ヒロイン入りさせるかバッドエンドにするか……考えながら話を書いていきます。
入間によって全ての枷を外された亜人達が、鬼の戦艦に度肝を抜かれながらも物珍しげにあちこちを探検しているころ、入間達は操縦室にてパル達ハウリアの話を聞いていた。
「なるほどな……魔人族は帝国と樹海にも手を出していたと」
「はい。帝国の詳細は分かりませんが、樹海の方は強力な魔物の群れにやられました。あらかじめ作っておいたトラップ地帯に誘導できなければ、我々も危なかったです」
パル達曰く、樹海にも魔人族が魔物を引き連れてやって来たらしい。【ハルツィナ樹海】は大迷宮の一つとして名が通っているからフリード達が神代魔法の獲得を狙っている以上当たり前と言えば当たり前だ。
当然、樹海に侵入した魔人族達を、フェアベルゲンの戦士達が許すはずもなく、最大戦力をもって駆逐しに向かった。
しかし、亜人族と樹海の魔物以外は感覚を狂わされ、視界を閉ざされる濃霧の中でなら楽に勝てると思われた当初の予想は、あっさり裏切られることになる。魔人族はともかく、引き連れた魔物達は、樹海の中でも十全の戦闘力を発揮したのだ。ほとんどの魔物が昆虫型の見たこともない魔物だったらしく、その固有魔法も多彩かつ厄介でフェアベルゲンの戦士達は次々と返り討ちにあってその命を散らしていった。
その魔人族は、瀕死状態の亜人族に、かつての入間と同じく「大迷宮の入口はどこだ?」と聞いて回ったらしい。しかし、彼等が敵に情報を教えるわけもなく、また、そもそも知らないこともあり、魔人族は、ならば長老衆に聞けばいいとフェアベルゲンに向かって進撃を始めたのだそうだ。
余りに強力な魔物の軍勢に、同胞を守るためにもフェアベルゲンの長老会議は、大樹の情報を教えることにした。かつて入間にそうすることで紛争を避けたように。自分達にとって大樹も本当の大迷宮も大して価値のあるものではないのだから、と。
しかし、同じ大迷宮を求める者でも、入間とその魔人族では決定的に違う点があった。それは亜人族に対する価値観だ。その魔人族も例に漏れず、いや、むしろ一般的な差別意識を通り越して、亜人族に対して憎悪すら抱いている程だったのだ。
曰く、この世界は魔人族によって繁栄していくべきであり、神から見放された半端者の獣風情が国を築いているという時点で耐え難い屈辱だということらしい。その表情は自らの神を信望する狂信者のそれだったという。
そして、その魔人族は、その思いのままフェアベルゲンに牙を剥いた。大迷宮に行く前に亜人共を狩り尽くしてやる、と。
フェアベルゲンの戦士達は必死に戦った。しかし、樹海の影響を受けない上に強力な固有魔法を使う未知の魔物の群れが相手では、彼等に勝目は薄かった。
このままで、いずれ全てが蹂躙されてしまうと、そう考えたとある熊人族の戦士が、隙を見て密かにフェアベルゲンを抜け出した。逃げるためではない。助けを乞うためだ。
彼の名はレギン・バントン。かつて、長老の一人ジン・バントンを再起不能にされた恨みから入間達を襲撃し、逆にハウリア族によって返り討ちにあった男だ。
そう、レギンは、自分達フェアベルゲンが追放したハウリア族に恥も外聞もなく頭を下げに行ったのである。満身創痍の体で必死に樹海を駆け抜け、辿り着いたハウリア族の新たな集落で、レギンは何度も額を地面にこすりつけた。そして、ただひたすら懇願した。
『助けて欲しい、力を貸して欲しい』
その願いにハウリア族の族長カム・ハウリアは応えた。
それはフェアベルゲンのためではない。もちろん、フェアベルゲンにも同族である兎人族はいるので、助けたいという思いが皆無というわけではないが、何より、カム達が看過できなかったのは、攻めてきた魔人族の目的が大迷宮であるということだ。
万一、魔人族が大樹をどうにかしてしまったら……
自分達の王である入間はいずれ戻って来るのだ。その時、その魔人族が何かしたせいで大迷宮に入れなくなっていたら目も当てられない。
入間の部下たらんとする自分達がいながら、みすみす王の望みが潰えるのを見逃したとあっては、もう胸を張って再会を喜ぶことなど出来はしないし、入間を陛下と呼ぶ資格もない!と、いうわけである。
入間はそんなこと全く気にしないのだが……ハウリアの矜持というやつだ。
その結果、ハウリア族はレギンの要請に応えるというよりも、入間の為に参戦を決意したのである。
レギンは後に語る。
「あの時のハウリアはホントに怖かった。ゆらゆら揺れながら口元が、こうスッと裂けて……笑うのだ。うぅ、あの日からよく眠れない。……夢に口の裂けたウサギが出て来て、首を……はぁはぁ……ダメだ。動悸息切れが止まらない。……薬はどこだ……」
参戦したハウリア達は、まずフェアベルゲンの外側から各個撃破で魔物達を仕留めていったらしい。魔物達の動きと固有魔法を実地で確かめて戦略に組み込むためだ。ハウリア族が強くなったといっても、それは自らの種族の特性を上手く扱えるようになったというのと、精神が戦闘を忌避しなくなったというだけで、劇的にスペックが上がったわけではない。なので、未知の敵と正面から戦うような愚は決して犯さなかったのだ。
相手を決死の覚悟が必要な難敵と定めて、闇討ち、不意打ち、騙し討ち、卑怯、卑劣に嘘、ハッタリと使えるものは何でも使って確実に情報を集めた。
そして、配置が終わったチェスのように、一斉に攻勢に出たのである。濃霧の効果がなくとも、兎人族本来の巧みな気配操作によって確実に魔物を仕留めていった。
そのうち配下の魔物がいつの間にか相当減っていることに気がついた魔人族が、魔物を集め始めた。各個撃破が出来なくなったハウリア達は自分達を囮にして、今度は新たな集落の周囲に設置しまくったトラップ地帯に誘導を開始した。
誘導は簡単だったそうだ。何せ、散々してやられたことで、魔人族は頭に血が上りまくっていたのだ。そこで、ちょっと姿を見せて鼻で嗤ってやれば……十分である。
そして、ハウリアに若干の被害を出しつつも、遂に、魔人族の首を落として、魔物の殲滅に成功したのだという。
しかし、事態はそれだけでは終わらなかった。ハウリアにより窮地を救われたフェアベルゲンだったが、その被害は甚大。とても樹海の警備に人を回せるような余裕はなく、復興と死者の弔い、負傷者の看病で手一杯だった。
そして、その隙を突くように、今度は帝国兵が樹海へと侵入してきたのである。
目的は人攫いだったらしい。
ハウリアも戦後処理で集落に引っ込んでおり、気が付くのが遅れた結果、多数の亜人族が抵抗をする余裕もなく攫われてしまった。カム達がそれに気がつき、帝国兵の一人を攫って尋問した結果、どうやら帝国でも魔物の襲撃があったらしく、復興のための
カム達は、ハウリア族以外の兎人族の集落に急いで駆けつけたが、その時には既に遅く、女子供のほとんどを攫われてしまった。非力な兎人族を攫う理由が労働力のためでないことは明らかだ。襲撃を受けて高ぶっている帝国人を慰めるという目的以外には考えられない。
流石に、同族の悲惨な末路を見過ごせなかったハウリア族は、仲間の過半数を樹海の警備のためにおいて、カム率いる残り少数で帝都へ向かう輸送馬車を追ったのである。
しかし、そろそろ帝都に着いたはずというあたりで、カム達からの連絡が途絶えてしまった。伝令役との待ち合わせ場所に、時間になっても姿を見せなかったのだ。
何かあったのではと考えて、じっとしていられなくなった樹海に残った者達は、何人か選抜して帝国へ斥候に出した。
結果、どうやらカム達は帝都に侵入したまま、出て来ないようだとわかったのだ。
その後、帝都に侵入してカム達の現状を知るべく、パル達が警備体制などの情報収集をしていたところ、大量の亜人族を乗せた輸送馬車が他の町に向けて出発したという情報を掴み、パル達の班が情報収集も兼ねて奪還を試みたというわけである。
話を聞き終えると、入間は腕を組んで呟いた。
「…妙だね」
「妙、とは?」
入間の言葉にユエ達が頷く中、その言葉の意味が分からなかった愛子が尋ねると、入間は思案顔のまま答えた。
「パル達の話を聞く限り、樹海の侵攻は魔人族だけで行われてきたみたいです。同盟軍のバダンなら、森一つ消し炭にする事も出来るし、森に住む亜人を一掃する事も出来る。バダンも神代魔法を求めている筈なのに、大迷宮のある樹海には手を出さないなんて……逆におかしいと思わないですか?」
入間の言葉に、愛子達も「あっ」と声を漏らす。
言われてみれば、魔人族にはバダンという強大な同盟軍がいる。つい先日も、プルトンロケットという恐ろしい兵器でハイリヒ王国をクレーターに変えてしまったのだ。樹海を滅ぼすなど朝飯前といえる。だが、実際にはバダンは超兵器を使うどころか、樹海にすら足を運ばなかったのは、確かに妙だ。
勿論、樹海が滅ぼされなかったのは入間達にとっては非常に都合がいい。だが、こんな簡単に都合のいいことが起こるのかと、バビルは逆に不安を感じられずにはいられなかった。
「陛下。『も』ということは、もしや魔人族は他の場所でも?」
「うん、同盟軍と一緒にあちこちで暗躍してるよ。ハイリヒ王国もつい数日前に滅ぼされたよ」
そこで、入間はリリアーナの事を思い出した。ハイリヒ王国唯一の生き残りである彼女をどうすればいいのか全く考えていないまま船に乗せていた入間。
「まぁ、大体の事情はわかった。取り敢えず、お前等は引き続き帝都でカム達の情報を集めるんだな?」
「肯定です。あと、陛下には申し訳ないのですが……」
「わかってる。どうせ道中だし、捕まってた亜人達は、樹海までは送り届けておくよ」
「有難うございます!」
パル達が一斉に頭を下げる。シアは何か言いたそうにモゴモゴしていたが、結局、何も言わなかった。
入間はそれに気がついていたし、シアが何を言いたいのかも察していたが、取り敢えず、シアが自分で言い出すのを待つことにして、やはり何も言わなかった。
最後に、パル達から樹海に残っている仲間への伝言を預かって、入間は、帝都から少し離れた場所でパル達を降ろした。そして、一行は【ハルツィナ樹海】に向かって高速飛行に入るのだった。
入間達が再び足を踏み入れた【ハルツィナ樹海】は、以前となんら変わらず一寸先を閉ざすような濃霧をもって歓迎を示した。
やはり、亜人族がいなければ、人外レベルの入間達魔界組でも感覚を狂わされるようだ。入間達がそれぞれ見失って離れ離れにならないよう、以前と同じく亜人達が周囲を囲むようにして先導してくれる。
妙にアルテナが入間の近くを歩きたがるようだったが、サラッと無視して進むこと一時間。傍らを憂い顔で歩くシアのウサミミがピコピコと反応する。ハッと顔を上げたシアは、霧の向こうを見通すように見つめ始めた。
「入間さん、武装した集団が正面から来ますよ」
シアの言葉に周囲の亜人族が驚いたようにシアの方を向いた。その中には攫われていた兎人族も含まれており、どうやら自分達ではまるで察知できない気配をしっかり捉えているシアに驚いているようだ。
そのシアの言葉の正しさを証明するように、霧をかき分けていつか見たような武装した虎耳の集団が現れた。全員、険しい視線で武器に手をかけているが、彼等も亜人族が多数いる気配を掴んでいたようで、いきなり襲いかかるということはなさそうだ。
彼等のうち、リーダーらしき虎人族の視線が入間達に止まった。直後、驚愕に目を見開いた。
「お前達は、あの時の……」
「あっ、あの時のトラ男」
その虎の亜人の様子に入間も彼を思い出した。
彼の名はギルといい、かつて樹海に踏み込んだ入間達と相対した警備隊の隊長をしている男だ。どうやら、襲撃を生き延びて、再び警備をしていたらしい。
「一体、今度は何の……って、アルテナ様!?ご無事だったのですか!?」
「あ、はい。彼等とハウリア族の方々に助けて頂きました」
ギルは、入間に目的を尋ねようとして、その傍らにいたアルテナに気がつき素っ頓狂な声を上げた。そして、アルテナの助けてもらったという言葉に、安堵と呆れを含んだ深い溜息をついた。
「それはよかったです。アルフレリック様も大変お辛そうでした。早く、元気なお姿を見せて差しあげて下さい。……少年。お前は、ここに来るときは亜人を助けてからというポリシーでもあるのか?傲岸不遜なお前には全く似合わんが……まぁ、礼は言わせてもらう」
「そんなポリシーあるわけ無いでしょう。前も今も、全部偶然ですよ」
何やら知り合いらしい雰囲気に、雫達が疑問顔になる。
シアが、こっそり何があったのかを簡潔に説明すると、シアが入間に惚れている理由も分かるというもので、皆、納得顔を見せた。
「それより、フェアベルゲンにハウリア族はいますか?あるいは、今の集落がある場所を知ってる亜人は?」
「む?ハウリア族の者なら数名、フェアベルゲンにいるぞ。聞いているかもしれないが、襲撃があってから、数名常駐するようになったんだ」
「それならよかった。じゃあ、さっさとフェアベルゲンに向かいましょう」
そう言って入間はさっさと先を促す。相変わらず態度がでかいなと再び呆れ顔をしながら、ギルは部下達に武器を収めさせて先導を務め始めた。
以前のような敵意を感じないのは、入間に鍛えられたハウリア族に救われたからなのか、あるいは長老衆から何か言われているのか……わからないが揉めなくて済むのは好都合だと入間達は大人しく案内を受けるのだった。
辿り着いたフェアベルゲンは、大きく様変わりしていた。まず、威容を示していた巨大な門が崩壊しており、残骸が未だ処理されずに放置されたままだった。
そして、入間、ユエ、シアをして魅了した幻想的で自然の美しさに満ちた木と水の都は、あちこち破壊された跡が残っており、木の幹で出来た空中回廊や水路もボロボロに途切れてしまって用をなしていなかった。
「ひどい……」
誰かがそう呟いた。
バビルの面々も全く同感だった。フェアベルゲンそのものも、どこか暗く冷たい風が吹いているようで、どんよりした雰囲気を漂わせている。
と、その時、通りがかったフェアベルゲンの人々がアルテナ達を見つけ信じられないといった表情で硬直し、次いで、喜びを爆発させるように駆け寄ってきた。
傍に人間族がいることに気がついて、一瞬、表情を強ばらせるもののアルテナ達が口々助けられた事を伝えると、警戒心を残しつつも抱き合って喜びをあらわにした。連れ去られていた亜人達の中には、入間達に礼をいうと家に向かって一目散に駆けていく者もいる。
次第に入間達を囲む輪は大きくなり、気が付けば周囲はフェアベルゲンの人々で完全に埋め尽くされていた。しばらくその状態が続いたあと、不意に人垣が割れ始める。その先には、フェアベルゲン長老衆の一人アルフレリック・ハイピストがいた。
「お祖父様!」
「おぉ、おお、アルテナ!よくぞ、無事で……」
アルテナは、目の端に涙を溜めながら一目散に駆け出し祖父であるアルフレリックの胸に勢いよく飛び込んだ。もう二度と会えることはないと思っていた家族の再会に、周囲の人々も涙ぐんで抱きしめ合う二人を眺めている。
しばらく抱き合っていた二人だが、そのうちアルフレリックは、孫娘を離し優しげに頭を撫でると、入間に視線を向けた。その表情には苦笑いが浮かんでいる。
「……とんだ再会になったな、鈴木入間。まさか、孫娘を救われるとは思いもしなかった。縁というのはわからないものだ。……ありがとう、心から感謝する」
「僕は送り届けただけですよ。感謝するならハウリア族にしてくださいよ。僕は、ここにハウリア族がいると聞いて来ただけだし……」
「そのハウリア族をあそこまで変えたのもお前さんだろうに。巡り巡って、お前さんのなした事が孫娘のみならず我等をも救った。それが事実だ。この莫大な恩、どう返すべきか迷うところでな、せめて礼くらいは受け取ってくれ」
入間はアルフレリックの言葉に、若干、困ったように頬を掻きつつも仕方なさそうに肩を竦めた。
そんな入間を、ユエやアメリ、シア、ティオ、ミレディ、アスモデウス、クララが微笑ましげに見つめている。
一方で、人間を救うために迷宮に潜って訓練を積んできた自分よりも、世界を巡り意図せず人々を救ってきた入間に、光輝は一層、複雑そうな表情を見せていた。
その後、入間達は、ハウリア族はタイミング悪くフェアベルゲンの外に出てしまっているが直ぐに戻るはずだと聞き、アルフレリックの家で待たせてもらうことにした。
アルフレリックの言う通り、差し出されたお茶(頬を染めたアルテナが手ずから入れたお茶)を一杯飲み終わる頃、ハウリア族の男女が複数人、慌てたようにバタバタと駆け込んできた。
「陛下!お久しぶりですっ!!」
「この日を心よりお待ちしておりましたっ!陛下!!」
「新入り共!陛下のご帰還だ!他の者共に伝えてこい!!」
「はっ!!」
飛び込むと同時に跪いたのは、ハウリア族の男女だった。
余りの剣幕に、パル達でハウリアの反応を予想していたはずの光輝達がブフゥー!とお茶を噴き出した。ボタボタと垂れるお茶を拭いながら全員がそちらを見ると、複数の兎人族がビシッ!と一切列を乱すことなく跪いている姿があった。
入間にも見覚えのない者が何人かおり、先程の言動も踏まえると、どうやらハウリアは他の兎人族の一族を取り込んで自ら訓練を施し勢力を拡大しているようだ。
「あ~、うん、久しぶりだね。取り敢えず、他の連中がドン引いているから、もっとラフな感じでいいからね」
「「「「「「「はっ!!!」」」」」」」
樹海全体に響けと言わんばかりに張り上げた陛下への久しぶりの掛け声に、とても満足そうなハウリア族と、初めて経験した本物の掛け声に「俺達もついに……」と感動しているハウリアでない兎人族達。
きっと、入間が樹海を出て行った後も、樹海には入間&アメリ直伝の特訓による悲鳴が響いていたのだろう。
「ここに来るまでにパル達と会って大体の事情は聞いている。中々、活躍したそうじゃないか。連中を退けるなんて、流石はハウリアだね」
「「「「「「きょ、恐縮でありますっ!!」」」」」」」
最後が涙声になっているのはご愛嬌。
入間は、感動に震えるハウリア達にパル達から預かった情報を伝える。
すなわち、カム達が帝都へ侵入したらしいという情報を掴んだ事と、自分達も侵入するつもりであること。そして、応援の要請だ。
「なるほど。……“必滅のバルドフェルド”達からの伝言は確かに受け取りました。直々に御伝えしていただき、心より感謝致します、陛下」
「………………ねぇ、やっぱり君にも……二つ名があったりするの?」
「は?俺ですか?……ふっ、もちろんです。落ちる雷の如く、予測不能かつ迅雷の斬撃を繰り出す!“雷刃のイオルニクス”!です!」
「……あー、そうなんだ」
やはりハウリア族はもう手遅れらしい。完全に感染してしまっているようだ。必滅のバルドフェルドから発生したパンデミックを封じ込められなかった事が悔やまれる。
入間は、何とか気を取り直して“雷刃のイオルニクス”に尋ねた。
「話を聞く限り、ハウリア族以外の奴等も訓練させていたみたいだけど、今、ハウリアはどれくらいいるの?」
「……確か……ハウリア族と懇意にしていた一族と、バントン族を倒した噂が広まったことで訓練志願しに来た奇特な若者達が加わりましたので……実戦可能なのは総勢百二十二名になります」
随分と増加したものだと、入間のみならずシア、ユエ、アメリも驚きをあらわにする。
入間は、質問の意図がわからず疑問顔を浮かべる“雷刃のイオルニクス”を尻目に一つ頷く。
「それくらいなら、鬼の戦艦に一度で乗せられるね。……イオ、ルニクスくん。帝都に行く奴等をさっさと集めてくれ。僕が全員まとめて送り届けるから」
「は?はっ!了解であります!直ちに!」
一瞬、何を言われているのか分からなかったようで間抜け顔で聞き返す“雷刃のイオルニクス”だったが、直ぐに入間が帝都に同行してくれるという意味だと察し、敬礼をすると、仲間を引き連れて他のハウリア族を呼びに急いで出て行った。
“雷刃の……イオは、入間は大迷宮のために戻って来たのであって、自分達を手伝ってくれるとは思っていなかったのだろう。意外すぎる言葉に動揺してしまったようだ。
そして、それは何もイオだけでなく、むしろ一番驚いているのは入間の傍らにいるシアだった。その大きな瞳をまん丸に見開き、ウサミミをピンッ!と立てて入間を凝視している。
「い、入間さん……大迷宮に行くんじゃ……」
「カム達のこと気になってんでしょ?」
「っ……それは……その……でも……」
入間に図星を突かれて口籠るシア。
入間の目的が大迷宮であり、カム達の事情は関係ない以上、シアとしてはわざわざ面倒事が待っていそうな帝都に入ってまでカム達の行方を探して欲しい等とは言えなかった。まして、カム達は連れ去られたというわけではなく、自分達から向かったのだ。何かあっても自己責任である。
シア自身も入間に付いて行くと決めたのだ。ならば、父親達は父親達の道を、シアはシアの道を進むべきだと、そう思って何も言わなかった。
しかし、それでも家族の行方が分からないと知れば、心配する気持ちは自然と湧き上がるもので、そう簡単に割り切れるものではない。
本人は隠しているつもりでも、それが憂いとなって顔に出たために、入間にもユエ達にもシアの心情は筒抜けだった。
入間は、余計な手間を取らせていると恐縮して口籠るシアの傍に寄り、そっとその頬を両手で挟み込んだ。
「ふぇ?」
突然の入間の行動に、シアがポカンと口を開けて間抜け顔を晒す。そんなシアに、入間は可笑しそうに笑みを浮かべながら、真っ直ぐ目を合わせて言い聞かせるように言葉を紡いだ。
「シア、君にはそんな憂い顔は似合わないよ。カム達が心配なら、素直に心配だって言えばいいんだよ」
「で、でも……」
「でもじゃないよ。何を今更、遠慮なんてしてるの?家族を心配だって言うのは何もおかしな事じゃない。それに、シアがそんな顔をするのに、僕達が気にも止めないで迷宮に行く筈がないでしょ?」
「入間さん……」
それは紛れもなくシアを気遣う言葉。シアを想っての言葉だ。それを理解して、シアは自分の頬に添えられた入間の手に自分のそれを重ねる。瞳は、嬉しさと愛しさで潤み始めていた。
「あのね、シア。恋人云々は別としても、君達は僕の大事な人達なんだから、憂いているのを放っておくなんてありえないでしょ。言ったでしょ?例え神が相手だろうと、仲間は一人も渡さないって言葉。だから、君がやりたいと思ったことは、僕も全力で手伝うよ」
「入間さん、私……」
「ほら、君が言いたい事、ちゃんと言ってみて。ちゃんと聞いてあげるから」
頬に伝わる優しくも熱い感触と、真っ直ぐ見つめてくる入間の眼差しに、シアは言葉を詰まらせつつも、湧き上がる気持ちのままに思いを言葉にした。
「……私、父様達が心配ですぅ。……一目でいいから、無事な姿を見たいですぅ……」
「……全く、最初からそう言えばいいのに。今更、遠慮なんてするから何事かと思ったよ?」
「わ、私、そこまで無遠慮じゃないですよぉ!もうっ、入間さんったら、ほんとにもうっですよぉ!」
拗ねたように頬を膨らませているが、その瞳はキラキラと星が瞬き、頬はバラ色に染まっていて、恋する乙女を通り越して完全に愛しい男を見る女の顔だった。贈られた言葉に、幸せで堪らないという気持ちが全身から溢れ出ている。
シア自身、そこまで入間に遠慮しているという自覚はなかったのだが、入間を想う
それが、入間の“大切に想っている”という言葉で一気に吹き飛んでしまった。
そんなシアを見て、女性陣がそれぞれ反応を示す。
「……ん。元気になってよかった」
と、ユエは微笑ましげにシアを見守る。完全にお姉さん思考だ。
「イルマ……まぁ、今回は仕方ないだろう」
と、アメリは少しだけ頬を膨らませながらも、微笑ましそうな表情を浮かべた。
「……フフフッ。
と、ミレディは入間の言葉が自分達にも向けられている気がして、普段のように揶揄する様子を見せずに頬を赤くして微笑んだ。
「ふむ、たまには罵り以外もいいかもしれんのぉ~」
と、ティオは変態とは思えないまともな感想を抱く。重病を治すチャンスかもしれない。
「流石ですイルマ様!なんたる器の大きさ!!」
「イルマち、カッコいいぞ~!」
「鈴木君……何て大胆な……!」
「……女たらし」
「まぁ、惚れた男にあんな風に言われれば嬉しいでしょうね……」
「す、鈴木君……ストレートだよ。そっち方面でも変わってしまったんだね。鈴はびっくりだよ」
「シアさん……妬ましい、私も入間様に……」
上から順にアスモデウス、クララ、愛子、優花、雫、鈴、そして何故かアルテナである。
そこで、ようやく周囲に大勢いることを認識したシアが、真っ赤になって両手で顔を隠してしまった。しかし、羞恥以上に嬉しさが抑えきれないのか、ウサミミがわっさわっさ、ウサシッポがふ~りふ~りと動きまくり気持ちをこれでもかと代弁している。
一方、入間にジッと視線を注いでいた光輝は、ポツリと呟いた。
「……やっぱり、仲間の為なら戦うのか」
先どこか感情を抑え込んだ様な、或いは苛立った様子で呟く光輝。
その時、ちょうどいいタイミングでイオがやって来た。どうやらハウリア族の準備が整ったようだ。滅茶苦茶迅速な対応である。
入間達は、アルフレリックとアルテナ達の見送りを受けながら樹海を抜け、帝都に向けて再び鬼の戦艦を飛ばした。
次回、帝国突入です。
入間が、
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