ネオンライトに照らされた夜の街。
星空を突かんばかりに伸びた高層ビル街の一画にある、とある企業ビルの裏口。
そこに、対魔忍スーツに着替えた私はいました。
「さて、任務……頑張りましょうか」
最終確認として、携帯した刀と、ぴったり張り付くスーツにそっと触れます。
はい、装備に問題はなさそうです。
いやまぁ格好はヤバめですが。
(この服も……長らく着ていたら、恥ずかしいと思わなくなりましたね……)
今の私は、灰色を基調とし紫色の線で飾られた対魔忍スーツを着ています。
ちなみにハイレグで、その上フリルが腰の左右に付けられ股間部を強調していました。
手足の部分は長めの手袋とハイニーソといった具合に分割されており、太ももと肩が露出しています。
身体のラインもくっきり出て、胸やお尻も服の上から分かる始末。
なんともフェチというか、女性的魅力を押し出しているというか……。
それでも装備としてはとことん優秀なので、私も愛用させてもらっているのですが。
「まぁ……これも対魔忍の宿命ということで……」
逸れた思考を切り替えて、任務に臨みます。
まずは潜入から。
私は裏口のドアノブに手をかけます。
さて、情報どおりであればこのドアは解錠済み。
かつセキュリティも解除されているとのことですが……。
「ふむ……上手くいっているようですね」
扉はすんなりと開きました。
私はそのまま、音を立てないようにビルに侵入します。
そこに広がるのは、蛍光灯に照らされた白い廊下。
清掃が行き届いているのか、築年数が短いのか、内装は清潔そのもの。
そんな廊下の先に、ひとり。少女の影がありました。
「お疲れさま。時間通りね」
「……潜入、お疲れさまです」
さっそく敵に見つかった……のではありません。
目の前にいる少女は、任務のために先行して潜入していた対魔忍の仲間です。
彼女の名前は
私より上の学年で、学生でありながら何度も任務に参加してきた凄腕の先輩対魔忍です。
繚花先輩は潜入中のため対魔忍スーツではなくかっちりとしたビジネススーツ姿でした。
それは彼女の容姿――橙色の長髪に、切れ長の目をした、グラマラスな美女といった姿も相まって、美人OLのように見えます。
「打ち合わせどおり、解錠してくださりありがとうございます。
先輩のおかげで、侵入で楽ができました」
「いいわよそんなこと。それが私の仕事なんだし。
それより、任務の話をしましょ」
先輩は微笑みを浮かべ、私の方へ歩いてきます。
それから橙髪の対魔忍は懐からタブレット端末を取り出しました。
「今回の任務目標は、『この企業の社長が魔族と繋がっている証拠を押さえること』。
あなたは、社長室に忍び込んでPCからデータを抜き取ってもらうわ」
話を聞きながら、繚花先輩の持つ端末を覗き込みます。
彼女は私に見やすいように画面の位置を調整してくれました。
「かしこまりました。作戦は変わりなく?」
「ええ、先にあなたに送った作戦のままで問題ないわ」
私はこのビルに潜入する前に、先に潜入していた彼女から資料をもらっていました。
目当てのPCが置かれた社長室の位置、そこに至るまでのルート、警備の規模と配置、などなど。
そして資料の中には、任務達成のための作戦も記されていました。
今回の作戦は至ってシンプルです。
繚花先輩がセキュリティを落とし、私がその隙にデータを盗んで帰ってくる。
それだけです。
……頭対魔忍と思われたでしょうか?
確かにパワープレイ感は否めませんが、これでも頭は使っていますし、手間もかかっています。
というのも目の前の彼女。
繚花先輩はかなり前からこの企業に従業員として潜入しています。
それは、ビル内の構造や警備などの情報を集め、内部工作をするため。
従業員に擬態している彼女なら、社内のいろんな所に入り込み、怪しまれずに工作を行えます。
なかなかにいい塩梅の作戦ではないでしょうか?
まぁ実行する私がめちゃくちゃ頑張ってスニーキングしなければいけないのですが。
「道中のナビゲートとかのサポートは私がやるから、安心して進んで」
そう言って、橙髪の対魔忍は軽く自分の胸を叩きます。
彼女の豊かな胸がぷるんと揺れました。
「……えぇ、頼みました。私は隠密して盗んできますので」
「心強いわ。それじゃ、お互いベストを尽くしましょ」
その言葉を最後に、彼女は音もなく消えていきました。
どうやら、持ち場に向かったようです。
「彼女はセキュリティを落としに行きましたね……。
では私も、張り切って行きましょうか……」
手のひらを握って気合を入れます。
そうしてやる気を漲らせ、私は廊下を進んでいきました。
◆◆◆◆◆
ビルを駆け上がること数分。
私は何事もなく、社長室のあるフロアに到達していました。
(ここまでは完璧、ですね)
特に危ない場面もなく、簡単に来ることができました。
セキュリティが機能していないのがいいですね。とても楽です。
「……最終フロアに着きました」
対魔忍スーツに仕込んだ極小の通信機器に、小さな声で報告します。
それからしばらくすると、通信機からあの橙髪の対魔忍の声がしました。
『あと少しね。さすがは市蓮家のお嬢様』
「まぁ……落ち目とはいえ名家なので……」
私を嫁という名のメス奴隷として、一年後に差し出そうとしている実家を出されると、素直に喜びづらいのですが……。
純粋に褒めているらしいので、どうにかそれっぽく返してみます。
「……ここのセキュリティは切れていますか?」
話題を変える目的も込みで、通信機越しに聞いてみます。
『ええ、完璧よ。このまま安心して進んでね』
「安心……いえ、注意はしておきます。
ここでしくじって、台無しにしたくはありませんから」
『そう。気にしなくていいのに』
「…………?」
変なことを言うなぁ、なんて思いつつ、私は進みます。
さっさとデータを盗んで、さっさと帰るとしましょう。
一歩、二歩、三歩と、音を殺して廊下を歩きます。
何事もなく、安全に。
私はどんどんと、社長室に近づいていきます。
そうしてまた床を踏んだ、瞬間。
私の背骨に、ぞくりと悪寒が走りました。
「――――っ!?」
とっさに腰にさした刀を抜き、背後を斬ります。
すると甲高い金属音がいくつか鳴り、私の手に何かを弾いた感触が走りました。
「……針?」
視線を落とせば、そこには針が数本落ちていました。
それから視線を上げれば、天井から銃口に似た機械のアームが映ります。
この針は、そこから私目がけて発射されたようでした。
「……聞こえますか、結々楽です。応答願います」
『なに、どうしたの?』
「おそらく罠にかかりました。セキュリティは本当に切れていますか」
確かめる術はありませんが、たぶんセンサーに引っかかりました。
予定では、彼女が遮断する手はずでしたが……。
『うそ、さっき切ったはずよ?
もしかしたら全部切れてなかったのかも、ごめん』
「…………いえ」
通信機から聞こえた先輩の声は、どこか間の抜けたように感じました。
色々と質問したいですが……今はそれどころではありません。
「作戦変更です。こちらに警備兵が集まってきています。
このまま正面突破し、データを入手します」
前方から、武装した警備兵が近づいてきます。
防護服に銃火器を装備した男に、肩から銃身が生えているサイボーグ兵もいますね。
ソイツらが侵入者である私に敵意と銃口を向けてきます。
『分かった。健闘を祈るわ』
どこか他人事のような、彼女の声。
それを最後に、通信は切れました。
「……ままなりませんね、何事も」
ため息をついて、刀を構えます。
それと同時に、警備兵の銃が一斉に火を噴きました。
「シッ」
勢いよく横に飛び、そのまま
遅れて、銃弾が空を切り床を抉る音がしました。
「……遅いです」
壁から天井に飛び移り、思い切り天井を蹴って警備兵たちに襲いかかります。
警備兵たちは急いで銃口を上に向けようとしますが、そのときにはもう、私は床にいました。
「まずは4人」
刃が煌めき、警備兵のうち前の方にいた4人の首が宙を舞いました。
そのまま身を低くし、未だ対応しきれていない警備兵たちの足元をくぐり抜けます。
そのついでに、彼らの足も斬っておきました。
「――ッ!?」
生き残った3人の警備兵が、驚愕したような様子を見せました。
それもそうでしょう。彼らからすればいきなり同僚4人の首が飛び、自分たちの足も切れて気づいたら倒れていたのですから。
「スタン取られたら、死、です」
転がる3人の警備兵に、刀を振るいます。
一閃。刈り取るような刃の軌道は、3つの首を薙ぎ、その生命活動を断ち切りました。
「ひとまず、片づきましたか……」
警備兵が動かないことを確認し、刀身に付いた血だかオイルだかを拭います。
日々、真面目に訓練しておいて助かりました。
でなければここで蜂の巣にされるか、捕らえられて犯されていたでしょうから。
「さてと……進みましょうか」
次々と敵が集まってきている気配を感じ取り、私は柄を握り直します。
そして極力交戦を避けるようにして、奥へと歩を進めました。
◆◆◆◆◆
現れる警備兵を斬り伏せ、罠を避けて、私は目的地である社長室に迫ります。
「あとはここを曲がって……」
「GIAAAAAAAAAAッ!!」
「うるさいですよ」
横から襲ってきた警備ドローンを両断し、角に出ます。
ここを曲がればあと少し。
任務達成は目前です。
そうして角を曲がると、廊下の先に人影がありました。
また警備兵か。そう思い踏み込もうとして――――
「……ッ!」
私は急いでブレーキをかけます。
(……突っ込んでいたら、斬られてましたね)
微かに感じ取った死の気配と重圧に、私は足を止めました。
そして、それらを放つ人影に、視線を向けます。
「ぎゃはは! お前が侵入者の対魔忍か!
可愛らしいお嬢ちゃんじゃないか!」
視線の先にいるのは、私と同じ歳くらいの男でした。
明るい茶髪に、ガラの悪い目つきの、男です。
ソイツは白いシャツに黒いズボン、それから黒いスーツを前開きにして着崩し、腰には刀を一本さしていました。
「……警備兵、とは雰囲気が違いますね。傭兵かなにかですか?」
「おっと察しがいいなぁ。
お嬢ちゃんの言うとおりオレは傭兵。ここの社長さんに雇われた用心棒だ」
用心棒の男はそう言って、私に品定めするような目線を向けます。
「相変わらず対魔忍は痴女みたいっていうか、エロい身体つきしてんな。
お嬢ちゃん、めちゃくちゃモテるだろ?」
「……下卑た連中には、不思議と好かれますね」
「ぎゃはは! 心中お察しだぁ!」
なにが面白いのか、男は腹を抱えて粗野な笑い声を上げます。
いきなりセクハラまがいのことを言われて、私は面白くありません。
「……そこを退いてください。
私は、あなたに用はありません」
「オレはお前に用があるんだよ。
警備が今の仕事なんでなぁ!」
相手取るのは面倒なので退くように言いましたが、無駄なようでした。
男はこれまた粗暴な笑みを見せ、腰にさした刀に手をかけます。
「ちゃんと仕事したら、金、酒、飯、女、色々くれるって言われたからよ。
悪いが対魔忍のお嬢ちゃんにはお帰り願おうか」
「……そうはいきません。私とてお仕事です」
「じゃあ仕方ないよなぁ」
男が剣を抜き、私は構えを取ります。
一触即発。私と彼の間に、張り詰めた沈黙が流れました。
「……!」
先に仕掛けたのは、私でした。
一息に距離を詰め、男に向けて刃を振るいます。
「ぎゃはぁ! 迷いがないなぁ!」
「ちっ……受けますか」
小手調べと放った斬撃は、難なく受けられてしまいます。
私は返す刀で仕留めようとしますが、それより速く、男の剣が走りました。
(ッ、重い……!)
振り下ろされる刃を止めて、私は後退します。
あのまま切り合うのは危険と判断しての行動でした。
男の一撃は、重かった。
下手に受けたら刀が持っていかれるでしょう。
まったく、嫌になります。
「ぎゃはははは! どうしたどうした対魔忍!」
品のない声を響かせて、男が肉薄してきました。
私は彼からの攻撃を極力避けつつ、その太刀筋を観察します。
それは、明らかに我流の剣。
ですが型なしの無闇で下手くそな剣というわけでもありません。
ただ敵を倒すために精練された独自の剣技は脅威でした。
(こんな、5秒で死ぬ雑魚みたいな言動のヤツに、苦戦したくはないのですが……!)
相対する男は、嫌に強いです。
なんで強いのですか。そこはかませ犬であってくださいよ。
「このままオレの酒代とリフレ代になりな!
女の子に添い寝してもらうためのなぁ!」
「性行為とかしないんですか……?
いやあなたの趣味なんてどうでもいいんですが……!」
言っている場合ではないと、攻撃をいなして刀を鞘に収めます。
そのまま重心を低くし、狙いをつけて……。
「蓮刃流、居合 “
首を断ち切らんと振るう、目にも留まらぬ斬撃。
その高速の居合を、私は男に対して放ちます。
「ぎゃぁあああ!?危ねぇぇ!?」
男が目を見開き悲鳴を上げます。
ですが私の手に、肉を切る感触はありませんでした。
(……受けやがりましたか!)
手に金属を殴った感触を、耳に鋼のかち合う音を覚え、私は舌打ちします。
こいつ、この速さでも普通に追いついてきますか……!
「初めて見る型だなぁ! 逸刀流とも真剣流とも違う!
さっきのはかなりヒヤヒヤしたぜ!」
「だったら斬られて欲しかったですね……!」
居合をやめて斬りかかりますが、用心棒に切っ先は届きません。
男の攻撃がこちらに当たることもありませんが、長引けばどうか。
(まだ警備兵が来ることを考慮して……持久戦は不利ですね)
ちんたらやってる暇はないと、私は勝負に出ることにしました。
「あぁ、なんだ? また距離取りやがって……」
「これで斬ります」
敵を真っ直ぐに見据え、足に力を溜めます。
最高速で一気に攻めるつもりか――男もそう判断したのか、迎撃の構えを取りました。
「……いきます!」
溜めた足を解き放ち、加速。
真正面から、私は突っ込もうとします。
「ぎゃはは! 確かに速いが……まだ見えるなぁ!」
しっかりと私の動きを目で捉え、男はカウンターを決めようとします。
それに合わせて私は、片手に
「っ!?」
男は驚愕し、焦った様子でクナイを叩き落します。
その反応速度は大したものでしたが、それでは迫る私に対応できません。
「おいおいマジかよ!」
「お忘れですか? 対魔忍は忍びですよ!」
陽動のクナイ、本命の私。
一手遅れた男が急いで避けようとしますが、それより先に私は袈裟懸けに斬りました。
「いぎゃっ!? この……ッ!」
右肩深くを切っ先が裂き、その痛みに男は顔を歪めます。
ですが、まだ浅い。まだ息の根を止められていない。
「死んで、ください!!」
男は反撃しようとしますが、私はそれを無視しました。
肩を負傷し剣を握る右腕の動きが鈍っています。
これでは、男は私に追いつけない。
「らあぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
叫び声を上げ、更に一歩踏み込む。
勢いのままに、両手で握った刀を目の前の敵に向けて。
私は――男の胸に深々と、刃を突き刺し、貫きました。
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