一応個人的な考えとして、あまり昔の描写を考えづらいのもあって技術水準(スマホとかタブレットとかインターネット関係)とか流行り(You TubeとかSNSとかアニメとか)とかがなるべく今とあんまり変わらないレベルが想像しやすいのでその当たりと考えてます。少なくともゴルシが引退した後が良いって感じです。
英美里と木崎君と別れてから、俺は丘の上から懐かしい馬影の見えた放牧場の方へと歩いていった。かなり距離があったが、俺にはわかった。あいつがそこにいると。
放牧場の間の道を歩いていくと、やがて一つの放牧場の前へとやってくる。大人の馬が2頭に仔馬が1頭。ついでに人間の大人1人と子供3人が柵の前に立ってたが、久しぶりの再会に意識が行っている俺の視界には入らなかった。
「おーぅい!」
少し舌を巻きながら声を貼るいつもの呼び方。流石に前会ってから時間が立っているので反応してくれるとは思わなかったが、なんと放牧されていたうちの1頭が。
ヒカリが反応してくれた。
見間違えるはずがない。父譲りの額と鼻先に別れた白い流星を忘れるものか。
『ブルルヒヒィィィン!!』
俺の方へと視線を向けたヒカリは、驚いたように目を見開くと大きな声でいなないてから勢いよくこっちに突っ込んできた。
そしていつもの流れだろうと柵から数メートル離れて待っていると、ヒカリは走ってきた勢いのまま柵を飛び越える。相変わらず惚れ惚れする馬体。黒鹿毛が健康を示す艶を見せており、フォームも安定していて美しい。
『ブルルッ』
「久しぶり」
押すように擦り付けてくる彼の頭を受け入れ、彼がかつて好きだったように勢いよく後頭部を撫でてやる。
「すいません、ちょっと良いですか?」
声をかけられて視線を向けると、柵の近くにいた4人のうち大人の1人が話しかけてきていた。久しぶりの再会に周りのことが全く見えなくなっていたようだ。
「おはようございます。なんでしょうか」
「いえ、どなたかと思いまして。あまり見かけない方ですが」
「ああ、これは失礼。彼と会うのが随分久しぶりだったものですから。私は彼の馬主の市宮司といいます。馬主といってもまだ資格は無いので彼の飼い主という意味ですが」
そう伝えると、後ろの3人のうち1人がびっくりした表情をしていた。
「ああ、彼らの馬主の方でしたか。失礼しました。彼らの担当厩務員をしている志賀拓哉と言います。以後よろしくお願いします」
「厩務員さんでしたか。いつもありがとうございます」
厩務員と名乗った男性と互いに自己紹介をしていると、放って置かれて焦れたのか横からヒカリが俺の顔に頭を擦り付けてくる。
「おっと」
よしよしと撫でてやっていると、驚いていた様子の4人が微笑ましいものを見る表情に変わる。わかる。馬ってほんと可愛いよね。
「あのっ!」
ヒカリと触れ合う方に集中していると、先程特に驚愕の表情をしていた子供、ジャージだから近くの農高か競馬学校の学生のうち1人が声をかけてきた。
「何かな?」
「え、っと、こういうの聞くの、あの、あんまり良くないかもしんないんですけど、NBA選手の市宮さん、ですか?」
「おっ、知ってるのか。ありがとな。その市宮であってるよ」
そう伝えると、少年はめちゃくちゃ驚いた表情になる。
「え、まじ、やっべ……!」
「何、凄い人なの?」
「いやお前凄いなんてもんじゃ──」
「おい!」
学生たちが俺のことについてはしゃぎそうになったところで、厩務員の拓哉君、多分俺より年下だろう拓哉君が厳しい声をかける。
「そういう話は当人の前ですんな」
3人にそう注意すると、今度は俺の方に向かって頭を下げてくる。
「騒いでしまって申し訳ありません、騒がないように指導しておきますので」
一般常識もあるが、これは俺が馬主という立場にあるからだろう。この街が特殊であるとはいえ、馬主というのは大抵大金を持った存在であり、馬産関係者にとっては大事なお客様になる。下手に不興を買ってしまえば困るのは牧場側だ。まあこの街には他の馬主はまだほとんど入ってきてないのでそういうことにはならないのだが、3人に教えるためにもあえてそういう対応をしたのだろう。
「いえ。騒がれるのは慣れてますから。とはいえ今日はプライベートですので、あまり騒がないでもらえると助かります」
「ありがとうございます。ほら、お前らも」
「あ、あのすいませんでした」
「「すいませんでした」」
特に一番騒いだ男の子が顔を青ざめさせている。後でお説教だろうな……可哀想に。でも学ばないといけないことだからね。頑張れ学生。
「しばらく見学してても大丈夫ですか?」
「あ、ええ大丈夫です。私たちも彼らの様子を観察してますが気にしないでいただければ」
「わかりました。ありがとうございます」
ひとまず話を切り上げて、ヒカリとの交流に戻る。
「随分久しぶりだなあ」
『ヒヒン』
「めっちゃな、話したいことあるんだよ」
柵にもたれかかるようにして、柵の中に戻ったヒカリに話しかける。彼が言葉を介しているとは思わないが、それでも、彼に色々と話し、それを彼が割とちゃんと聞いていてくれるのが俺と彼との日常だった。
語りたいことはいっぱいあるのだ。バスケに人生を捧げようと渡ったアメリカでどう過ごし鍛えたのか。どういう経緯で目をかけてもらい、下部リーグに入ったのか。そしてそこで何を経験して、上に上がり。上で何を経験したのか。全てを語ろうとは思わないし、全てを覚えているわけでもない。でも、覚えていることもたくさんある。
気を使って4人組が離れてくれたので、思う存分彼に話しかける。後ろで興味津々な様子でこっちを見ている仔馬はおそらく聞いていたヒカリの息子だろうが、それすらも今はあとで良い。
そして俺は、じっと聞いてくれているヒカリに、3時間ほど思い出話をしたのだった。これでも短くまとめたんだけどな……。
******
親父の、そして俺と母さんの馬主でもあるという人間がやって来た。やって来てそうそうにタクヤ達と挨拶をしていたが、すぐに親父と何やら話しこみ始めた。聞き耳を立てると、どうやら彼の思い出話をおっぱじめたらしい。
彼はプロのスポーツ選手、多分バスケの選手らしくて、ずっとアメリカにいたらしい。それで久しぶりに帰ってきたそうだ。積もる話もあるだろう。
けど話がなげえ!!
「そんで、その若いエースのやつに相談されてな」
『ヒヒン、ブルルルル(すげえなあ。まじでトップクラスの選手じゃん。というかステフォン・ラリーってまじで最高峰の選手じゃね?? 何お前そんな凄い選手になっちゃったのに真っ先に俺に会いに来たの???)』
一個一個のエピソードを細かくかかるので話が長い! そんでもって親父! やっぱりあんた人間の言葉わかってるだろ! っていうか選手の名前わかるってことは俺とおんなじか!!
あまりにも話が長いので馬主さんの話を聞いている親父の後ろでぴょんぴょん跳び回ってみたが、親父のことしか見えていないのかガン無視された。
「そんで、次の年に別のチームに移ってな。でも俺の代わりにまたとんでもない選手が入ったらしくて」
『ブルル(はーん、ほーん。長え……)』
というか途中から親父も話聞くの飽きてんじゃん。言うほど嫌そうにはしてないから仲が良かったのは確かだろうけど。
『母さん』
『何?』
『あの人知ってる?』
暇になったので我関せずの様子でうつらうつらしていた母さんに話しかけにいった。迷惑そうにしてたけどごめんな、でも俺も暇なんよ。
『……私は会った事無いわ。でもお父さんが良く話してた』
『なんて?』
そう尋ねると、体を起こした母さんは少し遠い目をしながら楽しそうに話している1人と1頭の方を見る。
『約束をしたそうよ』
『約束? どんな約束?』
馬と人が約束? と思ったがそこを突っ込むと進まないので、約束の内容について聞くことにした。
『……さあ。私は聞いてないわ』
なんだ今の間。絶対聞いてるだろ。
突っ込もうとしたが母さんが再び寝る体勢に入ってしまったので泣く泣く諦めて、俺もその隣で丸くなっておくことにした。
******
「っと、話し過ぎたかな」
『ヒヒン(まじで長え)』
気がつけば3時間近く話してしまった。流石にヒカリも飽きている様子で顔をそらしているが許して欲しい。彼にあったら全部話してやろうとずっと前から決めていたのだ。
「そんでお前の子供、見せてくれるか」
『ブルル(待ってろ)』
最初はヒカリの後ろではしゃいでいた子供も、俺が長く話しすぎたせいで母馬のリボンパーマーと一緒に寝始めてしまった。いや、なんかほんとに申し訳ない。前々から考えていたとはいえ、流石にぶっ続け3時間は話しすぎた。でもまだ全然話せるのをやめたのは褒めて欲しい。
『ヒン、ブルル(おい、ヒカリ、起きろ)』
『ブル(何?)』
『ブルル、ブル(お前の馬主に紹介するから)』
『ブルヒヒン!?(馬主!?)』
ヒカリが何回か突っついていると寝ていた仔馬が飛び起きた。ついでに隣の母馬も体を起こす。そしてそのまま3頭連れ立って柵の側までやってきた。
『ヒン(連れてきたぞ)』
「やっぱ仔馬は可愛いなあ」
最初にそう呟くが、正面に立つ2頭の大人の馬のうちリポンパーマーの方に仔馬が寄ってるのを見て気づく。
「ヒカリィ、お前ちゃんと父親やってる?」
『ヒヒン!?(な、何言ってんの!? ちゃんとやってますけど)』
「顔そらすなお前絶対言葉わかってるだろ」
『ブルルルル(そそそそそそんなことないですし?)』
やっぱりこいつ人間の言葉結構高い精度でわかってるな? という思いで詰め寄ってみるが、更に顔をそらされてしまった。
『ヒン、ブルル(親父、俺と話してるときと馬主さんと話してるときで全然違う)』
『ブルルフィン、フルル(あの人、子供と関わるのが初めてだからあなたとの付き合い方がわからなかったってだけよ)』
『ブモッ!?(ちょっとリボンさん!? 父親の威厳ってあるでしょ!?)』
「お前今牛みたいな声出さなかった?」
何やら馬同士で会話しているのか、リボンパーマーと仔馬が互いに顔を近づけた直後にヒカリが慌て始めたので、馬同士でなんか会話しているのだろう。『お父さんキライ』なんて言われてるんだろうか。
「ふむ、それにしてもこの馬か」
家族がじゃれ合っている間に仔馬のことをようく観察してみる。今年まででNBAを引退して日本に戻って馬主になるつもりで俺が種付をお願いしていたヒカリの子。絶対に1頭目は彼の子だと決めていたのだ。
父譲りの別れた流星に黒鹿毛は、あるいは育ったらヒカリにそっくりになりそうな見た目をしている。今は生まれて5ヶ月ほどだったか、馬体はまだとても完成しているとは言えないが、先程跳ね回っていたのを見ると体は柔らかくバネもありそうだ。
何より、目に力がある。気がする。少なくとも学生の頃に見た他の馬よりは、ヒカリに近い、何か雰囲気を感じる。バスケでやばい相手を前にしたときのような高ぶりがある。全身が痺れるふわふわと浮くような感覚が。
オカルトと言えばオカルトだろう。雰囲気や空気なんて。だがそれは確かにあるのだ。俺の場合は、それを感じたのはバスケだった。そして今、おそらく目の前の仔馬にも似たようなものを感じている。
「走るな」
『ブルル(なんて?)』
「お前、ライトって言ったな。俺がお前の馬主になったからな。これからよろしく」
割と近い位置にあった仔馬の頭をそっと撫でる。様子を見るにかなり元気が良い子だったようだが、大人しく撫でられてくれた。というかヒカリと同じ感じで手を伸ばしたけどよく考えたら駄目だったな。反省しよ。
「お前は、レースに出してやれるから。たくさん走ってくれよ?」
『ブルル!? ヒヒィィィィィィン!!(まじで!? よっしゃあ走ってやるぞぉぉぉ!!)』
そう元気な声を返されて、こいつは走ることを楽しんでくれるだろうなと思わず笑ってしまった。
アンケートに少し前の時期を加えて取り直しをしております。ご容赦ください。
【取り直し】 現在書いているアフターザライトが本作の馬主の方の主人公の第一世代の馬になり、それ以降の世代に何頭も馬が登場していくことになります。馬主の持ち馬は全て架空馬です。 そのアフターザライトのデビュー年を何年にするかをアンケート取ります。デビューは2歳なので、デビュー年の翌年のクラシック世代に割り込んでいきます(勝つかは未定)。これによって史実馬の勝鞍が変わります
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2歳で2014年デビュー
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2歳で2015年デビュー
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2歳で2016年デビュー
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2歳で2017年デビュー
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2歳で2018年デビュー
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2歳で2019年デビュー
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2歳で2020年デビュー