父父の名で帰ってきた   作:アママサ二次創作

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書いてて思ったけど正直ウマ娘よりもウイポ要素強い気がしてきた。でもウマ娘で書きたい。


第6話

 久しぶりに会った友人、いや友馬はとても元気そうだった。昔からこっちの言葉をちゃんと理解しているかのような反応も変わっていない。賢い馬はまじで賢いっていうし、多分そういう馬なんだろうなと思っている。

 

 ついでに、友1頭に会いに来たつもりが、同じ放牧場に彼の奥さんと子供も一緒に放牧されていて見ることが出来たのは嬉しい誤算だった。楽しそうに跳ね回っていたし、かなり元気が良さそうだったので競走馬になってもやっていけそうである。

 

「嬉しそうですね」

「そう?」

「バスケットの試合の時みたいです。なんていうか、笑ってないんだけど、笑ってる? みたいな」

 

 何じゃそりゃ、と運転している英美里に返したものの、そう言われるのもわからないでもない。おそらく俺が面白くて笑うのではなく高ぶっているときの雰囲気が出ていたのだろう。

 

「色々見せてもらったか?」

「はい。途中から木崎さんより年上の人も来てくれて、牧場とこの街の意義とかも教えてくれました」

「なるほど。まあ俺のマネージャーするなら、しばらく関わることになるからな」

「なんか、街1つまるごと競馬のために存在しているってすごいですね」

 

 俺の生まれ育った街、そしてそこに合体している牧場は、はっきりいって狂っている。それが悪いとか良いとかではなく、世間一般と比較して異常にずれている。

 

 それを俺が認識したのは、高校進学のために街から出て都会の学校に下宿で住んだときだ。まあその後色々あって結局街に帰るのは40歳も目前のこんな時期になったのだが。

 

 街そのものが、競馬という1つのスポーツを支えていくために作られている。

 

 それが俺の生まれた街だった。

 

「創始者様が頭おかしいんだよ」

「とっても先見の明があったって博物館で書いてましたけど。金融危機を回避したとか投資を外したことが無いとか」

「それを全部競馬に突っ込むっていうのがな」

「ああ……」

 

 そう言われると確かに、と英美里も納得を示す。

 

 牧場を作った創始者は、あまり表に出てなかったために有名人として名前は残っていないものの、街の図書館に残っている記録の限りでは、とんでもない経営者兼投資者、統治者だったらしい。今英美里がいったように、とんでもない先見の明があり、あるいは未来が見えていたのではないかと言われるほどに。

 

 その先見の明を使って創始者は、戦後の混乱の中からいちはやく財を築き上げ、復興中の日本の経済に深く深く食い込んだ。更にいち早く海外に目を向け、現代のインターネットであったりパソコンやスマホなどの生活に欠かせないレベルになっている技術群の開発にも投資して、そこから利益も得ている。

 

 そんなものを山程抱えた結果とんでもない資産があるのだが、その金を全部競馬にぶっこむと決めたのが創始者の頭おかしいポイントその1である。いやもちろん他にも様々なことに出資していたのだが、そちらはあくまで利益が出ると見込んでのことであって、競馬に関してはまるで趣味でコレクションをするようなノリで馬を飼い競馬に関わる人員を雇い、そのための街すら作ってしまったというのがとんでもないのだ。しかもそこから利益を出すつもりが一切ないし、実際出費ばかりだと聞く。

 

 そして頭おかしいポイントその2は、大金を利益度外視でつぎ込むほど競馬が好きなくせに、自分の馬でレースに勝ちたいとまったく考えていなかったことである。

 

 創始者の作った巨大牧場と街の目的は、競馬界のバックアップ、とあとついでに馬と生きる街の保存である。そのための方法はいくつかあるが、端的に言えば、『他の人達が心置きなく強い馬を作ることに専念出来るように、それ以外のサポートをする』ことを目的として作られた牧場とそれに隣接する競馬場などの設備、そして街だ。

 

 そのため、この牧場、この街では血統的に優れた馬を数多く繁殖させることは無いし、繁殖させた馬も中央のセリなどに出すことは基本的に無い。そういうのは全部他の馬主や牧場がやってくれるから、と創始者は言っていたようだ。

 

 ここで生まれた馬は、地方競馬を盛り上げるために走りそうな場合や親が有名馬で子が走るだけで話題になるような場合は地方へと格安で販売され、それ以外の主流から外れた血統を保護するために飼われている場合は、街の競馬場でレースを経験させつつ、能力などを測ってその後の繁殖を判断していくことになる。一般的な興行という意味での競馬は全くやっていないと言っても良い。

 

 シンプルに考えて意味がわからない。どれだけ創始者は金に余裕があったんだと言いたくなる。今の中央の大馬主や有力な牧場だって、レースの賞金であったり種付料なんかで稼ぐことで競馬を続けているというのに。

 

 まあそれだけの金があったからこそ、金が無ければ出来ない下支えをやろうと思えたのかもしれないが。

 

「けど羨ましいな」

「はい?」

「どんなスポーツでも、ここの牧場みたいに利益無視で金を出してもらえたら発展しやすいだろうなって思ってな」

「ああ……確かにそうですね。今はプロだけが十分なお金を貰ってるスポーツが多いですけど、アマチュアとか学生でもお金を貰ってスポーツに専念出来たらレベルは上がりますよね」

 

 英美里も優秀なので、俺が細かく説明する前に言いたいことを理解してくれる。それにしても、口にしてみて思ったが、そういうのに金を使うのもありだな。少し考えてみるか。

 

 一瞬思考に沈みかけたが、すぐに英美里が話しかけてきたので考えるのは後に回すことにした。

 

「司さんの買った馬はどういう馬なんですか?」

「親と子どっちだ?」

「両方です」

 

 牧場を案内してもらったという英美里だが、牧場の存在理由等について聞く方が多く、個々の馬の体つきの見方や血統というものについて聞く時間はあまり無かったらしい。まあそれ自体を仕事としている人がいるような内容だし、1日でどうこうなるものでもないので当然と言えば当然だが。

 

「血統の話してわかるか?」

「すいません、まだあんまり。名前がわかってもいまいち凄さがわからなかったりします」

「ん、じゃあまあその当たりは後で血統表見て勉強してもらうとして」

 

 そう言うと嫌そうな顔をするが、今後の馬主業に付き合ってもらうためにも覚えていって貰わなければならない。まあ頑張ってくれや。

 

「俺からのヒカリ、親父の方の印象の話をまずはしよう」

「かっこいい、とか?」

「まあそういうのもあるけど。最初は、あれだな。俺があいつが生まれる瞬間に立ち会った時の話だ」

「え!? 生まれる時見たんですか!? というか何歳ですかあの馬」

「24だ。俺が15の頃、中学3年生で手伝いに来てたときにな。生まれるのを見た」

 

 俺が馬主として初めて所有した馬、ヒカリ。俺が競走馬を走らせるための繁殖のために今回彼の妻と子も俺の所有となったが、ヒカリだけは、彼を買い飼うのに十分な金が稼げた時点で牧場から買取、改めて預託するという形を取って俺の所有馬という形にしていた。馬主資格を取らずとも、レースに出さなければ問題はないのだ。

 

 今あえてヒカリの両親や血統について語ることはするまい。

 

 俺がそんなところをすっ飛ばして、ヒカリという馬に一目惚れをしていたからだ。後から血統を見て、こいつが、そしてこいつの子供が走ったら面白いと思ったのは事実だが、それは始まりではないのだ。

 

「生命の神秘とか感動とか言うのは簡単だが、当時はそんな表現も思いつかなくてな。ただただ圧倒された。すげえってなった。この街で生まれててなんだが、真面目に馬に惚れたのはあの時が初めてだと思う」

「それまでは好きじゃなかったんですか?」

「嫌いだったわけじゃないが、まあ入れ込みもしないぐらいだな。仕事としてなら普通に関わるしかわいいとも思うけど、程度だ」

「推しみたいな?」

「あー、そっちの表現でいうと……それまではなんとなく面白いな程度だったのが推しになった感じかな」

 

 そう言えば英美里はオタクだったな、と彼女の発言で思い出す。俺も高校まではそういう趣味があったので言いたいことはなんとなくわかった。時間があれば今のアニメとかラノベも見たいんだけどな。

 

「言いたいことはわかりました」

「まあそれで、その後は俺はよその高校に進学したけど暇を見ては会いに来たりしたな。本当はうちで引き取りたかったけど俺は外部進学決めてたしうちには他の馬がいたから無理だったけど」

「え? 好きになったのって仔馬の時ですか? 成長してからじゃなくて?」

「生まれた瞬間からだよ。体つきが良いとか足が早そうとかは全く考えなかった。いやなんとなくそう感じてたのかも知れないけどな。当時そんなことは全く考えなかった。今考えても不思議なんだけど、本当に一目惚れっていうのがあってると思う」

 

 見た瞬間に惹かれて、何度考えても思い出してしまう。これを一目惚れと呼ばずしてなんと呼ぶのか。

 

「それで向こうも懐いてくれたって感じですか」

「多分な。厩務員とか農高の学生よりも会う回数は少なかっただろうけど、見に来たら近づいてきてくれてなあ。俺もそんとき進路とか悩んでたの、話してもわからないからちょうどいいと思って長々と話したし。そしたらあいつ、わかってないだろうに凄い寄り添ってくれてるみたいなことするんだよな」

「へえー。馬ってどの程度賢いんですか? 犬とか猫は人の感情をある程度わかってたりするらしいですけど。実家の猫ちゃんも疲れてたら顔ペロペロしてくれるんですよ」

「ある程度わかってはいるらしい。俺も詳しくは知らないけど、自分の面倒を見てくれてる人間が不機嫌になってるときに呟いてる他の馬の名前を聞いたら嫌がる馬もいるらしいし」

「あ、それメイショウドトウですよね。それはネットで見たことありますよ」

「そんな感じで、アメリカに渡るまでは結構交流してたな」

「今日会ったのはそれ以来ってことですか? ずっと日本には帰ってきてなかったんですよね?」

「いや、帰って来てはいたよ。オフにCMの撮影とか番組の出演とか一気に詰めてもらって、短期間帰ってきて集中的にこなしてた。まあそのときは北海道には来てなかったから会ってはいないけど。会ったのは本契約取れたとき以来だな。あのときはまっさきにあいつに報告に来た。今でも覚えてるな」

 

 懐かしい。もう15年以上前の話だ。街で暮らしてそのまま農業や牧畜、あるいは馬産など街の職業に進むのではなく、街の外の進学校に通って他の道を目指すためと進んだ先の都会の学校で、俺はバスケットにどはまりしてしまった。

 

 いやほんとに。まじで。経済系とか法学系、あるいは獣医とか医者とか研究者とか。そういう方向に進んでいずれは街の役に立つか、頭が良かったからブレーンになる予定だったのにね。気がついたらバスケにありえないぐらいはまってた。俺の人生大事なところは全部一目惚れで出来てる気がする。

 

 そしてそのまま大学に進学し、その段階ではすでにバスケに全力で取り組んでみたいと考えていたので、勉強をこなしつつもバイトで得た金をFXや株などで増やし、大学4年間を体つくりと基礎能力向上にあてたあとは渡米してバスケに打ち込んだ。

 

 当時の学生仲間には『頭おかしい』『行動力暴走中』などと散々に言われたものだが俺は至って真剣だったので、バスケに全力で取り組む間はバスケとそこから派生するCM業など以外は全てシャットアウトしたのだ。ラノベなどのサブカル系の趣味も完全に断ったし、故郷にも帰らなかった。CMの撮影や番組の出演だって、オフの短期間で一気に済まして、その後はアメリカに戻ってバスケに打ち込んだ。それをするために雑多なことを任せるために雇ったのがかつての高校の親友であり、今の英美里でもある。

 

 そんな中唯一故郷に帰ってきたのが、アメリカバスケの下部リーグからトップリーグに上がれたときだ。あのときはバスケで生きていけることが決まって嬉しくなり、そしてそこからもバスケに少なくとも35歳までの人生を費やす覚悟を決めて、それをヒカリに話すために会いに来た。

 

「それでそのときに、あいつの子供を俺が馬主になって走らせてやる、って約束したんだ。もともとなんの職業につくにしろそうするつもりだったけどな」

「はあ……本当に惚れ込んでたんですね。だから彼女さんいないんですか?」

「うるせ。彼女は元々作る気が無かっただけじゃ。それにそういう意味で惚れ込んだわけじゃねえから。馬のオスと人間の男の組み合わせはいくらなんでも業が深すぎるだろ」

「そういう意味じゃないですからね!?」

 

 期待通りの反応を返してくれるのでつい笑ってしまう。

 

「彼女に関しては、本当に考えてないよ。考えられない。そういう思考回路が多分無くなってる」

「高校とか大学で恋愛しなかったんですか?」

「したけど振られた。高校のとき。それ以来頭の中バスケに全振りしてたから、今更女性とそういう意味で交流するとか考えないな。今この段階から出会って会話して互いのことをだんだん知っていってこの人となら家庭を築けるっていう判断をするまでの流れがめんどくさい」

「市宮さんチームの人とは話せる癖に人見知りですもんね」

「共通の話題があるかどうかは大事だろぉ? ディスカッションなら誰とでもいくらでもしてやるよ」

 

 最初は遠慮のあった英美里も、俺と親友の会話を1年近く見続けたことでこういう軽口を叩けるようになっている。

 

「仔馬の方は……うん。今日始めてみたけど、俺は好きだな。多分良く走ってくれる」

「強そうですか?」

「馬体の評価とか素質みたいなのは俺はまだ良くわからないけど。俺の勘が正しかったら、多分強く走ってくれるよ。それに多分レースを楽しんでくれる」

「勘ですか?」

「勘です」

 

 勘というのも馬鹿には出来ない。それまでの経験と記憶が極限状態で最適解を導き出したり、無意識の選択の裏には積み重ねた経験があって、適当ではない選択を選ばせたりする。まあ馬に関して俺にそれが当てはまるかはしらんけど。

 

「やっぱり仔馬によって違いがわかるものですか?」

「馬体とかの知識は正直俺には無いよ。あとあんまりそこで判断したくないから詳しく知るつもりもない。でもぱっと見たときに、走るの好きそうだな、とか、走って欲しいな、とか、あこいつ走る気ないな、とかはなんとなく感じたりはする。実際あってるかはわからないけどね」

「オカルトチックですね」

「野生の勘とかそういうのじゃない?」

「あんた野生ですか」

「コートの上の選手なんてみんないくらか野生だろ」

 

 今思い出しても、あの仔馬は気に入った。牧場にいたときはヒカリばっかり見ていたが、うん。

 

 ヒカリのような一目惚れではない。けれど、走って欲しいと期待するぐらいには、好きになった。

 

「ここですね」

「よし。腹いっぱい食うぞぉ」

 

 夕食に予約していた店につき、駐車場に車を止める。

 

 今日のように外出した日は、そのついでに多少贅沢をして外食することにしている。というか、バスケをやっていた頃が修行僧というか、食事を完全にエネルギー補給だけに振り切っていたので、こうして定期的に贅沢に美味しい食事をすることにしているのだ。今日は街で育った牛や豚の肉を提供する焼肉屋へと来ている。

 

「今日もごちそうになります」

「おう、ごちそうになってくれ」

 

 ついでに、競馬の話をもっとしてやろう。そう内心ほくそ笑みながら、店の暖簾をくぐった。 

【取り直し】   現在書いているアフターザライトが本作の馬主の方の主人公の第一世代の馬になり、それ以降の世代に何頭も馬が登場していくことになります。馬主の持ち馬は全て架空馬です。 そのアフターザライトのデビュー年を何年にするかをアンケート取ります。デビューは2歳なので、デビュー年の翌年のクラシック世代に割り込んでいきます(勝つかは未定)。これによって史実馬の勝鞍が変わります

  • 2歳で2014年デビュー
  • 2歳で2015年デビュー
  • 2歳で2016年デビュー
  • 2歳で2017年デビュー
  • 2歳で2018年デビュー
  • 2歳で2019年デビュー
  • 2歳で2020年デビュー
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