ユエ「……入間、作戦の前に少し運動シよ?」
シア「ユエさん!こんな時に入間さんとしっぽりねっとりする気ですか!?」
アメリ「こんな時に何を考えているのだお前達は!そんな羨ま……破廉恥な真似を!!」
チマ「い、イルマ先輩!ゆ、ユエさんじゃなくても、私が相手して上げますよ!!」
ティオ「ユエばかり羨ましいのぉ~。ご主人様よ。妾も参戦してよいかの?」
ミレディ「あっ!それならミレディさんもしたい!パイ◯リは難しいかもだけど、フェ◯とかはできるし!」
愛子「んなっ!?す、鈴木くん!!エッチなのはいけないと思います!お説教ですよ!!」
鈴「お、大人だぁ!同級生が凄く大人な会話しているよぉ、シズシズ、どうしよう!」
雫「……やっぱりそういう事してるのね」
妙子「ゆ、優花っち!ここは優花っちも参加したいっていった方な良いかなぁ!?」
奈々「ゆ、優花!鈴木くんとどんな関係になっても、私達は応援するからね!」
優花「何バカな事言ってんのよ!!?」
入間「あー、もう!これから大事な作戦があるんだから、ソッチの話ばかりしてないで、第86話に入る前に気持ち切り替えてね!!」
深夜。
入間達は、ティオ達の待機場所に決めた岩石地帯に集まり、作戦の最終確認を済ませ、ユエとシアと共にいざ出発しようとした入間だったのだが……一つだけ気になることがあった。
「あの、本当にチマちゃんを放っておいていいの?」
ユエの『イルマと付き合ってる』発言から、バビルの新メンバー──チマが、まるで石のように固まってしまっているのだ。
「……入間。チマのアフターケアはアメリ達に任せて、私達はシアの家族を助けよう」
「いや、それはそうかもだけど……」
バダンの介入もあって、あまり時間を無駄にしていられないのだが、入間は“自分を慕ってくれているかわいい後輩”であるチマがあの状態で出発するのは気が引ける。
どうでもいいと認識した相手にはドライだが、逆に身内や認めたものに対しては懐が深い入間が、彼女を放っておける筈がなかった。
その様子を見たユエは、自分で蒔いた種とはいえ、自分と入間の関係を聞いてから動けないでいるチマに視線を向ける。チマはその視線に気付いたチマが自分に目を合わせてくると、ポツリと呟いた。
「………その程度なら、私には勝てない」
「ッ!」
その言葉に、チマは顔を強張らせる。
言外に、「自分など取るに足らない相手だ」と言われていると理解してしまったからだ。だが、実際に入間と交際をしているのはユエであるため、チマはユエを睨み付ける。
それを見たアメリは、似たような経験がある為にユエの意図を察して溜め息を吐くと、入間に声を掛けた。
「あー……イルマ、クロケルの事は私に任せろ。ソノベ達が帝都で暴れまわっているなかでロストスマッシュが来れば、空間魔法で飛んでいけるからな」
「そうですか……分かりました。お願いしますね、アメリさん」
「無論だ。……寧ろ、後で大変なのはお前かもしれんぞ?」
「え?」
アメリの言葉に何故だか不吉なものを感じた入間。しかし、そろそろ出発しなければならないため、この嫌な予感が的中しませんようにと祈りながら、入間はユエとシアを連れてコズミックステイツのワープドライブで発生させたゲートに入り込んでいった。
「……さて、イルマ様も帝城に向かったのならば、お前達も動き出してもらおうか」
「わ、わかりました」
アスモデウスに促され、優花はロストドライバーを腰に装着し、エターナルメモリのボタンを押した。
「変身!」
エターナルメモリをロストドライバーに装填した優花は、腕を勢い良く広げるように振るい、スロットをL字に開いた。
全身が白い鎧に包まれ、黒いマントとコンバットベルトが装着されることで、優花は仮面ライダーエターナルに変身する。
それに続いて、光輝達も事前に伝えられていたアイテムの使い方を思い返しながら、変身の構えを取った。
「変身!」
“黄金のリンゴロックシード”を起動した光輝の頭上にクラックが開き、そこから金色のリンゴが現れる。腰に巻いた戦国ドライバーにロックシードを装填すると、カッティングブレードを倒した。
光輝の頭に先程出現したリンゴが被さり、金色の鎧を纏っていた体が黒いスーツに包まれると、黄金の光と共に頭に被さったリンゴが変形し、鎧となった。
光輝は、基本カラーが金と赤で、兎型にカットされたリンゴを模している戦士──仮面ライダーマルスに変身すると、“アップルリフレクター”と呼ばれる盾から“ソードブリンガー”という剣を引き抜いた。
雫は、手にした“メロンエナジーロックシード”を解錠する。頭上にクラックが開き、皮が剥げて果肉が露出した夕張メロンのような物体が現れた。
「えっと……変身」
エナジーロックシードをゲネシスドライバーに装填してロックオンすると、雫はシーボルコンプレッサーを押し込むと、メロンエナジーロックシードが開き、メロンの物体が雫に被さって白いスーツが装着されると、頭のメロンが鎧となった。
白い体にメロンを思わせるような鎧を纏い、右肩は夕張メロンを思わせるアーマーの左右非対称の装甲に、泡立ったオレンジ色の複眼をした戦士──仮面ライダー斬月・真に変身した雫は、“ソニックアロー”と呼ばれる弓矢を手に取った。
「変身!」
鈴は“ドングリロックシード”を起動し、戦国ドライバーに装填すると、鈴の頭上にクラックが開き、ドングリ型の物体が現れると、鈴は戦国ドライバーのカッティングブレードを倒した。
古代ギリシャの重装歩兵の様な茶色の姿に、淡い黄色の複眼を持つ戦士──仮面ライダーグリドンに変身した鈴は、“ドンカチ”と呼ばれるハンマーを装備した。
妙子は、クララが取り出した鏡に赤紫色の下地に金色でエイの彫刻が掘られたカードデッキを突きだすと、鏡から“Vバックル”が飛び出し、妙子の腰に装着される。
「変身!」
デッキをVバックルに挿し込むと、いくつもの白い鏡像が妙子に重なり、その姿が一瞬で変化した。
妙子は、後頭部に伸びた弁髪が特徴で、どことなく中国風な印象を受けるマゼンタのボディに、左腕にエイを模した小盾型の召喚機“エビルバイザー”を装着した戦士──仮面ライダーライアに変身した。
奈々は“レンゲルバックル”に“チェンジスパイダー”のラウズカードを挿入して腰に当てると、カードを重ねたようなベルト帯が飛び出して腰に巻き付く。
待機音が鳴り、奈々はレンゲルバックルの左側のカバーを外側に展開した。
「変身!」
ベルトから“スピリチア・エレメント”というエネルギースクリーンが飛び出し、それを通過した奈々の姿が変化する。
ボディスーツは緑、アーマーは金色、複眼は紫を基調とする。頭部が蜘蛛とクローバーを模している戦士──仮面ライダーレンゲルとなった奈々は、“醒杖レンゲルラウザー”と呼ばれる錫杖型の専用武器を装備した。
淳史は、左手に持った“猿飛忍者伝ワンダーライドブック”の表紙を、親指で開いた。
本を閉じると、ワンダーライドブックを風双剣翠風に装填し、一刀流モードから緑と黄緑の2本の剣に分離した二刀流モードに分断させると、ワンダーライドブックが開いた。
「変身!!」
淳史は緑の竜巻に包まれ、緑色の装甲に右側によっている従事の複眼に緑のマフラーを巻いた剣士──仮面ライダー剣斬に変身した。
“アクセルドライバー”を腰に巻いた昇は、“アクセルメモリ”のボタンを押した。
「変身!」
アクセルメモリをアクセルドライバーに装填し、右手側のパワースロットルを捻ると、エンジンの指導するような音と共に昇の姿が鎧に包まれた。
赤い機械的な鎧に身を纏い、頭部には大きなAの文字のような角と青い複眼が備わった仮面を被った戦士──仮面ライダーアクセルに変身した昇は、“エンジンブレード”と呼ばれる剣を手に取った。
明人はメガネを直しながら、“ブレンドライバー”のイグニッションキーを回す。
「変身!!」
周囲に現れた装甲が張り付き、明人は青緑色の鎧に脳味噌のようなエングレービングやマントを羽織っている戦士──仮面ライダーブレンに変身した。
姿を変えた優花達は、アスモデウスが発動した空間魔法でゲートを潜り、帝都へと向かっていく。全員がゲートに入り込んだのを目にしたアメリは、自身のすぐそばにたっている後輩に目を向けた。
「……クロケル、随分と沈んでいるな」
「ッ!」
声を掛けられたチマは、ビクッと肩を震わせた。
その表情は、アメリには悲痛そうで、悔しそうに歯を食い縛っているように見えた。
「……イルマがユエと付き合っているということが受け入れられないか?」
「ッ!貴女は、悔しくないんですか……?」
思わずチマは顔を上げ、アメリに問い掛けた。
イルマの“一番”になるために努力し続けていたのに、それを知らぬ間に見知らぬ女に奪われたのだから。だが、“一番”を決めるのは他でもない入間自身なのだと言うことも理解しているために、怨み言を言うわけにもいかず、チマの心はぐちゃぐちゃの状態だった。
「…まぁ、悔しいさ。私とイルマはこの世界に来る前からの付き合いだったというのに、選ばれたのはユエだったのだからな。だが……」
「…?」
アメリは一度目を閉じ、己の心の中を確認するように沈黙した後、不適な笑みと共に目を開き、口を開いた。
「──“今は”ユエが一番と言うだけだ。その座を、奪えば良いだけなのではないか?」
「ッ!」
アメリの言葉に、チマを目を見開く。
その時、アメリの懐から着信音が鳴り、アメリはファイズフォンXを取り出し、電話を取った。
「私だ。……やはり来たか。一度に2体……分かった。すぐに向かう」
どうやら、入間が懸念した通り、ロストスマッシュにされたハウリアが帝都に現れたらしい。アメリは通話を切り、空間魔法で帝都に転移しようと歩き出す。
その時、後ろから声を掛けられた。
「…アメリ先輩!」
振り替えると、そこには真っ直ぐに自分を見据えるチマの姿があった。彼女の纏う雰囲気が変わっていることに気付いたアメリは、面白そうに口角を吊り上げる。
「…私は……必ず“一番”になります!」
無表情ながら、闘志に満ちたチマの水色の瞳を見て、アメリはニヤリと笑みを浮かべ、「上等だ!!」と言わんばかりの深紅の瞳でチマを見返した。
「望むところだ……と言いたいところだが、その台詞は先に伝えるべき相手がいるだろう。尤も、私も譲る気はないがな……」
「当然です!」
フンスッ!と意気込むように拳を握るチマ。
しかし、何時までも留まっている訳にはいかない為、アメリはゲートを潜り抜け、ロストスマッシュが現れたと言う場所へと向かっていった。
「ムムム……思いの外、新しいライバルは強敵ですねぇ」
「……ふむ。ご主人様もそうじゃが、悪魔は野心家じゃのぅ」
「…イル君って、身内には甘いからねぇ。レミアや愛ちゃんの事も気に掛けてたっぽいし、私もうかうかしてられないかなぁ……」
「鈴木さん……愛されてますね……」
「当然だ!これこそがイル様の器の大きさの証明なのだ!!」
「皆、イルマちが大好きだもんね!!」
シア、ティオ、ミレディ、リリアーナ、アスモデウス、クララは、そんな風に会話をしながら、入間達が送ってくるであろうハウリアを待つのだった。
光一つ存在しない闇の中に格子のはめ込まれた無数の小部屋があった。特殊な金属で作られた特別製の格子は、地面に刻まれた魔法陣と相まって堅牢な障壁となり、小部屋にいる者を絶対に逃がさないと無言の意思表示をしている。
汚物や血などから発生する異臭で、何も見えなくとも極めて不潔な空間であることがわかる。
そんな最低な場所とは、もちろん囚人を拘束し精神的に追い詰めることを目的とした牢獄、それもヘルシャー帝国帝城にある地下牢であった。
流石、帝城の牢というべきか、地下牢を構成する金属鉱石の質もさる事ながら、至る所に刻まれた囚人を逃がさないための魔法陣が実に秀逸である。
脱獄を企てた者、または地下牢に忍び込んだ者それぞれに致死に至らない程度の、しかし極めて悪質な苦痛を与えるトラップが見えるところだけでなく壁の中にまで仕込まれており、トラップを解除する詠唱を正確に唱えない限り、まず勝手な行動は封じられていると見るべきだろう
脱獄できる可能性など微塵もなく、光一つない世界で凶悪な異臭に苛まれつつ、小さな部屋に一人押し込まれていれば、常人なら一日と保たず発狂してもおかしくない。看守とて唯一の入口である扉の直ぐ外にある詰所で待機しており、決められた時間に巡回するだけで地下牢の暗闇の中に長時間いたりはしないのだ。
「おい、今日はお前だ!来い!!」
帝城の地下牢に囚われているハウリア達は、帝国兵から一人ずつ連れていかれていた。帝国は、ハウリアの実力が余りに常識からかけ離れていることから、彼等の背後に何か陰謀でもあるのではないかと疑っており、日々拷問が繰り返されていたのだが……先日から、突如としてハウリアは一人ずつ牢屋から連れ出され、行方が分からなくなっていたのだ。
だが、ハウリアは既に覚悟を決めていた。帝城の地下牢に囚われている以上、自分達はもう助からない。処刑されるか奴隷に落とされるか……後者の場合は、それこそ全力全開で自害する所存なので、やはり命はない。奴隷の首輪で強制的に同族と戦わされるなど悪夢なので、事前にそう決めていたのだ。
そして、助からない以上は、最後に一矢報いてやるつもりで生き長らえている。そして、また一人と仲間が帝国兵に連れていかれそうになった時……
「がッ!?」
短い悲鳴と共に、帝国兵がドサリと音を立てて倒れ込んだ。明かりを照らしていた松明が落ちて、火が消える。
ハウリア達が、首から上が頭から離れて地面を転がる帝国兵に目を丸くしていると、いる筈のない相手の声が聞こえてきた。
「この人は普通の人間みたいだね。ワームかなにかと思ったけど……」
声の主である入間は、たった今殺した男をまじまじと観察しながら呟いた。傍らのユエがパッと光球を出し、地下牢の闇を払拭した。そして、帝城の地下牢に入間の姿がはっきりと浮かび上がった。
「「「「「「「「「へ、陛下っ!!?」」」」」」」」」
ハウリア族の面々は、見るも無残な酷い怪我を負いながら、薄汚い牢屋の奥で横たわり、起き上がる様子がないにもかかわらず、どこぞの武神にでも会ってしまったかのような素っ頓狂な声を上げた。
入間は地下牢内のトラップを確認し、それをユエとシアにも伝えた。そして、さっさとトラップの解除を始めた。
魔法陣によるトラップは、通常、正しい詠唱によってしか解除できない。それは魔法陣に込められた魔力を詠唱によって操作し散らすというプロセスを経て無力化するからだ。
陣を壊すという方法もあるが、大抵、壊れた瞬間に発動するか、少なくとも壊れたことを他者に知らせる機能が付いていることから、実際には詠唱による解除が唯一なのである。
しかし、それは詠唱による魔力の操作しか出来ない場合の話だ。逆に言えば、魔力の直接操作が出来る者なら、カギがなくても魔法陣に作用させることなく解除することが出来る。
あっさりと帝国が誇る絶対監獄である帝城地下牢を無力化した入間達は、入間の魔術で次々と格子を開けていき、ユエの再生魔法でハウリア達全員を即座に完全回復させた。
「流石は陛下。この牢を一瞬で開けるとは、感服いたしました。兎も角……」
「「「「「「「「「助けて頂き有難うございました、陛下!」」」」」」」」」
「まぁ、シアの家族なんだから、気にしなくていいよ。それより、カムの姿が見えないけど……どこにいるかわかる?」
「それが……」
ハウリアの一人が言うには、どうやらカムは数時間前に連れていかれてしまったらしい。尋問部屋の位置も把握しているが、少しずつ連れていかれる仲間達は、どうやらその部屋には連れていかれていないそうだ。
「入間さん!」
「分かってるよ。事前に偵察には行かせてたけど……タイミングよく来たみたい」
入間が視線を向けると、そこには小さな紙人形──“魔力紙兵隊”が飛んできた。前もって何体か偵察に飛ばしていたのだ。
ハウリア達は、是非、自分達も族長救出に!と訴えてきたが、バダンがいるなかでは危険すぎるので、ここまで普通に侵入して来た入間達に任せるのが一番だと彼等も分かっていたので入間の言葉で大人しく引き下がった。
入間が手を翳すと、そこに銀色に揺らめくオーロラが現れた。
「よし、ここの向こう側は帝都から少し離れた場所にある岩石地帯だよ。パル君達が待機してる」
「御意!陛下、族長を頼みます」
目の前で起きた非常識に唖然とするハウリア達だったが、入間の言葉にハッ!と正気を取り戻すと、まぁ陛下だからな!と直ぐに納得し、惚れ惚れするような敬礼をした。そして、躊躇いなくアーティファクトで作り出したゲートをくぐっていった。よく訓練されたウサミミ達だ。
ハウリア達が転移すると、入間はオーロラカーテンを消し、ユエとシアを連れえ紙兵隊の案内のもと、カムの居場所に向かった。
厳しい警備を持ち前のスキルと魔法で突破してやって来た先は……
「……行き止まり?」
「本当にここなんですか?」
そこは、何の変哲もない壁だった。額縁に飾られた絵画が壁に掛けられているだけで、部屋に繋がる扉も何もない。
ユエとシアが首をかしげる中、入間はジッとその壁を見つめた後、飾られている絵を取り外した。そこには一見すると、何もない壁のようだが、入間はその壁にススス…と手を這わせていく。
「……あった」
そう呟いた入間は、壁の一部を押し込むと、その部分がガコンと凹んだ。その瞬間、その壁がゴゴゴ…と変形し、地下へと続く階段が露になった。
「隠し扉が……」
「……造りが新しいね。最近のもので間違いなさそうだ」
そう言いながら、入間達はその隠し階段を下りていくと、隠し階段への扉が音を立てて閉じていった。ここから先は今までのように一筋縄では行かない事を察した入間達は、気配を可能な限り殺しながら、階段を突き進んでいく。
階段を降りた後、広大な廊下を突き進んで行く入間達は、あちこちに配管が繋げられた廊下を見て、やはりここには何かあると言うことを察して警戒心を強めていくと、彼らの前に立ち塞がるものが現れた。
それは、大柄な帝国兵だった。一見すると大したことなさそうに見えるが、この場所にいるならばバダンと何かしらの繋がりがあると見て間違いなさそうなため、入間達は警戒心を強めて武器を手にする。
その時、その帝国兵の目がギョロギョロと動き、その視線がシアを捉えると、何が面白いのかニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべ始めた。
「ヒ、ヒヒヒ……お前、あの時の白髪の兎人族じゃねぇか……」
「あの時?……っ…あなたは……」
一瞬、何を言っているのか分からなかったシアだが、直ぐに察したようで驚愕に目を見開いた。
シアにとって直接関わりのあった帝国兵など限られている。それは、当然、樹海から出たばかりの頃の自分達ハウリア族を散々追い詰めた連中だ。大勢の家族を殺し、拉致し、奴隷に落とし、そして、シア達を【ライセン大峡谷】へと追いやった敵。
そう、彼は、かつて樹海から出てきたばかりのシア達を襲った部隊の隊長──【グリッド・ハーフ】だったのだ。
グリッドが連隊長の立場にあったことから直接にはシア達の捕獲を行っていなかったために、シアにはグリッドに対する記憶がなかったのだが、グリッドの方は、珍しい青色がかった白髪の兎人族という珍しさからしっかり覚えていたようである。しかし、どこか様子がおかしい。
しかし、その疑問も直ぐに晴れることとなる。
グリッドの背後に、通路の奥から【ストロングクローンスマッシュ】と【フライングクローンスマッシュ】が現れ、入間達が反射的にドライバーを腰に巻いた瞬間、グリッドは紫と銀色で彩られたボトル──ロストボトルを取り出したのだ。
「あの時は捕まえ損ねたけどよぉ……今度こそ捕まえて、壊れるまで犯してやるよぉっ!!!」
そう叫びながらロストボトルを振ったグリッドは、キャップを回したロストボトルを自身の首に差し込む。
その瞬間、グリッドの目が紫に輝くと、2体のクローンスマッシュが光の粒子となってグリッドに吸い込まれていき、グリッドの姿が変貌した。
所々に青いラインが走る漆黒の体に、頭部はクワガタムシのような形状をした双剣を手にしたスマッシュ──【スタッグロストスマッシュ】だ。
入間達が変身アイテムを取り出した時、背後から声が掛けられた。
「こんな殺風景なところに、こんなに上等なお客さんが来るなんて予想してへんかったなぁ♪」
「ッ!?貴方は……!!」
「あの時の、変態眼鏡…!」
振り向いた先にいたのは、グリューエン大火山で対峙した男──アミィ・キリヲだった。
あまりにも予想外の人物の登場に入間は目を見開いていると、彼の背後に【プレスクローンスマッシュ】と【ストレッチクローンスマッシュ】が、壮年のウサミミ男を引き摺りながら現れた。その男は、シアには見覚えがありすぎた。
そう、その兎人族はシアの父、カム・ハウリアだ。
「父様!!」
「あぁっ!やっぱりこの兎人族はイルマ君の関係者やったんやね♪丁度、ガスの注入が終わったところやったから丁度エエわ」
そう言いながら、キリヲは一本のロストボトルを取り出すと、それを数回振り、カムに差し込んだ瞬間、2体のクローンスマッシュがカムの体に吸い込まれ、カムの姿が、赤いラインの走る黒いゴテゴテの姿をした怪物──【キャッスルロストスマッシュ】となったのだ。
「そんなっ!父様が!!」
「キリヲ先輩、貴方は……!」
「気に入ってくれたか?それじゃあ、次は僕と遊んでくれるか?イルマ君」
金色のバンドに包まれ、キリヲはアナザージオウⅡに変身する。
それを見て、入間ジオウウォッチとインフィニットジオウウォッチを手に取り、ユエはフレイムドラゴンウィザードリングを嵌め、シアはマイティブラザーズXXガシャットを手にし、3人は同時に変身の構えを取った。
「「「変身!!」」」
入間はインフィニットジオウ、ユエはフレイムドラゴンスタイル、そしてシアは、ずんぐりした二等親の体躯にオレンジとグリーンの髪をした【ダブルアクションゲーマーレベル
「……シア、カムは私達が戻す。そのクワガタ擬きはシアがやって」
「ユエさん……分かりました!!」
「よし……行くよ!!」
グリッドの事を何となく察したウィザードがエグゼイドにそう告げると、エグゼイドはウィザードの気遣いに感謝しつつスタッグロストスマッシュに向き直り、インフィニットジオウはウィザードと共に、アナザージオウⅡとキャッスルロストスマッシュに向かって走り出した。
警鐘が鳴り響く帝都の夜に、突如、光が迸り、瓦礫撤去作業に従事していた亜人奴隷達が寝泊りしている掘っ立て小屋地区、そこにある帝国兵の詰所が吹き飛んだ。最小限まで手加減していたらしく、建物が吹き飛んだだけで、中の帝国兵は無事なようだ。ただし、大半が気絶しているが。
それをなしたのは月を背負って悠然と佇む三人の仮面の戦士だ。
「何者だ、貴様等!帝国に盾突いてただで済むと思っているのか!」
その人影に向かって帝国兵の小隊長らしき人物が怒声を上げる。
そこにいるのは、黒い体に赤と金色の鎧を着た盾と剣を装備した戦士と、弓矢を持った右肩が大きなアーマーに包まれた白い戦士と、ハンマーを持った茶色の鎧を着た戦士だ。
勿論、その正体は、入間から一時的に貸し与えられたドライバーで変身した光輝達勇者パーティである。
ヒートアップした帝国兵達が遂に「あの鎧の連中をとっ捕まえろ!」と襲いかかり始めた。
しかし、いくらハビルには全く及ばないとは言え、それでも異世界召喚チート達。しかも、試作品とは言え仮面ライダーとなった今の光輝達に、並の兵士如きが敵うはずもなく、次々と蹴散らされていく。
光輝が変身した仮面ライダーマルスが帝国兵の魔法をアップルリフレクターで防ぎ、ソードブリンガーから黄金の斬撃を放ち、帝国兵を吹き飛ばす。
雫が変身した仮面ライダー斬月・真がソニックアローを振るい、黄緑とオレンジの斬撃を放ち、帝国兵は逃げる間も無く切り伏せられていく。
鈴が変身した仮面ライダーグリドンがドンカチを振るい、ドングリ型のエネルギー弾を連続発射。着弾と同時に、爆発によって帝国兵は木の葉のように吹き飛ばされる。
本来ならばこれだけで即死してもおかしくはないが、入間がドライバーに取り付けた“非殺傷設定”により、マルス達の攻撃に襲われた帝国兵の中には一人として死者はいない。
帝国兵が地面に這いつくばりながら悪態と共に呻き声を上げる。すでに三個小隊ほどが戦闘不能に追い込まれていた。堪りかねた指揮官が思わず叫ぶ。
「くそっ、お前等、一体何が目的なんだ!」
その質問に、マルスはピタリと止まり声高に宣言した。
「亜人奴隷達の待遇改善を要求する!」
「……はぁ?」
「お前達の亜人族に対する言動は目に余る!むやみに傷つけるのは止めるんだ!」
帝国兵はまさかの要求に、「あいつ何言ってんだ?」という表情で顔を見合わせた。それもそうだろう。入間が言っていた通り、マルス達が昼間見た亜人奴隷への対応は、あれで常識なのだ。それを目に余ると言われても何が言いたいのかピンと来ないのである。
「くっ、何だ、その態度は……あんな仕打ちをしておいて……」
「こう……マルス。非常識なのは、残念だけど私達の方よ。私達の目的は陽動であることを忘れないで」
「わかってる!でも、せめて子供の亜人だけでも……」
「何人いると思っているのよ。子供達の目の前で助ける子とそうでない子を選別するの?それにさっき連絡が来たんだけど、優花達の方にロストスマッシュが出てきたみたいよ。……私だって悔しくは思うけれど、今は、きっちり目的を果たしましょう?」
「……そうだな」
マルスは、仮面越しでも分かるほど渋々といった感じで引き下がった。
斬月・真はそれを確認すると、自身の側頭部をトントンッと叩いた。マルスが先に話してしまったが、入間から退散する直前にそうしろと言われていたのだ。
すると、仮面の内側の目元の部分に、魔力で光る文字が浮き出てきた。ビクッとしつつも、最初の一文が消えて次の一文が浮かび上がってきたので、斬月・真は思わず読み上げる。
「帝国兵、聞きなさい。私達の行動は独断によるものよ。だから、亜人奴隷に今回の件で八つ当たりするのは止めておきなさい。もし、そんなことをしたら……」
「な、なんだっていうんだ……」
「夜、シャワーを浴びている時その背後に、寝苦しさに目を覚ました時お腹の上に、誰もいないはずの廊下の奥に、デスクの下に、カーテンの隙間に、鏡の端に、夢の中に……仮面を見ることになるわよ」
帝国兵は斬月・真の抑揚のない淡々とした語りに、一斉に生唾を飲み込み、そして思った「こえぇ……」と。確かにホラーである。
三人のアーマードライダーは、それで目的を果たしたとでもいうように「とぅ!」という感じで建物から裏路地に飛び降りた。そして、慌てて帝国兵達が駆けつけた時には、まるで夢幻のように忽然と姿を消していたのだった。
ちなみに、入間が斬月・真のマスクにこの台詞を用意したのは、パル達とのやり取りの時、雫達に笑われたのを根に持っていたからだったりする。
光輝が奴隷を解放しろとか言うのは見越していたので、帝都でひと暴れすれば、ハウリアが付けようとした痛い二つ名を越える何らかの二つ名が雫達に付けられるのではないかという目論見だ。
もっとも、正体が隠されているので直接呼びかけられるわけではなく、人知れず耳にして悶えるくらいが関の山だが。
後に、入間の思惑通り帝国兵の間で「メロンの仮面の恐怖~奴はいつも君を見ている」という都市伝説が広まるのだが、それはまた別の話。
なぜ、自分だけと……と、メロンの仮面の中の人が崩れ落ち、メロンの仮面を渡した魔王が全力で笑いを堪えていたのも別の話である。
光輝が変身する仮面ライダーをマルスに選んだ理由は、劇場版で鎧武がマルスに対して言った「金メッキ」からです。
雫を斬月・真にしたのは作者の趣味でしたが、感想では斬月でも良かったと言うものがありました。今回はあくまでも一時的なライダー化でしたが、雫の今後の活躍によっては仮面ライダーに変身するかもしれません。
感想、評価お待ちしております。