父父の名で帰ってきた   作:アママサ二次創作

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現在33話まで書けているので土日連続投稿するつもりです。


第15話 

「ふぁあ……」

「英美里ちゃん眠そうな」

「最近仕事増えましたからね。来年からどうするのかって電話が止まらないし」

「それはすまん。前伝えた通りに言っといてくれ」

「わかってますよー。最低限納得はしてもらってるので安心してください」

 

 そろそろ暑くなってくる時期で、早朝も寒いから涼しいに代わりつつある5月中旬のある日。俺と英美里は、揃って栗東トレセンを訪れていた。

 

 目的は、もう一度来たことのある実施している調教の見学、は実のところついでで、今日はその後に調教師と出走レースなどについて話し合うことになっている。

 

「それにしても、朝早いんですねえ」

「この時期になってくると昼間は暑いしな。俺もクーラーの効いたコートに入れるまではこうしてたよ」

「そう言えば、市宮さんのルーキーの頃の話聞いたこと無いですね」

「そだっけ?」

「はい。本とか動画は見ましたけど、口から直接は無いです」

「まあ、大体その辺で話しちゃってるしなあ」

 

 調教師さんに声が届かない程度に離れた位置で、2人で会話を交わしながらライトをはじめ色々な馬が走っているのを見学していると、調教助手の人が声をかけてきた。

 

「市宮さん、アフターザライトの調教は終わりました。調教師は他の馬も見るのでもう少し時間がかかりますが、応接室の方に移動されますか?」

「ライトはこの後は馬房ですか?」

「シャワーの後に馬房ですね。会いに行きますか?」

「……いえ、スケジュールの相談が終わった後にします」

 

 先に会いに行っても良いのだが、どうせ会いにいくならばデビュー戦前の応援ができるタイミングが良いかも知れない。馬には理解できないだろうから大した意味はないのかも知れないが、こっちの気持ちの問題だ。

 

 

 応接室に移動して軽い作業を済ませながら待っていると、しばらくして戸上調教師がやってきた。

 

「お待たせしました」

「いえ、時間をとってくださりありがとうございます」

 

 互いに挨拶をして改めて話に入る。

 

「今日来ていただいたのは、アフターザライトのデビュー戦についてです」

「ライトの感じは、ぶっちゃけるとどんな感じですか」

「ぶっちゃけると、デビューは問題無いでしょうが成長はクラシック以降でしょうなという感じです」

 

 もう数回顔を合わせているが、互いの気性があったのか、他に人がいないところでの会話では俺と戸上調教師はこんな感じだ。先日調教を見せてもらったときにはその後一緒に居酒屋にも行った。

 

「なるほど。ではデビューは速めで?」

「ですな。できれば6月中の阪神の新馬戦でデビューできればと」

「デビューを遅く、場合によっては来年以降というのは無いんですか?」

「馬体の成長を考えれば遅らせても良いのですが、アフターザライトに足りないのはむしろ馬体だけという状況でして」

「というと?」

「普通デビューが遅れる馬というのは、馬体の成長が遅いだけではなく脚部不安があったり気性のせいで調教がしっかりできずに結果デビューが遅れるというパターンです。つまりそもそもレースを走れる状態に無かったりするわけです。その点ライトは健康に問題は無く調教も真面目に受けてくれますし、気性もおとなしい真面目な馬ですから、馬体の成長が遅いという点を除けばレースに出るのは問題が無いんですよ」

「問題ないんですか?」

「ライトの成長が遅めとはいえ、デビューの段階で完成している馬のほうが珍しいですからな。デビューして競馬を学びながら成長して、3歳を迎えて完成していく、という形で。以前オーナーが言っていた言葉を借りるなら、2歳時は高校野球みたいなもんです。その高校野球の中でも、体は大きくないが技術が優れているものもいるでしょう。今のライトはまさしくそれですな。無敗の3冠馬であるシンボリルドルフやディープインパクトでも、2歳時から成長していないなんてことはないですから。成長しながら常にその時々の頂点であったというだけの話です」

「だから馬体が成長しきっていないという一点でのみデビューを遅らせる必要はない、と」

「はい。少なくとも調教のタイムを見る限りは新馬戦ぐらいなら全く問題は無いでしょう」

「それは、勝てるという意味で? それともレースになるという意味で?」

「自信を持って、勝てるという意味だと言わせてもらいましょう」

 

 戸上調教師の話をまとめると、ライト自体の完成、成長のピーク、最盛期というのが来るのは3歳以降になることは確実であり、現段階の成長も他馬と比べると遅れている、と。

 

 だが一方で、その成長が遅れている今のライトでも新馬戦を勝ち切る程度の実力はあり、また身体能力ではない方の実力、レースの走り方であったり騎手の指示を聞く力であったりは年にしてはかなり秀でている、と。

 

「レースに出すことが問題ないのは理解しました。ついでに質問良いですか?」

「なんでしょう?」

「レースに出しても問題ない、というのと、出したい、というのは別だと思うんですが、その当たりに理由はあるんでしょうか」

「……いくつかありますので、一つずつ説明しましょう」

 

 ちなみに、普通の馬主というのは、馬の出走スケジュールなどは調教師にまかせていることが多いらしい。特に多くの馬主を持っている人などは全ての馬の管理なんてとても1人ではできないし、よほど大きいところのレースにならなければ調教師にまかせておいたほうが色々と都合が良いしうまくいく。

 

 じゃあ何故俺がこうやって戸上調教師に細かく話しを聞いているかというと、馬主初心者なのでライトを通してレースの選び方や調教師の考え方を教えてもらいたいとお願いしたからだ。若干めんどくさそうだったが戸上調教師も頼みを受けてくれたので、こうして話してもらっている。

 

「まず一つ目は調教についてです。馬によるんですが、レースを走りながら調教をした方が調子が整いやすい馬と、間が空いて調教を詰め込んでも調子を整えられる馬の2種類がいます。ライトがそのどちらになるかはわかりませんが、わからないからこそ早い時期からレースを走ることで確かめて置きたいというのが一つ」

「なるほど」

「次にレースからわかる馬のことというのは他にもあります。まあ馬体が完成しきってない以上は距離や脚質は確実ではないでしょうが、それでも長いところか短いところか、前か後ろか程度はわかりますし、レースでどの程度疲労するか、次のレースまでどれぐらい開けたほうが良いかなどは早い時期に知っておきたいというのが一つ」

 

 言われた内容を俺は暗記しているが、隣で英美里がメモしてくれている。自分も競馬について学んでくれようとしているのだろう。

 

「後は、早い時期から賞金を積めるなら積んでおきたいというのもあります」

「賞金、というと出走の方ですか」

「そうです。理想としては、新馬戦を勝利して、そして年が明けてから春までにもう1勝。これだけ勝っていれば、春クラシックの前哨戦には入っていけるかと」

「出れるんですか? クラシックの大きなレースに」

「それぐらい期待しているということです。確実にクラシックに出ていくかは馬体の成長速度もあってわかりませんが、少なくとも出れるところまでは持っていっておかないとその段になって判断することはできませんからな」

 

 大きなレースに出るために賞金を積むのも、レースの耐性やレースでの走りを見るのも一朝一夕にできるものではない。だからこそ、万全ではないとはいえ早い時期から積んで、いざ使いたいときに使えるようにしていきたいということらしい。そうしないと特にクラシック以降の重賞レースなんかは賞金で弾かれることも少なくないらしい。

 

「わかりました。ではデビューは6月中ということで。その次は決まっていますか?」

「まずはレースを走ってみないことにはわかりませんな。ですが、6月に一度走った後最低でも7、8月の2か月間放牧に出して、ここまでの調教とレースの疲れを抜きつつ馬体を一回り成長させてくれればと。かなり強度の高い調教もこなしてくれますし、1月もあれば問題なくレースに出せるところまで戻せるでしょう。あるいは外厩を使うというのも手かもしれません」

「外厩というと、放牧しながら調教できる施設でしたか」

「そうです。九州の方の外厩に伝手がありますので、ただの放牧ではなくそちらにするのも手ではあります。ただ夏場は暑いですからな。高地にはありますが北海道なんかよりは遥かに暑いでしょう」

「初戦は勝てなくても放牧ですか?」

「そのつもりです。馬体の成長が遅いのは間違い無いですから、早いうちから使い詰めることはしません。あくまで理想として、勝って欲しいという話です」

 

 馬体の成長ばかりは、調教でどうなるものでも無いらしい。人間と同じで、筋トレで筋肉自体をつけることは可能ではあるが、全体的なスケールというか、その筋肉を搭載する根幹などの規模を大きくするのは自然な成長に任せるしかない。

 

 そしてそれを果たすのは、実は調教ではなく放牧であったりする。放牧に出した後一回り大きくなって帰ってくるなんていうのは、太っているだけでなく本当に成長していることの証らしい。

 

「母も父も資料と画像しか見てませんが、平均的な大きさの母と520キロ以上でバキバキの馬体をした父ですからな。母父の血が出たらわかりませんが、このままいけばまだまだ成長すると思っとります。というか今が軽すぎですな。420キロは相当に小柄です。少なくとも450~470キロ程度には増えて欲しいものです」

「なるほど。ではまずは6月中にデビュー戦、そしてその後様子を見て放牧か外厩を挟んで秋から年末を目処にもう一戦、という感じですね」

「そういう形を考えています」

「わかりました。それでお願いします。6月中の何日にするかなどは決まってますか?」

「短いところより長いところが得意そうなのとスタミナもかなりあるのを考えて、6月22日の阪神1600メートルの新馬戦がちょうど良いかと。加えて月初めより出走馬が多いでしょうから、馬群適正もそこで見たいと考えています」

「わかりました。ではその日は2人で競馬場の方に伺います。というかあれですね、初めて馬主席に入るのがその日だと心配ですから、これから何度か行ってみます」

「それが良いでしょうな。馬主席には大御所も来られますからな」

 

 ひとまずライトのデビュー戦と、そしてその後の方針は決まった。特に揉めるようなことはないとは思っていたが、それでも多少緊張していたので肩の力を抜く。

 

「それで、戸上さんとしては、ライトの展望はどんな感じですか?」

 

 これは、不確かなことを言えない調教師ではなく、1人の馬を見る人間として正直なところを話してくれという合図だ。少々めんどくさいかもしれないが、馬主としてきっちり学び対という俺の言葉を聞いてくれての結果だ。というか、酒を一緒に飲んで互いにぶっちゃけるところが無ければこういう話をする関係にはならなかっただろう。

 

「3歳秋以降か4歳からはG1でも十分勝負になると思ってます。ただ馬体はともかく指示への反応などはすでにかなりいいですからな。神戸新聞杯から菊花賞や青葉賞からダービーなどいけたら出したいなとも思っとります」

 

 この会話ではこうやって戸上さんも正直なところを出してくれる。まあ腹の探り合いだとか遠回しな話しは面倒くさいという人だから、本当はこういうぶっちゃけた話し方の方が楽なのだろう。

 

 この会話では、ただ馬の調子ではなく、戸上さんがどうしたいかをできれば正直に聞きたいとお願いしているので、こうやって望むところを言ってくれたりする。そしてその内容には、馬を無理に酷使するようなことがない限りは俺も口出しをしないと。

 

 まあ要するに馬を話題にした世間話みたいなものだ。

 

「そこまで行けると、良いですねえ」

「行けそうだったら行っても良いんですよね?」

「もちろんです。俺も楽しみにしてますよ」

 

 馬に夢を見るのはファンだけではない。調教師だって夢は見るし、そして馬主だって夢を見る。少なくとも今ここは、アフターザライトという馬に夢を見る2人の会話だ。英美里も夢を見てくれるようになったら嬉しい。

 

「あ、そうだ、この後ライトに会いに行こうと思ってたんですが大丈夫ですか?」

「大丈夫ですよ。案内させます」

 

 さて、後はライトに会って。しっかりねぎらって、そして応援をしてから帰ろう。

【取り直し】   現在書いているアフターザライトが本作の馬主の方の主人公の第一世代の馬になり、それ以降の世代に何頭も馬が登場していくことになります。馬主の持ち馬は全て架空馬です。 そのアフターザライトのデビュー年を何年にするかをアンケート取ります。デビューは2歳なので、デビュー年の翌年のクラシック世代に割り込んでいきます(勝つかは未定)。これによって史実馬の勝鞍が変わります

  • 2歳で2014年デビュー
  • 2歳で2015年デビュー
  • 2歳で2016年デビュー
  • 2歳で2017年デビュー
  • 2歳で2018年デビュー
  • 2歳で2019年デビュー
  • 2歳で2020年デビュー
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