イルマ『チマちゃん、僕と結婚してくれ!!』
チマ『はい、イルマ先輩!!』
チマ「こうして、悪魔の孫は時の王者となって世界最強は完結し、今週から私とイルマ先輩のラブストーリ、『チマと時の魔王』が始まります!」
ミレディ「いや始まらないよ!なんでチマりんがあらすじ紹介してるの!?」
チマ「イルマ先輩はハウリア族を救出するために帝城に潜入です!」
アズ「しかし、そのタイトル、何かと似ている気が……」
クララ「あり○~♪○まの~♪」
ミレディ「その歌は不味いよ!!」
ティオ「さぁ、ハウリア達を救出しに向かったご主人様達の勇姿を、第87話で刮目するのじゃ!!」
チマ・アズ・ミレディ「なんでお前が締めるんだよ!!」
『ウォオオオオオオッ!!!』
マルスが暴れまわった帝都とは別の区画に、2体の異形と、7人の仮面の戦士が衝突していた。
一体は両腕を広げて高速で空を飛び回り、もう一体は周囲にハサミのような武器を無数に出現させ、それを一斉に飛ばし、7人のライダーは後退した。
「な、何だよこの強さ!?」
「弱音吐かないでよ!バダンが強いのはもう嫌って言うほど分かってるでしょ!」
仮面ライダーアクセルに変身した昇の言葉を、優花が変身した仮面ライダーエターナルが叱咤した。
優花達愛ちゃん護衛隊は最初は光輝と同じように帝都で暴れようとしていたのだが、何の因果か暴れているロストスマッシュと鉢合わせてしまい、騒ぎを聞いて駆け付けた
相対するのは、黄色いラインが走る漆黒のボールのように丸い体に、丸い鉄球のような形状の拳を持った【オウルロストスマッシュ】と、両腕と頭部が閉じた状態の鋭いハサミとなった鋭角的なフォルムが特徴の【シザースロストスマッシュ】だ。
シザースロストスマッシュはハサミ状のエネルギーを複数生成して射出し、それにエターナル達が怯んだ瞬間を狙うようにオウルロストスマッシュが突撃してくる。
「せめて、攻撃する隙があれば……!」
エターナル達の連絡を受けてやって来たゼインは、シザースロストスマッシュなハサミ型エネルギーによる遠距離攻撃とオウルロストスマッシュの高速飛行に上手く対応できず、完全に押されていた。
「皆!何とかあの2体の動きを止めるわよ!愛ちゃんが倒せる隙を作って!」
「「うん!」」
「「「お、おう!」」」
エターナルの指示にうなずいた剣斬達。
最初に動き出したのはアクセルだ。アクセルは“エンジンメモリ”を取り出し、エンジンブレードに装填すると、トリガーを二回引いた。
アクセルがエンジンブレードを振るうと、赤い高速の斬撃が飛び、オウルロストスマッシュの片腕に傷痕をいれる。
「今だ!これでもくらえ!!」
『ムグォッ!?』
オウルロストスマッシュの隙を突き、ブレンは“ポイズンハンカチーフ”を投げつけ、オウルロストスマッシュは顔を毒でやられて視界を塞がれ、地面に落ちる。それを見て、レンゲルは一枚のラウズカードを取り出した。
『グォオオオオッ!!』
「させないわよ!!」
シザースロストスマッシュがレンゲルを狙うが、そうはさせるものかとエターナルが割り込み、マキシマムスロットに“ヒートメモリ”を装填し、爆炎を纏うパンチを炸裂させる。
その間にも、レンゲルはクラブの6【ブリザードボーラ】のカードをレンゲルラウザーにラウズする。
レンゲルラウザーから極寒の冷気が飛び出し、再び空を飛ぼうとしたオウルロストスマッシュの足元が凍り付き、オウルロストスマッシュは強制的に地面に縫い付けられた。
「愛ちゃん!!」
「はい!!」
レンゲルの言葉に答えたゼインは、何処からか一枚のゼインカードを取り出し、それをゼインドライバーに装填・裁断することで、そのライダーの力を身に宿す。
「勝利の法則は……決まりました!」
周囲に虹色の化学式を浮かび上がらせたゼインは決め台詞と共に空を飛ぶと、虹色のグラフがオウルロストスマッシュを拘束し、そのグラフに背中を乗せるとオウルロストスマッシュに向かってグラフを滑り、オウルロストスマッシュに虹色のキックを繰り出した。
「はぁっ!!」
『ウァアアアアッ!!!?』
虹色の光が流し込まれ、オウルロストスマッシュがヨロヨロと後退すると、体が煙に包まれ、被験者だったハウリアが倒れた。
「ッ、大丈夫ですか!?」
ゼインは、ハウリアの安否を確認するように駆け寄ると、その隙を見たシザースロストスマッシュが、ハサミ型のエネルギーを生成し、
「させっかよ!!」
ゼインを守るように前に出てきた剣斬は、翠風を連結・変形させて手裏剣モードにし、猿飛忍者伝ワンダーライドブックを取り外して速読器“シンガンリーダー”に読み込ませる。
「疾風剣舞・回転!」
剣斬が翠風を放ると、緑色の光を放つ翠風が分裂し、無数の手裏剣となって、シザースロストスマッシュのハサミ型エネルギーを相殺していく。
ライアがエビルバイザーにカードを装填すると、その手に刺のついた鞭“エビルウィップ”が飛来し、ライアはエビルウィップを振るってシザースロストスマッシュを拘束した。
「うぐっ!凄い力…!」
しかし、シザースロストスマッシュもただ縛られてるだけではとどまらず、拘束を逃れようと暴れており、ライアがそうはいくものかと踏ん張っていると、突如として電子音声が聞こえてきた。
「だぁッ!!」
『ウォオオオオオッ!!?』
残像を残してシザースロストスマッシュに迫った影が鋭い蹴りを食らわせ、殴り飛ばす。直撃を受けたシザースロストスマッシュは放物線を描きながら地面に崩れ落ちると、ネビュラガスの成分が中和され、シザースロストスマッシュはハウリアの姿に戻った。
仮面の下で目を丸くしていたエターナル達は、ロストスマッシュを倒した下手人を眼にした。
「「「「「「「アメリさん!!」」」」」」」
そう、それはビルドジーニアスフォームアーマーのゲイツに変身したアメリだったのだ。
優花達からの連絡を聞いて空間魔法で転移し、そのままジーニアスフォームアーマーでロストスマッシュを浄化したゲイツは変身を解除し、アメリはロストスマッシュの被験者だったハウリアを荷物のように片腕で持ち上げた。
「命に別状はない。ロストボトルを回収して元の場所に戻るぞ。この騒動を起こしたのが兎人族と知られたら面倒だ」
「は、はい!」
アメリの言葉に頷いて、剣斬がオウルロストスマッシュに変身していたハウリアを抱き上げ、ゼインとエターナルはロストボトルを拾い上げたその時、
『バビルとかいう奴等以外にも粒が揃ってたのは以外だったなぁ』
「ふぇ?……あぐっ!?」
「愛ちゃ……うぐっ!?」
聞き馴染みのない声と共に、ゼインとエターナルを衝撃が襲い掛かった。
ゼインとエターナルが地面を転がり、変身が解除される。同時に、手にしていたロストボトルを手放して地面に落ちる。アメリ達が二人のもとへ駆け寄ると、二人が落としたロストボトルを拾い上げるものがいた。
「貴方は……」
「仮面ライダー、エボル…!」
そう、そこにいたのは、ブラックホールフォームのエボルだったのだ。
エボルは黒くなった“フクロウロストフルボトル”と“ハサミロストフルボトル”を拾い、二本のボトルをシャカシャカと振りながら歩き出す。
『ボトルの生成を手伝ってくれて礼を言うよ。これで、残ったロストボトルはあと二本だけだ』
「ロストボトルがお前の狙いか…!!」
『お前の相手はまた今度だ……Ciao』
アメリの言葉に答えず、エボルは背後にワームホールを作り出すと、その渦の中へと消えていった。
しばらく、エボルが消えていった虚空を睨み付けていたアメリだったが、何時までもそうしている訳にはいかないため、アメリは愛ちゃん護衛隊と共に、倒れていた愛子と優花に駆け寄った。
「大丈夫か?」
「は、はい。何とか……」
「私も…。でも、あのボトル取られちゃいました……」
「いい、私もエボルの狙いを気付けなかったのだからな」
エボルも本当にロストボトルの回収が目的だったようで、愛子も優花も痛みはあるが無事なようだ。優花はロストボトルを取られたことに悔しそうな表情をするが、アメリは自分も気付けなかったのだから気にする必要はないと答えた。
その時、アメリ達のもとに、仮面ライダーマルス、仮面ライダー斬月・真、仮面ライダーグリドンがやって来た。
「アメリさん!ここでロストスマッシュが出たって聞いて……」
「もう終わったぞ」
「え?」
マルスの言葉をバッサリと切り捨てるアメリ。
どうやら帝都で暴れまわった後、優花からロストスマッシュ出現の連絡を受けて援護に来たらしい。もう全部終わったが。
アメリはため息を吐きながら、マルス達の腰に巻き付けられたドライバーを引き剥がした。ベルトがなくなり、マルス達の変身が自動で解除される。
「なっ!?何をするんですか!?」
「戻ったら返すというのがイルマとの約束だろう?それに、帝都で暴れた下手人がこんなところで呑気に立っていられる筈がなかろう」
アメリの言うことも尤もの為、引き下がる光輝。
そして、一同はアメリの空間魔法で作り出されたゲートを潜り、ティオ達が控えている場所に転移していく。
全員が潜り抜けたのを確認したアメリは、最後にチラリと帝城に視線を向け、小さく呟いた。
「………気を付けろよ、イルマ」
帝城の地下施設で、三人の仮面ライダーと、三人の異形がぶつかり合っていた。
「どりゃあっ!!」
『アガッ!!?』
エグゼイド・ダブルアクションゲーマーレベルXの拳が炸裂し、スタッグロストスマッシュは悲鳴を投げて殴り飛ばされた。
『兎人族ガ……調子ニノルンジャグボッ!?』
「息が臭いんですよ!喋るんじゃねぇですぅ!!」
他と違い辛うじて意識が残っているのか、スタッグロストスマッシュは“ラプチャーシザース”と呼ばれる剣を振り下ろそうとするが、エグゼイドはそれよりも速い動きでスタッグロストスマッシュの顔面に拳を御見舞いする。
怯んだロストスマッシュに、エグゼイドはそのずんぐりむっくりした体躯からは想像も出来ない様なアクロバティックな動きで飛び、壁や天井を足場にしながら、ロストスマッシュにキックを炸裂させていく。
「おりゃあっ!!!」
『ギャアァアアアアアッ!!?』
オレンジとグリーンのパンチが炸裂し、スタッグロストスマッシュは悲鳴を上げて壁にめり込んだ。
エグゼイドはマキシマムマイティXガシャットを取り出した。
「貴方の運命を……ウッサウサにしてやりますよ!!」
ガシャットを装填してレバーを開き、アーマーライドスイッチを押し込んだ。
「マックス大変身、ですぅ!!」
背後に出現したマキシマムゲーマーの中に入り込むと、両腕と両足が飛び出し、エグゼイドはマキシマムゲーマーレベル99に変身すると、突撃してきたスタッグロストスマッシュを一撃で殴り飛ばし、ゲーマードライバーのレバーを閉じる。
「地獄の底まで逝ってきな、ですぅ」
レバーを開いて必殺技を発動。
エグゼイドは地面にパンチを繰り出し、爆発の余波でスタッグロストスマッシュを上空に打ち上げると、その後を追うように飛び上がる。
「うりゃああっ!!」
『ギャアアアアアアアアアッ!!?』
必殺のキックが炸裂し、スタッグロストスマッシュは隕石のような勢いで墜落。クレーターを作りながら倒れたスタッグロストスマッシュは、その姿がグリッドのものに戻ったかと思うと、体から粒子を発し始めた。
「い、いや…だ……!しに、たく、ね……!」
死にたくないと叫ぼうとした瞬間、グリッドの体は粒子となって消失し、クレーターの中心に、“クワガタロストフルボトル”が残った。
「……皆……これで少しは報いることが出来ましたか?」
自分のために故郷すら捨てた、今はもういない大切な家族を想い、ロストボトルを拾ったエグゼイドは、仮面の下で瞑目した。
一方、インフィニットジオウはアナザージオウⅡと、ウィザードはキャッスルロストスマッシュと相対していた。
ウィザードはランドドラゴンにフォームチェンジすると、ウィザードリングを付け替えて、ウィザードライバーにかざす。
「……ハァッ!!」
『ウゴォッ!?』
両腕に竜の爪“ドラゴヘルクロー”を具現化させたウィザードは、キャッスルロストスマッシュに向けてその爪を振るう。スマッシュの中でもトップクラスの防御力を誇るキャッスルロストスマッシュでもこれには堪えきれず、火花を散らして地面を転がる。
それを見て、インフィニットジオウはウィザードを声を掛けながら、ビルドのレリーフをタッチした。
黄金のゲートから、【仮面ライダービルド・ジーニアスフォーム】の幻影が現れた。その幻影は、何時ものようにインフィニットジオウに吸い込まれるのではなく、なんとウィザードに吸い込まれたのだ。
「ユエ!カムの浄化は任せたよ!」
「んっ!任せて!」
頷いたウィザードがドラゴヘルクローを構えると、その爪に虹色の光が放たれていく。
「……“ジーニアスドラゴンリッパー”」
『グァアアアアアアアアアッ!!?』
虹色の爪を構えたウィザードは腕を振るい、虹色の斬撃を飛ばすと、両肩のシールドで防御しようとしたキャッスルロストスマッシュは、呆気なくその体を切り裂かれた。
爆発を起こしたキャッスルロストスマッシュが膝から崩れ落ちると、被験者であったカムの姿が露になり、黒くなった“キャッスルロストフルボトル”が転がり落ちた。
「父様!!」
「…大丈夫。気絶してるだけ」
エグゼイドがカムを心配して駆け寄ると、容態を確認したウィザードが診察結果を言ったことで、エグゼイドは安堵の息を吐いた。
インフィニットジオウの能力の一つ。それは、幻影として召喚したライダーの力を、味方に宿す事ができる能力だ。この能力を使えば、一般人ならば非常に高い戦闘力を、ライダーであれば別のライダーの能力を上乗せできると言う味方にバフを掛けることができるのだ。
そして、ジーニアスフォームの力を
その時、その光景を眺めていたインフィニットジオウに向けて、アナザージオウⅡの持つ剣が振るわれる。しかし、インフィニットは片腕だけだアッサリとその一撃を受け止めた。
「キリヲ先輩。あの時の僕はネクストグランドジオウの力を使いこなせませんでしたが、今の僕は違いますよ……はっ!」
『がッ!?』
インフィニットジオウはアナザージオウⅡの腹部に蹴りを加えて後退させると、追撃で連続のパンチを御見舞いする。
青と金色の波動を出しながら繰り出される超強力な拳の前に、アナザージオウⅡは完全に防戦一方だった。最後に、腹部に蹴りが炸裂して、アナザージオウⅡは地面を転がった。
『流石イルマ君や……なら、これでどうや!?』
立ち上がったアナザージオウⅡが腕を上げると、アナザージオウⅡの周囲に、【アナザー鎧武】【アナザーフォーゼ】【アナザー響鬼】【アナザーリュウガ】が出現した。
「なら、取って置きを見せて上げますよ」
インフィニットジオウは赤と銀色のライドウォッチを取り出し、ベゼルを回して起動した。
リュウソウルの力で戦うクールな戦隊の力を宿したウォッチが起動すると、インフィニットジオウの右手に“マックスリュウソウチェンジャー”が出現する。
更に、インフィニットジオウはセイバーのレリーフにタッチし、【仮面ライダーデザスト】の幻影を出現させると、その幻影が吸い込まれ、インフィニットジオウは左手に“黒嵐剣漆黒”を出現させると、マックスリュウソウチェンジャーのボタンを押す。
漆黒とマックスリュウソウチェンジャーを構えるインフィニットジオウの体から赤と紫、緑のエネルギーが噴き上がる。
「“カラミティ・ラスティングクロー”!」
技名と共に飛び出したインフィニットジオウは、アナザージオウⅡに突撃しながら体を捻り、独楽のように回転すると、その体が、赤と紫の炎と、緑と紫の風に包まれていく。
炎の竜巻と化したインフィニットジオウは、放射線状のアナザーライダー4体をまるで小枝のように吹き飛ばして消失させると、そのままアナザージオウⅡに突撃した。
「はぁあああああああッ!!!」
『グッ……!うぁああああああああああああああッ!!!??』
黒嵐剣漆黒とマックスリュウソウチェンジャーの刃が回転により鋭さを増しながら何度も振るわれ、アナザージオウⅡを蹂躙する。
防ごうとしたアナザージオウⅡの双剣をへし折り、彼の体を貫いたインフィニットジオウが着地すると、アナザージオウⅡは爆発を起こした。
立ち上がったインフィニットジオウのウィザードと元にカムを抱えたエグゼイドが駆け寄ると、爆炎の中から、アナザージオウⅡの変身が解除されたキリヲが立ち上がった。
「いやぁ~。こんな強うなってるとは思わんかったわぁ……」
「……負けたくせに、なに笑ってるの?」
傷を負いながらも愉しそうなキリヲに、ウィザードは気持ち悪そうに腕を擦りながら呟くと、インフィニットジオウはキリヲに警戒を解かないまま、キリヲに問い掛けた。
「……答えてもらいますよ。貴方は、ここで何をしてたんですか?」
「…今日は頼まれ事で来ただけや。それが全部黒くなったんなら、僕の役目は終わりや。ハイリヒじゃあ運悪くお預けやったから満足やし……また遊ぼうな、イルマ君♪」
インフィニットジオウの問い掛けに、キリヲは淡々と答えると、背後にオーロラカーテンを出現させ、その向こうへと消えていった。
「……入間、良かったの?」
「カムが気絶してるなかで激闘はしてられない。それに、連中狙いがロストボトルなら、一度皆と話し合っておく必要があるからね」
そう言ったインフィニットジオウは、ウィザードとエグゼイドから手渡されたクワガタロストボトルとキャッスルロストボトルを見ながらそう呟くと、背後にオーロラカーテンを出現させ、ウィザード、エグゼイド、カムと共にティオ達の元へ転移した。
この後、帝城内から忽然と消えたハウリア族や帝都で暴れていた正体不明の魔物や仮面集団により、ヘルシャー帝国の夜は朝方まで大騒ぎになった事は言うまでもない。
カムを救出し、ゲートを通ってハウリアやティオ達が待機している岩石地帯に空間転移して来た入間達は、ハウリア達の熱狂的な歓迎に出迎えられた。
ユエの再生魔法で治療されたカムが目を覚ました後、ハウリア達はお互いに肩を叩き合いながら喜びあっている。
「ぐすっ、良かったですぅ!皆無事で良かったですぅ……!入間さん、ありがとうございますぅ!!」
涙声で感謝するシア。一目家族の無事な姿を見たいという願いは、確かに叶ったのだ。
「……ん。間に合って良かった」
ユエが背伸びしてシアの頭を撫でると、シアの涙腺はあえなく決壊。そのまま姉に縋りつく妹の様に抱き着いた。
「陛下、宜しいですか?」
ようやく、喜び合いを終えたらしいカム達が、入間の方へ歩み寄ってきた。真剣な表情であることから、入間も唯の再会の挨拶というわけではなさそうだと察する。
入間は“変化”で手っ取り早く椅子を車座に用意すると、その内の一つに腰掛けて視線で了承の意を伝えた。
「まず、何があったのかということですが、簡単に言えば、我々は少々やり過ぎたようです……」
そう言って、始まったカムの話を要約すると、こういう事だ。
亜人奴隷補充の為に、疲弊した樹海にやって来た帝国兵を、カム達ハウリア族は相当な数を撃破している。
それが、帝国兵をかなり警戒させたらしい。というのも、単なる戦闘の果ての撃破ではなく味方の姿が次々と消えていき、見つけた時には首を落とされているという暗殺に近い形だったからだ。
正体不明の暗殺特化集団という驚異を前に、帝国はその正体を確かめずにはいられなかった。そこで一計を案じたらしい。それが帝都での包囲網だ。要は誘い込まれたということである。
カム達も、あっさり罠にはまるという失態を犯したわけだが、それは、帝国が直接樹海に踏み込んで来るというまさかの事態に対する少なくない動揺があった、としか言いようがない。
または、看過できない程大勢の亜人を捕獲されてしまい頭に血が上ったということや、焦りが隙を生んだということもあるだろう。帝国の襲撃が、樹海を端から焼き払ったり、亜人奴隷に拷問まがいの強制をして霧を突破したりという、非道な方法だったというのも原因の一つかもしれない。
普段のフェアベルゲンなら、それでも組織的に動いて戦うことは出来ただろうが、おそらく、魔物の襲撃によって疲弊している情報も掴まれていたのだろう。タイミングも絶妙だった。
まさに泣きっ面にハチ状態では、カム達も完全には冷静になりきれなかったのだ。
そして、帝国兵側も相当驚いたことだろう。何せ、網にかかった正体不明の暗殺集団が温厚で争い事とは無縁の愛玩奴隷である兎人族だったのだから。
しかも、樹海の中でもないのに、包囲する帝国兵に対して連携を駆使して対等以上に渡り合ったのだ。当然、その非常識は帝国上層の興味を引く。
その結果、
「我等は生け捕りにされ、連日、取り調べを受けていたわけです。あちらさんの興味は主に、ハウリア族が豹変した原因と所持していた装備の出所、そして、フェアベルゲンの意図ってところです。どうやら、我等をフェアベルゲンの隠し玉か何かと勘違いしているようで……実は、危うく一族郎党処刑されかけた上、追放処分を受けた関係だとは思いもしないでしょうなぁ」
尋問官に、自分達はフェアベルゲンと、むしろ敵対している関係だと何度も言ってやったそうだが、むしろ国のためにあっさり自分達を切り捨てた覚悟のある奴等だと警戒心を強めただけらしい。
特に、何度か尋問を見に来た皇帝陛下など不敵な笑みを浮かべながら、新しい玩具を見つけた子供のように瞳を輝かせていたという。
「それで?捕虜になった言い訳がしたいんじゃないんでしょ?さっさと本題を言え」
「失礼しました、陛下。では、本題ですが、我々ハウリア族と新たに家族として向かえ入れた者を合わせた新生ハウリア族は……帝国に戦争を仕掛けます」
カムの鋭い眼差しでなされた宣言に、その場の時が止まる。
そう錯覚するほど、入間と、カムを含めたハウリア族以外は、一切の動きを止めて硬直していた。理解が追いついていないのか、あるいは驚愕の余り思考停止に陥ったのか。周囲に静寂が満ちて、僅かに虫の奏でる鳴き声が夜の岩石地帯に響く。
その静寂を破ったのはシアだった。
「何を、何を言っているんですか、父様?私の聞き間違いでしょうか?今、私の家族が帝国と戦争をすると言ったように聞こえたんですが……」
「シア、聞き間違いではない。我等ハウリア族は、帝国に戦争を仕掛ける。確かにそう言った」
「ばっ、ばっ、馬鹿な事を言わないで下さいっ!何を考えているのですかっ!確かに、父様達は強くなりましたけど、たった百人とちょっとなんですよ?それで帝国と戦争?それに、今の帝国はバダンの犬に成り果てた……つまり、帝国と戦争をすれば、必然的にバダンも相手にすると言うことなんですよ!同族を奪われた恨みで、まともな判断も出来なくなったんですね!?」
「シア、そうではない。我等は正気だ。話を……」
「聞くウサミミを持ちません!復讐でないなら、調子に乗ってるんですね?だったら、今すぐ武器を手に取って下さい!帝国の前に私が相手になります。その伸びきった鼻っ柱を叩き折ってくれます!」
興奮状態でガシャコンブレイカーⅡを取り出し、豪風と共に一回転させてビシッ!とカムの眼前に突きつけるシア。その表情は、無謀を通り越して、唯の自殺としか思えない決断を下したカム達への純粋な怒りで満ちていた。
全身から淡青色の魔力を噴き出し物理的圧力をもって威圧するシアの迫力は、それこそ勇者を筆頭に異世界チート達すら軽く越えるものだ。
事実、いつも元気に笑っていて怒ると言っても何処かコミカルさがあるシアからは想像できない怒気と迫力に、光輝達は息を呑んでいる。
だが、そんな勇者達さえ怯む迫力でガシャコンブレイカーⅡを突きつけられたカムは、凪いだ水面のように静かな眼差しで真っ直ぐに娘を見つめ返していた。
睨み合う、あるいは見つめ合う二人を誰もが固唾を呑んで見守る中、やはり動くのはこの男、入間である。いつの間にかシアのすぐ後ろに迫っていた入間、は、シアの毛玉のように丸くてふわっふわのウサシッポを鷲掴みにし、絶妙な手加減でモフモフした。
「ひゃぁん!?だめぇ、しょこはだめですぅ~!入間しゃん、やめれぇ~」
実は、シアはウサミミを触られる気持ちよさとは別の意味で、ウサシッポを入間に触られると“気持ちよく”なってしまうのだ。
シアは、早々に崩れ落ちると四つん這い状態になってハァハァと熱い吐息を漏らしつつ、恨めしげに入間を睨んだ。しかし、その瞳も熱っぽく潤んでいて、艶姿を強調する以外の役割は果たしていない。
緊迫した状況が、次の瞬間にはピンクな空間に早変わりしたことに目を丸くする周囲の者達。若干、前屈みになっている連中もいる。
そんな周囲を尻目に、入間は、今度はシアのウサミミを撫でた。
先程のやたらとエロい手つきではなく、優しげで労わるような手つきだ。真剣なやり取りの最中にセクハラをカマしてきた入間を恨めしげに睨んでいたシアだったが、途端、気持ちよさそうに目を細めた。
「少しは落ち着いた?カムの話はまだ終わっていないんだから、ぶっ飛ばすのは全部聞いてからでも遅くはないんじゃない?」
「うっ……そうですね……すいません。ちょっと頭に血が上りました。もう大丈夫です。父様もごめんなさい」
「家族を心配することの何が悪い?謝る必要などない。こっちこそ、もう少し言葉に配慮すべきだったな。……最近どうも、そういう気遣いを忘れがちでなぁ。……それにしても」
「な、なんですか、父様……」
「いや、お前が幸せそうで何よりだと思っただけだ。……陛下には随分と可愛がられているようだな?孫の顔はいつ見られるんだ?」
「なっ、みゃ、みゃごって……何を言ってるんですか、父様!そ、そんなまだ、私は……」
カムにからかわれて、顔を真っ赤にしながらチラチラと上目遣いに入間を見るシア。見ればハウリア達が皆、ニヤニヤとした笑みを浮かべている。
本当に、どいつもこいつもいい性格している。入間は、そんな事を思いながら、さらっと無視してカムに尋ねた。
「カム、まさかと思うけどその話をしたのは、僕に奴隷制度廃止の手伝いをさせるつもりじゃないよね?」
帝城にバダンが潜伏しているのと、亜人の奴隷制度は別問題だ。仮に帝城を内部から支配しようとしているバダンを入間達が排除したとしても、第二第三の皇帝が即位して奴隷制度が継続されるだけだ。入間も、そのことが分かっているため、亜人制度の撤廃に手を貸すつもりはなかった。
「ははっ、それこそまさかですよ。ただ、こんな決断が出来たのも、全ては陛下とアメリ殿に鍛えられたおかげです。なので、せめて決意表明だけでもと、そう思っただけですよ」
カムが笑いながら入間の推測を否定する。どうやら本当に自分達だけでやるつもりのようだ。
しかしそうなると、本当に無謀としか言いようがない決断であり、その決断に至った理由が気になるところだ。
シアも、カム達が力をもって調子に乗っているわけでも、復讐心に燃えているわけでもなく本気で言っているのだと察し、表情を悲痛に歪めている。
「理由は?」
「意外ですな、聞いてくれるのですか?興味ないかと思いましたが……」
「僕に鍛えられたおかげで決断が出来たって事は、君達が無謀をやらかそうって原因は僕にもある。それだけなら、不用意に干渉しないけど……」
そう言って、入間はチラリとシアを見る。それで察したカムは、どこか嬉しげに目元を緩めると「なるほど」と頷き、理由を話しだした。
「先程も言った通り、我等兎人族は皇帝の興味を引いてしまいました。それも極めて強い興味を。帝国は実力至上主義を掲げる強欲な者達が集う国で、皇帝も例には漏れません。そして、弱い者は強い者に従うのが当然であるという価値観が性根に染み付いている」
「つまり、皇帝が兎人族狩りでも始めると?殺すんじゃなくて、自分のものにするために?」
「肯定です。尋問を受けているとき、皇帝自らやって来て、“飼ってやる”と言われました。もちろん、その場でツバを吐きかけてやりましたが……」
皇帝の顔にツバを吐いたというカムの言葉に、ハウリア達は「流石、族長だぜ!」と盛り上がり、光輝達は「あの皇帝に!?」と驚愕をあらわにした。
無理もないだろう。歴史上、皇帝陛下の顔にツバを吐いた者など亜人以外の種族も含めてカムが史上初なのではないだろうか。流石の入間も、思わず「ほぉ」と感心の声を上げたほどだ。
「しかし、逆に気に入られてしまいまして。全ての兎人族を捕らえて調教してみるのも面白そうだなどと、それは強欲そうな顔で笑っていました。断言しますが、あの顔は本気です。再び樹海に進撃して、今度はより多くの兎人族を襲うでしょう。また、未だ立て直しきれていないフェアベルゲンでは、次の襲撃には耐え切れない。そこで、もし帝国から見逃す代わりに兎人族の引渡しでも要求されれば……」
「受身に回れば手が回らず、文字通り同族の全てを奪われる……ってことだね」
「肯定です。ハウリア族が生き残るだけなら、それほど難しくはない。しかし、我等のせいで、他の兎人族の未来が奪われるのは……耐え難い」
どうやら、思っていた以上に、カム達は状況的に追い詰められていたようだ。
カムの言う通り、ハウリア達だけが生き残ることは、樹海を利用しての逃亡とゲリラ戦に徹すればそれほど難しくはないだろうが、その代わりに他の兎人族が地獄を見ることになる。
彼等が “強い兎人族”という皇帝の望みに応えられなければ、女・子供は愛玩奴隷にそれ以外は殺処分になるのがオチだからだ。
「だけど、まさか本気で百人ちょっとで帝国軍と殺り合えるとは思っていないのね?」
「もちろんです。平原で相対して雄叫び上げながら正面衝突など有り得ません。我等は兎人族、気配の扱いだけはどんな種族にも負けやしません」
そう言って、ニヤリと笑うカム。それで入間もカムの意図を察する。
「暗殺だね?」
「肯定です。我等に牙を剥けば、気を抜いた瞬間、闇から刃が翻り首が飛ぶ……それを実践し奴らに恐怖と危機感を植え付けます。いつ、どこから襲われるかわからない、兎人族はそれが出来る種族なのだと力を示します。弱者でも格下でもなく、敵に回すには死を覚悟する必要がある脅威だと認識させさます」
「今の帝城は、バダンと癒着があると見て間違いない。軍事力の提供でもされたら、兵士一人一人が上位の魔物クラスの相手をすることになるよ?」
「それでも、やらねばなりません。我等が狙うのは皇帝一族ではなく、彼等の周囲の人間です。流石に周囲の人間全てにまで厳重な守りなどないでしょう。昨日、今日、親しくしていた人間が、一人、また一人と消えていく。我等に出来るのは、今のところこれくらいですが、十分効果的かと思います。最終的に、我等に対する不干渉の方針を取らせることが出来れば十全ですな」
何ともえげつない策だ。だが、皇帝一族を暗殺するなどと言うよりは、よほど現実味がある。
ただ、それだと帝国側に脅威を感じさせるには必然的に時間が掛かってしまうので、大規模な報復行為に出られる可能性が高く、帝国側が兎人族の殲滅に出るか、それとも脅威を感じて交渉のテーブルに付くか、どちらが早いかという紛れもない賭けだ。それも極めて分の悪い賭け。
それでもやらなければ、どちらにしろ兎人族の未来は暗いのだろう。既に全員、覚悟を決めた表情だ。
「……父様……みんな……」
シアは悄然と肩を落とす。
帝国兵を敵に回し、絶対監獄ともいうべき帝城の地下牢からも逃走を果たした兎人族を、皇帝は私的興味と公的責務として見逃しはしないだろうと、彼女も察したのだ。
兎人族に残された道は、他の同族を見捨ててハウリア族だけ生き残るか、全員仲良く帝国の玩具になるか、身命を賭して戦うか、そのどれかしかないのだ。
「シア、そんな顔をするな。以前のようにただ怯えて逃げて蔑まれて、結局蹂躙されて、それを仕方ないと甘受することの何と無様なことか……今、こうして戦える、その意志を持てることが、我等はこの上なく嬉しいのだ」
「でも!」
「シア、我等は生存の権利を勝ち取るために戦う。ただ、生きるためではない。ハウリアとしての矜持をもって生きるためだ。どんなに力を持とうとも、ここで引けば、結局、我等は以前と同じ敗者となる。それだけは断じて許容できない」
「父様……」
「前を見るのだ、シア。これ以上、我等を振り返るな。お前は決意したはずだ。陛下と共に外へ出て前へ進むのだと。その決意のまま、真っ直ぐ進め」
カムが族長としてでも戦闘集団のリーダーとしてでもなく、一人の父親として娘の背中を押す。自分達のことでこれ以上立ち止まるなと、共に居たいと望んだ相手と前へ進めと。
泣きそうな表情で顔を俯けてしまうシアに優しげな眼差しを向けたあと、カムは入間に視線を転じて目礼する。娘を頼みますとでも言うように。
無言無表情の入間の代わりに光輝が、いかにも何も考えていないのに「俺が何とかする!」とでも言いそうな雰囲気で腰を上げるが、ミレディが重力魔法で体を地面にめり込ませて撃沈した。
入間が反応を示さないでいると、シアが入間に振り返る。だが、シアが口を開く前に、何を言う気か察したカムが叱責するようにシアの名前を強い口調で呼び止めた。
「シア!」
それにビクッ!と体を震わせるシア。
カム達は、入間に助けを求めるつもりはなかった。自分達のミスでまんまと敵の罠にはまり皇帝の目に止まってしまったことは自業自得と言える事態なのだ。ここで、入間の力を当てにして解決を委ねるようでは、以前と何も変わらない。
カムが言ったように、この戦いは兎人族が掲げることが出来るようになった矜持を貫くための戦いなのである。
そして、シアもまたそれは理解していた。ただ逃げるだけしか出来なかったのは自分も同じであり、今は、バビルの一員としての矜持がある。だが、余りに分の悪い賭けを行おうとしている家族に心は否応なく痛む。
結局、シアは何も言えず口をつぐんだ。
入間は、溜息を吐きながら頭をカリカリと掻くとチラリとユエを見た。そして、想像通り、そこには自分を見つめて何もかも分かっているというように目元を和らげて頷くユエの姿があった。
入間は、それに小さく笑みを浮かべながら、俯くシアに声をかける。
「シア」
「入間さん……」
シアの瞳に、僅かばかり期待の色が宿る。
「兎人族の問題に、僕が干渉することはない」
「っ……そう、ですよね」
しかし、続く入間の言葉に泣き笑いのような表情をして再び俯いてしまった。
背後で光輝が何かを喚こうとして、アメリに腹パンされて気絶したのを尻目に、入間は早とちりをして沈むシアのほっぺを、苦笑いしながらムニムニした。
「早とちりしないで。兎人族の問題には干渉しないけど、戦わないとは言ってないでしょ?」
「ふぇ?」
入間の言葉に、シアがほっぺをみょ~んと伸ばされながら間抜けな声を出す。カム達も入間の言葉の意味を図りかねたように困惑した表情で顔を見合わせている。
「兎人族と皇帝との敵対は、兎人族の問題。つまり、今回はハウリア族が強さを示さなきゃならない。容易ならざる相手はハウリア族なのだと思わせなきゃならない。この世界において亜人差別が常識である以上、僕が戦って守っても、僕がいなくなった後に同じことが起きるだけだからな。何より、カム達の意志がある。だから、僕は帝国の問題には関わるつもりはない」
入間はそこで、シアの頬を撫でるとカムに視線を向ける。
「だけど、帝城にいるバダンを野放しにするつもりもないし……僕達バビルのムードメーカーがこんな顔しているのを、黙って引き下がると思ったら大間違いだよ?」
「し、しかし、陛下……なら、一体……」
困惑を深めるカム達に、入間は懐から取り出したアイテム……ガシャットをカムに投げ渡した。パシッとそれを受けとるカムを見て、入間は不適な笑みを浮かべながら宣言する。
「シアを泣かせるようなちゃちな作戦なんて全て却下。ハウリアは直接、皇帝の一族を根絶やしにすればいい。そしてハウリアこそが頂点に立ち、兎人族の未来を決めればいい。丁度、
チラリと、入間はバビルの旅に同行するメンバーに目を向けた。その人物は、入間の視線に気付いて「え"っ?」と頬をひきつらせるが、入間はサラッと無視して、再びハウリアに向き直る。
「帝国が強さを至上とするなら、交渉なんて消極的な手段は必要ない。一切の情け容赦無く、一木一草尽く、邪魔するものは、例え皇族だろうとバダンだろうと討ち滅ぼし、ハウリアの強さを帝国に刻み付けてやれ!自分達が支配する側だと思い上がった人間族に、絶望と殺戮の歴史を刻み込め!!」
辺りに静寂が満ちる。誰もが、入間の気勢に呑まれて硬直している。ゴクリッと生唾を飲み込む音がやけに明瞭に響いた。
入間は、周囲を睥睨しながら、スッーと息を吸うと雷でも落ちたのかと錯覚するような怒声を上げた。
「貴様等は何者だ!!」
『『『ッ!?と、兎人族最強、ハウリア族であります!!』』』
「声が小さい!!最強を名乗るなら発声だけで相手を怯えさせてみろ!!もう一度聞く!貴様等は何者だ!!」
『『『兎人族最強、ハウリア族であります!!』』』
「最強を名乗るなら、飛びっきりアブノーマルに行け!お前達の強さを、殺意を、帝国に知らしめ、兎人族の未来を変えて見せろ!!この
『『『イエッサッ!!!』』』
「宜しい!気合を入れていけ!新生ハウリア族、百二十二名で……」
『『『……』』』
「帝国を地獄に落とすぞ!!!」
『『『『『『ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!』』』』』』
膳立てをするとは何をする気なのか、帝城を落とすなどそれこそ不可能ではないのか、そんな疑問は熱狂するハウリア達の頭からはすっかり吹き飛んでいた。
自分達が王と崇める人物が、扉の鍵は開けてくれるというのだ。ならば、その先で待っている障碍くらい斬り裂けなくては、新生ハウリア族の名折れである。鍛えてくれた入間にも顔向け出来ない。故に、ハウリア達の心は一つとなって、帝城落としへの闘志で燃え上がっていた。
帝都から離れた岩石地帯に、闘志と殺意の雄叫びが響き渡る。
「……うぅ~、シズシズ、あの人達こわいよぉ~」
「大丈夫よ、鈴。私も怖いから……ていうか鈴木君の発想とノリも十分怖いけど」
「す、鈴木君は、普段は落ち着いている筈なんですけど……」
「ノリノリだったわね……。っていうか、鈴木はホントにあの人達に何したのよ……」
愛子達が、それぞれ唖然とした表情で異様な熱気に包まれるハウリア達の様子を眺めていた。
「アズアズ~、イルマちカッコいいね~!」
「当然だ!あの姿こそまさに、イルマ様の王の風格!このアスモデウス、感激で涙が止まりません!!」
「イルマ先輩、カッコいい……」
「う、うむ……(あれは、まさかとは思うが私のマネか?)」
「う~む、すごいのぉ~。兎人族がここまで変わるとは。流石、ご主人様じゃ。あっさり帝国潰しを目的にしよるし。堪らんのぉ~。あんな気勢で罵られてみたいものじゃ」
「……黙れ、変態ドラゴン」
「っ!?ハァハァ」
「ティオちゃん、ちょっと自重しようよ?それより、シアちゃんの表情見てよ、ユエちゃん。デロッデロに蕩けてるよ」
「……ん、可愛い。シアが泣かないためだから……嬉しくて当たり前」
「だよね~。イルくんってさ、天然の女たらしだよね~」
ユエ達の方は、一人の変態を除いて、蕩けた表情で入間を見つめるシアについて語り合っていた。
ユエは、最初からこうなると分かっていたのか、シアから暗さが払拭されたのを見て嬉しそうに目元を和らげ、ミレディの方は安心したような表情をしながらも、シアを羨ましげに眺めていた。
その後、帝城落としの詳細を詰めた入間達は、その時に備えて各々休むことになった。
シアは、しばらくの間、入間の傍を離れたがらなかった。いつもの元気の良さは鳴りを潜め、しかし、決して暗く沈んでいるわけではなく、頬を薔薇色に染めてしずしずと入間の服の裾を掴んだまま寄り添うのだ。
ウサミミが時折、ちょこちょこと入間に触れては離れてを繰り返す。
その様は、ただただ、傍で入間を感じていたいという気持ちをあらわしているようだった。
カムのライダー化は前々から決めていました。なんのライダーか、読者の皆さんは分かりますよね?
キーワードは……『父親』です。
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