HarryPotter 魔法省魔法法執行部公安局 作:Firebolt08
<魔法省魔法大臣室>
「アルバス…不本意なのはこちらも重々承知しているがこれにサインしてもらわない事には」
ファッジはどうか頼むと告げた。
「………」
ダンブルドアは自前の万年筆を手に取ったが渋い顔で署名欄と睨めっこしていた。部屋の中に気まずい空気が漂う。
「もう少し、数を減らせぬじゃろうか」
「これでも当初の予定からだいぶ削らせたんです。それもウィゼンガモットなどからそれなりに顰蹙を買いながら」
「脱獄不可能というメリットがあってディメンターを利用する大義名分がようやく生まれる。アレはそういう存在でしかない。その上で今回の脱獄を許したのは…奴らの沽券に関わるわけだ」スクリムジョールは書類に目を通しながら忌々しいとばかりに言った。
「ディメンターの管理には毎年、莫大な予算が投じられている。極めて残念ながらその恩恵を受けている官僚は決して少なくない」
ファッジは今にも舌打ちしそうな顔で苦々しくそう溢す。
「いわゆる吸魂鬼利権ってやつですね」
「預かり知ってはいるがやはり字面からして最悪な集まりじゃの。何とかならないものか…」
「それなら非常に効果的な手段がありますな」
「アルバス、あなたが今すぐ魔法大臣になればよろしい。私はいつでもこの椅子を開け渡す用意がある。しかし…それを望まないというなら」
「サインする他ないという訳じゃな」
少し間をおいて、万年筆を握り直したダンブルドアは署名欄に自身の長い長いフルネームを書いた。
「すまないなアルバス」
「全く気は乗らぬが…サインしなければしなかったで別の厄介ごとを招くじゃろう」
「違いない」
「署名のない場合は捜査に非協力的というくだりから始まって、世論を煽り、危機感の欠如が云々と抜かして最終的にはアズカバンにいる全てのディメンターをホグワーツに送り込もうとしてくるでしょうな」
「リータ・スキータは喜んでその類の記事を書くでしょう。今のうちに預言者新聞は廃刊にした方がいいかもしれませんね。まぁ無理な話ですが…」
「ゴシップのノリで重大事件を記事にする女だ。ここに居る全員が彼女の標的となり得る」
「ゴシップ記者と政治記者ぐらいは畑を分けてもらいたいものだ」ファッジは苦笑いしながら感想を述べた。
「リータは歴代のホグワーツ校長の伝記なんかも書いておっての。ワシがいかにこき下ろされるのかを楽しみに待っておるんじゃが、この前聞いた時には出版はまだまだ先とのこと」
「末恐ろしい話ですな。それでは私はこれd…
スクリムジョールが部屋を後にする直前にドアをノックする音が聞こえた。
「ああ、ボーンズ部長だろう。入ってくれて構わないよ」
ガチャ
「失礼します。あら皆さんお揃いのようですね」ボーンズは部屋の面々を見るとそう言った。
「久しぶりじゃの、アメリア」
「ご無沙汰してますダンブルドア校長。大臣、アズカバンからようやく報告書が上がりましたので持ってきました。結果はお察しの通りでしたが」厳しい声で続けたボーンズは書類の束を大臣室のテーブルに置いた。
「ありがとうアメリア。しかし…となると」
ファッジは眉間を揉みながら書類を一瞥した。
「つまりは進展なしという訳ですな。こちらも全くの手探りで動かねばならないが…まぁあまり期待しないで頂けると有り難い。それでは失礼します」
職員総出の捜索指揮を取っているルーファスはひと足先に現場に戻っていった。
「ご苦労ルーファス」
大臣は部屋を出ていくスクリムジョールにひと声かけた。
バタン
「………そういえば防衛術の教師は決まっているんだったな?確か…」
ファッジは思い出したようにダンブルドアに聞いた。
「幸い、適任者が名乗りを上げてくれたからの。コーネリウスにはひと足先に連絡しておったがスティーブンはまだじゃったの。君もよく知る人物じゃよ。名はリーマス・ジョン・ルーピン」ダンブルドアは穏やかに言った。
「リーマスですか。彼なら私も太鼓判を押しますよ。タイミングとしてはなかなか縁があると言えますが」
「確かに…」
「まぁ彼の能力に疑いはない。ただ彼の抱える疾患によって生徒に危険が及ばぬようにとだけはお願い申し上げておこうアルバス」
「もちろんじゃよコーネリウス。本人がいちばん分かっておるじゃろうが当然ワシも目を光らせる。シリウスのこともあるでの」
「ですね…私は今、担当している件を片付け次第になりますが」
ミケルセンはそう言うと席を立った。
「マクーザの議長によろしく伝えてもらえるかの」
「えぇ。後は議会がドラゴンで吹っ飛ばないようにするだけです。それでは私もこれで」
「私も戻ります」
そうしてミケルセンとそれに続いてボーンズも部屋を後にした。
「はぁ……ルーマニアでのドラゴン盗難で話が終わってくれれば良かったんだが。ドラゴンを使ったテロなど前代未聞だ。それに続いてブラックの脱獄ときた。それで2日後には手続きで大量のディメンターがここに来るという訳だ。学期が始まってからのハリーは頼むぞアルバス」
ファッジは山積する問題を大きなため息をつきながら並べて余計に辛くなっていた。
「全力を尽くそう、コーネリウス。それではさらばじゃ」
* * *
家出を強行し、ナイトバスに乗り込んだハリーはシリウス・ブラックの凶行を詳しく車掌から聞かされた。漏れ鍋に到着すると出迎えたのはコーネリウス・ファッジ。魔法省大臣だった。
「ハリー!いやはや報告通りでよかった」
ファッジはホッと胸を撫で下ろしていた。
魔法大臣のご登場に乗せた客がハリーポッターだとわかるといなや大はしゃぎのスタンだったが大臣は手早く感謝を伝えるとハリーの肩に腕を回して早々に漏れ鍋に入って行った。後ろから聞こえてきたスタンの気のいい別れの言葉にハリーは会釈で応えた。直後に発車したナイトバスは爆音を上げながらロンドンのどこかへ消えて行った。
「さて、ハリー」
ファッジはハリーに座るように促すとお茶を注いだ。
「包み隠さずに言うと君のしたことでちょっとした騒ぎになった。…ー
それからファッジはマージおばさんが元通りになった事やダーズリー家にはミケルセンが説明と事情を伺いに行っている事、今回は事故としてお咎めなしという事を伝えると本題に入った。
「ここからが本題なんだ。何故、我々がこんなにも君を心配したかということなんだがね」
「もしかしてシリウス・ブラックですか?」
するとファッジは若干の驚きと納得の顔で答えた。
「その通りだよハリー。察しが良くて助かるよ。ただ今から話す事は決して楽しい話ではない。そして、その上で私と約束して欲しいこともある。全てを語るには夜が開けてしまうのと…悪いが立場上、言えないこともある」
「…はい。ブラックはヴォルデ、例のあの人の仲間だったんですか?」
「あーどうやら車掌から多少は話を聞いたようだね。つまりはそういう事だ。それが何らかの手段でアズカバンを脱獄し、野放しとなっている。ブラックの目的はいまだ不明だがハリー、君を狙っている可能性がある」ファッジは重々しくハリーに告げた。
「………」
「故に君の安否を確認する為にこの休み中、常に闇祓いや魔法警察が交代で安全の為に監視していた。君が家出をした時はちょうど交代の時間と重なっていたのだよ。それで異変に気付いたアリスがナイトバスに君が乗った事を目撃して私に連絡してくれたんだ」
「その…ご迷惑をお掛けしました。アリス…さんにも」
「心配には及ばない。彼女は腕利きの闇祓いでね。アリス・ロングボトム。確か彼女の子供が君と同じ学年だったと記憶している。名前は…何だったか」
「ネビル・ロングボトム?」
「そうネビルだ。あーそれはともかくハリー。君には漏れ鍋で過ごしてもらう間、警護が付くことになる。あまり気分のいい事では無いだろうけど納得して欲しい。それで約束なんだがね、ブラックに関しては未だ分かっていないことも多い。当時の捜査状況は決して行政機関として充分とはいえなかった。非常時だったからね…その為に噂話や陰謀論まで色々あるんだ。だからどこかで何か聞いてもあまり左右されないようにというのが一点。最後に…ブラックに自分から近付くことのないように。まぁどうも君にはトラブルの方から飛び込んでくるようだからね」
「…はい。気を付けます」
「ありがとう。それじゃ私はトムに空き部屋がないか聞いてこよう」
それからすぐに戻ってきたファッジにハリーはホグスミートのサインが出来ないか尋ねたが答えはノーだった。「ただもし、来年になってもサインが貰えなかったらその時は私が書こう」と約束してくれたファッジは帰っていった。
以降、ハリーは漏れ鍋でのホテル生活を送っていた。教科書やら何やらが揃って特に用事が無くなってから色んな店を物色したり、ファイアボルトを観に行くのを日課にしていたハリーだったがいつものようにダイアゴン横丁に出た時だった。
「「「ハリー!!」」」
振り返るとそこに、3人がいた。
ロンとハーマイオニーがテラス席に座っていた。ジニーはこちらに駆けてくると飛びつくように思い切りハリーにハグした。少し驚きながらもハリーはジニーを受け止めたが数秒後にはジニー本人の方が驚いていた。
顔を真っ赤にしながら離れたジニーはハリーに挨拶した。
「その…久しぶりハリー」
「久しぶりジニー、元気だった?」
「うん。ハリーこそ休み中、大丈夫だった?」
「ちょっと色々あったけど元気だよ」
テラス席ではロンの向かいに座っていたハーマイオニーがさりげなく隣に移っていた。
「ハリー!久しぶり!」
ハリーとジニーが座ったことでロンも視線を戻してニコニコしながら言った。
「やっと会えた!」
それからマージおばさんを風船にしてしまった話でロンとジニーは爆笑したり、明日にはみんなでキングズクロス駅に行けると大いに盛り上がった。
「ハーマイオニー、結構な本の山だね」
「これでも被っている授業はどっちかに絞ったのよ。ミケルセン先生のアドバイスにもあったけどマクゴナガル先生と相談して取れる授業は全部選択したの。トランクに入り切るかがちょっと心配だけど」
それからペットショップでフクロウを買うと言っていたのに人相がかなり悪い猫を素敵と評しながら選んだハーマイオニーとロンとペットをめぐって一悶着あったりしているとウィーズリー家と合流した。首席になったことで政治家のような振る舞いをしてるパーシーとそれを盛大にバカにするフレッドジョージとハリー挨拶を交わした。一方、アーサーはブラック脱獄騒動でかなりお疲れの様子だった。
次の日に、手配された魔法省の車にハリー達は乗ってキングズクロス駅に向かうことになっていた。安全の為というのはよく分かったがハリーはあまり気乗りしなかった。大所帯で向かった為もあってか荷物を預けてからコンパートメントを探したときにはどこもかしこも埋まっていた。幸い、最後尾に1人が窓側の席で寝ているコンパートメントは空いていたのでハリー達はそこに入ることにした。ぐっすり眠っている男の隣にハリーが座ると横にはロンが座る前にジニーが腰掛けた。
「この人誰かな」ハリーは疑問を口にした。
「ルーピン先生。名前が鞄に書いてあるわ」
「防衛術の先生か」
「そうじゃない?空いてる科目はそこだけだし」
ジニーは寝ているルーピン先生を見ながら言った。
「ミケルセン先生のハードルは高そうだけど大丈夫かな」
「そればっかりは授業を受けてみないと。でもダンブルドア校長が決めたんだからそこは大丈夫じゃない?」
「まぁ今気にしてもしょうがないか。ところでハリー、話があるって言ってたよね」
ロンはハリーの方を向いて言った。
* * *
ハリーはまず大臣と話した内容を3人に伝えた。
「シリウス・ブラックが脱獄したのはあなたを狙う為ですって?」
「大臣いわく、その可能性が高いって」
ハリーは決して明るくない声色で肯定した。
「あぁハリー本当に気を付けなきゃ、自分から飛び込まなくてもハリーはその…トラブル体質というか何もしてなくても向こうから」
「トラブルメーカーって言いたいのか?」
「ロン!そういう言い方はしたくないから言葉を選んでたのに…」
「とにかくハリーの命を狙ってる犯罪者にこっちから近付くメリットなんてないだろ。ホグワーツでおとなしく普通に生活してれば大丈夫だって」
「だといいけど…」
ハリーは去年、一昨年とホグワーツで普通に生活してあぁなった事を反芻しながら自信なさげに相槌をうった。
「…だから大臣はホグスミート村の許可証にサインしてくれなかったんじゃないかしら」
「それだな!あー……何というかごめんハリー」
「気にしなくていいよロン」
「でもそういう話ならヤツが捕まらない限りハリーは村に行けないんじゃないか」
「確かに…」
ハーマイオニーが珍しくロンの意見に賛同した。
「追い討ちは勘弁してよロン。来年なら書いてもいいって大臣が言ってた気がするし」
「ブラックは例のあの人の配下…なんだよね」
すると今まで黙って話を聞いていたジニーが口を開いた。
「そういう話は記事でも書いてあったわね。でも危険な殺人鬼でそれ以上の情報は少ないからあんまり調べようもないわね。それこそミケルセン先生に聞けたらよかったんだけど」
「……………」
ジニーは去年の事件から完全に立ち直れてはいない。自身が日記を介してヴォルデモート卿に操られていたのだ。自身が入学する前の時点でハリーは例のあの人と対峙している。一昨年、去年、そして今年はブラックと言ってしまえば気が気じゃなかった。
「ありがとうジニー」
「え、」
隣に座るハリーからいきなりお礼を言われてジニーは戸惑った。
「心配してくれてるんでしょ。僕のこと」
「あ…その」
「大丈夫だよ。基本、ホグワーツの中で過ごすように気を付けるから。ホグスミート休暇でみんな居ない時はチェスでも付き合ってよ」
「…うん」
「微笑ましいところに水差すようで悪いけどハリー、”基本“って言った?」
ハーマイオニーがそれを見逃さなかった。
「ハーマイオニー、希望を持つぐらい構わないだろ?ホグスミート村に行けるならその機会は僕だって本当なら逃したくないからね」
「それはそうでしょうけど…」
するとハリーの『携帯かくれん防止器』ことスニースコープの音がコンパートメントの中で微かに響いた。ハリーがそれを鞄から取り出して修理に出す話を皮切りにロンとハーマイオニーのペットを巡った穏やかならぬ口論に話題が移る。それは長続きしなかったがハリーは不介入を貫き、ジニーは参戦こそしなかったが家のペットのはずのネズミよりハーマイオニーの猫を庇いたかったような態度だったのをハリーは読み取った。車内販売を見送った後にやってきたのはマルフォイ御一行だった。
マルフォイは相変わらず絶好調でウィーズリー家とハリーを中心にボロクソに語り出したが座席の奥に寝ている男が新しい先生だとハリーが言ったところで口を閉じ、ジニーの穏やかな微笑を保ちながら殺意を宿した目で睨まれた所で後ずさると捨て台詞も忘れて逃げるようにその場を去っていた。前年度に石にされた身としては当然の反応かもしれない。その様子をロンは鼻で笑って見送った。ニヤッとしたジニーに釣られて笑うハリー。苦笑いも混じりつつ良い気味だという思いも垣間見えるハーマイオニーと、4人はしばらく笑い合った。
その後、談笑を続ける最中に列車が止まると立て続けに照明も消えてガラスが凍り付き、それを合図のようにコンパートメントに入ってきた黒いマントを被った影のような何かを見てからハリー意識を失った。
* * *
「ハリー!しっかりして」
言い表せない悪寒に震えながらもハリーは目をゆっくり開けた。
「ハリー…!大丈夫?」
目を開けると最初にハリーの視界に入ったのはジニーとコンパートメントの天井だった。ジニーは蒼白な顔で震えていたがハリーをさすって起こそうとしてくれていた。ハーマイオニーとロンもすぐ横でハリーを心配していてその後ろでルーピン先生が鞄から何かを取り出そうとしていた。ハリーはとても気分が悪く、耳の後ろに冷や汗が伝っていった。視界がはっきりしてくるとハリーは自分がどうなってるのかをようやく理解した。ジニーに膝枕されている。ハリーはすぐに体を起こそうとしたが震えが酷く、頭を上げる事しかできなかった。
「無理しないでハリー。しばらく気を失っていたのよ」
そう言われてすぐにジニーの膝に頭を戻された。恥ずかしさに申し訳なさもあったが気分が凄まじく悪かったハリーは抵抗するどころではなかった。とにかく全身が冷たくてしょうがない。そんな中で頭を優しく撫でてくれるジニーの手は唯一の希望だった。
「大丈夫かいハリー」
ルーピン先生に問いかけられたハリーは首を辛うじて縦に振った。
「あぁそのままでいいよハリー。彼女の言う通り、下手に動かない方がいい。まずはこれを食べなさい。気分が良くなるはずだ」
「これはなんですか…?」
「チョコレートだよハリー。さぁ食べて」
ルーピン先生はとにかく食べるように促した。
「大丈夫だハリー。みんなもう配ってもらったんだ」
ロンは安心させるように言うとハリーも手渡されたチョコを口に運んだ。横になったまま、かじるのは恥ずかしかったが食べて正解だった。さっきまでの悪寒や絶望感がスーッと引いていき、体の震えも段々と治っていく。全てを咀嚼して飲み込んだ頃にはかなり良くなった。
顔色も戻ったようでジニーは内心、少しと言うよりかなり名残惜しかったがハリーが体を起こすのを手伝った。
「ありがとうジニー…そのほんとに」
「どういたしまして…」
事態も落ち着いた事で恥ずかしさが追いついたジニーは急に顔を赤くしていたがハリーのお礼に応えた。
10分も経たないうちにホグスミート駅に到着したホグワーツ特急から降りて馬車に乗り込んでからも3人はハリーを心配してチラチラと見ていた。馬車での会話はなかった。
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