HarryPotter 魔法省魔法法執行部公安局 作:Firebolt08
ミケルセンは終わらない移動に目を閉じて必死に耐えていた。次第に体の感覚が戻ってきたのを実感し、どうやら目的地についたようだ。うっすら目を開けると場所はやはり屋内だった。空をよろけながらも歩いて着地する。学生の頃のように移動キーで地面に叩き付けられるのは御免だった。地球を半周するレベルの規格外なダンブルドアお手製の移動キーで吐き気を催す。しばらくまともに食事ができていなかったことで幸か不幸か戻すものがなかったミケルセンはしばらくその場で膝をつくだけで済んだ。
ここはどこだ瞬きを繰り返しながら周りを見渡すとそこは懐かしの古城だった。
「何故ここに…」
ダンブルドアは校長室に到着するように考えていたのだがそれだと面白くないと思ったのかランダムでホグワーツのどこかに到着するようにしたのだ。いい迷惑である。
まだ目眩が治らなかったので懐かしの大広間に続く階段に腰掛けた。
動く気にもならず辺りを見渡すが、生徒達は眠りについているようで辺りは人の気配がない。しばらく静かな校舎を懐かしんでいるとしもべ妖精に声をかけられた。バケツと箒を持って三角の頭巾をかぶっている。
「夜分遅くに失礼致します。お客様でいらっしゃいますか?」
「あぁ校長に呼ばれてね」
「ダンブルドア校長様のお客様ですか!お会いできて光栄の極みです!」
「掃除の邪魔だったな。すぐに退くから。あ…」
ミケルセンはしまったと口を閉じた。日本では座敷童に掃除の邪魔だからそこを退けと小突かれるのもしばしばで、すっかり屋敷しもべ妖精のことを忘れていたのだ。しかし、ここでこっちから謝ろうものなら目の前でしもべ妖精は自分からバケツに頭を突っ込みかねない。極端に自罰的なのも困ったものだ。
「滅相もありません!!たまたま近くを掃除をしてたらお見かけしましたので何かお手伝いできる事はないかとお声がけしただけですございます!いくらでも階段にお座りください!あの怪我をなさっているようですが大丈夫でございますか?」
しもべ妖精は何て恐ろしいことを言うんだという表情でミケルセンが退くのを防ごうと必死に引き留めた。
「大したことないから大丈夫だ。それよりそういう事なら何か食べるものを貰えるかな。パンに野菜を挟んでくれるだけでもありがたい」食事ができるならそれ以上に今幸せなことはないと上げかけた腰を下ろす。
「すぐに用意させますので!ここでお食べになりますか?」
「ここにいるよ」
まだ動けない。動きたくもない。
するとしもべ妖精は安堵の表情を浮かべ、意気揚々と指をパチンと鳴らして姿を消した。そして数分もしないうちに大きめのバスケットを持って戻って来た。
「お待たせしました!食べ終わったらそこの壁にでも立てかけておいてくださいませ!それでは私めは失礼させて頂きます!ごゆっくりどうぞ!」
「ありがとう」
久しぶりの温かい食事に感動しながらミケルセンはサンドイッチにかぶりつく。熱すぎず、飲みやすい温度のスープを啜りながらトウモロコシを手に取り、バスケットの中身を食べ進めていく。やっと空腹感が収まって少し気分が良くなっていると唇をキュッと結んで無表情のthe魔女がこちらに来ていた。
階段で食事を広げていたのでヤベッと焦ったが時すでに遅く、マクゴナガルは口を開いた。
「ここで何をしているのですかスティーブン」淡々と尋ねていたが少なからず、驚きが混じっている口調だった。
「ご…ご機嫌ようミネルバ。しもべ妖精から食事をもらって晩御飯にしていた所です」
しどろもどろになりながらミケルセンは答える。食べる?とサンドイッチを差し出したがマクゴナガルは結構ですとすぐに断った。
「なぜあなたがここにいて階段で”晩御飯“を楽しんでいるのかをお聞きしたのです」
「校長閣下に半ば強制連行されて来たんですよ。あの手袋でね。移動キーはしばらく乗りたくないですよ」
こうなるとマクゴナガルがダンブルドアにお説教をするのが分かっていたが誤魔化す術はなかったのでミケルセンは正直に答えた。
「アルバスが?なるほど全て理解しました。先の一件を受けてあなたを呼びつけたようですね。レイブンクローから点を引くのはやめておきましょう」
「卒業生から点を引くのは勘弁してください。現役の学生に恨まれてしまうのは辛いものがありますからね。それで校長はどちらに」
「例の4階です。案内しますか?」
「ありがとうございます」
バスケットの中身を平らげたミケルセンはしもべ妖精に感謝を綴ったカードを魔法で添えると立ち上がった。案内してもらえると思ったがみるみるマクゴナガルの顔が引き攣っていく。
「何か…?」
「その血はどうしたのです」
そういえば全く返り血も綺麗にしていなかった。それにさっきの移動キーで塞がっていた傷口が開き、血が流れている。
「どれですか?」
「袖の血です!」
マクゴナガルはついに狂ったのかとでも言いたげに大きな声を出した。声に心配が滲み出ている。
「あぁこれは返り血ですね。ドロホフとさっきやり合ってきたので」
ここはあえて飄々と返す。ミケルセンはマダムポンフリーの説教は聞きたくないのだ。
「何てことです!それじゃさっきまで日本にいたというのですか」
日刊預言者新聞でも日刊マーリン賢者新聞でも連日、日本での死喰い人騒動は一面を飾っており、イギリス魔法界はその動向を見守っていたのだ。ダンブルドアから個人的な情報も教えられていたマクゴナガルは内情をよく知っていた。
「はい。ですから移動キーはもうしばらく乗りたくないと」
「アルバスには厳しく言っておくべきですね。人遣いが荒すぎます。ではそちらの血は」
「あぁこっちは私のですね」
「スティーブン、今から案内するのは4階ではなく、医務室です」
「え…いやです」
「ダメです」
それから医務室に連れていかれたミケルセン。入り口でエンカウントしたマダムポンフリーにガミガミ言われながらボロボロのコートやスーツを脱がされ、傷口に容赦ない消毒を浴びせられるとパジャマに着替えさせられ、ベッドに押し込まれようとしていた。ミケルセンは大丈夫だから!と必死に反抗したがマダムポンフリーが杖を抜いたところで抵抗をやめた。じゃあせめてハリーをひと目見たいと言い訳してミケルセンは少し離れたベッドまで歩いていった。
ジェームズを思い出す顔に額の傷跡が光っていた。目を閉じているから分からないが目は綺麗な緑でリリーと同じだと聞いている。この年で既に奴と対峙したというのだからやはり運命というのは存在するのかもしれない。などと考えているとマダムポンフリーが今にも金縛り呪文を放ちそうな顔になっていたのでミケルセンは大人しく割り当てられたベッドに入っていった。それからも魔法薬を嫌というほど飲まされながら説教を聞く地獄が始まったのだが最後に飲むように言われてた睡眠薬を説教の途中で飲む暴挙に出たミケルセンは夢の世界へ逃げていった。
それに気付いたポンフリーは青筋を立てたがすぐに大きなため息をつくと布団をかけて造血剤の在庫を確認しに薬品庫に戻っていった。ミケルセンは自身が思うより出血していたのだ。少し離れたベッドで寝かされていたハリーポッターは大人の低レベルな争いが起きていたとはは露知らず、眠り続けていた。
* * *
「遅かったのステi …おやミネルバ。どうかなさったかの」
ダンブルドアはあれ思ってたより遅いし迎えに行ったほうがいいかなどと考えながらうたた寝していたがやって来たのはミケルセンではなくマクゴナガルだった。
「アルバス。スティーブンはさっき医務室に押し込んできました。血まみれのボロボロでしたからね。焦げついたコートに返り血と自分の血がべっとりです!この時間だったからよかったもののおおよそ子供に見せていい風貌ではありませんでした」
「うむ…どうやら凄まじくタイミングが悪かったようじゃの。コーネリウスに強くお願いしたのが不味かったか」ダンブルドアはバツが悪そうに口籠った。
「えぇ凄まじく悪かったようです。なんでもドロホフの腕を切り落とす死闘を繰り広げた直後だったそうですからね。あなたのお陰で東京観光ができなかったとも言ってました」
「それは実に申し訳ないことをした」
「それはスティーブンに言ってください。そして何より、血まみれの人間を大陸を跨ぐ移動キーに乗せるのは控えるべきだと私は思いますがいかがですか校長」
「ぐうの音も出ないといった所じゃミネルバ。反省しよう」
「大いにそうしてください。とにかく彼を交えての現場調査や話し合いは後日に」
「勿論だとも。ワシもお見舞いに行くとしよう」
一方、マダムポンフリーは在庫が切れそうな造血剤を作ってもらうべく地下室へ降りて行った。そこには魔法薬学の教授が2度目の就寝をしていた所だった。ヴォルデモートが現れたことで一度、ダンブルドアに起こされていたのだ。何の成果も得られなかった闇の帝王探しを終えたばかり。それからようやく寝れたスネイプだったがすぐにまたしても叩き起こされた。起こしにきた人間を一瞥すると姿勢を戻し、毛布を頭まで被って寝ようとしたスネイプだったがすぐにマダムポンフリーに布団を剥ぎ取られていた。
それから夜通し、造血剤の調合をさせられたスネイプは事情を聞いてもっと不機嫌になった。大鍋に今でも毒を盛りそうな顔だったが無事にミケルセンの元に良質な造血剤が届けられた。
* * *
ホグワーツ城に朝日が差し込み、ミケルセンは久々に清々しい朝を迎えるとお見舞いではなく文句を言いにきたセブルススネイプが医務室に入ってきた。
「やぁセブルス。久しいね」
ミケルセンにとってスネイプは後輩である。寮は違えど関わる機会はクラブなどで多かった。
「スティーブン。私はあろうことか夜中に2度も叩き起こされた挙句、徹夜で調合をする憂き目にあった。半分はポッター。そしてもう半分は貴様のせいだ。吾輩の言いたことが分かるかね」
スネイプは普段からあまりよくない顔色に特大のクマを浮かべていた。本当に申し訳ないとミケルセンは内心思っていた。
「久しぶりに会えて嬉しいってことか。何だか照れるな」
「毒入りの造血剤が欲しかったなら最初からそう言いたまえ」
「冗談だ。調合の時にそんなこと考えてたのか?一緒にジェームズを湖にぶっ飛ばした仲じゃないか」
「その名を出すな。そしてあれは勝手に貴様がやったんだろう」
「パンツを脱がされるよりはいいと思うk…悪かったって!先輩なのに迷惑をかけて悪かった。素晴らしい薬をありがとう」
「一応、先輩の間違いでしょうな。次からはご自分で調合なされるよう。ポッターはいまだ目覚めずか」
スネイプはハリーの眠るベッドを一瞬見ると最後にそう溢した。
「ハリーはまだ眠ったままだそうだ。心配か?」
ミケルセンが少しニヤニヤしながら尋ねる。
「見当違いも甚だしいですな…それでは吾輩はこれで失礼する」
はっ倒すぞという殺気を持った目をしたスネイプは帰ることにしたようだった。
「相変わらず、素直じゃないな。お見舞いどうも」
それに言い返そうとしたスネイプだったが口を閉じ、マントを翻しながら医務室を出て行った。それに入れ違うようにダンブルドアが申し訳なさそうに入ってきた。
「おはよう、スティーブン。調子はどうかね」
「お陰様で絶好調ですよ校長閣下」
「いやぁ本当にすまんかった。ワシとしたことが時差をすっかり勘定から外しておっての。ミネルバにしっかり咎められてしもうた」ミケルセンはイギリス魔法界一の賢者が白々しいと思いながらも苦笑いで返した。
「朝刊を読んだよ。話は聞いておったが日本ではなかなか苦労が絶えなかったようじゃの」
「相手が死喰い人単品ならよかったんですがね」
「うむ。死喰い人に反社会的な組織が繋がり、それにマグルの警察組織に政府が絡んでその糸を引いていたのは魔法省の副大臣とは恐ろしい話じゃの。あぁ今のは新聞に載っておった訳じゃない。コーネリウスからの連絡じゃ。ワシも近いうちに呼ばれるやもしれんと」
「ほぼ確実にあなたの頭脳が必要とされるでしょう。少なくとも日本魔法省は政府との信頼関係をどう修復するかに今は腐心するしかない」
「そうじゃの。まぁコーネリウスがある程度はうまく取り纏めるじゃろう。その後でこんな老ぼれのヨボヨボの脳みそに出る幕があれば協力は惜しまないつもりじゃよ」
「謙遜もすぎると嫌味とは言いますけど正にですね。それでハリーがトムリドルと対峙したと?」
「そしてハリーはまたしても打ち勝った」
それからミケルセンは11歳で魔法界を知った子供とは思えない武勇伝を聞かされ、素直に驚嘆した。そしてジェームズの無茶苦茶さを思い出してやっぱり親子だなと思っていた。
「ここまで来るとリリーの愛が末恐ろしいですね。それでラッキーでそのままうっかり殺っちまったとはならなかったんですか」
「ヴォルデモート卿は肉体を失い、再び霞のような存在に成り果てて逃げ去った。どうやら彼が行った不死の研究はある意味でかなり上手くいっていたようじゃの。ワシはこれから時間の許す限り、本格的に奴の不死性を打破する術を探ろうと思う。そしてそれは君の協力が不可欠じゃ」
「それが呼び戻した理由ですか」
「そうじゃ。頼めるかの」
「断る訳にもいかないでしょう。奴が魔法界を支配すれば瞬く間に我々はマグルに滅ぼされてしまう。選択肢は逃げる以外にひとつしかない」
「君のその一貫した部分がワシは好きじゃよ」
「これは使い方によっては死の呪文が優しく思える代物ですよ。我々はそうなった時、無力に等しい」
ミケルセンは懐の銃をダンブルドアに見せた。ダンブルドアは半月型のメガネを光らせ、若き頃を、グリンデルバルドを思い出しながら静かに頷いた。
「しばらくゆっくりしていくと良い。コーネリウスも学期末まではホグワーツに滞在して構わないと連絡をもらっておる。その上で君にお願いがあるんじゃが」
「それは嫌です」これはミケルセンにとって断固拒否であった。
「そこをなんとかやってくれないじゃろうか」
「ただでさえ1年勤めたら何らかの形で辞めることになる職に1、2ヶ月限定で勤務するといったイレギュラーを試して死ぬのは御免です」
「うむ…防衛術は休講にするしかないの。来学期に雇える人材がいるといいのじゃが」
「ただ、フクロウ試験やイモリ試験を控えてる学生の質問に答えるぐらいは構いません」
するとダンブルドアは顔を輝かせて喜んでいた。
「あくまで試験対策の臨時講師とか別の職業にしてください。説明の時はいいですが役職の中に闇の魔術に対する防衛術の“や”の字も入れないで頂きたい」
「あい分かった。部屋も違う場所に用意させるのでマダムポンフリーが許可したら生徒に紹介しよう」
「給料は弾んでくれますな」ミケルセンは茶化したように言う。
「そこは心配しなくてよい。幸いひとり居なくなったのでな」
お返しにダンブルドアは凄まじいブラックジョークをお見舞いしたが本人含めて誰も笑わなかった。
それからダンブルドアはハリーの元に行き、慈しむような目で彼の様子を確認するとミケルセンに挨拶をしてガッツポーズをしながら医務室を出て行った。試験直前に教授不在の穴を埋められたのは校長としてありがたいのだ。
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