悪魔の孫は時の王者となって世界最強   作:MTHR

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 今回はほぼ(?)原作通りの内容です。前話のアメリの光輝と雫への言葉が予想以上に好評で、嬉しくて筆が進みました。

 今回のサブタイトルの元ネタは、畑山愛子のテーマソング『Harvest』の歌詞です。


81話 痛みを伴う、その強さに

 ヘルシャー帝国を象徴する帝城は、帝都の中にありながら周囲を幅二十メートル近くある深い水路と、魔法的な防衛措置が施された堅固な城壁で囲まれている。水路の中には水生の魔物すら放たれていて城壁の上にも常に見張りが巡回しており、入口は巨大な跳ね橋で通じている正門ただ一つだ。

 帝城に入れる者も限られており、原則として魔法を併用した入城許可証を提示しなけばならない。跳ね橋の前にはフランスの凱旋門に酷似した巨大な詰所があり、ここで入城検査をクリアしないと、そもそも跳ね橋を渡ることすら出来ないのだ。不埒な事を考えて侵入を試みようものなら、魔物がはびこる水路にその場で投げ入れられるとか……

 詰所での検査も全く容赦がない。たとえ、正規の手続きを経て入場許可証を持っている出入りの業者などであっても、商品一つ一つに至るまできっちり検査される。なので、荷物に紛れ込んでの侵入なども、もちろん不可能だ。

 

 つまり、何が言いたいのかというと、帝城に不法侵入することは至難中の至難であるということだ。

 

 ……だからこそ、誰も思わなかっただろう。無数に存在する平行世界の中には、警備など無視しできる存在が数えきれないほど存在すると言うことを。

 

『実力主義の皇帝も、この程度かぁ……!』

「ぐが…っ!」

 

 降着円盤の様な、黒い円を白で縁取ったディテールを上半身の各所に持つ白い装甲を身に纏う戦士の名は、【仮面ライダーエボル・ブラックホールフォーム】。惑星の破壊者であるエボルトの真の姿である。

 

 そして、そのエボルの片腕で首を絞め上げられているのは、四十代位の野性味溢れる男だ。短く切り上げた銀髪に狼を連想させる鋭い碧眼、スマートでありながらその体は極限まで引き絞られたかの様に筋肉がミッシリと詰まっているのが服越しでもわかるが、着ている服はボロボロで、肌は傷だらけ、骨が折れているのか四肢があり得ない方向に曲がっているその姿には、覇気など欠片も感じられなかった。

 この男こそが、帝国現皇帝【ガハルド・D・ヘルシャー】その人である。

 

 彼は、少し前に起きた魔人族の魔物(バダンの使役する怪物も大勢)にて、消費した労働力を補充するために樹海に向かい大量の亜人を捕獲した後、帝都では見たこともないアーティファクトを使う美少女が帝都で話題になっていたおり、興味を抱いてその少女に合ってみようかと思った矢先で、帝都である異常な兎人族の襲撃にあい、その兎人族達を捉えて尋問しようとしていたのだが、突如としてエボルの襲撃にあい、応戦しようにも、惑星の破壊者であるエボルにガハルドごときが敵う筈もなく、一瞬にして全身の骨を折られて首を絞め上げられると言う事態に陥っていた。

 

『お前はここで殺すとして、お前の後釜は……』

 

 そう言ったエボルは、ある地点に視線を向けると、そこには【ガーディアン】と呼ばれる機械兵士が、数人がかりである人物を押さえ付けていた。

 

「離せェ!俺を誰だと思ってやがる!この薄汚い化物共がァ!皆殺しだァ!お前ら全員殺してやる!殺し尽くしてや──」

 

 皇太子バイアスだった。

 喚き散らしていたバイアスだったが、ガーディアンの持つ“セーフガードライフル”と呼ばれる銃剣型の武器の刃で、アッサリと首をはねられ、その生涯に幕を下ろした。

 

「……」

『あれが次期皇帝。お前の後釜か……あれじゃあ、仮に即位したとしてもこの国に未来はなかっただろうなぁ』

「……息子を殺して、俺が動揺するとでも思ったか」

『クールだねぇ。まっ、皇帝の座すら実力で決める為に身内同士の殺し合いを推奨するくらいだ。お前に愛情なんて求める方がおかしいか……ハハハッ、やっぱり人間ってのは面白い』

 

 愉快そうに嗤うエボルの言う通り、帝国では皇帝の座をかけた身内での決闘が認められている。その決闘においてならたとえ相手を殺しても罪には問われない。

 ガハルドには正妃の他にも側室が大勢おり、バイアスも正妃の息子というわけではなく側室の子ではあるが、決闘により実力を示したために皇太子となったのである。まさに、実力至上主義、強い者に従え!というわけである。

 そのせいか、ガハルドの表情に変化はない。元より、強いか弱いかが基準であり、息子娘に対して人並みの愛情は持っていないという噂があったりするのだが……特に感情を押し殺しているようには見えないので、本当なのだろう。

 

『……まっ、余興はここまでだ。お前もここで息子の後を追ってもらおうか』

「……俺を殺したからとて、帝国が降伏するなんて思わねぇことだ。怒り狂った帝国に押し潰されろ」

 

 最早、エボルから生き延びることは不可能だと悟ったのか、エボルを睨み付けながら皮肉を口にするガハルド。だが、エボルはその言葉を鼻で笑うと、赤い光を灯す右手でガハルドの頭を鷲掴みにした。

 

『降伏させる分けねぇだろ?今日から俺がこの国のリーダーなんだからな』

「何だと……ッ!?」

 

 その瞬間、ガハルドは目を見開く。

 ガハルドの頭を掴んでいたエボルの体が突如煙に包まれたかと思った瞬間、その姿が一瞬にして変化し、腰に巻かれたエボルドライバー以外は全てガハルド・D・ヘルシャーそのものに変わってしまったからだ。

 

「てめぇ、それは…!?」

「お前達も魔法で姿を変えられるんだ。何もおかしな事じゃないだろう?」

 

 声までもがガハルドと同じものに変わり、エボルトは虚空に目を向ける。すると、その視線の先に銀色のオーロラが出現し、そこからワームと呼ばれる地球外生命体が、ガハルドにも見覚えのある帝城の衛兵達の姿に変貌した。その中には、たった今死亡したバイアスの姿もある。

 

『こうすれば、この帝国は俺のもの同然だな』

「お前……!!」

『お前にももう用はない……Ciao♪』

 

 エボルは蛇の尻尾状の針“スティングヴァイパー”を射出し、ガハルドの体を貫いた。相手を跡形も無く分解して溶かしてしまう程に強力な猛毒が一瞬にして全身に回り、ガハルドは苦しみの声を上げる間も無く、その体を紫の粒子に変え、その場から跡形もなく消失してしまった。

 

『帝国って言うのも呆気ないねぇ……まっ、今は良いか』

 

 帝国の王を殺害したエボルは、直ぐにガハルドへの興味を失ったように呟くと、漆黒の四角形の物体と10本のボトルが嵌められた漆黒のパネルを取り出した。

 

『エボルディマイズボトルの完成までの間、ロストボトルの実験台が必要だったからなぁ。この国を乗っ取ったのは丁度良い……!』

 

 エボルは、紫と銀の“コブラロストフルボトル”を握りながら、愉しげに呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕方。

 茜色の空が広がり、人影が大きく薄く伸びる頃、鬼の戦艦の後部甲板の上に、人影が佇んでいた。

 

 その人影の正体は、愛子だ。

 

 太陽が沈んでいく空を眺める愛子は、ポケットからゼインプログライズキーを取り出し、それに視線を転じギュッとプログライズキーを握る手に力を込める。

 

 愛子が悄然とした雰囲気で俯きながら、何かを堪えるように立ち尽くしていると、コツンコツンと足音が響いた。やけに響くそれは、おそらく自分の存在を知らせるためにわざと鳴らしたものだろう。普段の彼は、そんな雑音を立てたりはしないのだから。

 愛子が、ハッとしたように俯いていた顔を上げ視線をそちらへ向けた。

 

「鈴木君……」

「奇遇……じゃないですね。ここ、僕の船なんだし」

 

 愛子の視線の先にいたのは入間だ。

 

「どうしてここに……」

「まぁ、暇潰しですよ」

 

 実は、ユエ達が湯浴みをすることになり、肉食獣のような眼をした彼女達に風呂場に連れ込まれそうになったところを逃げ出しただけだったりするのだが……敢えて言うことはないだろう。

 入間は、最近やたらと積極的になってきた女達を思い出して苦笑しつつ、愛子の様子を見て眉をしかめた。

 

「……でも、貴方は暇潰しのためにここにいたんじゃないでしょう?」

「ッ!」

 

 入間の質問に、愛子は目を見開く。

 

「今回の件だけじゃない。この世界に来てから、貴方にはあまりにも多くの悲劇に見回れました。敵に利用されて生徒を殺してしまった直後に10人もの生徒がバダンに殺されて、生き残った生徒の二人は裏切った末に怪物になって、殆どの生徒は連れ去られ、現状貴方の元には僕を含めて10人しか生徒が残ってないんですから」

「……」

 

 愛子は、微笑みを消して再び俯いてしまった。入間は無言だ。返答を促すことはしない。どれくらい無言の時間が続いたのか……やがて、愛子がポツリポツリと言葉をこぼすように話し出した。

 

「……正直、そう簡単に割りきれません。私が不甲斐なかったせいで、沢山の生徒が死亡してしまい、白崎さんと中村さんはいなくなってしまって……」

 

 そう言いながら愛子は俯いてしまう。よく見れば目の下には化粧で隠しているが隈が出来ており、ここ数日眠れていないことが明らかだった。

 ウルの町で、愛子は入間の言葉により、これからも罪を背負いながら生きようと決意していた。だからこそ、エボルとの戦いでも、自らの手を汚す覚悟を決めて戦っても生徒を守ろうとしてきたというのに、その結果がこれなのだ。戦いに向かない彼女には厳しすぎるだろう。

 

 すると、彼女の頭の上に、ポンッという音と共に、暖かい感触がして、彼女がゆっくりと顔を上げると、そこにはいつの間にか隣に立っていた入間が、彼女の頭に手を乗せ、ワシャワシャと撫で回していた。

 

「すッ、鈴木君!?」

「突然触ってすみません。でも、こうすれば少しは落ち着くかなって」

「そ、それは……」

 

 そう言われて愛子は大人しくなると、優しい手の感触に意識を向けると、不思議と気分が落ち着いていくのを感じる。実は、入間は撫でながら意識沈着(クルービート)心拍操作(ハートコンダクター)を使って彼女の精神と心拍数を安定させているのだが、それは秘密だ。

 

 魔術が効いてきたのか、それとも別の理由か、先程とは違って落ち着いた様子の愛子の様子を見て手を離す。何故か、愛子が名残惜しそうなのは気のせいだろうか?

 

「…それにしても、まさか貴方が迷宮攻略に行こうとするなんてね。それも生徒のため、ですか?」

「……はい。私はもう、大切な生徒達を失いたくないんです。それに、鈴木君は……クラスの皆の事までは関与してくれないんですよね?」

 

 愛子は少し悲しそうな表情で言った。

 入間の意思を強制する様なことはしないが、同郷のクラスメイトを帰してくれるつもりがないということを知り、自分の記憶にある鈴木入間とは大きく変わってしまったのだなと落胆する。

 

「……あー、先生。この際なので、貴方にはこの事を話しておきましょうか」

「鈴木君…?」

 

 そう言って、入間は手すりに背中を預け、愛子に自身の全てを話した。

 

 自分が、愛子達とは違う世界からやって来たこと。入間は学生だったが、愛子の生徒であった事はなく、恐らく光輝達と一緒に召喚された際に彼等のクラスメイトであるという“役割”を与えられていたのだろうという事。

 

 その事実を聞き、愛子はどう受けとれば良いのか分からないというような表情を浮かべていた。

 普通なら、記憶のなかに『鈴木入間』の記憶があるのに、その記憶が偽りなのだといわれても信じられる筈がない。だが、生徒の事を何よりも大切にしている愛子は、入間の表情からも、その言葉を信じることが出来た。

 

「それじゃあ、本当に鈴木君は、私の生徒じゃないんですか……?」

「一概に否定は出来ませんね。僕とは違う別の僕が貴方の生徒として存在していた世界があっても不思議じゃない。けど、少なくとも僕は貴方の生徒であった事はありませんよ」

 

 バッサリと切り捨てた入間に、愛子は再び黙り込む。そして、しばらくの時間をかけてその情報を呑み込むと、未だに信じられないというような表情のまま、入間に話し掛けた。

 

「それじゃあ…どうして鈴木君は、私を助け続けてくれたんですか?」

 

 入間が愛子達がいた世界とは別の世界から来たというのなら、自分達とは完全に赤の他人という事になる。入間が、赤の他人に対しては恐ろしい程に無関心で非協力的なのを知っている愛子は、どうして入間がここまでしてくれたのかが分からなかった。

 

「……昔を思い出させてくれたから、ですかね」

「昔を……?」

 

 遠くを見る入間の目は、何処か哀愁のようなものを感じさせるもので、その目に、不思議と愛子は吸い込まれて寄せられてしまうよう感覚を覚えてしまう。

 

「信じられないかもしれませんが……昔の僕は、能天気な甘ちゃんだったんです。誰も傷付けず、全部を救える……そんな傲慢な考えを本気で思ってました。でも、戦っているうちに、そんなことを考える余裕もなくなって、救えた筈のものも救えなくて……見捨てることに躊躇いがなくなりました」

 

 そう語る入間の脳裏にはどんな記憶が映し出されているのだろう。心の優しさを捨てねば生きれない世界を生き抜いてきたであろう彼の姿に、愛子は胸が締め付けられる。

 

「でも、ウルの町で貴方の言葉を聞いて……昔の事を思い出せたんですよ。それで、少しだけ人の為に戦おうとする気持ちを取り戻せた。そのお陰で、ミュウって言う家族ができましたよ。それに、その言葉のお陰で、僕は園部さんの言葉にも耳を傾けることが出来た」

「ッ!」

 

 入間の言葉に、愛子は目を見開く。

 

「少を犠牲にして多を救う……これからもきっと、僕はその生き方を変えられない。でも、罪を背負って、痛くて苦しくても戦える貴方は、とても素敵な人だと思いますよ……“先生”」

「鈴木君……」

 

 入間の言葉に、愛子は目を見開く。生徒に裏切られ殺してしまい、その罪を背負いながら前を向き続ける誓いを立てたが、その直後にあまりにも多くのものを喪ってしまい、自分は何も出来ない無力な存在であることを思い知らされ続けた。

 だが、目の前の男は、そんな自分にも出来ることがあると言ってくれた気がした。例え、入間にとっては自分は本当の教師でなかったとしても。

 

 入間は、愛子の頬にスッと手を添え、口を開く。

 

「自分に自信を持ってください。道を間違えたら誰かが教えてくれる。……少なくとも、僕は貴方に少しだけ教えられた」

「っ……本当に……貴方という人は……」

 

 愛子は、頬を包む手から伝わる暖かさに、心の中の暗雲を払われるような衝撃を覚えた。そして、今だけは生徒と教師という事も、男と女という事も忘れて、入間の胸に飛び込みギュッと抱きついて嗚咽を漏らした。

 

 入間はどうしたものかと悩んだが、取り敢えず、愛子の背中を優しく擦ってやることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この後、顔を赤くして胸元から離れた愛子と連れ立って艦内に戻った入間だったが、やたら頬を染めて恥ずかしげに俯きながら、そそと入間の傍を歩く愛子に、入間は首をかしげた。恋愛経験がユエしかいない事で、恋愛方面に関してだけは光輝と同レベルに鈍い入間は、愛子の変化の理由に気付くことが出来なかった。

 

 そして、案の定、ユエ達に気付かれて、部屋に連れ込まれたのも言うまでもない。シア達のあれこれよりも、ユエの無言・無表情の凝視が一番辛かったのも言うまでもないことだ。

 

「まったくもう、ホントにもうっ!ですよっ!」

「イルマ……お前、まさかとは思うが狙ってやってるのではないだろうな?」

「まさか、教師と生徒の禁断の愛なんてものにまで手を出すなんて、イルくんってホントに罪な男だね~☆その内、NTRまでやらかしちゃうんじゃないの?」

「ふふふ、流石、ご主人様よ、ほんの少し目を離した隙に止めを刺すとは……」

「イルマ様……今回は少しばかり庇えないかと」

「アイアイ、イルマちにメロメロ?」

 

 鬼の戦艦の艦内に設置された食堂にて、夕食をつつきながらシア達のどこか責めるような声が響き、アスモデウスは少し困ったような表情を浮かべ、クララは首をかしげる。それを向けられている入間は、そんな仲間達の様子に苦笑しながら目の前のクララとアスモデウス作の料理に舌鼓を打っていた。

 

 入間の右隣に座るユエは何も言わないが、どこか困った人を見るような目を向けている。事情は聞いたので、「まぁ、仕方ないか」と思うのだが、明らかに愛子の中の入間に対する気持ちが生徒というものから逸脱しているので、複雑といえば複雑だった。

 しかも、これからの旅に愛子も同行するというのだから、ライバルがまた増えたと、少しだけ呆れてしまう。入間がロストドライバーとガイアメモリを渡した園部優花も何だか入間を見る目が怪しかったので、このままいけばライバルが一度に二人も増えそうである。

 

「……入間。愛子はこの先、大丈夫そう?」

 

 入間から話の内容を聞いていたため、ユエは少し心配そうにそんな質問をした。それに対し、入間は食事の手を止めて少し考える素振りを見せる。

 

「大丈夫だよ。あの人は強い……園部さん達もいるんだし、あれならアナザーディケイドの方は任せても良いでしょ」

「……そう、よかった」

 

 僅かに目元を緩ませるユエに、入間も微笑む。

 

「ユエさん……流石ですね。一歩も二歩も先をゆく」

「くっ……流石だな、ユエ。私のライバルなだけはある」

「正妻の余裕というか……ユエちゃんって、なんか時々ミレディさんより大人な気がするよ」

「うむ、天然というか何というか……ごく自然とご主人様の琴線に触れる技……敢えて言おう、神業であると。素直に称賛させて貰うのじゃ」

「……不本意な評価」

 

 戦慄の表情をするシアに、不満そうなアメリ、感心するミレディとティオ。思わぬ評価にユエが渋い表情になった。入間は、そんなユエの髪を撫でながら、アスモデウスとクララと共に苦笑いする。

 

 入間達が仲間内である意味仲良く盛り上がっていると、不意に食堂へ集団がやってきた。勿論光輝達を含むクラスメイトだ。どうやら、愛子も含めて全員いるらしい。

 一瞬だけ視線を向け、しかし気にする必要も無いと判断し、自分達が座る長テーブルから少し離れた場所に設置されたテーブルの上に置かれたビュッフェ形式の皿の数々を指差し、好きに食べて良いという事を無言で伝えると、そのまま食事を続ける入間。ユエ達も特に気にしてはいない様だ。

 

 だがクラスメイト達はそうもいかない様で、ある者は興味津々な様子で、ある者はどこか気まずそうに、またある者はどういう態度をとればいいのか分からないと戸惑った様にそわそわし、入間達をチラ見している。因みに、愛子は別の意味で入間をチラ見している。

 すると、愛子と似たような理由でチラ見していたおずおずと優花が入間に声をかけた。

 

「あの……鈴木。その、私達も一緒のテーブルで良い……?」

「別に良いけど?」

 

 特に気にした様子もなく答え、優花はアメリの隣の座席に座ると、その隣に妙子と奈々が座り、愛子はユエの隣に座ると、続いて愛ちゃん護衛隊と勇者パーティーが他の座席に座っていく。

 光輝達は席に着くと、アスモデウスとクララが腕によりをかけて作った数々の料理を皿に乗せていき、再び自らの席に座った。

 

 その時、ユエの頭越しに愛子の視線が入間に向けられた。チラリと視線をやれば、途端に愛子の頬が薄く染まり、恥ずかしげに目が逸らされる。それでもチラチラと入間を見た後、内緒話でもする様に声を潜めて声をかけた。

 

「あ、あの、鈴木君……、さっきのは……その、出来れば……」

 

 入間は自分越しに話をされて若干居心地悪そうに身動きするが、恐らく教師でありながら入間に抱きついた事が恥ずかしくて口止めしたいのだろうと察し、何も言わなかった。

 

 その愛子の様子に、雫達が入間へジト目を向けている。

 淳史達愛ちゃん護衛隊の男子メンバーは「あの野郎。とうとう愛ちゃんに止め刺しやがったなっ」と怨嗟の籠った視線を向けていた。奈々や妙子は苦笑い、優花は如何にも「興味ありません!」といった様子だが、何処か機嫌が悪そうである。

 

「一体何の事ですか?」

「ふぇ?」

 

 入間は極々自然にとぼける。愛子はその態度に一瞬呆けるものの、秘密にしてくれるのだろうと察し苦笑いしながら「いいえ、なんでもありません」と答えた。

 つくづく入間には気を遣わせていると自分を不甲斐なく思いつつも、気にかけてもらっている事に嬉しさを感じて頬が綻んでしまう。

 

 

 そんな愛子の様子を見て、益々女性陣から白い目を向けられる入間。唯一、ユエだけが入間の肩をポンポンと叩き、更に「あ~ん」をしてきた。

 流石、正ヒロイン。昨今の暴力系ヒロインとはわけが違うのだ。

 入間はユエの気遣いに感謝しつつ、ユエが差し出した料理にパクついていると、逆サイドに座るアメリが入間の肩をポンポンと引っ張った。

 

「い、イルマ……あ、あ~ん」 

 

 どうやら恋敵が増えそうな事に憤るよりも、アピールに時間を費やすべきだと判断したらしい。恥ずかしそうに頬を染めてそそとフォークを差し出す。

 

 入間は、もう何度もしていることなので特に躊躇うこともなく、パクッと食いつく。もぐもぐと口を動かす入間に、アメリは凛々しいその顔立ちを少女のようにパァッと輝かせる。

 

 そんな光景を見せられては、シア、ミレディ、ティオも黙ってはいられない。三人も慌てて、料理にフォークを突き刺す。

 

「イルマさん。あ~ん、ですぅ」

「イルくん。はい、あ~ん」

「ご主人様よ。妾のも食べておくれ。あ~んじゃ」

「……一回だけだからね?」

 

 何度「あ~ん」されても、自分にはユエという恋人がいる。なので、一応釘を刺し、二人の「あ~ん」に応える入間。パクッパクッと食いつくと、シアもミレディもティオもほわ~んとした表情になった。

 

「ア、アズアズ……あ……あ……」

「?何をしているのだ、アホクララ?」

「ッ!アタシ、アホじゃないもん!アズアズのアホーッ!」

「なっ!?誰がアホだ!!」

 

 その直ぐそばでは、何やら顔を赤くしたクララが料理を指したフォークを持ってアスモデウスに何やか言おうとしたが、アスモデウスに何をしているのか尋ねられると、ついつい悪口を言ってしまい、軽い言い合うに発展してしまうと言う、ある意味ケンカカップルのようなやり取りが繰り広げられていた。

 

「なに、この空気……半端なく居心地が悪いのだけど……」

 

 雫が、入間とアスモデウスを中心とした桃色結界に頬を引き攣らせた。隣の光輝や鈴も同じように居心地悪そうにしている。愛子と優花は、自分もすべきかと一瞬考えてしまい、何を考えているんだと自分を叱りつけるという一人ノリツッコミをしていたが皆がスルーする。

 

 入間が、クラスメイトの視線を軽く無視していると、視界の端でフォークを口に含んでモゴモゴレロレロしているティオがキョトンとしている姿があった。

 如何にも、何か問題でも?といった表情だが、ティオが咥えているフォークには何も乗っていなかったりする。明らかに他の何かを堪能していた。何かの内容はスルーだ。ドMの変態は、いつの間にか何でもありの変態に進化していたらしい。

 

「ティオ、今すぐそれを止めてくれないかな。ご飯抜きにするよ」

 

 入間がこめかみをピクピクさせながらティオに警告する。

 

「むぅ、仕方なかろう。……ご主人様は未だにユエ以外と口づけをしてくれんし。こういう時に堪能しておかねば、欲求不満になるのじゃ」

 

 何故か非難するような眼差しを返されて更に入間のこめかみがピクる。と、その時、ティオが何かを思い出したように突然、その瞳を輝かせた。

 

「そうじゃ!ご主人様よ!ご褒美を未だもらっていないのじゃ!妾は、約束のご褒美を所望するぞ!」

「ご褒美?」

 

 ティオの言葉に、入間は一瞬「何言ってるの?」と顔をしかめるが、直ぐに思い出したようで「あぁ……」と声を漏らす。何の話かわからない者達が首を傾げる中、シアが代表して尋ねる。

 

「ご褒美って……何の話ですか?」

「うむ、総本山でな、洗脳された先生殿とエボルからご主人様の助太刀に惨状した時に、ご褒美をくれるという約束を取り付けたのじゃ。ぬふふふ……ご主人様よ。よもや約定を違えるような真似せんじゃろうな?」

 

 シア達が、「そんなのズルイ!」と騒ぐ中、ティオが妖しげに笑いながら約束の履行を迫る。何となく、皆の注目が集まる中、入間が仕方ないというように苦笑ながらティオに視線を向けた。

 

「まぁ、約束だしね。で?何がしてほしいの?言っておくけど、あくまで“出来る範囲”だからね?」

 

 言外に“抱け”などという要望は聞けないぞ?と告げる。ティオもその意図を察しているようで、心得ているとでもというように大仰に頷いた。そして、ほんのり頬を染めてもじもじしながら要望を伝える。

 

「安心せよ、無茶なことはいわんよ。な~に、ちょっと初めて会った時のように……妾のお尻をいじめて欲しいだけじゃ」

 

 両頬を手で挟んで、「きゃ!言っちゃった!」とでも言うようにイヤンイヤンするティオ。既に一度していることなのだから、無茶ではなかろう?と、内容のアブノーマルさには頓着せず、とんでもない要望を伝える。流石、変態。

 

 案の定、その発言は、バビルのメンバー以外の全ての人間を激しく動揺させた。

 

 入間に向けられる眼差しが、どこか犯罪者を見るような目になっている。

 

「却下だよ。著しく誤解を招くような発言をサラリとしないでくれない?」

 

 あっさり却下した入間に、ティオがショックを受けたような表情になって激しく抗議した。

 

「な、なぜじゃ!無茶な要求ではなかろう!あの時のように、ご主人様の硬くて長いバナナで妾のお尻を貫いて欲しいだけなのじゃ!早く抜いてと懇願する妾を無視して、何度もグリグリしたあの時のように!情け容赦なく妾のお尻をいじめて欲しいだけなのじゃ!」

「ちょっと!言葉が凄く卑猥になってるからやめて!!読者に未成年だっているかもしれなんだよ!!」

 

 入間に向けられる眼差しが、どこか悪魔を見るような目になっている。

 

「……でも、あながち誤解とは言い切れないんじゃないですか?」

 

 ユエ達の「あ~ん」から、どこか不機嫌そうだった愛子がポツリと棘のある言い方で入間に追い打ちをかけた。

 

「……確かに、嘘は言ってないわよね」

「実際にね、刺さってたし……」

「うん、鈴木くん、容赦なかったよね」

 

 優花がやけにむすっとした表情でそう呟けば、奈々と妙子が「うんうん」と同意の言葉を発した。

 

「……入間さん、流石に誤解っていうのは、ちょっと……」

「……イルマ、今回ばかりは自業自得だ」

「……入間。ティオの変態化は入間が原因。仕方ない」

「イルくん。男なんだから、ティオちゃんの初めてを奪った責任とらないとダメだよ~……ブフッ」

「イルマ様……すみませんが、今回は庇えません」

 

 シア、アメリ、ユエ、ミレディ、アスモデウスがまさかの裏切り。

 

「す、鈴木君……貴方って人は……ティオさんに何てことを……」

「バナナ?お尻?」

「アホクララ、お前は知らなくて良い」

 

 入間に向けられる眼差しが、どこか魔王を見るような目になっている。

 

──カチンッ

 

 その時、遂に何かのスイッチが入った入間は、おもむろにカタリと音を立てて立ち上がると真っ直ぐ上に右手を伸ばした。何事かと目を瞬かせる皆の前で、入間は“バナスピアー”を取り出した。何故か、バナスピアーに入間の魔術で炎に包まれる。

 

 ティオの頬に冷たい汗が流れ落ちた。

 

「いいよ、ティオ。ご褒美をあげるよ。お尻に刺して欲しいんでしょ?喜べ、あの時と違って熱を加えて、内部から焼きつくしてあげるよ。喘ぐ暇もなく、一瞬で逝かせてあげる」

 

 ティオは悟った。「やばい、調子に乗り過ぎた」と。

 ティオにバナスピアーZをぶち込んだのは戦いの果ての結果に過ぎないのに、まるで稀代の変態でも見るかのような目を向けられて、入間は地味にキレていた。

 ちなみに、客観的に見れば、確かに誤解ではないという点は棚に上げている。

 

「ま、待つのじゃ、ご主人様よ。先程のはあくまで先例を挙げただけで、何もそれを使って欲しいと言ったわけではないのじゃよ?流石に、そんなもの使われてしまったら死んでしまうのじゃ!謝るから、早く、それをしまっておくれ!」

「遠慮しなくていいよ。これが欲しいんでしょ?」

「ひぃ~ん、ご主人様の目が本気なのじゃ~!ユエ、アメリ、シア、ミレディ、アスモデウス殿、クララぁ~、ご主人様を止めてたもう!助けてなのじゃ~!」

 

 ゴゥゴゥと紫の炎を燃え上がらせながら迫る入間に、ティオが涙目になってユエ達に助けを求めた。流石に、一撃死するようなお仕置きは受けられないらしい。もっとも、若干、頬を染めて息が荒くなっている辺り、業は深いようだ。

 

 入間は、ガクブルしながら隣の席のアスモデウスの背後にしがみつくようにして隠れるティオを見て、溜飲を下げたのかはぁと溜め息をはいて、バナスピアーを消失させ席に戻った。

 

「それで?ご褒美自体は構わないから、もっとまともな要望はないの?」

 

 溜息を吐きながら席に戻った入間に、クラスメイトから安堵の吐息が漏れる。妙齢の美女のお尻が眼前で大変なことになるシーンなど、高校生にはキャパオーバーである。

 

「う、うむ。では、そうじゃのぉ、添い寝の権利を頂こうかの?ほれ、いつもはユエがご主人様の隣じゃろ?妾は未だ一度も、ご主人様のすぐ隣で眠ったことがないのじゃ。だから、今晩はご主人様の隣で眠りたいのじゃが、どうかの?」

「いや、僕にはユエが……」

「……入間、私は気にしない」

「………ユエがそう言うなら良いけど。……っていうか最初からそう言ってくれない?」

「妾の迸る情熱は、そう簡単に制御できんのじゃ。受け止めてたもう」

「そ、それなら!私だって添い寝しても良いのではないか!?バダンから光輝達(あの連中)を守ったのだから、それくらいの褒賞はあっても良い筈だ!!」

「なっ!ズルいですよティオさんもアメリさんも!それなら私もイルマさんと一緒に寝たいですぅ!」

「あー!二人とも抜け駆けしようとしてるの!?それなら、ミレディさんだってイルくんの布団に入り込んでやるからね!」

 

 恥ずかしげに身をくねらせるティオと、便乗して自分も寝たいと言い出した仲間達に苦笑しつつ、隣のユエに目を向けると、ユエは「しょうがない」と肩を竦めるのを見て、入間も普段から彼女達にはお世話になっているので、それを承諾することにした。

 どうやら、今夜は、ティオ、アメリ、シア、ミレディに囲まれて眠ることになりそうである。ベッドのサイズは入間の魔術でどうとでもなるので問題ないだろう。もっとも、いざベッドに入れば、入間に安眠にはほど遠い夜を過ごすことになりそうだが……

 

 そこへ、愛子が複数の女性と寝るなんて、ふしだらです!と、先生らしい(実際は、個人的憤りを多分に含む)説教を始め、それに対してシアが、ユエとの関係を暴露して今更だと反論し、ユエが舌舐りしながら入間にしなだれかかり、妖艶な雰囲気を撒き散らしながら食後の運動をおねだりし、アスモデウスがクララの耳を塞いだり、クラスメイトがヒートアップしたり……と、食堂は中々にカオスな空気と化していった。

 

「……そういえば、これから樹海に行くなら()()を用意しておくべきかもね」

 

 そんな中、入間は脳裏にある人物を思い浮かべながら、右手に持った一本のガシャットをジッと見つめていた。

 

 行く先々でトラブルに見舞われ続けていた入間は、どうせ東の地でも何事もなしとはいかないだろうと新たな騒動を予感し、肩を竦めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 そこで、思いもよらない人物との衝撃の再開が待っているという事を、この時の入間はまだ知る由もなかった。




 今回で、第七章は終了となります。
 次回から帝国編になりますが、原作とは相違点の多いこの作品では原作通りに事が進む筈がなく……

 現在実施しているアンケートは、第八章の一話の投稿と同時に終了致します。是非、好きな回答に票を入れていただくか、他に何か見たいというものがあれば感想に書き込んでください。

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