妖怪の山は幻想郷の北部の果てに存在する巨大で鬼のような山である。
いや。鬼が出るからこそ、鬼のような山なのかもしれない。
少なくとも、その山に立ち入ろうとする人間はほんの一握りであり、普通の人が立ち入ったのならば死が待っているのみである。
しかし、この山は幻想郷の社会の原動力でもある。
山に居を構える天狗の記者<射命丸文>は人里に上質な情報を届けている。
無知は力である。まさにそのとおりかもしれない。
彼女の新聞はそのほとんどが読まれずに別の目的に使用されているのである。
だが、それ以上に人々が驚いたことは彼女に弟がいたことであろう。
しかし、その衝撃は一瞬のものであった。
もしかしたら、この場所の特徴に比べればそれは普通のことなのかもしれない。
射命丸優は鬼のような山々の上を飛んでいた。
地上ではそれを射命丸文が見守っている。
「どうにか飛べt ぎゃああああ!」
落下する優を見て文はため息をついた。
「いつになったらあの子は飛べるのかしら・・・」
そういって、文は墜落地点に駆けつけていった。
鵜天狗というのはほとんどの場合飛んで移動している。
しかし、幼い優はまだ飛べないのである。
天狗にとって、飛ぶというのは最も普遍的な動作であり、それができないというのは最も致命的であるのだ。
「大丈夫?」
「うん・・・」
優は文の手を取り、どうにか立ち上がった。
文は優の能力を決めつけてはいないし、そうであってはいけないと考えている。
だからこそ、優が飛べるその時になるまで待っているのだ。
何も言わず、優は再び飛び始めた。
それは子供なりの意地であった。
しばらくして、優は地面に足をつけた。
それもゆっくりと、完璧に。
その瞬間を見た文はしばらくの間、言葉の引き出しをすべて探り、その状況を言い表すために時間を要した。
そう。初めて優が完璧に空を飛んだのだ。
「お姉ちゃん大丈夫?」
文が自らの脳のリソースの全てを言葉探しに使っていると、優が文のスカートを軽く引っ張っていた。
「うん? ああ。そろそろ帰ろう。」
「うん。」
文は優の手を引っ張り、その場を後にした。
帰るまでの間、文は何も言うことができなかった。
二人の家まではそれなりに遠い。
二人は山道を歩きながら話していた。
「ねえ。お姉ちゃん。今日は何して遊ぼうか?」
「うーん。そうだね。じゃあ、私と一緒に新聞を作ろうよ。」
「うん!」
優はその提案を聞いてとても喜んだようだ。
「でも、まずは帰ってからだよ。」
「わかった!」