最初に感じたのは、やったという確信。
次に感じたのは微かな違和感でした。
(……おかしいです)
用心棒の男を貫いた感触が、なにか変です。
なにが、というのは分かりません。
ただ、肉を刺し心臓を貫いた感じが、いつもと違う気がしました。
(というか、なんですかこいつ……)
視線を刀が突き刺さった胸部から、上に移します。
(――――なんで死んでないんですか!)
男の目には、まだ生者の光が灯ったまま。
一瞬たじろぐ私に、男は吐血しその口を歪めます。
「ぎゃははは! 今のは効いた!
オレじゃなけりゃ即死だなぁ!」
言うな否や、男は呆ける私に刀を振るいました。
「くっ……!」
気を持ち直し、バックステップで迫る攻撃を回避します。
その際、力任せに刺した刀を引き抜いてやりましたが……男はやはり、生きているようでした。
「痛ってぇ……! 胸に穴が空いてやがる」
どぷどぷと傷口から鮮血を溢す男。
眉間に皺を寄せた彼が、手でそっと傷を撫でます。
「よぉし塞がった!」
「……嘘でしょう?」
思わず声が出ましたが、残念ながら嘘でもなんでもありません。
未だ白いシャツは血まみれですが、これ以上赤く染まりはしませんでした。
本当に、傷口が塞がっています。
(再生能力……? 確かに、魔族を筆頭にはそういった能力を持った者もいますが……)
この男がその類? あるいはなにかの術や能力を使った?
色々な考えが浮かびましたが、確信には至りません。
えぇい、私も一応は転生者なのに……なんかこう、役に立つ原作知識とかないですかね……!
「アンタ、強いな。名前を聞いてもいいかぁ?」
「……対魔忍、市蓮結々楽。あなたは?」
「オレは
聞き覚えがないかと思い聞いてみましたが、知らない名前でした。
外見に見覚えがないんだから知っているはずもないのですが。
さてどうするか。
そう考えていると、トウカと名乗った男が間合いを詰めてきました。
「ぎゃははぁ! 再開だおらぁ!」
「この……!」
死ななかったトリックを考えている暇はないようです。
私は意識を切り替え、剣戟に対応します。
「っ」
左腕に鋭い痛みが走りました。
どうやら浅く斬られてしまったようです。
ですがこんなものはかすり傷。気にせず反撃しようとします。
「……は?」
しようとして、気づきます。
左腕の痛みが浅く斬られたにしては重く、左手が動かしにくい。
何事かと傷の具合を確認して、私を目を疑いました。
(腕が折れて……!?)
左腕の骨の片方、尺骨がへし折れていました。
普通、ちょっと斬られてもこうはなりません。
「気づいたみたいだな対魔忍!
オレの剣には当たんないほうがいいぜぇ!」
この男がなにかしていると、確信しました。
ただ、確信したところでタネは割れません。
確かなのは、攻撃を受けてはいけないということ。
ですがそれが分かったところで、全部回避できるわけでは――!
「ぐぅ……! よく分からない能力を……!」
私の身体に無数のかすり傷が走ります。
それ自体は気に留めるようなことではありませんが、問題は男の能力です。
刃が掠った太ももは傷口を中心に大きくえぐれ、左肩は骨が砕け、横腹は肉がめくれ、右足は神経がちぎれたように痛みます。
例えば、ふうま亜希の邪眼“死裂”のように傷口を引き裂かれているのでしょうか?
ですがそれでは、自分の傷を直したり、胸を貫かれても生きていることを説明できません。
おそらくは別物。
であれば、考えたところで意味はありません。
(今、私がすべきは――――こいつをぶち殺すこと!)
そう判断して、私は覚悟を決めます。
「負傷、上等……ぶち殺しますッ!」
自らを鼓舞し、男の斬撃も構わず突撃します。
その反撃に突き出された刀身が肩をかすめ、ねじ切れるような痛みがしました。
が、それは歯を食いしばり無視します。
「あぁ!? お前止まらないのか!?」
怯まず懐に潜り込み、刃を一閃。
真横に走った斬撃は、男の胴体を深々と捉えました。
(胴を両断……できてません!
背骨と背筋が斬れませんでしたか!)
男は上手く受けたようで、真っ二つとはいきませんでした。
通常であればこれでも十分に致命傷ですが、この男に限ればまだ不十分。
私は急ぎ刀を両手で持ち、切り上げます。
「ぐぎゃぁあ!?」
今度は縦に、男の腹から胸を切り裂きます。
傷口が綺麗な十文字を描き、どばっと血液が飛び散り私に降りかかりました。
「……まだ生きてるんですか!」
腸やら肺やら心臓やらを斬ったはずですが、男はまだ絶命しません。
それどころか深手を負った身体で、私を攻撃しようとしています。
「そう簡単に死なないぜ!
お前がぶっ倒れな! 対魔忍!」
いったいどうやれば死ぬのか。
まさかこいつは紫先生みたいに不死身なのか。
あまりのしぶとさに気持ちが揺らぎかけました。
ですが、それも一瞬のこと。
解決法がすぐに頭に浮かんだからです。
「なんで死なないのかは不明ですが……死ぬまで斬ればいつか死ぬでしょう!!」
まずはバラバラにすることを目標としましょう。
それでも死なないなら、もっとバラバラにしてやります。
猿叫を上げて、刀を振りかぶります。
そのまま男を脳天から爪先までたたっ斬って――――
――――トスッ。
私の背中に、何かが刺さりました。
「ッ!?」
完全に意識の外からの一撃。
それを受けた瞬間、何故か全身から力が抜け、私はその場に倒れてしまいます。
「あ? なんだよお前」
たった今斬り合っていた男が眉をひそめ、怪訝な声を出します。
ですがその声は私に向けたものではなく、
「お疲れさま、市蓮結々楽」
「あなた、は……! 繚花、先輩……?」
どうにか首だけで振り返れば、そこには橙色の髪の対魔忍――屋田間繚花がいました。
「……どうして、ここに……?」
何故かこの場にいる彼女に、そう問いかけます。
いえ、本当は聞くまでもなく答えは分かるのです。
だって彼女の手には麻酔銃が握られているのですから。
「後ろから麻酔で無力化だぁ? おいおいなんだ仲間割れかよ?」
「その答えは、『ご主人さま』がお聞かせくださるわ」
困惑する私と、どこか冷めた目つきの男の質問に、繚花先輩は虚ろな笑みを浮かべます。
それから彼女はおもむろにタブレット端末を取り出し、画面を操作し始めました。
『はっはっは。具合いはどうかね対魔忍ちゃん』
タブレット端末から男の声がしました。
橙髪の少女が画面をこちらに向ければ、液晶に映る太ったスーツ姿の男が見えました。
その男の顔を、私は知っています。
やつは、今私が忍び込んでいる企業の社長。
魔族との関わりが疑われている男です。
「チッ、社長さんの手引かよ」
用心棒の男は気分が萎えたのか、武器を納めました。
「クソ……嵌められ、ましたか……!」
『二重の意味でねぇ。もちろんキミもハメてあげるけど』
タブレット越しに社長は、好色な目つきで私を舐め回すように見てきます。
その視線を感じるだけで、気色悪さに怖気が走りました。
『残念だったねぇ、対魔忍ちゃん……あぁ、結々楽ちゃんだったかな?
キミのお仲間はとっくに私の従順な性奴隷になっていてねぇ』
「全部……仕組まれていたのですね……!」
あのときセキュリティが切れていなかったのは、ミスではなくわざと。
屋田間繚花は最初からこのつもりでいたのでしょう。
それに気づかず私はまんまとおびき出されて、罠にかかってしまったようです。
「一応聞きますが……何故、裏切ったのですか……?」
「だって、ご主人さまが気持ちよくしてくれるって言うから……」
少女対魔忍の答えを聞いて、彼女になにがあったのかを察しました。
あぁ、クソ。この世界は対魔忍ですもんね……!
『はっはっは。いくら対魔忍といえど所詮は女。
私のモノで突いて屈服させてやったとも』
「……あなたみたいな、脂ぎったデブのテクで……ですか?
ハッ……さぞセックスにお自信がある……いえ、腰を振るしか脳がない猿らしいと言えば、納得ですかね……」
腹が立ったので思いつく限りの罵倒をしてやります。
今まで静観をきめていた用心棒の男が吹き出すのが聞こえました。
『……威勢がいい女だ。
まぁこの女もそうだったがねぇ』
社長は顔をひくつかせたものの、すぐに冷静さを取り戻し、なにかの合図をしました。
すると、繚花先輩の胸元からグロテスクな肉の塊が現れます。
『繚花ちゃんもはじめは抵抗し、私を馬鹿にしてきたねぇ。
だが、この肉塊を埋め込めばこのとおり。
彼女は快楽によがり狂い、すぐに私のメスになったのだよ』
「……魔界の、医療技術ですか」
『そのとおり。素晴らしい技術だろう?
結々楽ちゃんにも同じ処置を施して、私のペットとして可愛がってあげるからねぇ』
「……そんなことをしないと……女を満足させることもできない、能無しが……」
『その減らず口も、すぐに私を求める媚た鳴き声になるけどねぇ』
「なぁ、オレはもう上がりでいいか?
この胸糞悪い現場を抜けて、早く酒飲みに行きたいんだけどよ」
いつの間にか廊下の壁にもたれかかっていた男が、飽きたような顔をして言いました。
『おっと失礼。あなたには報酬を払わなければいけないねぇ』
社長の言葉と共に、警備兵たちが現れます。
どこに隠れていたのかと思うほどの数。ざっと30人はいるでしょうか。
廊下の両端に陣取ったそれらが、一斉に銃を用心棒に向けました。
「社長さんよ、これはなんの真似だ?」
『あなたのようなチンピラが、私と対等に取引できるとでも?
もう用済みだから、とっとと死んでもらおうかな』
「くどい言い回しはやめて死にたいって言えよなぁ」
男が一度収めた刀に手をかけ、同時に無数の銃声が轟きました。
取り囲むように迫る銃弾を、用心棒の男は掻い潜り、近くにいた警備兵を両断します。
「ぶっ殺すぞクソがぁよぉぉッ!!」
用心棒の男と警備兵たちが殺し合うのを尻目に、繚花先輩が倒れた私に近づいてきました。
「あなたも一緒に、ご主人さまのモノになりましょ。
私と気持ちいいことだけ考えて、ね?」
『怖がることはない。あなたもすぐに私のが欲しくてたまらない淫乱になり――』
「黙って、なさい……!」
喧しいタブレット端末を切り捨て、その勢いで立ち上がります。
それから背中に刺さっていた麻酔注射器を引っこ抜き、投げ捨ててやります。
「対魔忍の毒耐性を、軽く見すぎですよ……!」
私たちが毒に耐える訓練をしているの、彼女は忘れたのでしょうか。
問いただしてみましたが、繚花先輩から期待する答えは返ってきませんでした。
「メス奴隷になるのが怖いの?」
「……好き合う人が相手なら、考えてやっても、いいんですけどね」
「なら大丈夫よ。すぐに、ご主人さまが大好きになるから」
「……わけの分からない技術でそうされたって、嫌なだけですよ……!」
麻酔の回った腕を必死に動かして、切っ先を彼女に向けます。
やはり、身体が重たい。意識が飛んでいないだけで、薬は確実に私を苛んでいました。
(助けるのは……無理、ですね)
快楽堕ちしたとはいえ、彼女は対魔忍の仲間。
救出したいところですが、今の私の状態では叶いそうにありませんでした。
「……すいません」
詫びを入れ、私は駆け出します。
それに反応して、橙髪の少女は麻酔銃を構えました。
「っ、この……!」
銃を持つ手を刀の背で弾き、そのまま彼女の横を通り抜けます。
ふらつく身体ではまともに戦えない以上、ここは逃げるしかありません。
もっとも、少女対魔忍はすでに麻酔銃を構え直し、前方からは警備兵たちの銃口が私を捉えているのですが。
「こんなところで……終われません……!」
ただ前だけを睨みつけ、精一杯に加速します。
そうして私は、この乱戦の中から逃れようと、弱った力の限り足掻くのでした。
◆◆◆◆◆
用心棒に、裏切りの対魔忍に、警備兵の集団という大混戦からどうにか逃げ切った私は、高層ビルの中層を彷徨っていました。
「ク、ソ……腹に、食らいましたか……!」
切り抜ける際に1発、銃弾を受けたようです。
横腹に空いた穴から血がどくどくと流れています。
出血と麻酔のせいで、私の身体はふらふらでした。
(……上は、まだ……殺し合いの、最中、でしょうか……?)
置き去りにしてしまった繚花先輩が気がかりですが、逃げた私に確かめる術はありません。
「……そも……私も、もう……」
ビルから脱出する前に、血が尽きてしまうでしょう。
応急手当も最早間に合いません。
「さいあく……です、ね……」
「標的を発見! 直ちに捕縛――――」
「しずかに……死なせて、くださいよ……!」
「あぎゃぁ!?」
前方から現れた警備兵に、残った力で接近し一刀で切り捨てます。
寿命が大きく擦り減りました。ため息をつきたかったのですが、途切れ途切れの呼吸では、それも叶いません。
「く、ぅ……!」
近くにあった扉を開け、這々の体で部屋に入ります。
そこは埃被った、薄暗い部屋でした。
私は部屋の床にへたり込み、壁にもたれかかります。
(あぁ………本当の本当に、だめですね)
手当をしたらまだ生きられないかと希望していましたが、これはもうどうにもなりません。
死にます。それが、はっきりと分かってしまいました。
「忍法……つかえたら……よかったん、ですがね……」
そうしたら延命できたのですが、
転生特典でもらったこの忍法、まさか最期まで使う機会がないとは。
「…………死にます、か」
弾丸に貫かれた腹の熱さも、眠くてもう分かりません。
最悪、後悔、恐怖……ぐるぐる考えだしたところで、やめます。
思考すればするだけ悲しくなってしまうでしょう。
なので私は、ただ、まぶたを閉じることにしました。
「よぉ」
眠りにつこうとした、そのとき。
急に声をかけられて、私は目を開きます。
そこには、鮮血で衣服を真っ赤に染めた、あの用心棒の男が立っていました。
「生きてるみたいだなぁ、対魔忍」
「……もう……死に、ますけど……」
「ご愁傷さまだな」
男はそう言って、私の目の前に座ります。
彼も、逃げてきたのでしょうか。
「オレも死ぬかもな。
社長さんもあの対魔忍も、兵士どももまだ残ってやがる。
生きて脱出できるかは五分五分……いやもっと分が悪いか」
彼の身体に傷があるのか。私の目はぼやけているので判別できません。
ただ、男の息は浅く、ひどく疲れているようです。
あぁ、こいつは不死身ってわけではないのだなと、今更なことを思いました。
「悪いがここで休ませてもらうぜ。
お前が逝ったら、オレは行くけどよ」
「…………いや、ですね」
最期に会った相手がこの男になるのも。
こんなところで、くたばるのも。
しばらく、沈黙。
か細い息の音だけが、暗い部屋に零れます。
その間、私は走馬灯を見ていました。
――――私は、五歳のときに意識を得ました。
それより昔のことは知りません。
家の者が言うには、ずっと寝たきりだったそうです。
自意識が目覚めてからしばらくして、父が任務のときに死にました。
そのことがきっかけで市蓮家は力を失い、急速に失墜していきます。
それから気づくと、私は当主になっていました。
いつの間にか私は、家臣が利益を貪るのに使われる隠れ蓑になっていたようです。
市蓮家の裏でなにが行われているのかは、もう分かりません。
泥中の根は深く、どす黒く、複雑に絡まっていて、私に確かめる術はありませんでした。
そしてその果てが、私を人柱とした政略結婚。
もちろん私は拒みました。
けれど、私の声になんの価値もなく、私だけを取り残して、どんどん話が進んでいって……。
(…………私は、なんなのでしょうか?)
その答えは、今際の際になっても分かりませんでした。
叫んでみても誰にも届かず、暴れてみても変化はなく。
ただ、身体だけがそこにある。
肉体だけが重要で、『私』はなんでもないのです。
もし、死ぬことが抜け殻になることだとするならば、私はとっくに死んでいたのでしょう。
身体目当てで、徹底的に無にされた私が詰まった、この『市蓮結々楽』という人間は――――
「そろそろ死ぬか?」
走馬灯から私を現実に引き戻したのは、男の声でした。
「……死に、たく……は、ない……です、けど……」
「そりゃそうか」
それを最後に、また沈黙が流れます。
が、男はなにを思ったのか、近づいて私の傷口に触れてきました。
「……なんの……真似を」
男の手付きは応急手当をしているかのようでした。
でも何故? 私を治す意味なんて、ないはずなのに。
「お前が復活したら、ここから脱出できるチャンスが倍になるじゃねぇか」
「…………私は……」
「死にたくないんだろ? じゃあ頑張りな。
根性で復活して長生きしろよ」
無茶を言ってくれると、思いました。
ですが同時に……“長生き”っていうのは、いいなぁと、思いました。
「…………もし」
「あ?」
手当を受けながら、ふと。
私は彼に訪ねます。
「もし……メスどれいに、なるのと……
死ぬの……なら、どっちが、いいですか……?」
「はぁ? なんだよそれ」
なんとなくの質問に、男は怪訝そうにします。
「どっちもクソだろ」
「…………ですね」
違いないと、私は笑います。
口角を上げる力は残っていませんでしたが、私は確かに笑ったのです。
死ぬとか、諦めたりとか、しましたけど。
やはり、私の本音を言うならば……。
――――こんなバッドエンドは、許容できません。
「やっぱ……生き、ますよ……っ!」
あぁクソッタレ。なんだか臓腑が煮えくり返って来ました。
なんだって私が仲間に裏切られて死なねばならないのでしょうか。
というか何故、一年後に好きでもない男と結婚して強姦されないといけないんです?
あとあのカス社長も気持ち悪い目つきで私を見てきやがりましたね、ちくしょう。
ぶち壊してやりたい気分です。
なんかもう、なにもかも。
ムカつくもん、全部全部。
「……ねぇ……そこの、あなた……!」
ほんの僅かに残った力を振り絞り、私は手を伸ばします。
「取引を、しませんか……!」
「あぁ? 取引?」
「えぇ……お互いに……ここから、生きてかえる……手だてが……あり、ます……ッ」
「へぇ……」
男の雰囲気が変わりました。
ここが正念場。
彼を説得できるかで、生死が決まります。
「聞いてやる。何をする気だ?」
「忍法を……つかい………ま、す…………」
私は説明をしようとして……時間がないことに気づきます。
駄目です。意識が遠のいてきました。
「くわしく……せつめい……する、じかんは………」
「ないみたいだな」
不味い。言わなければ、やらなかれば。
あと少し、頑張って、私は口を動かします。
「ですが…………あなたは、えいえんに……おもにを、せおう……ことに………」
「こっちに不利益がある方法なのか?
まぁそれはこの際いいけどよぉ」
本格的に不味くなってきました。
もう何も見えません。
気を抜けば、その瞬間に命が終わる気配がします。
「しっかりしな」
落ちかけた手が、男に掴まれます。
「オレだって死にたくないんだよ。
だから頑張りな、お互い生き延びるためになぁ!」
握られた手の感触。
死に体で握り返すことができない私は、見えない目で男を見つめます。
「……ありがと…ござい、ます……」
「ぎゃはははぁ! 感謝は後で聞くからどうにかしてくれ!
死んだらなんもかんもおしまいだからよぉ!」
締まらなさに苦笑し、私は意識を集中させます。
男との――安良木トウカとの取引を、果たすために。
「魂遁の術…………」
そして、生きるために。
私は今まで使うことのできなかった、忍法を使います。
「…………“
はじめて忍法を発動させる感覚。
それを最期に、意識が暗闇に落ちていって――――
――――――――私は、死ぬのでした。
今回も読んでくださりありがとうございます!
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