、アスモデウス達の背後にオーロラカーテンが出現し、そこから【テラー・ドラゴン】【ケツァルコアトルス・ドーパント】【ウロボロス】といった、数あるライダー怪人の中でも一際巨大な体躯と力を持つ怪物が飛び出してきた。
シアの“未来視”による警告で動こうとするユエ達だったが、三体の動きは、ユエ達の想像よりも速かった。
「ぬぅっ!?」
「にょわぁっ!?」
「あ~~れ~~!?」
三体の巨体による近距離の突進を受け、アスモデウス、ミレディ、クララは王都の方に向けて強制的にユエ達から引き離される。
ユエとシアがそうはさせるものか怪物達に一撃お見舞いしようとした時、特別大きな黒鷲に乗った魔人族が巨大な竜巻を騎乗する黒鷲に纏わせて、砲弾の如く突撃してきた。
空中にいたシアは、咄嗟にガシャコンブレイカーⅡを振るって弾き飛ばそうとしたが、絶妙なタイミングで数人の魔人族が決死の覚悟による特攻を図ったため、そちらの対応に追われることになった。ガシャコンブレイカーⅡの激発の反動を使用してその場で一回転し、襲い来た全ての魔人族を放射状に吹き飛ばす。
急いで、正面から突撃してきた竜巻を纏う黒鷲と魔人族と相対し直すものの、流石にカウンターを放つ暇はなく、また回避も間に合いそうになかったので、ガシャコンブレイカーⅡを盾代わりにかざして防御体勢をとった。
「貴様等だけはぁ!必ず殺すっ!」
そんな雄叫びを上げながら金髪を短く切り揃えた魔人族の男が、ただ仲間を殺された怒りだけとは思えない壮絶な憎悪を宿した眼でシアを射貫きながら、彼女の構えたガシャコンブレイカーⅡに衝突した。
押されるままにユエ達から引き離されそうになったシアは、体重を一気に増加させて離脱を試みるが、それを実行する前に、背後で空間転移のゲートが展開されてしまった。チラリと視線を向けてみれば、ユエはフリードが空間魔法を発動する時間を稼ぐために手下達に無謀とも言える特攻を受けており、アスモデウスとクララとミレディはバダン怪人からと交戦を繰り広げているころだった。
『皆さん!すみません!離されます!』
『ん……問題ない。あの雑魚魔人族は私が殺っておく。アズ達も頑張って』
『私達の事は気にするな。出きる限り早く終わらせる』
『こんなでっかいだけの蜥蜴なんて、ミレディさんにかかれば秒殺だよ!』
『いってらっしゃーい!!』
ゲートに押し込まれる寸前、それぞれの戦場へと引き離されたユエ達が「グッドラック!」とでも言うようにサムズアップしている姿を見て、シアは小さく笑みを浮かべた。その笑みを見て眼前の大黒鷲に乗った魔人族が再び憤怒に顔を歪めるが、シアは特に気にすることもなく、そのまま魔人族の男と共にゲートに呑み込まれて仲間達から引き離された。
「そのヘラヘラと笑った顔、虫酸が走る。四肢を引きちぎって、貴様の男の前に引きずって行ってやろう」
ゲートを抜けた先で、相対する魔人族の第一声がそれだった。どうも他の魔人族と違って、個人的な恨みあるようだと察したシアは、訝しそうに眉をしかめて尋ねてみる。
「……どちら様ですか?敵とはいえ、初対面でそんな眼を向けられる覚えがないんですが?」
「赤髪の魔人族の女を覚えているだろう?」
シアは何故そこで女の話が出てくるのか分からず首を捻る。しかし、魔人族の男はそれを覚えていないという意味でとったのか、ギリッと歯を食いしばり、怨嗟の篭った声音で追加の情報を告げた。
「貴様等が、【オルクス大迷宮】で殺した女だぁ!」
「……………………ああ!あの人!」
「きざまぁ~」
明らかに今の今まで忘れてましたという様子のシアに、既に怒りのせいで呂律すら怪しくなっている男は、僅かな詠唱だけで風の刃を無数に放った。それを、何でもないようにひょいひょいと避けるシア。
「ちょっと、その人が何なんです?さっきから訳わからないです」
「カトレアは、お前らが殺した女は……俺の婚約者だ!」
「ああ、なるほど……それで」
シアは得心したように頷いた。
どうやら、目の前の男は、【オルクス大迷宮】で入間に殺された魔人族の女カトレアが最後に愛を囁いた相手……ミハイルらしい。誰に聞いたのかは知らないが、入間が自分の婚約者を殺した事を知り、復讐に燃えているようだ。自分がされたのと同じように、シア達を殺して入間の前に突き出したいのだろう。
「よくも、カトレアを……優しく聡明で、いつも国を思っていたアイツを……!」
血走った目で恨みを吐くミハイルに、シアは普段の明るさが嘘の様な冷たい表情となって、実にあっさりした言葉で返した。
「知りませんよ、そんな事」
「な、何だと!?」
「いや、戦争に参加する選択をして戦場に出た以上、殺す覚悟も殺される覚悟も出来ていて当然でしょう?実際、あの人も最期は、私達に負けてから自分の死を受け入れてましたし。大体、あの人もダークライダー達と手を組んで沢山の人を殺してたんですから、因果応報じゃないですか。愛しい人を殺されれば、哀しんで恨みを抱くのは当たり前ですけど……だからと言って、私があの人の人柄とか聞かされても知ったことじゃあないですし……そういう貴方は、自分が殺してきた相手がどんな人だったのか知ろうとしてましたか?遺族の事とか考えたことがありますか?……ないでしょう?」
「う、煩い煩い煩い!カトレアの仇だ!苦痛に狂うまでいたぶってから殺してやる!」
「今度は論破されて癇癪起こすって……貴方、根本的に戦争を甘く見てませんか?それとも、自分が至上の魔人族だから殺される筈なんてないとでも思ってたんですか?だとしたら、貴方には私達を逆怨みする資格もないと思いますよ。中途半端な覚悟で戦争に参加する貴方にはね」
「黙れえぇえええええええっ!!!!!」
ミハイルは癇癪を起こした様に喚きたてると、騎乗する大黒鷲を高速で飛行させながら再び竜巻を発生させてシアに突っ込んで来た。どうやら竜巻はミハイルの魔法で、大黒鷲の固有能力ではないらしい。騎乗のミハイルが更に詠唱すると、竜巻から風刃が無数に飛び出して、シアの退路を塞ごうとした。
シアは右手に持ったガシャコンブレイカーⅡを振るって風の刃を蹴散らすと、そのまま体重を軽くして円盤を足場に大跳躍し、竜巻を纏う大黒鷲を避けた。
しかし、避けた先には、ミハイルとシアが話している間に集まってきた魔人族と黒鷲の部隊がいた。ミハイルの騎乗しているのが大黒鷲であることから、彼の部下なのかもしれない。
シアより上空にいた黒鷲部隊は、石の針を一斉に射出した。それはまさに篠突く雨のよう。シアは、左手のガシャコンキースラッシャーからエネルギー弾を撃ち放ち衝撃波で針の雨を蹴散らす。
そして、空いた弾幕の隙間に飛び込んで上空の黒鷲の一体に肉薄した。ギョッとする魔人族を尻目に、ガシャコンブレイカーⅡを遠慮容赦一切なく振り抜く。直撃を受けた魔人族は、骨もろとも内臓を粉砕させながら吹き飛び夜闇の中へと消えていった。
シアは更に、勢いそのままに柄を伸長させて、離れた場所にいた黒鷲と魔人族も粉砕する。
「くっ、接近戦をするな!空は我々の領域だ!遠距離から魔法と石針で波状攻撃しろ!」
まるでピンボールのように吹き飛んでいく仲間に、接近戦は無理だと判断したミハイルは、遠方からの攻撃を指示する。再び、四方八方から飛んできた魔法と石の針を激発による反動と、縦横無尽に飛び回るマシントルネイダーを足場にした連続跳躍で華麗に避け続けるシア。
しかし、中距離以下には決して近づかず、シアが接近しようものなら全力で距離をとる戦い方に、シアは次第に苛つき始める。
そして、使った方が良いかと判断し、ゲーマドライバーを取り出して腰に巻き付け、あるガシャットを取り出した。
「どう考えてもオーバーキルだからとっておきましたが、入間さんが付与してくれた新機能の実験のため、貴方の相手するのも面倒ですし、さっさと終わらせますよ!!」
そう言いながら、シアは金と銀を基調とし、下部にエグゼイドの頭部を象ったパーツが取り付けられたガシャット──“マキシマムマイティXガシャット”を取り出し、そのガシャットを起動した。
「貴方の運命は……私が変えてやりますぅ!!」
音声と共に、シアの背後にディスプレイが現れ、そこからブロックとエナジーが飛び出し、シアは両腕でXを象るように構えたマキシマムマイティXガシャットを、掛け声と共にゲーマードライバーに装填し、レバーを開いた。
「マックス大変身!ですぅ!!」
音声と共に、シアの姿がエグゼイド・レベル2の姿に変わる。同時に、エグゼイドの上空に現れた、エグゼイドの顔を模したような巨大な装備“マキシマムゲーマー”が現れる。
その光景に、眼を丸くする魔人族達。
奇妙な歌が流れ、エグゼイドはマキシマムマイティXガシャットのエグゼイドの顔を模したパーツ“アーマライドスイッチ”を勢いよく押し込んだ。
エグゼイドは、背後まで降ってきたマキシマムゲーマーの中に入り込むと、マキシマムゲーマーから両腕と両足が飛び出し、天辺から顔を出したことで、エグゼイドは自分の顔を模した巨大な装甲を持つロボットのような姿──仮面ライダーエグゼイド・マキシマムゲーマーレベル
「さぁ、ノーコンテニューでクリアしてやりますぅ!!」
その言葉と共に、エグゼイドはマシントルネイダーから飛び出すと、空中にチョコを模したようなブロックを足場に跳び、その巨大な拳を振りかぶった。
しかし、黒鷲にのる魔人族達とはまだ距離があるのに、何をするつもりかと、エグゼイドの前にいた魔人族が訝しんだ次の瞬間、その顔が一気に青くなった。
「おりゃあっ!!」
突き出されたエグゼイドの腕が、まるで某海賊王のように伸び、弾丸のような速度でヘビーパンチが打ち出された。
標的にされた魔人族と黒鷲は、予想外すぎる動きに対応できず、99tという破格のパンチ力を誇る巨拳に衝突され、全身の骨を砕かれながら一瞬でその命を夜空に散らすことになった。
敵を屠ったエグゼイドは素早く腕を元の長さに戻す間にもブロックを蹴って縦横無尽に飛び回りながら、両足を同じ様に伸ばし、敵を牽制、あるいは撃ち滅ぼしていく。そして、戻ってきた四肢を再びぶっ伸ばし、別の標的に向けて殴り、蹴り、貪っていく。
「おのれっ、奇怪な技を!上だ!範囲外の天頂から攻撃しろ!」
ミハイルが次々と殺られていく部下達の姿に唇を噛み締めながら指示を出し、自身は足止めのために旋回しながら牽制の魔法を連発する。エグゼイドは、それらの攻撃を、そのゴテゴテの装備からは考えられないような軽やかな跳躍で宙を舞うように軽く避けていく。
そうして、最後の一撃を避けた直後、頭上より範囲攻撃魔法が壁のごとく降り注いだ。
エグゼイドは、マキシマムマイティXガシャットの緊急射出スイッチ“EXシュートスイッチ”を押すと、マキシマムマイティXガシャットのアーマーライドスイッチが飛び出し、エグゼイドはマキシマムゲーマーの頭から飛び出すと、無人となったマキシマムゲーマーを重力魔法で軽くして簡易的な盾にし、頭上から降り注いだ強力無比な複合魔法を吹き散らしていった。
「もらったぞ!」
頭上からの攻撃を防ぐことに手一杯と判断したミハイルがエグゼイドに突撃する。大黒鷲の桁外れな量の石針を風系攻撃魔法“砲皇”に乗せて接近しながら放った。局所的な嵐が唸りを上げてエグゼイドに急迫する。
エグゼイドは、自由落下に任せて一気に高度を落とし、風の砲撃を避けた。ミハイルは予想通りだと口元を歪め、回避直後の落下してきた瞬間を狙って再度、風の刃を放とうとした。
しかし、標的を見据えるミハイルの目には、無人となった筈のマキシマムゲーマーが、ブロックを蹴って此方に急接近している姿が映った。
エグゼイドをサポートするために自立行動をするマキシマムゲーマーの豪速で弾き出された鉄拳は、狙い違わずミハイルの乗る大黒鷲に直撃しベギョ!と生々しい音を立ててめり込んだ。
「クゥェエエエエエ!!!」
激痛と衝撃に大黒鷲が悲鳴を上げ錐揉みしながら落下する。ミハイルもまた、悪態を吐きなが苦し紛れに石針を内包させた風の砲弾を放ち、大黒鷲と一緒に落ちていった。
マキシマムゲーマーが動いたことで、ガシャコンキースラッシャーをプロペラのように回転させることで頭上からの魔法攻撃を凌ぎ切ったシアは、迫る風の砲弾をギリギリ、ガシャコンキースラッシャーで弾き飛ばす。しかし、内包された石の針までは完全には防げず、いくつかの針が肩や腕に突き刺ってしまった。
「やったぞ!コートリスの石針が刺さっている!」
「これで終わりだ!」
石の針自体はそれほど大きなダメージではないのに、エグゼイドが石針を喰らった事で魔人族達が一様に喜色を浮かべている。
その事に、エグゼイドは仮面の下で怪訝そうな表情をする。
その疑問の答えは直ぐに出た。針の刺さった部分から徐々に石化が始まったのだ。どうやら、黒鷲はコートリスという名の魔物らしく、その固有魔法は石化の石針を無数に飛ばすことらしい。中々に嫌らしく厄介な能力だ。
普通は、状態異常を解くために特定の薬を使うか、光系の回復魔法で浄化をしなければならない。今、この戦場にはエグゼイド一人なので、これで終わりだと魔人族達は思ったのだろう。仮に薬の類を持っていても服用させる隙など与えず攻撃し続ければ、そうかからずに石化出来るからだ。
しかし、彼等の勝利を確信した表情は次の瞬間、唖然としたものに変わり、そして最終的に絶望へと変わった。
なぜなら……
「むむっ、不覚です。しかし、これくらいなら!」
そう言って、エグゼイドは刺さった針を抜き捨てると、少し集中するように動きを止めた。すると、一拍おいて、じわじわと広がっていた石化がピタリと止まり、次いで、潮が引くように石化した部分が元のスーツのピンク色を取り戻していった。そして、最終的には、針が刺さったスーツの穴も塞がり、何事もなかったかのような無傷の状態に戻ってしまった。
「な、なんで!」
「どうなってるんだ!」
回復魔法が使われた気配も、薬を使った素振りも見せず、ただ少しの集中により体の傷どころか石化すら治癒してしまったエグゼイドに、魔人族達は、その表情に恐怖を浮かべ始めた。それは理解できない未知への恐怖だ。声も狼狽して震えている。
エグゼイドの傷が治ったのはどうということもない。ただ再生魔法を使っただけである。相変わらず適性は悲しい程になく、自分の体の傷や状態異常を癒すくらいしか出来ない。
ユエの“自動再生”のように欠損した部分が再生したり、瞬時に重症でも治せたり、自動で発動したりもしない。外部の何かを再生することも出来ない。だが、多少の傷や単純な骨折、進行の遅い状態異常なら少し集中するだけで数秒あれば癒すことが出来る。時間をかければある程度の重症でも大丈夫だ。
魔人族達が絶望するのも仕方ないことだろう。圧倒的な破壊力に回復機能まであるのだから、攻略方法が思いつかない。エグゼイド……シアを見る目が、かつて入間と相対した者達が彼を見る目と同じになっている。すなわち、この化け物めっ!と。
それを見たエグゼイドは仮面の下で得意気な笑みを浮かべると、マキシマムゲーマーに入り込むと、ガシャコンキースラッシャーの代わりにガシャコンブレイカーⅡを取り出した。そして、ガシャコンブレイカーⅡに新たに取り付けられた機能を発動させた。
エグゼイドはその太い指で、ガシャコンブレイカーⅡに備わったAとCのボタンを押した。
すると、ガシャコンブレイカーⅡは大槌モードとなり、直径40cm長さ50cm程の大槌になったかと思うと、ガシャコンブレイカーⅡのブレードモード時に出現する“ブレードエリミネーター”が展開し、更には“ハンマーエリミネーター”の部分からも、ピンク色のギザギザした刃が展開された。
これが、ガシャコンブレイカーⅡの隠されたモード──“ハルバートモード”。しかし、変化はこれだけではなかった。
「実験がてら、特別大サービスですぅ!」
エグゼイドはハルバートとなったガシャコンブレイカーⅡのBボタンを一度押すと、直ぐにCのボタンを押し、ガシャコンブレイカーⅡを高く掲げた。
「豪天、爆砕!」
エグゼイドはその言葉と共に、手にしたハルバートを振るい上げるとあら不思議、ガシャコンブレイカーⅡの鎚に備わっていたガシャットスロットがエグゼイドの手元に移動し、ガシャコンブレイカーⅡは質量保存の法則を無視するかのように巨大になって行き、やがて、天を貫くような超巨大な物へと変貌したのだ。
これは、少し前に入間達が異世界に飛ばされた際に邂逅した“鉄槌の騎士”の技を見て入間が密かにパクった物であり、ミュウの実家に滞在している間にシアのガシャコンブレイカーⅡを改造して付け足した機能──“ギガントモード”だ!
エグゼイドは、巨大さゆえに手元に移動するように設計されたガシャットスロットに、マイティアクションXガシャットを装填する。
「さぁ、行きますよ?」
唖然と硬直して巨大化したガシャコンブレイカーⅡを見上げている魔人族達は、次の瞬間に、その巨大なハルバートがエグゼイドの豪腕によって横凪に振るわれた瞬間、表情を絶望に染める。そして、一撃必殺!と振るわれた一撃は、一切の抵抗を許さずに魔人族を絶命させていき、残りの魔人族が恐慌を来たしたように意味不明な叫び声を上げて、連携も何もなくがむしゃらに特攻を仕掛けていくが、回転の衝撃波によってミンチにされていく。
いよいよミハイル部隊の最後の一人がガシャコンブレイカーⅡの餌食となったその時、急に月明かりが遮られ影が一帯を覆った。
エグゼイドが上を仰ぎ見れば、暗雲を背後に、上空からミハイルが降って来るところだった。大黒鷲も限界のようで、上空からの急降下しかまともな攻撃が出来なかったのだろう。
「天より降り注ぐ無数の雷、避けられるものなら避けてみろ!」
ミハイルの叫びと同時に、無数の雷が轟音を響かせながら無秩序に降り注いだ。それはさながら篠突く雷。本来は風系の上級攻撃魔法〝雷槌〟という暗雲から極大の雷を降らせる魔法なのだが、敢えてそれを細分化し、広範囲魔法に仕立て上げたのだろう。それだけでミハイルの卓越した魔法技能が見て取れる。
急降下してくるミハイルを追い抜いて雷光がエグゼイド目掛けて降り注ぐ。
おそらく、確実に仕留めるために、雷に打たれた瞬間に刺し違える覚悟で特攻する気なのだろう。いくら細分化して威力が弱まっている上に、シアが超人的とは言え、落雷に打たれれば少なくとも硬直は免れない。
そして雷の落ちる速度は秒速150km。認識して避けるなど不可能だ。ミハイルの眼にも、部下が殺られていく中ひたすら耐えて詠唱し放った渾身の魔法故に、今度こそ仕留める!という強靭な意志が見て取れる。
しかし、直後、ミハイルは信じられない光景を見ることになった。なんと、エグゼイドがその巨体からは考えられないような速度で、降り注ぐ落雷を避けているのだ。いや、正確には最初から当たらない場所がわかっているかのように、落雷が落ちる前に移動しているのである。
ミハイルの誤算。それは、エグゼイドには認識できなくても避ける術があったこと。
シアの固有魔法“未来視”その新たな派生“天啓視”。最大2秒先の未来を任意で見ることが出来る。“仮定未来”の劣化版のような能力だが、それより魔力を消費しないので、何度か連発できる使い勝手のいい能力だ。日々、鍛錬を続けてきたシアの努力の賜物である。
「何なんだ、何なんだ貴様は!」
「……ただのウサミミ少女です!」
自分でも余り信じていない返しをしながら、全ての落雷を避けたシアは、当然、突撃してきたミハイルもあっさりかわし、すれ違い様に、ゴムのように伸ばした腕を振るった。
そして、大きく円を描いてミハイルの周囲を旋回したエグゼイドの腕は、ミハイルに巻き付いて一瞬で拘束してしまった。
「ぬぐぉお!離せぇ!」
「放しますよぉ、お望み通りぃ!」
エグゼイドは囚われたミハイルを腕を振るうことで更に振り回し、遠心力がたっぷり乗ったところで地面に向かって解放した。隕石の落下もかくやという勢いで地面に向かっていくミハイルに、エグゼイドはゲーマードライバーのレバーを閉開させる。
「でりゃあぁあああああああっ!!!」
「グギャアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!」
黄金の光を纏うヘビー級のキックが直撃した瞬間、ミハイルの背中と地面が衝突し、半径五キロを全焼させるような凄まじい爆発が起きた。
ミハイルは咄嗟に風の障壁を張って即死だけは免れたようだが、全身の骨が砕けているのか四肢が千切れた無惨な姿で仰向けに横たわり、口からはゴボッゴボッと血を吐いている。
エグゼイドはその傍らに降り立ち、変身を解除した。
ガシャコンブレイカーⅡを肩に担いで、ツカツカとミハイルに歩み寄る。ミハイルは、朦朧とする意識を何とかつなぎ止めながら、虚ろな瞳をシアに向けた。その口元には、仇を討てなかった自分の不甲斐なさにか、あるいは、百人近い部下と共に全滅させられたという有り得ない事態にか、ミハイル自身にも分からない自嘲気味の笑みが浮かんでいた。ここまで完膚なきまでに叩きのめされれば、もう、笑うしかないという心境なのかもしれない。
自分を見下ろすシアに、ミハイルは己の最後を悟る。内心で、愛しい婚約者に仇を討てなかった詫びを入れつつ、掠れる声で最後に悪態をついた。
「……ごほっ、ごの″っ…げほっ……化げ物めぇっ!」
「ふふ、有難うございます!」
ミハイル最後の口撃は、むしろシアを喜ばせただけらしい。
最後に、己の頭に振り下ろされた大槌の打撃面を見ながら、ミハイルは、死後の世界があるならカトレアを探しに行かないとなぁと、そんな事をぼんやり考えながら衝撃と共に意識を闇に落とした。
生々しい音と共に止めを刺したガシャコンブレイカーⅡを担ぎ上げながら、シアは、ミハイルの最後の言葉に頬を緩める。
「どうやら、ようやく私も、化け物と呼ばれる程度には強くなれたようですね……ふふ、入間さん達に少しは近づけたみたいです。さて、ユエさん達の方は……」
シアはかなり離されたユエ達のいる方を仰ぎ見る。そして、まだまだバダン怪人やハイリヒ王国といった敵が残っていると気を引き締めると、ユエ達と合流すべく一気に駆け出した。
・スキ魔
入間「これが新たに付与した“ギガントモード”だよ」
シア「ひょわ~~。ガシャコンブレイカーⅡが大きくなりましたね~~」
入間「そうなんだよねぇ……大きくしすぎて、僕でも変身しないと振り回せないし。シア、出きる?」
シア「っ、わぁっ!?これは確かに……少しコツがいりますねぇ!!」ムキョッ!!
入間「ッ!?」
シア「おっと!思わず身体強化を疎かにして能力通りの見た目になっちゃいました」
入間「……」
シア「確かに、これは今の私では変身しないと上手く使えませんね……でも、少し練習すればそのうち生身でも使える気がします!ありがとうございます、入間さん!」
入間「う、うん……」
ー完ー
~ガシャコンブレイカーⅡの新機能~
・“ガシャコンブレイカーⅡ・ハルバートモード”
ガシャコンブレイカーⅡのAとCのボタンを押して発動させるギミック。
ガシャコンブレイカーの柄を伸ばし、ブレードエリミネーターを展開し、ハンマーエリミネーターにブレードエリミネーターのギザギザの部分に似た刃が展開されている。
・“ガシャコンブレイカーⅡ・ギガントモード”
BとCのボタンを押して発動させるギミック。
ガシャコンブレイカーⅡのモードを切り替えるのではなく、ハンマー、ブレード、大槌、ハルバートの4つのモードの際に起動し、ガシャコンブレイカーⅡを超巨大化させる機能。
感想、評価お待ちしております。
本作でのリリアーナをどうするべきか、ご意見をお聞かせください。
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入間くんのヒロイン入り
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生存
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BADEND(死亡)