え?一年後にメス奴隷にされるんですか?   作:胡麻野すり子

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6話

 

 瞼を開け、私は目だけ動かして周囲を確認します。

 腕の中には、意識を失った繚花先輩。

 すぐ側には、粗野な笑い声を響かせる安良木トウカ。

 そして離れた所に、汗をだらだらと垂らす社長の男がいました。

 

「おっ、目が覚めたみたいだなぁ?

 死んだかと思ってヒヤヒヤしたぜぇ」

 

「私は今は死にませんよ。

 いえ、死んだような感じにはなっていましたが」

 

 おそらく生命活動が不可能になると、死亡に似た状態になるのでしょう。

 今回の場合だと、爆散した腹部からの大量出血で生命維持に必要な血液が足りなくなった感じですかね。

 

(そして死んだ場合は、身体が治る、ですか……)

 

 派手に爆ぜたはずの腹部には傷ひとつありません。

 無理矢理に伸ばされた右腕も、いつの間にか元に戻っています。

 痛みも違和感もなく、まさしく元通りといった具合です。

 

「まぁ、私の忍法については、おいおい検証していくとして……」

 

 腕の中の先輩をそっと床に寝かせて、私は最後の敵を睨みます。

 

「……あとは、あなただけですね。社長さん」

 

「っ、こ、この……生意気なぁ……!」

 

 視線の先、社長の男はこめかみに血管を浮かせ、怒りに震えていました。

 男の顔が赤いのは、部屋を焦がす炎が原因ではなく、ただ血が登っているからか。

 

「お、お前たちみたいなクズの分際で、私に、さ、逆らいおって……!」

 

「……この状況でそれが言える根性は、評価するべきですかね」

 

 立ち上がり、首を軽く回します。

 ぽきぽきという小気味のよい音が、寝起きのような私の意識を覚ましてくれました。

 

「で、現実問題どうなさるおつもりだ社長さんよぉ?

 こっからアンタが生き延びるビジョンが俺には見えないぜぇ」

 

 こちらは対魔忍と、それと同等の戦いができる傭兵。

 男を守っていた警備兵たちも全滅し、虎の子の繚花先輩も洗脳が解かれ失神しています。

 一企業の社長……普通の人間では、逆立ちしたところで勝てはしない状況です。

 

「舐めるなよ……! 私はただの人間ではない!

 魔界の技術により、この身は改造済みだとも!」

 

 社長が吠えると同時に、その背中が膨れ上がります。

 急な拡大に耐えられず高級そうなスーツが避け、そこから二本の太い触手が現れました。

 むき出しの筋肉のような生々しい赤色のそれは、男の意のままにうねります。

 

「……自身の肉体を改造していましたか。

 まぁ、その可能性は考慮していましたが……」

 

 魔族と繋がり、他者を操る肉塊を埋め込んだりしているのです。

 自分の身体を弄っていてもおかしくはありません。

 

「はっはっはぁっ! 改造されたこの身体は凄いぞ!

 背中から生える触手は強靭! 鞭のように振ればこのとおり!」

 

 ひゅっ、と風を切る音がして、触手が近くにあった備え付けのソファを破壊しました。

 背もたれの部分が斜めに切り裂かれ、捲れた革から中身のクッションが飛び出しています。

 

「家具程度なら簡単に破壊できる!

 本気を出せば岩だって壊せるがね!」

 

「……それはまぁ、結構なことですね。

 その程度か、とは思いますが……」

 

「生意気なガキが……!

 まぁいい、お前もすぐにみっともなく喘ぐことになるのだからな!」

 

 二本の触手をくねらせ、男が気色の悪い笑みを浮かべました。

 

「そうだ! お前もそこの馬鹿女と同じように、この触手で可愛がってやろう!

 許しを乞うまで打ち嬲り、奥深くまで突っ込んで、泣き叫ぶまで陵辱してやる!」

 

「……同じことを、繚花先輩にしたんですか」

 

「はっはっは! だとしたら何だというのかね!

 そんなにそこのアバズレにしてやったプレイが気になるか!

 それとも、私がもらってやった純潔だの尊厳だのを気にしているのかね!」

 

 ちらりと、繚花先輩の寝顔に目を向けます。

 安心したような、けれど擦り切れて疲れ果てたような。

 言うならば、傷ついた女の顔を、彼女はしていました。

 

 繚花先輩は、どれだけ惨めな思いをしたのでしょうか。

 醜い欲望に汚され、踏みにじられ、恥辱を受けて。

 その仕打ちに、彼女の心はどれだけ軋んだことでしょうか。

 

 その痛みと苦しみのすべてを、私が完全に理解することは叶わないでしょう。

 ですがそれでも――――

 

「―――許してはおけませんね」

 

 絶対に、報いを与えなければならない。

 それは私にも、理解できました。

 

「許さない? 図に乗らないでもらいたい。

 許されないのはお前の方なのだからねぇ!

 私に鳴かされながら、許してくださいと必死に媚びて……」

 

「社長さんよぉ、火に油を注ぐのは勝手だけどなぁ。

 ずぶの素人がそれをするのはオススメしないぜ」

 

 安良木トウカが頭を掻きながら、呆れたように言いました。

 

「手に負えなくなるからなぁ。

 いや、もう手遅れだろうけどよぉ」

 

「ふん! 少し腕が立つ程度で図に乗るな!

 チンピラのクソガキが! 今すぐ殺してやろう!!」

 

 いっそ憐れなくらいに喚いて、社長は二本の触手を蠢かせます。

 肉色のそれは先程ソファを破壊したように振り抜かれ、私たちに襲いかかってきました。

 

「おいおい社長さんよ。アンタはなにを見てたんだぁ?」

 

 ――――ぱしっ。

 鞭のような二本の触手を、安良木トウカは難なく手で掴みました。

 右手と左手のそれぞれに掴まれたそれらは、最早手の中で身じろぎすることしかできません。

 

「オレに生身をぶつけてくるのは自殺行為だぜぇ!」

 

「はっ!? な、なぜ私の触手を掴んで……!?」

 

 瞬間、彼が握る触手が泡立ちはじめました。

 安良木トウカは肉体を操ります。

 そんな彼に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()、愚行に他ならず。

 

「ほらよッ! 弾けなぁ!」

 

 触手の表面はぼこぼことした歪みに覆われ、膨張。

 そのままなんともあっけなく爆ぜて、汚らしい血肉をぶちまける結果となりました。

 

「あぎゃぁぁあぁっ!? 痛いいたいいたぃぃ!?

 なっ、は、はぁ!? わ、わた、私の触手があぁぁああ!?!?」

 

 わざわざ人体改造してまで得た屑肉(しょくしゅ)を破壊され、社長は床に倒れました。

 触手の生えていた背中からは血液が溢れ、悲鳴と共に肉が弾けた激痛を表現しています。

 

「ふぅー、すっきりしたぜぇ!

 じゃ、後は嬢ちゃんがやりなぁ」

 

「……いいんですか?」

 

 彼なら、触手を掴んだ時点で社長を爆殺するくらいはできたはずです。

 なのにどうしてか、安良木トウカはそれをしませんでした。

 

「別に構わねぇよ。オレはさっきので溜飲が下がったからなぁ」

 

 そう言って、安良木トウカは自身の刀を渡してきます。

 

「対魔忍のねえちゃんの報復をしてくれたほうが、オレも気分いいからよ。

 ほら。得物は貸してやるから、徹底的にぶっ殺しちまいなぁ」

 

「……恩に着ます」

 

 安良木トウカから武器を受け取り、頭を下げます。

 それから私はゆっくりと、社長に近づきました。

 

「……覚悟は、できましたか?」

 

「ひぃっ!?」

 

 声をかければ、足元に転がる男は、みっともない悲鳴を上げました。

 社長はびくびくと震えながら、恐怖に引き攣った顔をこちらに向けます。

 

「なぜ……なぜ! 私がこんな目にぃ……!?」

 

「……悪事を働いたから。対魔忍の仲間を陵辱したから。

 実力も分からないのに襲いかかったから……まだ、説明が要りますか?」

 

「っ、この……このっ、クソアマがぁ……!」

 

 肉が爆ぜてなお、男は私を睨んできました。

 痛くも痒くもなければ怖くもありませんが、まだそんな目ができるのかとだけ、私は思いました。

 

「私に、歯向かいおって……!

 知ってるんだぞ、対魔忍の馬鹿さ具合はなぁ……!」

 

「………………」

 

「お前たちのトップは……何度も罠にはまり、犯されてきた馬鹿女なんだろう!?

 お仲間もそうだ! 現に私はそこの女を捕らえ、たっぷり調教してやれたからなぁ!」

 

 社長の物言いに、怒りは覚えませんでした。

 不快ではありますが、その内容に間違いはありません。

 

「……そうですね。対魔忍が罠にかかる事例が多いのは、正解です」

 

「は、はっはっ! ならば……お前のような愚かなメスも、私には勝てはしない!

 私は、頭が使える……お前たち対魔忍のような、馬鹿とは違う!」

 

 話を聞きながら、私はひたすらに呆れていました。

 その内容は、間違いではないが正確ではなかったからです。

 

「……なら、どうぞ。勝ってみてください。

 この状況で……頭とやらを使って」

 

「っ……この、クソガキがぁぁあぁ!!」

 

 男が声を荒げた、その時。

 社長の右腕が微かに動いたのが見えました。

 

 あぁ、()()()()()()()()()()

 何かしらの仕掛けを作動させたのでしょう。

 燃える音に混じり、部屋の壁から小さな機械音が無数に聞こえました。

 

「これで死ん――――」

 

 即座に懐からクナイを取り出し、壁の四方に投擲します。

 

「――――でしま、え、ぇ?」

 

「安良木トウカ。なにが作動してましたか?」

 

「あー……仕込み銃かなんかだな。

 クナイが刺さんなかったら銃声がうるさかっただろうよぉ」

 

「そうですか」

 

 言いながら私は、クナイが貫いた壁を……そこから覗く装置を一瞥します。

 そこにあったのは、この部屋に仕掛けられていた罠。仕込み銃。

 もっとも、壁から姿を現したそれらは、一つ残らずクナイに破壊され、発砲の機会はついぞなかったようですが。

 

「対魔忍のねえちゃんとの戦闘時に作動させなかったのは、嬢ちゃんを生け捕りにしたかったからかねぇ」

 

「……繚花先輩も巻き込まれて死ぬと、思ったんじゃないですか?」

 

 まぁ、男がなにを考えていたかなど、どうでもいいことではありますが。

 などと思いながら向き直れば、当の社長は呆然と、口を開閉していました。

 

「なん、で……? は、はぁ? おかしい……おかしい、だろう……!?

 不意打ちで、罠だったのに……!? なんで、お前は……!?」

 

「……罠にかかる対魔忍はいますが、見落としがありますよ」

 

 わけが分からないと震える男を見下ろし、私は刀を振り上げます。

 

「――――生半可な罠にかかるほど、対魔忍は弱くありません」

 

 温い仕込み、安い罠、ちゃちな不意打ちなど無意味。

 

 はめるなら入念に。

 騙すなら悪辣に。

 捕らえるなら強力に。

 

 でないと、力づくで全部、踏み潰してしまうのですから。

 

「頭でも、負けましたね?」

 

「っ、ぁ……あぁ、あぁあぁぁぁあああぁぁッッ!?!?!?」

 

 男を貶め、こき下ろし、最大限に惨めったらしいモノにしてやります。

 そして私は、足元の惨めなモノを見据え、柄を握る両手に力を込めました。

 

「――――死になさい」

 

 泣き散らし、涙と涎と鼻水と糞尿を漏らす男に、刀を振り下ろします。

 一刀。雷のように落ちた刃は、脳天ど真ん中を捉えます。

 両断。そのまま、勢いのまま、刀は頭をかち割って――――

 

 ――――清々しいほどに脳漿をぶち撒けながら、その生命を地獄に叩き落したのでした。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 社長の男を抹殺した私たちは、夜の街で燃え盛る高層ビルを遠目に見ていました。

 街の住民は野次馬に行っているのか、周囲には誰もいません。

 

「……改めて、ありがとうございました」

 

「ぎゃはははぁ! お互い様ってやつだぜ嬢ちゃん!」

 

 一緒にビルから脱出した安良木トウカに感謝を告げると、彼はそんな風に返してきました。

 相も変わらず粗野で、どこか気分のいい感じの笑い声が、夜の街に響きます。

 

「さてと、名残惜しくはあるがやることやったからなぁ。

 普段なら打ち上げに誘うところだが……」

 

 そこで彼は、私が抱きかかえている繚花先輩に目を向けました。

 

「……先輩を、医者に見せなければいけませんから」

 

「だろうな。さすがに放置して酒飲むわけにはいかないよなぁ」

 

 小さな笑みを零す安良木トウカ。

 そのまま彼は、踵を返しました。

 

「じゃあな、対魔忍。

 次に会うときも、仲良くできることを祈るぜぇ」

 

「…………」

 

 後ろ向きで手を振って、彼は歩き出そうとします。

 

 ――――私と一緒に来ませんか。

 なんて言葉が、喉から出そうになりました。

 

 私と安良木トウカの魂は、繋がってしまっています。

 彼はこれから、嫌でも『対魔忍、市蓮結々楽の関係者』として扱われるでしょう。

 こちらとしても、五車に来てくれたほうが好都合なのですが……。

 

(……それは、甘えすぎですね)

 

 私は、彼に助けてもらったのです。

 その上、彼の人生に枷を作ってしまいました。

 だからこれ以上を求めるのは、あまりにも勝手というものです。

 

「ありがとうございました」

 

 彼の背中に投げかけた別れの言葉に、返事はありませんでした。

 安良木トウカはただ静かに、夜の街に消えていきます。

 そして後には私と、眠る繚花先輩だけが残りました。

 

「……私たちも、帰りましょう」

 

 繚花先輩を抱え直し、私たちもまた、本来の居場所へ引き返します。

 そこでふと、私は思い出し、自身の対魔忍スーツの中に手を入れました。

 

「……アタリ、ですか」

 

 今日はほんのちょっと、いいことがありましたね。

 スーツから取り出したアイスの棒を眺めて、私は呟くのでした。

 

 

 

 

 

 





 今回も読んでくださりありがとうございます!
 ビルでの戦いに決着がつき、対魔忍と傭兵は各々の場所へ帰る結末となりました。
 ひとつのエピソードに区切りをつけることができ、安心しております……!

 ですが彼女たちの物語はまだ続いていきます。
 次のエピソードも、楽しんでいただけましたら幸いです!


 また前回は、とても多くの方に読んでいただけました!
 とっても嬉しく、励みになりました!ありがとうございます!
 その際に、たくさんの評価、感想、お気に入り登録をしてくださり、感謝するばかりです!
 すごく嬉しかったです!これを励みに頑張ります!

 前回は、対魔忍の戦闘能力に関する感想をいただきました。
 今作では、「真面目に戦った際の対魔忍の強さ・脅威」にフォーカスを当てて書こう、と決めていたので、とても嬉しかったです!

 結々楽の忍法について考察してくださった方もいらっしゃいました。
 こうやって考察してもらえるのは嬉しいです!
 彼女の忍法は、強そうで弱い、便利そうで不便のギリギリの性能として設定していたので、現状だと不死覚醒の下位互換という認識でだいたい合っています!

 また、文章を褒めてくださった方もいらっしゃいました!
(その方は気にされていたようですが)感想をいただけてありがたいです!
 とても嬉しかったので、良ければまた、感想などもらえたらと思います!

 そしてその他にも、いただいた感想はしっかり拝読しております!
 とてもとても嬉しいです!

 今回もよければ、感想、評価などお願いします!


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