悪魔の孫は時の王者となって世界最強   作:MTHR

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入間「強大なエネルギーを秘めた神代魔法を手に入れるため、仮面ライダージオウの鈴木入間は仲間達と友に旅を続けていた。帝城に捕まったところを入間達によって救出されたカム達は、帝国に戦争を仕掛ける事を告げる。入間は、シアの笑顔のため、ハウリア達の援護に徹する事を決意するのだった」

優花「ねぇ、鈴木。アンタ私達にガイアメモリとかロストドライバーとか、色々なもの渡してくれるじゃない?」

入間「それが?」

優花「いや、どうやって用意してるのかなって……それも神代魔法の力なの?」

入間「違うよ。それはギュイーンってやってからズガガガガー!ってやってるんだよ」

優花「擬音ばっかりじゃない!!」

シア「というか、父様は何の仮面ライダーになるんですか?」

入間「まぁ、それは第88話で発表しますか」


88話 Rabbit warriorの覚悟!

 一夜明けて、東の空が白み始める少し前、岩場に腰掛けた二つの人影があった。少し早く目が覚めた入間とユエである。

 ちなみに、岩場に座っているのは入間だけで、ユエは入間の膝に上に横抱きで座っている。

 見張り役以外の皆が寝静まり、場所も死角になっているので、二人は久しぶりに二人っきりでの静かな時間を満喫していた。

 

 と、その時、入間の肩口に頭を預けていたユエがおもむろに顔を上げ、前触れ無く入間の首筋にキスをした。チュッという可愛らしい音が、朝の静寂を僅かに揺らす。

 

「……どうしたの、いきなり?」

「ん……昨夜のこと思い出して何となく」

 

 ユエの言う昨夜のことと言えば、帝城落としの話のことだろう。だが、それが何故、キスにつながるのか分からず、自分を優しげに見つめるユエを見つめ返しながら、入間は首を傾げた。

 

「……迷宮より、シアの“大切”を優先した。シアを大切にしてくれて嬉しい。入間に“大切”が増えて嬉しい。いっぱい嬉しくて……キスしたくなる」

 

 ユエはそう言うと、今度は頬にキスを落とした。

 

「……シア達も“特別”になった?」

「愛人を娶ることを押してくる恋人って……まぁ、皆の存在が僕の中で大きくなってるのは認めるけど……僕の一番はユエだよ」

「……むぅ、皆ならいいのに……でも、嬉しいから困る」

 

 困ったような嬉しいような微妙な表情をするユエ。

 ユエの中では、奈落から出てから出会い、苦楽を共にし、時に入間の特別の座を巡って競いあっていたバビルの仲間達は、なんだかんだでとても大きな存在となっている。

 それこそ、半年以上の時間を掛けてようやく手に入れた“特別”の座をシェアしてもいいと思えるくらいに。だから、一途な入間の言葉に心の内を歓喜で満たしながらも、その頑固振りに困った表情になってしまう。

 

 そんなユエの様子に、実は自分の中で大切な存在──アメリ、シア、ミレディ、ティオが相手では落とされないと言う自信がない入間は、最愛の恋人から他の女を特別にしても良いと言われることに苦笑いする。しかし、14年の人間界生活で一夫多妻に抵抗があるのも事実なので、取り敢えず、そんな本心を誤魔化す意味合いを込めてユエの唇を奪おうとした時──冷気がユエを襲った。

 

「……いいところだったのに」

「え!?」

 

 ユエと入間が視線を向けると、そこには小柄な少女──クロケル・チマの姿があった。チマの足元を中心に地面が凍りついており、どうやら彼女の魔術で作られたものらしい。

 

「ち、チマちゃん?一体何を……」

 

 入間が新メンバーの突然の行動に目を丸くする。

 すると、チマはツカツカと靴音を鳴らしながら、引き離された入間とユエの間に割り込むと、チマはユエに向かい合った。

 

「チマちゃ……」

「イルマ先輩。貴方に一つお伝えしたい事があるのですが、その前にユエさんにも言わなければならない事があるので、しばらく待っていてください」

「あっ、はい」

 

 こちらを振り向かないチマの迫力に気圧され、入間はずこずこと引き下がる。今や生身でも大迷宮のヒュドラさえ凌駕する力を持つ入間でも、何故か今のチマには勝てる気がしなかった。

 チマは、ユエの前に立つ。

 

「…ユエさん。私は貴方に言いたいことがあります」

「……」

 

 チマは、ユエをビシッと指差しながら、口を開く。

 

「私は、貴方には負けません」

 

 氷のような水色の瞳に強い意思を宿した炎を燃やしてユエを見据えるチマに、ユエは真っ直ぐにチマの瞳を見た後に、フッと笑った。その表情は、「受けて立つ」という彼女の言葉を明確に表していた。

 

 宣戦布告を受け取ってもらえた事を確認したチマは踵を返してスタスタと歩きだし、突然の事態に目をパチクリさせていた入間に向き合った。

 

「……イルマ先輩ッ」

「?」

「私、これから頑張ります!大迷宮も攻略して、バダンも倒すために……そして、私の野望を叶えます!」

「野望?」

 

 なんの事だと首をかしげる入間。

 

「例え貴方に付き合っている人がいても……負けません!貴方の隣に立つために……貴方の“一番”になるために……」

 

 チマはかつて悪魔学校に入学したばかりの時のように、入間の手を小さな手で握り締めると、幼いその見た目に不相応な妖艶な笑みを浮かべ、顔をリンゴのように真っ赤に染めながら、再び口を開いた。

 

「イルマ先輩のことが……大好きだから……!」

「…………はっ!?」

 

 チマの突然の告白に、入間は目を丸くしてすっとんきょうな声を上げた。

 当然だろう。入間は今まで、チマを可愛い後輩としか認識しておらず、まさか自分に好意を寄せているとは思いもよらなかった。しかし、魔界にいた頃と違い恋愛経験(ユエ限定)を重ねてきた入間は魔界にいた頃のチマの事を振り替えると、確かに色々な場所でチマがアプローチしていたことにようやく気付くことが出来た。

 

「ち、チマちゃん?気持ちは嬉しいんだけど……僕にはユエって言う恋人が……」

「それでも、イルマ先輩の“特別”になれない訳でも、イルマ先輩の“一番”がこれから先ユエさんだけとは限りません」

 

 入間の言葉をピシャリと遮る。

 その目には、どんな障害があろうと、決して自分のみつけた野望を諦めないと言う破れぬ誓いにも似た感情を宿した目だ。

 

 その瞳を見たユエは、珍しい事に口元を誰が見ても分かるくらい歪めて不敵な笑みを浮かべると、入間の右腕を抱き締めながらチマに口を開いた。

 

「……なら付いて来るといい、そして見極めて上げる。貴方が入間の“特別”に相応しいかどうか……」

 

 それを見たチマはムッと頬を膨らませると、入間の左腕に抱き付き、右腕に抱き付きながら顔を除かせるユエをキッと睨み返した。

 

「必要ありません!貴方から“一番”の座を奪えばいいだけですから!私は絶対に!イルマ先輩のお嫁になります!!」

「フフフ……その挑戦、受けて立つ」

 

 二人は互いに不適な笑みを浮かべながら、視線でバチバチッと火花が散っており、ユエの背後には雷龍が、チマの背後に氷山が現れた。

 

「……もう好きにして」

 

 告白された張本人なのに蚊帳の外された入間は、非常に疲れたような表情で呟いた。

 恋人には多妻を勧められ、アメリだけでなくチマにまで告白された事に、入間はトータスに来てから(不本意だが香織を含めて)女難の相が強く出てきている事を今更ながらに実感し、深い…それは深いため息を吐いた。尤も、入間が気付いていないだけで、魔界にいた頃からその傾向はあったのだが。

 

 その後、朝日も上ってきたことで入間達は起き上がった仲間達のもとへ戻っていったのだが、ユエとチマに両腕に抱き付かれたままだった為、シア達が「自分達も!!」と言うように入間に飛びかかり、愛子と優花にはジト目を向けられた。

 

 東の空に上がる朝日は、新生ハウリア族の戦いの狼煙と同じなのだが……何とも締まらない始まりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帝都は、昨晩の件でどこもかしこも大騒ぎだった。

 曰く、仮面を着けた者達や魔物は魔人族の精鋭部隊なのだとか、姿を消したハウリア達の事から、兎人族のバックにいるのは魔人族なのだとか、大体のことが魔人族のせいなのだとほぼ決めつけられていた。

 

「まぁ、僕達にとっては都合がいいんだけどね」

 

 ヘルシャー帝国の飲食店にやって来たバビルは、オープンテラスに座り、気だるげな店員から給仕された料理を口に運びながらその噂を聞いて、意図せずに自分達の仕業だと言う証拠がでなかった事に苦笑した。

 再び帝都にやって来たのは、新たにチマを加えたバビルの9人と光輝達勇者パーティー、そして愛子と優花だ。リリアーナや淳史達は、ハウリアと共に待機を命じている。

 

「それで、鈴木君。今日はどうして、再び帝都に来たんですか?」

 

 愛子がおずおずと尋ねる。帝城にはバダンの刺客がいることは間違いないために潜入するわけには行かないのは分かるが、なら何故帝都に足を運んだのかが分からない。

 

「……今日はただの仕込みですよ」

「仕込み、とは?」

 

 怪しげな笑みを浮かべる入間に、愛子や光輝達は何故か肌寒いものを感じていると、入間は「丁度来たみたい」と呟き、ある場所に視線を向けた。

 

 愛子達も釣られてその視線を追うと、そこには、あちこちにある路地裏から、緑・茶色・赤の配色の頭部に緑と赤の腕を持ち、二輪のローラーに細か長い顔を持つ何かだった。

 そのなぞの物体が飛び出すと、それは途端に変形を始め、それはハンバーガーのような形状になって入間の手に収まった。

 

「す、鈴木君。それは……」

「“バガミール”、気配遮断機能を付け加えた特別製です。魔力紙兵隊じゃあ欲しい情報を正確に得られなかったので」

 

 フードロイドを片付けると、バガミールからス魔ホに転送された情報を確認した入間は新たに“変身音叉・音角”と、五枚の銀色のディスクを取り出した。

 

 愛子達が首をかしげている中、入間は音角の折り畳まれた音叉部分を展開すると、テーブルの角で音叉を軽く叩いた。キィィーン……と耳に心地の良い音と共に、その円盤──“ディスクアニマル”が、茜色・瑠璃色・緑色・黄色・鈍色に変化したかと思うと、鷹型の“茜鷹”、狼型の“瑠璃狼”、猿型の“緑大猿(りょくおおざる)”、蟹型の“黄蘗蟹(きはだがに)”、蛇型の“鈍色蛇(にびいろへび)”に変化し、入間の横に出現させた小型のオーロラカーテンに飛び込んでいった。光輝達はディスクが動物型に変形して自立移動することに驚くも、入間が非常識なのは今更だと疲れたような表情をする。

 

「……これで良し。後は作業が終わるのを待てば、今夜辺りには始められるね」

 

 入間はオーロラの向こうに消えていったディスクアニマルを見届けると、フフッと笑みを浮かべた。何故か、その笑みに肌寒いものを感じる愛子達。

 

「なぁ、鈴木……帝城にバダンがいるのに、やっぱりシアさんの家族に任せておいて良いのか?」

 

 光輝がおずおずと尋ねる。

 

「言ったでしょ?今回の主役はカム達ハウリア族であって、僕達はあくまでも裏方に徹するって。それに、バダンを打ち倒せば、帝国により確実に強さを示せるし、これから先、バダンが亜人を狙わない可能性はゼロじゃないから、経験を積ませておいた方がいい」

「でも、仮面ライダーの力を渡されたとは言え、父様達が勝てるんでしょうか……?」

「……正直、博打だよ。カムに渡した“あの力”……仮面ライダーの力は総じて強いけど、その分使い手のスペックが物を言う物だからね。エボルトを相手に通用するかどうか……」

 

 どんな業物も、使い手が未熟であればそれは(なまくら)に変わる。

 それでも、雑魚怪人なら問題なかったが、相手は歴代最恐クラスのエボルトだ。ロストスマッシュの出現やアメリが遭遇したと言う話から、帝国にはエボルトが潜んでいることを看破している入間は、いざとなれば自分が戦うつもりだった。まぁ、戦うのは本当にカム達が諦めた時であり、四肢の一本か二本が千切れようとも構わないと考えていたりするが……

 

「それより、エボルトは間違いなくこのロストボトルを狙ってる。向こうがこっちになにかを仕掛けてきたとしてもおかしくない。本当に気を引き閉めなくちゃいけないのは、寧ろ僕達だよ」

 

 スタッグロストボトルとキャッスルロストボトルをテーブルの上に置きながらそう語る入間。地球の本棚でロストボトルの事を調べた時、入間は追加でエボルトの事も調べた結果、エボルトの矛先は自分に向いていると言うことを察していた入間は、こうして帝都をうろつく事でエボルトの意識をこちらにも向けておこうと考えていた。

 その時、不意に野太いのに乙女チックな声が入間達にかけられた。

 

「あらぁ~ん、そこにいるのは入間さんとユエお姉様とシアお姉様とアメリお姉様じゃないのぉ?」

 

 入間は、その声に正体不明の悪寒を感じて、咄嗟に身構えた。そして、入間達が振り向いた先にいたのは……

 

「なッ、なんでここに魔物が!?」

「だぁ~れがぁ、SAN値直葬間違いなしの名状し難い直視するのも忌避すべき化け物ですってぇ!?」

「ひぃッ!?」

 

 思わず叫んだ光輝にカッ!と見開いた眼を向ける筋肉マッチョだった。

 

 劇画のような濃ゆい顔に二メートル近くある身長と全身を覆う筋肉の鎧。なのに赤毛をツインテールにしていて可愛らしいリボンで纏めている挙句、服装がいわゆる浴衣ドレスだった。フリルがたくさんついている。とってもヒラヒラしている。極太の足が見事に露出している。

 

 一瞬、ブルックの町に巣食うクリスタベルという名の怪物かと思った入間だったが、どうやら別人のようだ。奴が擬態能力でも持っていない限りは……

 

「久しぶりねん?変わらないようで嬉しいわん」

「……いや、誰ですか、貴方。クリスタベルさんの知り合いですか?」

 

 ウインクする漢女に、入間が警戒心もあらわに尋ねる。ブルックの町を出る際にクリスタベルに襲われたのは軽くトラウマなのだ。

 近くでその異様を目の当たりにした愛子や優花、雫や鈴も思わず頬を引き攣らせながら、さりげなく入間、アスモデウス、光輝を盾にするような位置に下がる。

 

「あら、私としたことが挨拶もせずに……この姿じゃわからないわよねん?以前、ユエお姉様に告白して、文字通り玉砕した男なのだけど……覚えているかしらん?」

「……あ。ホントに?」

「そう言えばいましたね、そんな人が」

「いや、変わりすぎだろう。何をどうしたらあぁなるのだ」

 

 ユエ、シア、アメリに心当たりがあるらしく、驚いた表情で巨大な漢女を仰ぎ見た。三人が思い出したことに嬉しそうに笑う漢女。

 

 自己紹介によれば、ブルックの町でユエに告白したがあっさり振られ、強硬手段に出たところで股間をスマッシュされた元冒険者の男らしく、今は、クリスタベルの元で漢女の何たるかを学んでいるそうだ。

 ちなみに、名前はマリアベル(クリスタベル命名)らしい。

 因みにマリアベルは元々平均的な中肉中背の男だったのだが、それが僅か数ヶ月でこの急成長……クリスタベルの育成方法は、それ自体化け物レベルらしい。

 

 一般男性をこのような化け物に変える切っ掛けを作ったユエに、王都に聞こえていた“股間スマッシャー”の二つ名は伊達ではないと、光輝は戦慄しながらユエにだけは逆らわないでおこうと固く誓うのだった。若干、テーブルの下で内股になりながら。

 

「あの時は、本当に愚かだったわん。ごめんなさいね?ユエお姉様……」

「……ん、立派になった。新しい人生、謳歌するといい」

「うふふ、お姉様ならそう言ってくれると思っていたわん」

「しかし、何故お前がここにいるのだ?」

「今、店長が店舗拡大を考えているのよねん。それと、出稼ぎの目的もあるのよん」

 

 クリスタベルの人柄の良さを知っているためか、他の面々と比べて耐性のあるアメリが尋ねると、マリアベルは複雑そうな顔で話し始めた。

 

 曰く、ある日突然ハイリヒ王国との交流が途絶え、調査に赴いた結果、ハイリヒ王国と聖教教会が見るも無惨な姿に変わり果て、生存者が一人もいないと言うことが判明してからあちこちで混乱が起きているらしい。

 当然だろう。人間族の中心とも言えるハイリヒ王国と、トータス全体にエヒト神の教えを浸透している聖教教会がたった一日で滅ぼされたと言う事実に加え、世界の救世主として異世界から召喚された“神の使徒”が消息不明となったという事実は、これから人間族の未来には絶望しかないのかと人々に深い恐怖を浸透させた。帝国には勇者である光輝が彷徨いていたが、インターネットなどないこの世界ではその情報が伝達する筈もなく、また“勇者”の名前は高名だが容姿は差程広まっていないためだろう。

 また、ハイリヒ王国の滅亡により、ハイリヒ王国に籍を置いていた各町の経済やギルドへの支援金や物流にも少しずつ影響が出始めており、まだ日が浅いために明確な影響は出ていないが、早いうちに対策を立てないといけないのだ。

 

 話を聞き終え、俺が勇者だと言おうと腰を上げようとした光輝の頭を入間がドンカチで殴って沈めた。エボルトの目をそらすために帝国を彷徨くつもりとは言え、大騒ぎを起こすつもりはないのだ。

 

「成る程な……大変なようだな」

「そうなのよん。昨日の魔物の騒ぎもそうだけど、魔人族の勢いは活性化しているみたいなのよん。ユエお姉様達も、気を付けてねん」

「……ん。マリアベルも気を付けて」

 

 そう言って去っていくマリアベル。入間はチラリとマリアベルの背中を一瞥した後、何事もなかったかのように食事を再開させる。何かをする気は無さそうである。

 それに、光輝が行き場のない感情を吐き出すように突っかかった。

 

「おい!鈴木!お前は、さっきの話を聞いて何とも思わないのか!」

「じゃあ何をするの?マリアベル達がいる町の件は力で解決する問題じゃない。ブルックを含めた町を救うには、半永久的に経済を安定させるだけの莫大な資金と、物流を円滑にさせる策が必要なんだよ?君は何か一つでも具体的な策を考えてるの?」

「ぐっ、だが……」

「救うって口にするのは簡単だけど、もう少し考えて発言した方がいいよ。君の株が下がるだけだから」

 

 そう言った入間は食事を終えると席を立ち、代金を払ってから店を後にする。既に食事を終えていたユエ達も躊躇いなく後を追っていった。

 雫達に眺められていふ光輝にキッ睨むような視線をまるっと無視しつつ、空を見上げた。雲一つない快晴を仰ぎ見ながら、入間は呟いた。

 

「今夜は騒がしくなりそうだね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 三十人くらいは座れる縦長のテーブルが置かれた、ほとんど装飾のない簡素な部屋のテーブルの上座の位置に、一人の男と、一人の仮面の戦士が佇んでいた。

 

「……エボルト。貴様、どういうつもりだ?この様な国で皇帝に成り済ますなど……」

 

 先に口を開いたのは、銀色の鎧を纏う戦士──シャドームーン。

 彼の緑色の複眼の先には、ヘルシャー帝国皇帝ガハルド・D・ヘルシャーの姿があった。すると、ガハルドの瞳が紅く発光したかと思うと、口を開いた。

 

『…俺はゲームメーカーだ。あらゆる状況を鑑みて、最高の戦術を考える……全ては、計画通りだ』

 

 ガハルド──いや、ガハルドに化けたエボルトは、八本のブラックロストボトルが嵌められた黒いパネル──“パンドラパネル”を手にしながら答えた。

 

「ロストボトルとパンドラパネルか……その為に滅ぼす予定だったこの国を延命させたのか?」

『お前らが送ったカニを始末したのは俺じゃない。想定外の伏兵がいたが、結果オーライだ。ロストボトルが10本完成した以上、もうこの国に用はない。お前らが望んでいた通り、今夜辺りには軍を送るつもりだ』

 

 テーブルの上に寝転がり、適当そうに答えるエボルトを見つめていあシャドームーンは、やがてエボルトから視線をそらしてから歩き出すと、眼前にオーロラカーテンを出現させる。

 そのオーロラを潜り抜けようとするシャドームーンだったが、その直前で立ち止まり、

 

「…もう一つ聞こう。お前は、ミッドチルダという世界に入り浸っているという報告を聞いた……」

『お前らだって、侵攻をしているのはこの世界だけじゃないだろう?』

「……」

 

 エボルトの言葉に、シャドームーンは無言を貫くと、再び歩き出してオーロラカーテンを潜り抜けていった。

 

『クールだねぇ……まぁいい。この国の終わりと共に、ロストボトルを頂くか……』

 

 そう言ったエボルトの体から、紅いスライムのような液体が分泌され、その液体は、まるで意思を持ったように何処かへと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 日がすっかり落ち、辺りが暗闇で覆われた帝城の一角。地下牢がある建物の外周を二人の帝国兵が警備のため決められたルートを巡回していた。その手には魔法的な火が燃え盛る松明のようなものが持たれており、不埒な侵入者の味方をする夜闇を懸命に払っている。

 

「あ~、こんなとこで意味のねぇ巡回なんかしてないで女抱きてぇ~。兎人族の女がいいなぁ~」

「お前、兎人族の女、好きだなぁ。亜人族の女は皆いい体してっけど、お前、娼館行っても兎人族ばっかだもんな」

「そりゃあ、あいつらが一番いたぶりがいあるからな。いい声で泣くんだよ」

「趣味わりぃな……」

「何言ってんだよ。兎人族って、ほら、イジメてくださいオーラが出てるだろ?俺はそれを叶えてやってんの。お前だって、何人も使い潰してんだろ」

「しょうがねぇだろ?いい声で泣くんだから」

 

 二人の巡回兵は、顔を見合わせると何が面白いのか下品な笑い声を上げた。

 帝国において、亜人は所詮道具と変わらない。ストレスや性欲を発散するための、いくらでも替えの利く道具なのだ。故に、この二人が嗜虐的な性格なのではなく、亜人を辱め弄ぶのは帝国兵全体に蔓延している常識と言ってよかった。

 と、その時、片割れの兵士が建物の影に何かを見たのか警戒したような表情になって声を上げた。

 

「ん?……おい、今、何か……」

「あ?どうした?」

 

 歩み寄りながら松明を前に突き出し、建物の影を照らしだそうとする兵士。疑問の声を上げながらもう一人も追随する。

 先行していた兵士は「誰かいるのか?」と誰何しながら、ちょうど人一人がギリギリ通れる程度の建物と建物の隙間にバッ!と松明の火を向けた。

 

 しかし、その先に人影はなく「見間違いだったか……」と呟きながら安堵の吐息を漏らす。そうして、苦笑いしながら相棒を振り返った兵士だったが……

 

「悪い、見間違い……?おい、マウル?どこだ?マウル?」

 

 そこに相棒の姿はなく、足元に彼が持っていたはずの松明だけが残されていた。どこに行ったんだと、キョロキョロと辺りを見渡す兵士だったが、周囲に人影はない。彼の背筋に冷たいものが流れる。

 湧き上がる恐怖心を押し殺して、兵士は、咄嗟に落ちている松明を拾いながら、相棒に少し緊張感の宿った呼び声をかけようとして……

 

「おい、マウル。悪ふざけならッんぐっ!?」

 

 その瞬間、誰もいなかったはずの建物の隙間からスッと二本の腕が音もなく伸びた。

 闇の中から直接生えてきたかのような腕の一本には灰緑色のナイフが握られており、片手が兵士の口もと塞ぐと同時に、一瞬で延髄に深く突き立てられる。

 

 一瞬、ビクンと痙攣したあとグッタリと力を抜いた兵士は、そのまま二本の腕に引きずられて闇の中へと消えていった。

 そして、いつの間にか、彼が拾おうとしていた松明も消え去り、後には何も残らず、ただ生温い夜風だけがゆるゆると吹き抜けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 闇の中、風に紛れそうなほど小さな囁き声がする。

 

「HQ、こちらアルファ。Cポイント制圧完了」

『アルファ、こちらHQ。了解。E2ポイントへ向かえ。歩哨四人。東より回りこめ』

「HQ、こちらアルファ。了解」

 

 そんな囁きのあと、全身黒ずくめの衣装に身を包んだ複数の人影が足音一つ立てず移動を開始する。

 

 顔面まで黒い布できっちり隠しているが、目の部分だけは視界確保のために空いており、そこから鋭い眼光が覗いていて、さらに背中には小太刀が二本括りつけられている。

 日本人がその姿を見たのなら間違いなく忍者と言いそうな格好だ。

 だが、個人の特定は出来なくとも、残念なことにその正体までは全く忍べていなかった。なぜなら、覆面の頭上からはニョッキリとウサミミが生えていたからだ。どこからどう見ても兎人族であり、ハウリア族であった。

 

 彼等は、闇に紛れて建物の影に身を潜める。そこからそっと顔を覗かせれば、報告通り四人の歩哨が二組に分かれて互いに目視できる位置に佇んでいた。先程通信していたハウリア族の一人が背後に控える三人にハンドシグナルを送る。

 

 それに頷いた三人はスッと後ろに下がると、まるで溶け込むように夜の闇へと姿を消した。

 

 待つこと数秒。指示した場所から、歩哨の視線が逸れた隙にチカッ!と光が瞬く。同じく、歩哨の視界に入らないように考慮して、ハウリアの一人がライターサイズの容器の蓋を一瞬だけ開けた。これは、中に緑光石が仕込まれた簡易の懐中電灯のようなものだ。

 合図を送ったハウリアは背後の二人を振り返るとハンドシグナルで指示を出しながら動き出した。

 

 二組の歩哨が互いの姿を視界の外に置いた瞬間、気配を極限まで薄くして一気に接近し、一人が兵士の口と鼻を片手で覆いながら延髄を一突き、もう一人も同じく片手で拘束しながら別の兵士の腎臓を突き刺し組み倒す。

 最後の一人は、歩哨が手放した松明を落ちる前にキャッチして火を消し、その他の痕跡が残っていないか確認する。そして、一気に建物の影に引きずっていった。

 

 しかし、流石に無音とはいかずもう一組の歩哨が「ん?」と視線を向けた。

 

 その視線の先に先程までいた仲間の姿はない。松明の光もなく暗闇が存在するだけだ。「あいつらどこに行ったんだ?」と、訝しみながら目を凝らす歩哨は、闇の中で微かに動く人影を捉えた。何か大きなものを引き摺る姿だ。

 「何かヤバイ!」と、歩哨は、咄嗟に首元に下げた警笛を吹き鳴らそうと手を伸ばすが……

 

 次の瞬間、その歩哨の首にナイフが突き立てられ、悲鳴を上げることも苦痛を感じる暇もなく、その意識を永遠の闇に沈めることになった。

 警笛を握った歩哨の隣では、やはり相方の歩哨も同じようにナイフを突き立てられて絶命している。同時に、松明の火が消されて建物の影に引き摺られていった。

 

 現在、帝城の至るところで同じような殺戮が行われていた。

 既に、複数の詰所に控えていた多くの兵士達が胴体と永遠のお別れを済ました後であり、兵舎で就寝中の兵士達は樹海製の眠り薬によって普段とは比べ物にならないほど深い眠りにつかされていた。警報が鳴ったとしても、朝までぐっすり眠り、普段の疲れを存分に癒すことだろう。

 

 

 

 

 

 

──HQ、こちらアルファ。H4ポイント制圧完了

──HQ、こちらブラボー。全Jポイント制圧完了

──HQ、こちらチャーリー。全兵舎への睡眠薬散布完了

──HQ、こちらエコー。皇子、皇太孫並びに皇女二名確保

 

 帝都の中で別れて行動していた入間達は、深夜の町の煩さと共に、念話石から送られるハウリアの通信を耳にしていた。

 

「ねぇねぇアズアズ、シズりん達置いてきて良かったの?」

「構わん。というより、お前はそっちに行くな!!」

 

──HQ、こちらデルタ。全ポイント爆破準備完了

──HQ、こちらインディア。Mポイント制圧完了

 

 娼館が並ぶ区画にやって来たクララがナイスバディのお姉さんに着いていそうになったのを、アスモデウスが服の襟を掴んで止めつつ、その道の奥へと進んでいく。

 

「ほ、本当に私もやるのですか?」

「リリアーナさん、ここは頑張るしか……」

「だ、大丈夫よ!いざとなったら私が守るから!」

 

──HQ、こちらロメオ。Pポイント制圧完了

──HQ、こちらタンゴ。Rポイント制圧完了

 

 メインストリートで、フードをすっぽりと被って顔を隠したリリアーナ、愛子、優花が話し合いをしながら立っている。その姿はまるで、何かを警戒しているようだった。

 

「イルマ先輩と一緒が良かったのに……」

「まぁ、シアの事もあるのだから、今回は多目にみてやれ」

「今回はシアちゃんの家族の大勝負だからね~。シアちゃんも気が気じゃないってことだね」

「まぁ、折角今朝ご主人様に想いを伝えたというのに、直ぐに意識が別の事に持っていかれるのは些か不憫とも言えるがのぅ」

 

──HQ、こちらヴィクター。Sポイント制圧完了

──HQ、こちらイクスレイ。Yポイント制圧完了

 

 チマが世話になっていた宿屋の付近で、アメリ、チマ、ミレディ、ティオが談笑するように話し合いながら、周囲への警戒を解かないまま歩いていく。彼女達の容姿に引かれて群がる男は、全てチマの氷塊で地に沈んだ。

 

──HQ、こちらズールー。Zポイント制圧完了

──全隊へ通達。こちらHQ、全ての配置が完了した。カウントダウンを開始します。

 

 一際高い建物の屋上で待機し、通信を聞いているシアの表情が僅かに強ばった。隣に立つユエが、優しくシアの手を握る。

 同時に、入間は空間の歪みを感じてある地点に視線を向け、「やっぱり来たか…」と呟く。

 

──全隊へ。こちらアルファワン。これより我等は、数百年に及ぶ迫害に終止符を打ち、この世界の歴史に名を刻む。恐怖の代名詞となる名だ。この場所は運命の交差点。地獄へ落ちるか未来へ進むか、全てはこの一戦にかかっている。遠慮容赦は一切無用。さぁ、最弱の爪牙がどれほどのものか見せてやろう

──十、九、八……

──陛下。この戦場へ導いて下さったこと、感謝します

 

 カムから、自分に向けられた通信を耳にした入間は、フッと笑った後、入間は夜空を見上げて、カムに念話を飛ばした。

 

「ここから先は君達のステージ……僕達はあくまで裏方だ。でも、最後に一つだけ約束してよ……シアの笑顔の為に、そして君たちの最良の未来の為に、必ず生きて帰ってこい」

 

──……御意ッ!

 

──四、三、二、一……

 

 入間達と、惑星の破壊者の根城に蔓延るウサギ達にだけ響く運命のカウントダウン。

 

──気合を入れろ! ゆくぞ!!!

──「「「「「「「「「「おうっ!!!」」」」」」」」」」

 

 帝城の闇に隠れ、カムの言葉に答えたハウリア達は、一斉に行動を開始し、腰に巻いたベルとを操作した。

 

 

complete

 

 

マツボックリ!

 

マツボックリアームズッ!

 

一撃・インザシャドウ!!

 

 

ヒット! オーソライズ!

 

シンクネットライズ!

 

クラウディングホッパー!!

 

"An attack method using various group tactics."

 

 

スパイダートルーパー!

 

クワガタトルーパー!

 

Deal

 

Decide up!

 

Rise.(昇る)Rage.(怒り)Requiem.(悲しみ)

仮面ライダー!!

 

 

 ハウリア達は忍者の姿から、多種多様な容姿をした仮面の戦士──【ライオトルーパー】【黒影トルーパー】【仮面ライダーアバドン】【仮面ライダーデモンズトルーパーα】【仮面ライダーデモンズトルーパーβ】の姿へと変わる。

 そしてカムもまた、腰に“ゲーマドライバー”を巻き、ライダーガシャットを起動する。

 

 

ハリケーンニンジャ!

 

 

「変身」

 

 ガシャットを装填し、素早くレバーを開く。

 

 

ガシャット!ガッチャーン!

 

レベルアーップ!!

 

マキマキ!竜巻!ハリケーンニンジャッ!!

 

 

 エフェクトを潜り抜け、カムは変わる。

 白髪のレンジシヘアーに、深紺、オレンジ、白を基調としたボディを持ち、背中には二本の忍者刀を装備している戦士──仮面ライダー風魔へと。

 

 それが、開戦の合図だった。

 

──ゼロ。ご武運を

 

 瞬間、帝城から全ての光が消える。

 帝城でそれに気付いたガハルド(エボルト)は、目を紅く光らせて声を上げた。

 

『さぁ、始めようか……!』

 

 同時に、帝都の各所から、銀色のオーロラの出現と共に爆発が起こった。




 ……というわけで、カムが変身するのは仮面ライダー風魔でしたー!
 感想では『ガシャット』と『父親』のヒントから檀黎斗の父親であるクロノスが予想われていましたが、実は風魔の変身者である南雲影成も、星まどかという女の子の父親でしたので。

 ハウリアの量産型ライダー化は、割りと直前まで悩んでいましたが、相手はエボルトなので、思いきって変身させることにしました。

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