真っ暗闇から浮上する感覚。
それは眠りから醒めるかのようであり、生まれ変わるようでもありました。
「………………ん、ぁあ」
喋る力もなかった喉から、小さな声が漏れました。
「…………生きて、ますかね?」
寝ぼけ気味な頭を軽く振り、手を握ったり開いたりします。
力はちゃんと入っていますね。
あとは銃弾を受けたお腹の様子が気になりますが……。
(傷は……自分の胸が大きすぎて見えません)
痛みはないのでたぶん治っているのでしょう。
ですがこういうとき、巨乳って困りますね。
いえ、大きいことはいいことなんですが。
でも肩が凝るんですよね……。
「あっ、なんだぁ? お前死んだんじゃねぇの?」
急にかけられた声にびっくりして、思わずそちらを向きます。
見ると、男――安良木トウカが不思議そうな顔をしていました。
「びっくりしました……どうしたんですか」
「どうしたって、お前さっき死んだろ?
確実に脈は止まってたはずだがよ……」
「でしょうね……死にましたから」
さらりと言うと、男は釈然としないといった目で私を見てきました。
「……お前、なにやったんだ?」
「忍法を使いました。
その影響で……私は死ななくなったんです」
「……それは、治癒系のなんかか?
死んでも蘇るみたいなよ」
「いいえ」
私は居を正し、男に向かい合います。
すると彼もまた、真剣に聞く姿勢を取りました。
「私の術は……魂を共にし、命を分かち合う術です」
「…………つまりなんだぁ?」
「特定の誰かひとりを対象にし、その対象と命を共有する状態にするんです。
そうすると、
そして、私はあなたを対象にしました。」
「えーと……要はお前は今、オレが生きている限り死ななくなっている、ってことか?」
「はい。その認識で問題ありません」
まぁ、ダメージが限界に達すると死亡したようになるみたいですが。
その辺のことは初めて使用したのでまだよく分かりませんね。検証不十分です。
「便利な術だなぁ。色々悪さができそうだ」
「……そう便利でもないのですよ」
そこで言葉を区切り、私は一度、目を閉じます。
あぁ、これを話さなければと思うと、気が滅入ります。
「この術は……一生涯に一度しか使えず、解除もできません」
「あ?」
「使ったらそれっきり、ふたりで魂と命を共有することになるんです」
「なぁ、それってつまりよ……」
「はい。私とあなたは、今後ずっと一蓮托生です」
「はあぁ!?」
だから今まで、この忍法は使えませんでした。
使っても問題ない人間が、身の回りにいなかったからです。
この術を使ったが最後、私と対象者は生涯、互いのことを意識しなければなりません。
生きるか死ぬかが相手にすべてかかっていますから。
そして、この術で繋がるということは、私との関係が出来上がってしまうということ。
第三者は彼を、『市蓮家当主の関係者』として見るでしょう。
そこに至った事情がどうであろうと、私たちは無関係ではいられなくなったのです。
「私の人生を背負わせて、申し訳が……」
「まぁ不死身ってのは便利だからいいかぁ!
ナイスな拾いものをしたぜぇ! ぎゃははははぁ!」
男はまったくなにも気にしていないようでした。
えぇ……。
「もうちょっと困ってくれないと、こう……。
今まで使わずにいた私が馬鹿みたいじゃないですか?」
「そうだなぁ」
「そうだなぁ????」
「気軽に不死身になればよかったのによ。
なんだって今の今まで大事に取ってたんだ?」
「……使っても迷惑にならないような人間が、周囲にいなかったからです」
「なるほど。お前、友達いないんだな」
「は? いますが? 隣のクラスの卯奈ちゃんとは仲良しですが?」
「誰だよ」
男は呆れた顔をして、そっと立ち上がります。
「さてと、お前も復活したみたいだしこのクソッタレなビルから脱出するかぁ」
「私は普通に友達がいますしクラスのみんなとも仲良しです。特に同じクラスのふうまくんとかですね。忍法が使えない仲間で結構仲良くできてるんですよ。それでふうまくんの友達の蛇子ちゃんとか鹿之助くんとも仲いいですし、ゆきかぜちゃんともよく話したりしますし」
「お前の交友関係はもういいよ。
それより脱出をだな……」
「まぁ一蓮托生とか一心同体とかになるほど仲いい子はいませんけどね。でも休日に遊びに誘われる程度には打ち解けてるんですよ私。一緒にショッピングして服買ったりしたこともあります。下校中に会ったらそのままアイスを買って駄弁りながら帰ったりもしてます。あと宿題忘れたときは友人に写させてもらったりとかしてますし、それにですね」
「分かった、オレが悪かったよ……」
私たちは和解しました。
いえ、拗ねていたとはいえ私も大人気なかったですね。
反省です。
「失礼、取り乱しました。
ところで取引の内容なのですが……」
「あぁ、互いに生きて帰るってやつか。
お前はなんか元気そうだし、オレも休憩したし、協力したらこの場を切り抜けるくらいはできるよな」
「それは勿論なのですが……。
あの社長、ぶち殺したくありませんか?」
「正直殺してぇな」
「じゃあ協力して殺す方向でどうです?」
「乗ったぜその提案」
彼はガラの悪い笑みを浮かべ、私もまた邪悪な笑顔をつくります。
話が早くて助かりました。
「オレは雇い主の社長さんに裏切られて腹が立ってる。
んで、お前は……」
「魔界の技術を使っている以上、魔族との繋がりは確定です。
そしてあの社長は、対魔忍の仲間を辱め、奪いました。
よって殺します」
床から立ち上がり、私は手をパキパキと鳴らしました。
「まぁなんだ、さっきまでやり合ってたが、こっからは仲良くやろうぜ?」
「ええ。仲良しでいきましょう」
ふたり同時に刀を抜き、部屋の外へと足を進めます。
目的が一緒なら、少し前まで敵対していた相手もお仲間です。
「お礼参りの時間です」
部屋の扉を蹴破って、私たちは勢いよく廊下に躍り出ました。
◆◆◆
清潔感のある白い廊下は、今や鮮血で汚れ、死体が埃のように積もっていました。
「ぎゃははははぁ! 邪魔するならくたばりなぁ!」
廊下に陣取る警備兵たちに突貫する安良木トウカ。
彼が刀をぶん回すたびに、新たな死体が床に積もっていきました。
「味方になると頼もしいですね……っと」
「このクソアマ! 大人しく――――ぐがぁあ!?」
男の暴れっぷりを眺めながら、襲ってきた警備兵の眉間に刀を突き刺します。
「部隊壊滅……! 至急増援を!」
「おかわりはいらないぜぇ!
脳みそぶちまけて黙りなぁ!」
無線機に叫ぶ警備兵の顔を、男が掴みます。
すると次の瞬間、警備兵の頭部が
「あぁ、なるほど……」
潰れたトマトみたいになって崩折れる警備兵。
その死に方を見て、私はようやく男の能力を理解しました。
「……肉体を操る能力ですか」
「ぎゃははぁ! ご明答だぁ!」
男は答えながら、襲いかかってきた警備兵の胸部に拳を叩き込みます。
今度は胸部が爆ぜて、臓器の破片が天井にまで飛び散りました。
「接触した肉体を、好きなようにできる……。
爆散しろと思えば、そのとおりに爆散する、ですか」
男にそういう能力があるとすると、色々納得できます。
私の身体を不自然に破壊したのは、刃が接触した瞬間に能力を発動させたから。
少し掠った程度の、一秒あるかないかの時間でも作用するとは、おそろしいものです。
そして胸を刺されても死ななかったのは、そもそも心臓を刺せていなかったから。
おそらくは心臓の位置をずらしてやり過ごしたのでしょう。
傷口を塞いだのも、自身の能力を使って血管やら筋肉やらを繋いだといったところですかね。
(ただし……不死身というわけではない、ですか)
考察するに、彼は負傷は修復できるものの、疲労は回復できないのでしょう。
もし疲れも癒せるなら、わざわざ休憩しようとはしないはずです。
さらに心臓を貫く刃を回避したことから考えるに、即死はどうにもならないようですね。
まぁ当たり前ですか。死んだら終わりですし。
仮に心臓や脳が破壊されれば、安良木トウカは為す術なく死ぬのでしょう。
(……今はもっと不死身ですけど)
厄介なやつに術を使ってしまったかと、やや後悔します。
いえ、私が生きるためにはどうしようもなかったですし、彼には結果的に命を助けてもらった借りがあるので、あんまり邪険にはしたくないのですが。
「わんさか湧いてきやがるなぁ!
こいつら何人いるんだぁ!?」
男の声で、意識が現実に戻ります。
改めて周囲を確認すると、そこには増援に駆けつけた警備兵たちがいました。
「邪魔ったらありませんね。
さっさと目的の社長のところに行ったほうが吉でしょうか」
「同意だなぁ。オレもそろそろ面倒になってきちまった」
「では、最短距離で社長を仕留めにいきましょう。
奴がいる場所へ……あいつってどこにいるのでしょうか?」
そういえば、件の社長がどこにいるのか分からないことに気づきます。
最上階の社長室……は、PCがあるだけで社長がいるか不明ですね。
困りました。私には検討もつきません。
「社長さんの居所なら心当たりがあるぜぇ」
「本当ですか?」
「あぁ。このビルの中に一つ、構造が怪しい部屋がある。
おそらく隠し部屋があるんだろうなぁ。
だからまぁ、いるとしたらそこだと睨んでる」
「構造が怪しい部屋……8階の隅の部屋ですか?」
「おっと知ってたのか?」
「……凄腕対魔忍の先輩が、詳しく調べてくれていたので」
繚花先輩からもらった資料には、それらしき部屋についても記されていました。
おそらく調査中の彼女は、まだ毒牙にかかっていなかったのでしょう。
「あの橙髪のねえちゃんは、ツキが悪かったみたいだなぁ」
「……一応のお願いですが、彼女は殺さないようにお願いします」
「ぎゃははは! そんなことはしねぇよ。
対魔忍は基本殺さない主義だからよぉ」
「……? それは、何故です?」
男の発言の不可解さに、私は理由を聞きました。
この世界では、敵対する者は殺すのが普通です。
ましてや傭兵である彼なら、それが骨身に染みているものかと思ったのですが……。
「昔、対魔忍には世話になったんでな」
「世話になったって……」
「GIAAAAAAAAA!!」
「ちっ、話している最中に……!」
今度は警備ドローンが襲いかかってきました。
外装ごと基盤を斬り裂き破壊してやりますが、まだ在庫が尽きる様子はありません。
「……落ち着いて話もできませんね」
「だなぁ……っと、また増援が来やがった」
その声と同時に、重たい足音が響きました。
音のした方を見れば、そこには巨大な人型。
それは緑色の肌に、潰れた鼻に鋭い犬歯の怪物。
天井に頭がつきそうなくらいに大柄で、でっぷりと太ったオークが、そこにいました。
「……やけに大きいオークですね。魔界産でしょうか?」
「オレは知らないなぁ。オークの種類を気にしたこともないからよ」
「グフフフ、お前らが標的の対魔忍と傭兵だな?」
新手の登場に話し合う私たちに、オークは低い声を投げかけました。
「……あの社長に雇われたオークかなにかですかね? あなた、知ってます?」
「いいや全く。オレ以外の傭兵を雇ってるとか聞いてないぜぇ?」
オークを無視して考えを巡らせていると、目の前の巨体は得物の斧を構えました。
その行動はなによりも雄弁に、私たちへの害意を語っています。
「女は生け捕り、その後は社長のところでお楽しみだ。
グフ、フフフ。お前、いい身体してやがるな」
下卑た視線を私に向け、オークはじゅるりと舌なめずりをしました。
オークは楽しそうですが、私は不愉快で仕方ありません。
「グフフフフ……!
男を殺して食いながら、女を犯す……!
これ以上の愉しみはない……!」
「それしか娯楽を知らない哀れなオークがよぉ。
オレが他の楽しみを教えてやろうか? ハンティングとかなぁ」
「いいですね、ハンティング。
ところで、私にナイスな作戦があるのですが……」
「なんだなんだぁ? とりあえず聞いてやるよ」
彼の耳に口元を近づけ、手早く作戦を伝えます。
それとほぼ同時に、巨体のオークが私たちに向けて斧を振り下ろしました。
「グフフフ! 男は早く死ね!
女は早く捕まってその穴をよこせ!」
私と安良木トウカは瞬時に逆方向に飛び、大振りな斧を回避します。
空を切った斧は轟音と共に床に大きなヒビを作りました。
膂力は大したもの。ですが回避は容易い。
脅威ではないと判断し、私は男に視線を合わせます。
「……私の作戦、どうですか?」
「ぎゃははは! 乗ったぜぇ!」
その言葉を合図に私は合わせた視線を外し、今度はオークの方を見ます。
邪魔な
「女、女ァ! 胸がでかいメス穴!
グフフフフ! グフ! グフフフフフゥッ!」
「活きがいいなぁ! 殺りがいがあるじゃねぇか!」
「ですね……では、早いとこいきましょうか」
オークが斧を振りかぶります。
私と男は武器を構え直し、血で汚れた床を思いっきり蹴りました。
「――――オーク狩りの始まりです!」
二つの刃が鈍く煌めき、死体の積もる廊下にオークの断末魔が響き渡りました。
◆◆◆
社長――つまり私は、新しい女が届くのを心待ちにしていた。
あのミルクティー色の髪の少女、市蓮結々楽ちゃんはまだ捕まらないのだろうか?
そんなことを思いながら、私は豪奢で広い隠し部屋の中で女の奉仕を受けていた。
「ご主人さまぁ……」
猫撫で声で私を呼ぶのは、先日捕らえた対魔忍の娘。
屋田間繚花とかいうバカな女だ。
女は先程まで着ていたビジネススーツを脱ぎ、黒いベビードール姿で私に跪いている。
この女は私に歯向かったばかりに、肉体を改造され従順な奴隷に加工された。
いい気味だ。私をコケにする頭の弱い女は、皆こうやって傅けばいい。
(対魔忍といえど所詮は女。
快楽で調教すれば、すぐに股を開くメスになる)
ちらりと、上質な赤のカーペットに膝をつき、私の股ぐらに顔を埋めるバカ女に目を向ける。
橙色の長髪の、胸と尻のデカい下品なメス対魔忍。
その下賤な肉体でさぞかし男を誑かしてきたのだろう。
……あぁ、違った。
私が初めての相手というわけだ。
きっとこのメスも、私に処女を捧げられて嬉しかったことだろう。
「はっはっは……」
「しゃ、社長……? どうかしやしたか……?」
女対魔忍の頭の緩さを笑っていると、側に控えていたオークが怪訝そうに声をかけてきた。
それに伴い、室内にいた護衛の警備兵たちも不思議そうにしはじめる。
「いやなに、この対魔忍のバカさ加減に笑いが込み上げてきてねぇ」
「は、はぁ。そうでしたか……ゲヘヘ」
へつらうように笑うオーク。
こいつは雇ったオーク二匹のうちの片方だ。
護衛のためにこの隠し部屋においている。
「そうだ。仕事が終われば、ここにいる全員にこの女を貸し与えてあげよう」
「ホントですかい!?」
「えぇもちろん。私のをハメ過ぎたせいでガバガバだが、それでよければねぇ」
「ゲヘヘ、ありがたく貰いますぜ! 社長!」
私の言葉に、オークと警備兵たちが歓声を上げる。
こいつらもとことんバカだ。
仕事が終われば全員殺されるというのに。
このバカ共は、あの傭兵(安良木トウカとかいったか?)がどうなったか見ていないのか?
お前たちのような汚いクズを、生かしておく理由などないというのに。
「ゲヘヘ……そういや社長。
そのメス、どうやって手に入れたんです?」
考え事をしていた私に、オークが声をかけてくる。
この対魔忍をどうやって手に入れたか、か。
「はっはっは。私は会社にいる女のうち、容姿に優れた者は全員抱くことにしていてねぇ。
なに、手口は簡単だよ。飲み物に大量の睡眠薬を混ぜて昏倒させ、手足を拘束した状態で犯してやるだけだとも」
「おぉ……! 社長、やりますなぁ……!」
「この女は愚かにも社員になりすまして我が社に侵入してきたからねぇ。
本当にバカったらない。自分から犯されにきたようなものだよ」
なんてことはない。いつものように薬で眠らせ抱いてやろうとした相手が、偶然にも潜入中の対魔忍だっただけだ。
(とはいえ、このバカ女にかなりの警備兵が殺されたが……)
睡眠薬を飲ませてなお昏睡しなかったのには驚いた。
しかし薬の効果で弱った女対魔忍など取るに足らず。
結局は警備兵の犠牲の末に鎮圧されたのである。
「後は拘束して、自分の身分を分からせてやったよ。
媚薬を投与し洗脳用の肉塊を埋め込んで、たっぷり可愛がってあげたねぇ」
そこで一度言葉を切り、私のモノを咥えていたバカ女の髪を掴む。
「するとこの通り! バカな対魔忍は淫乱なメスの本性を自覚し、私の性奴隷となったのだよ!」
橙色の髪を掴んで対魔忍の顔を上げさせる。
それにより女の浅ましいバカ面が、周囲に晒された。
眼球は半分裏返り、知性の欠片もない笑みを浮かべる奴隷女。
その口元からは私の汁を垂らし、舌を突き出し犬のような吐息を漏らしていた。
「おぉ、すげぇ……! こんなエロ肉を性奴隷にしたなんて……!」
「はっはっは。これも魔族組織の協力あってこそ。
おかげで私は社長に上り詰め、女を好きなだけ抱けるようになったのだからねぇ」
まったく魔族様々だ。これからも私のバラ色の人生のために、仲良くさせてもらうとしよう。
オークたちの下手くそなおべっかを浴びながら、私は改めてそう思った。
「……グフフ、失礼します」
そうこうしていると、隠し部屋の外から低い豚の声がした。
雇ったオークの片割れだろう。
私が入室を許可すると、予想通りの豚面が現れる。
「グフフ……対魔忍の嬢ちゃんを捕まえてきましたぜぇ」
「くっ……!」
オークの側には、あの対魔忍の少女――市蓮結々楽の姿があった。
彼女は手を後ろにした状態で縄に縛られており、歩く以外の行動ができないようにされている。
「グフフ……おらっ、逃げようとするんじゃねぇ」
「あっ、この……!」
結々楽ちゃんはオークに背中を押され、その勢いでカーペットに倒れる。
頑張って受け身を取ろうとしたようだが、手が拘束されているせいで無様に転倒した。
「卑怯な……ケダモノどもが……!」
うつ伏せで倒れた結々楽ちゃんは、せめてもの抵抗に私を睨みつけてきた。
生意気ではあるが、惨めに這いつくばった状態の彼女はなんとも可愛らしい。
その憎たらしげな顔が、私から与えられる快楽で無様なアヘ顔になるかと思うと心が躍る。
「はっはっは。生で見ると、これはなかなか……。
結々楽ちゃんは、男に媚びるしか能がない下品な身体つきをしているねぇ」
改めて見た彼女は、なんともそそる容姿をしている。
高校一年生くらいの未成熟な身体に、それに似つかわしくない豊満な胸。
お尻はむちりとした安産体型。
ツヤツヤしたミルクティー色の髪に、紫の瞳の、クールな印象でありながら幼さの残る顔立ち。
見れば見るほど、男に犯され孕まされるために生まれてきたような身体だ。
「誰が、なんですって……!」
「おぉ、怖い怖い。
……武器は取り上げているんだろうねぇ?」
「グフフ……もちろん」
そう言って、オークは紫色の鞘に収められた刀を見せる。
結々楽ちゃんが使っていた武器だ。
しっかり取り上げていたようで感心である。
「あなたは傭兵の中でも優秀な部類のようだ。
そうそう、傭兵といえばあのチンピラはどうなったかな?」
「グフフ……ミンチにして殺しました。
目玉だけは残ってたんで持ってきましたが……」
「バッ!? み、見せようとするな気色悪い!」
懐からなにか取り出そうとするオークを静止する。
なんで人間の眼球なんて持ち歩いているのだか。
野蛮な生殖猿の考えは、気持ち悪くて理解できない。
「コホン……なんにせよ、よく結々楽ちゃんを連れてきてくれたねぇ」
「……私に……なにを、するつもりですか」
「おや、心配なのかな? だけど大丈夫だとも結々楽ちゃん。
これから私が、たくさん気持ちよくしてあげるからねぇ」
私が指示を出すと、近くの護衛が注射器を用意する。
そして護衛はそのまま、薬物の入った注射器を手に、結々楽ちゃんに近づいていった。
「まずはお注射からだ。昏睡させてから、たっぷり可愛がってあげよう」
「グフフ……近くにお運びしますぜぇ」
気を遣ってか、オークが結々楽ちゃんをこちらに連れてこようとする。
「いや、それは駄目だねぇ。
近くで暴れられたら、私が怪我してしまうだろう」
「グフフ……近くで昏睡するところ、見たかったりしませんかねぇ?」
「いや、別に見たいとは思わないが」
「グフフ……ホントですかい?」
何故かオークは食い下がってくる。
そのあまりの鬱陶しさに、私は苛立ちを覚えた。
「しつこいオークだねぇ。
私の愉しみの邪魔をするんじゃない」
「……グフフ……そいつは失礼しました」
バツが悪そうにして頭を掻くオーク。
それから豚面は、申し訳なさそうな素振りで、私の方に近寄ろうとして――――
「待ちな。お前、なんか様子がおかしくねぇか?」
私の側に控えていた方のオークが、待ったをかけた。
今度はなんなんだ。
これからお楽しみなのだから、水をささないでもらいたい。
「なんでお前は、さっきから
「グフフ……はぁ」
近寄ろうとしていたオークから、ため息をつくような音がした。
「これ無理だな。どうする?」
「仕方ありません。プランBでいきましょう」
オークが肩をすくませ、床に転がる結々楽ちゃんが冷静な声で答える。
その光景を目にした直後、護衛たちが一斉に武器を構えた。
「――――ぎゃははははぁ! 祭りの始まりだぁ!!」
「ッ!?!?!?」
次の瞬間、肩をすくませていたオークの肩から上が勢いよく弾け飛ぶ。
そしてその中からあの傭兵の男が――安良木トウカが両手の中指を立てながら現れた。
「クソッ! こいつオークに変装……じゃねぇ!
身体ん中に隠れてやがったのか!!」
護衛のオークと警備兵たちが傭兵の男を鎮圧しようとしている。
私は、なにが起きているのか分からなかった。
事態を把握するより早く、状況が変わり続けていたのだ。
「殺せ殺せ! 囲んで蜂の巣に……」
「するには行動が遅いなぁ!
ぶち抜け! 骨肉ジャベリン!」
直立不動の死体の中で、安良木トウカがなにかしようとしたのが見えた。
が、途端に傅いていた繚花ちゃんが私を伏せさせたため、それを確認することはできなかった。
「このバカ女が……! 私に乱暴を――――ひぃっ!?」
顔を上げて、私は絶句した。
オークの死体から肉と骨を組み合わせたような槍が幾本も飛び出し、警備兵の頭部を一つ残らず貫いていたからだ。
そして槍のうちの一本は、つい一瞬前まで私の頭があった空間にも突き刺さっていた。
「対魔忍のねえちゃんに助けられたな社長さんよぉ!
じゃなけりゃテメェも脳漿ぶち撒けて死んでただろうなぁ!」
「ゲヘヘッ! お前が死ねェ!」
辛うじて骨肉の槍を躱していたらしき護衛のオークが、大斧で男に斬りかかる。
その衝撃で身体が弾けたオークの死体は粉々になった。
だが安良木トウカはその前に死体から跳躍し、悠々と攻撃を回避していた。
「馬鹿がよぉ! くたばるのはテメェのほうだぜぇ!」
男は手にしていた紫色の鞘から刀を抜き、オークに向けて投擲した。
が、腐っても魔族のオークだ。
彼は難なく、投げられた刃を回避する。
「ゲヘヘヘ! そんなぬるい攻撃を食らうと思ったか!」
「おいおいなに言ってんだぁ? オレは攻撃なんてしてないぜ?」
「あ?」
「――――えぇ、今のはただのパスでしたね」
唐突に響いた、少女の声。
その声の主は、投げられた刀を握りオークの後ろに佇んでいた。
「なぁッ!?」
いつからそこにいたのか。
どうして拘束が解かれているのか。
いつの間にかオークの背後を取っていた『市蓮結々楽』は、自由になった手で刃を振るう。
「蓮刃流 “
急ぎ振り返ろうとするオークの背中に、刀を一度突いた。
私には、そのようにしか見えなかった。
「あがっ、ぎゃ、ぐべぁっ!?!?」
だが、結果はそうではない。
大きな背におびただしいほどの数の刺傷が一瞬にして現れ、オークの口からは異音が鳴る。
いったい何度貫かれたのか。オークの肉体は破壊され、盛り上がっていた筋肉はぐちゃぐちゃの屑肉に均されていく。
当然、命が耐えられるはずもない。
オークは最期に掠れた息を絞り出した後、うつ伏せに倒れて絶命した。
「ひっ、ひぃ……っ!」
倒れた穴だらけの背は、まるで蓮の実のよう。
恐怖さえ覚える傷口の集合から吹き出す鮮血を浴び、市蓮結々楽はこちらに視線をやる。
「さて、あなたも覚悟はいいですか?」
血に濡れた少女は、冷徹な瞳と共に、切っ先を私に向けたのだった。
今回も読んでくださりありがとうございます!
多くの人に読んでいただけているようで、とても嬉しいです!
また、感想、評価、お気に入りもありがとうございます!
たくさんしてもらえて、すごく励みになっています!
今回もよければ、感想、評価などお願いします!