『追い付いてみろ!』
『ぬおおおおおおお!』
ライト、生後4ヶ月ほどになりました。今は前を走る親父を追っています。
「ははは! やっぱりヒカリは走るなあ!」
「ええ……あれ4ヶ月の走りですか?」
「父親の方も20歳越えてるキレじゃないだろ……」
柵のあたりから見ているもはやいつものメンバーになった学生3人とタクヤが何やら話しているが、必死で親父を追っている俺にはそちらに気を回す余裕が無い。
『ふんっ』
『そこで、まがる、のおぉぉぉ!?』
ただまっすぐ走るだけでなく、親父は何度も切り返すように曲がりながら走り続ける。俺が追いつけるように手を抜いてくれてはいるのだろうが、直角どころか鋭角に曲がることもあり、それも俺が遠心力に膨らみながら曲がるようなところを全く揺らぐことなく曲がり、そのまま一歩で風を切って加速する。すぐにスピードを落としてはくれるものの、その一歩で数馬身引き離されるのだ。
「父親のヒカリがまっすぐ走ってないのってなんか理由があるんですか? 癖とかそういう」
「ここのトレセンだと中央とかでやってない特訓も実験的にやってるんだよ。ヒカリは一時期それを受けてたし、その後も自発的にやってたらしいからそれを今やってるんだろな」
「トレセン、ってあそこですか。まだ見に行ったこと無いんですよね」
「お前らの学校でも行くと思うが、機会があったらしっかり見学しとくと良いぞ。最近も地方の調教師が勉強しに来てたし」
「「「えっ!?」」」
親父が俺と一緒に走ってくれるとき、それはただ走る練習ではなく、どちらかと言えば足の使い方や体の使い方、体幹などを鍛えられるような走りをしている。普通に走るのが人間で言うところの100メートル走だったりランニングであるとすれば、シャトルランとかスポーツのフットワークの練習のような。
ただまっすぐ進むための推進力だけでなく、左右への切り返しをよどみなく行う足さばきに体重の移動に揺らがない体幹、速度が落ちたところから一歩で加速するための脚力と、体重移動。
ただ走らないのかと最初は疑問だったが、親父の背中を追いながら走れば、親父の凄さと自分に足りないものが見えてきて。
そしてそんな親父すら未出走で終わったというレースの世界がどれだけ凄まじいのかと戦慄する。
『今日は終わりだ』
『は、は、はあはあ……ありがとう親父』
『……』
親父は無口だ。俺が話しかけても最低限の言葉で返すし、返す言葉が無いときはじっと見つめてきたりする。
そういうときは大抵耳が荒ぶってたり母さんが生暖かい目線で見てくるのが不思議だが。
「馬のトレーニングって、中央みたいにコース走ったり泳いだりじゃないんですか?」
「後は坂路とか」
「それは人間が走らせるために施すトレーニングだな。ライトはまだ子供だから放牧の段階だ。普通ここで適度に運動しつつ体を育てて、1歳になって育成牧場に移動してから走るためのトレーニングを初める。人間でいうと……ちょっと説明が難しいな。人間のスポーツでも強度の高い筋トレなんかをするのは高校生とか大学生になってからだろ? あれと同じイメージだ。ある程度体とか骨格が大人に近づいてから本格的にトレーニングをする感じ」
タクヤと学生くん達が馬のトレーニングの話をしているので、青草を食みながら耳をそちらに向けておく。なんだかんだ俺は前世もインドア気味だったのもあってそういうのに詳しく無いからな。
「でも今の、全然ちょっとした運動じゃないんじゃ……」
「結構激しい運動してましたよね?」
「なあ。俺もそれはちょっと気になってる。もともとヒカリが走るってのよりトレーニングが好きでな。そんでライトがそれについていっちまってるから、こっちが意図しないうちに英才教育みたいになってるんだよな」
「それって大丈夫なんですか?」
「調教師呼んで見てもらったけど、ヒカリが直線で走るんじゃなくてあちこち走り回ってるだろ? あれでただ直進するのと違ってあちこちの筋肉を刺激できるから一見激しい運動に見えるけど、ペースとかを見るとライトの健康に影響が出るほどの強度は無いらしい。まあライトが健康で元気だからってのもあるらしいが。街のトレセンでもやってるやり方に似てるそうだ。あっちだと親馬じゃなくて人間が前走って教えてるけどな」
「父親がそれを知ってて教えてるってこと?」
「馬が教師になるのか……」
「まあだからとりあえず問題は無いし、むしろ幼駒時代からこれが出来てたら凄い馬になるかもしれないらしいわ」
はえーすっごい。親父が手加減してくれているのはわかっていたが、そこまで適度にやってくれているとは思わなかった。
やっぱり親父といろいろ話した方が良いかなあ。でも親父無口で怖いんだよなあ。
というか街のトレセンってなんだろうか。トレーニングセンターが競走馬を鍛える場所というのは知っているが、親父は出走していないらしいから競走馬としてのトレーニングはしていないはずだ。あるいは、トレセンまでは行ったものの何かしらの理由でデビュー出来なかったのだろうか。
「さっきトレセンだと人が教えてるって言いました? 聞き間違いですよね?」
「いやマジマジ。見たことねえ? 仔馬が放牧場の中人間の後ろついて歩いてるだろ。この街馬に関わることに関してはオーパーツみたいになってるから色々あってさ。トレセンだと運動能力がめちゃくちゃ高い人が馬と信頼される関係になって鬼ごっこみたいにしながら、背中に乗って走らせるのとは違うトレーニングをさせてる」
「ええ……」
『ええ……』
思わず声が漏れてしまった。普通に考えて怖くない……? 俺みたいな幼駒ならともかくトレセンにいる馬ってことはそれなりに馬格も出来てるんだから体重は400キロを超えるはずだ。そんなのと人が同じ土俵で鬼ごっこって、まじ?
「そもそも普通馬に人がさせれるトレーニングって、走らせるか坂登らせるか泳がせるかだろ?」
「そりゃあ、はい、そうですけど……」
「それが普通ですよね? 中央とかでもそうだと思いますけど」
「けどさ、人間考えてみ? 昔ならいざしらず、今のアスリート、そんな単純なトレーニングしないだろ? ぶっ倒れるまで走れみたいなの。体の筋肉一つ一つ、それぞれに役割があって、それぞれに適切に負荷をかけた方が効率が良い。ジムいったことある? 筋トレマシンの種類すごいぞ。それぞれ色んな形で負荷をかけることで筋肉を鍛えるんだ」
「確かに……? いやそこまで考えたことないけど」
「……それを馬にもするんですか?」
「したら確実に速くなってるけどどの程度かは要研究って段階だけどな。人間でもここ20年とかで表に出てきた考えだから。うちはもっと前から取り組んではいるらしいけど、それでもやっぱ馬だから研究の進みも遅いらしくてな」
学生君達がなんと言えば良いのかわからなくなっているが、俺も同じだ。なんという熱意。人にようやく適用されるようになってきた理論を馬の調教に使うとは。
まあでも、たしかにわかる話だ。俺もそれを考えてただ走るのではなくぴょんぴょん跳ねていたんだし。
ただ走ってどこの筋肉を使うかっていうともちろん足だ。でも俺はさっき親父を追って走ってるとき、体は外に振られたしそれを耐えるために胴体や首の筋肉を使ったと思う。そういう部分まで鍛えるためにはどうするかって話だ。スポーツというのは基本的に全身運動なのである。
「人の方のスポーツ理論専攻だった人を呼んだりして研究してるらしいから、興味あるなら見てみると良いかもな。他にもさっきヒカリがやってたみたいな動きを、地面に印を置いて馬の背中に乗って走らせたりとかもしてる。なんつったかな……」
「もう何回驚かされるんだって感じ」
「実家で馬見てなかったら絶対勘違いするわ……」
「俺ちょっと見てみたいかも」
「「え?」」
「いや、俺親父が調教師だから、多分後継ぐからさ」
「興味あるなら見学させてもらっとけ。というかお前らここのレース見に行ったことはある?」
「「レース!?」」
『レース!?』
思わぬ単語に青草を食んでいた顔を勢いよく上げて3人の方を見てしまうが、直後に柵の側までやってきた人影のせいで話の続きを聞くことは出来なかった。
書き溜めを進めてるのですが、本作では現実で直系が途絶えていたりする馬の直系を登場させ、地方や(地方でデビューした馬は中央挑戦させる予定)中央で走らせるつもりです。そこで、なんの馬の直系が走って欲しいかなどを、下記URLの活動報告でコメントしてほしいです。感想欄でアンケートは駄目なので、活動報告にお願いします。
例)マックイーンの直系に春天勝って欲しい。
また、トキノミノルやサイレンススズカ、ライスシャワーなど、予後不良や産駒を残す前の早逝などの馬は流石にどうしようもないため、基本血統は途絶えてることとします(ナリタブライアンみたいに1世代でも残してくれてたら出します)。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=298933&uid=363075
【取り直し】 現在書いているアフターザライトが本作の馬主の方の主人公の第一世代の馬になり、それ以降の世代に何頭も馬が登場していくことになります。馬主の持ち馬は全て架空馬です。 そのアフターザライトのデビュー年を何年にするかをアンケート取ります。デビューは2歳なので、デビュー年の翌年のクラシック世代に割り込んでいきます(勝つかは未定)。これによって史実馬の勝鞍が変わります
-
2歳で2014年デビュー
-
2歳で2015年デビュー
-
2歳で2016年デビュー
-
2歳で2017年デビュー
-
2歳で2018年デビュー
-
2歳で2019年デビュー
-
2歳で2020年デビュー