父父の名で帰ってきた   作:アママサ二次創作

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今考えた設定ですが、主人公(馬)の生まれた牧場のある街では、輓曳馬の力を借りて耕作をしているエリアがあります。


第14話

 育成牧場にやってきてから、夏を越え秋を越え。そうして冬が訪れて。この前鏡餅を見かけたので年を越したらしい。ということは俺は今2歳になった。

 

 九州の地では北海道と全く違って雪がほぼ降らないし、冬の寒さも全く違ったりするし、夏は比較にならないほど暑かった。人間だった頃の記憶は完全ではないが、その頃は九州に住んでいたのは覚えている。覚えているのだが、馬の体でそれに適応するのはまた別の話だった。馬って暑さに弱いんだな。

 

『ライトォ、お腹すいた……』

『えぇ……お前今昼飯食ったばっかだろ。草でも食ってろよ』

『足りないぃ……』

『ライト! 追いかけっこ!』

『お前はちょっとは休め!』

 

 はい。アフターザライト。何故か育成牧場にて、数頭の群れのボス馬になってしまいました。

 

 特に何をしたというわけでもない、はずだ。ただ、馬になってしまったし、馬の社会で生きてくしか無いだろうなと、それなりに周りの奴らに付き合って追いかけっこしたり、精神的に参ってそうな奴らの面倒を見てたらいつの間にか、という感じである。

 

 と言っても俺がここの育成牧場全体のボスになったようなことは全く無く、それぞれの群れにボス馬的なやつらがいて、そこでそれぞれに面倒を見たり勢力争いをやったりしている。

 

 そしてそのボス馬達も一目置く、というかシンプルに距離を置かれているのが俺だ。まあ仕方ないね。人間ソウルがあるせいで馬の中でも大人ぐらいの精神は普通にあるし、まだ精神的に幼い他の馬達は弟とか親戚の子供ぐらいのノリで対応してしまうのだ。ボス馬達からしたらたまったもんじゃないのだろう。ちょっと大人びた子供が本物の大人に子供扱いされて嫌がるのと同じ感じだ。

 

 そしてその中で、各群れから追い出されたりあぶれたり、後はよそのボス馬から押し付けられたりしたのが俺の周りに集まっている、というわけだ。

 

『お前ら……大人しくのんびりしてろ』

『『え~』』

 

 不満そうな奴らをよそに、その場に座り込む。俺は飯の後はゆっくりすると決めてんの。あまり積極的に面倒を見るつもりは無いものの、メンタル面のケアというか、そういう精神的な成長や体のバランスを整えることに関しては多少教えている。後は体を動かすのに付き合いつつ運動のコツを教えたりとかも。

 

 まあそれも運動をするときの話で、今はまずは休憩だ。 

 

 

 

 

 休憩が終わった後は、大抵のんびり歩き回っているか、あるいは。

 

『そーら足を回せー、どれだけ足を伸ばしたら一番走りやすいか考えろー』

『ライト、速い!』

『うおおおぉぉぉぉぉ!!』

『……』

 

 群れの子分達と放牧場を走り回っていたりする。ちなみに今俺の群れにいるのはこの3頭だけだが、同じ放牧場には他の馬もいる。そいつらが一緒に走ることもあるし、今回みたいに俺たちだけが走ってそいつらはのんびりしてることもある。

 

『うおおおおお!』

『おっ!』

『待ぁてええええ!』

 

 大体先頭でペースを作る走りをしているのが俺だが、それは俺が一番速いとかではなく、一番走ることに慣れているので先頭で適切なペースを保って後ろを引っ張れるからその位置になっているだけである。うちの群れのやつらは後ろから追うことが嫌いではないが、よその群れの先頭じゃないと我慢できないやつが来たときは譲ったりもしている。

 

 そして今、後ろの3頭がスピードを上げて、追い抜かんとばかりに迫ってきた。

 

『いいぞいいぞ……!』

 

 まあ簡単に抜かせてやるつもりは無いのだが。俺も足の回転を上げて、迫ってくる奴らをむしろ振り切りにかかる。それで簡単に振り切られてくれないから楽しい。

 

 そうやって、調教のことも考えて適度に疲れるまで走り回るのが、放牧時の俺の日課だ。

 

 

 

 

 午後、そして夕刻。本日分の調教はすでに終えてしまっているので放牧を終えた後は馬房に。ここに来てからしばらくの間は夜も放牧をされていたが、調教助手さんとかが乗っての調教をするようになってからは、疲労を考えてか夜は馬房に戻されるようになった。

 

 周りのやつらの様子を見るに、馬は野生動物という側面を持ち合わせているせいで、人間のように夜中ぶっ続けで寝るようなことはできないらしい。できないというか、すると落ち着かずに起きてしまうというか。母さんにはそんな話を聞かなかったので、同じ年の奴らに聞いたときは驚いた。

 

 そんな中俺は、割と朝まで爆睡だ。ここが野生ではなく守られた場所だということを理解できているし、何より薄れているとは言え馬生より人生が遥かに長い。むしろ夜中に起きると眠くて仕方が無かったりする。

 

 何より明日もまた、朝起きたら調教がある。それに備えてしっかりと寝ておかなければならない。

 

 

 

 これが、俺の育成牧場での1日だ。

 

 

 

 

******

 

 

 

 

 いつもどおりの育成牧場での1日を過ごしている。のだが。

 

 調教の途中に嬉しいものを見つけた。

 

「おーい、ライトー」

 

 調教が終わって馬房に戻るタイミングでそう呼びかけてくれた馬主様だ。

 

『ヒヒィィィィン!(馬主様! 久しぶりだな!)』

 

 ここに預けられて少ししてからだが、大体1月から2月に1回ほどのペースで会いに来てくれている。有名なプロスポーツ選手だとは言ってたが、今年で完全に引退したらしく割と時間を作れているらしい。

 

「おーしおしおし」

 

 馬房から頭を突き出すと、馬主様が受け入れて丁寧に撫でてくれた。スーツ姿だが、触れても気にせずに撫でてくれる。まあ俺はきれい好きだからスーツを汚すようなことは無いが。

 

「はっはっは、相変わらずオーナーに甘えてますな」

「私以外には甘えないんですか?」

「いやいや、私にも助手にも人懐こい馬ですよ。ですがそこまで甘えるのはオーナーだけ。わかってるんでしょうな。誰が主なのか」

「だったら嬉しいですね」

『ブルルルル(わかっとるに決まってるだろ)』

 

 馬は、馬主がいないとレースに出ることすらできないからなあ。それに、いくら安い馬だと言っても数百万はするだろうし、厩舎に預けるのも月何十万円もかかると聞いたことがある。それだけ出してもらっている上にこれだけ愛してもらってるのだから、返さないと嘘というものだ。

 

「調子も良さそうですね」

「はい。これなら、安心して厩舎にうつせます」

 

 え、俺厩舎に移動になるのか?

 

 浅い競馬知識だが、競走馬は生まれたらまず生まれた牧場で成長して、少し調教できるようになったら今いるような育成牧場に移って簡単な調教に慣れつつ体を成長させて、そして厩舎に移って本格的に調教を受けてレースに向けて準備する。

 

 俺は今その育成牧場の段階にいて、そしてこれから厩舎の方に移って本格的な調教を受けることになるらしい。

 

「調教がどんな感じか聞かせてもらっても大丈夫ですか?」

「もちろんです。ここでの調教では非常に従順です。こっちがやって欲しいことをわかってるんでしょうかね。馬具を嫌がることも全く無いですし、走らせてもしっかり学んでくれてます。走りの方も、逃げ以外は嫌がるとかそういう気性の荒さも特にありませんな」

「順調ってことですかね?」

「調教に関しては、そうですな」

 

 まあ、馬だけど人間の理性とか知識とかかなりの割合で入ってるからね。馬も、ちゃんと調教の意味を理解したらそこまで嫌がらんと思うんよ。いや、まあ気性の問題で嫌がるやつはいるけど、そういうのは人間で言うところのヤンキーとか暴走族みたいなもんだと俺は勝手に思ってる。

 

「調教以外では順調ではない、と」

「現段階での話ですが、馬体の成長が少し遅いかもしれません」

「筋肉とか骨格とかですか」

「そうです。まあ血統を見れば、父方も母方も晩成馬ばかりですからな。母父のナリタタイシンが唯一クラシックから活躍できたぐらいで。厩舎の方ではより一層調教していきますが、成長具合を見つつになるでしょう」

「ああ、まあそうですね。それは馬を見つつだと思うので」

 

 あ、やっぱりそうなのか。なんか自分の体が他の馬と比べて小さい気がしてたんだよな。この前までは余裕で引き離せてたあいつらにも割と迫られるようになってきたし。まあ放牧場だから調教ほど本気で走ってはいないんだが、それでもあっちが成長してこっちが伸びてない感じはあったのだ。自分が晩成型というなら納得だ。

 

「それをしっかり確認する意味を含めて、早めに厩舎に移しておきたいと思っております」

「ああ、それでこの時期に」

「デビュー時期などについてはまた、トレセンでの調教を見て相談させてもらいたい。正直現段階で最速デビューできると保証はしかねます」

「わかりました、それで大丈夫です。それと、そちらの調教の見学はできますか?」

「事前に連絡していただければ案内します」

 

 俺の頭を撫でこ撫でこしながら、馬主様と調教師さんの話は続く。競馬はレースを見る程度だから知らんかったけど、馬主さんも調教師も、割とアグレッシブにあっちこっちと行ったり来たりするもんだな。

 

「ライト、これからも頑張るんだぞー」

『ブルルル(おう、わかってる)』

 

 なんだかんだ言って、走ることこそが俺たちの存在意義であり、存在を自分で証明する唯一の手段だ。

 

「戸上さん、これからもこいつをお願いします」

「わかりました。大切に預からせて頂きます」

 

 

 その翌々日、俺は馬運車に乗って、宮崎から栗東のトレーニングセンターへと移動となった。

 




ファンボックスにてβ版を公開しています。
β版は現在第26話+掲示板回2話+ライトの父の没ネタなど公開しています。
興味がある方は是非お願いします
https://amanohoshikuzu.fanbox.cc/posts/6347909



また、ライトの後輩たちに関する名前はまだ募集しています。素晴らしいアイデアは頂いていますが、たくさんの意見が頂きたいので、手を貸してくださる方がいたら是非お願いします。馬自体は12話に、活動報告に詳しくまとめてます(**ネタバレあり** 馬の馬生、レースの成績も踏まえてあった名前がいいと思うので、活動報告では軽くどんなレースを走るか、どんな実績を残すか書いています)
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=300994&uid=363075


また、小説の展開に関して意見を募集しています。今作に関しては、作者が書きたいものだけでなく、読者の方がどういう展開にロマンを感じるのかなど意見を頂いて、もし噛み合うなら反映できたらと思っています。そちらも一読お願いします。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=301823&uid=363075

【取り直し】   現在書いているアフターザライトが本作の馬主の方の主人公の第一世代の馬になり、それ以降の世代に何頭も馬が登場していくことになります。馬主の持ち馬は全て架空馬です。 そのアフターザライトのデビュー年を何年にするかをアンケート取ります。デビューは2歳なので、デビュー年の翌年のクラシック世代に割り込んでいきます(勝つかは未定)。これによって史実馬の勝鞍が変わります

  • 2歳で2014年デビュー
  • 2歳で2015年デビュー
  • 2歳で2016年デビュー
  • 2歳で2017年デビュー
  • 2歳で2018年デビュー
  • 2歳で2019年デビュー
  • 2歳で2020年デビュー
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