Re:Roseliart Online   作:ユイトアクエリア

1 / 7
1 これはゲームであっても、遊びではない。

 本日、11/6は、ソードアート・オンライン(SAO)の正式リリース日。

 俺の生きてきた理由の大半が、この日のためにある。

 今日は休日だが、SAOを買うための長蛇の列が、そこかしこでニュースに取り上げられている。

 まぁ、ある意味休日だから、と言えるだろう。

 それなのにお前は自宅でのんびりしてていいのか、という疑問があるだろうが、それについては何も問題ない。

 俺は応募倍率何百倍の狭き門、SAOのβテストを受ける権利を勝ち取ったのだ。

 そして、テスターにはもれなく優先購入権が与えられる優遇。

 それによって、俺は争奪戦に参加せず、悠々とネットサーフィンをしながら正式リリースの時刻を待っている、という訳だ。

 

「...時間だ」

 

 パソコンの電源を落とし、ベッドに寝転がって、仮想世界に行くためのインターフェースヘッドセット:ナーヴギアを被り、それの電源を入れる。

 バイザーを降ろし、左上の時刻が1:00になったことを確認し、目を閉じる。

 一度深呼吸してから、コマンドを唱える。

 

「リンク・スタート」

 


 

 虹色の空間を抜け、脳とナーヴギアとの接続を確認する。

 ユーザー名とパスワードを入れると、《βテストの時のデータが存在します。そのまま使用しますか?》という問いに、ノータイムで《YES》と答えれば、《welcome to Sword art online!!》という文字が俺を迎える。

 

 

 無意識に閉じていた目を開けると、そこはレンガが敷き詰められた床。

 視線を上げれば噴水が存在し、周りを見渡せばおそらく現実とは違う顔をしているであろう何千のプレイヤー。

 目線を降ろして、手を握って緩める。

 

「帰ってきたんだな...」

 

 今度こそ100層を目指してやるぞと、秘かに息巻いて路地裏へダッシュした。

 

 


 

 テスターとはいえ一介の学生、βが終わった当時、俺は高校受験勉強に力を入れていたので、ブランクがある。

 記憶は薄れないものだなと思いながら、広場にある店より安い武器屋に向かい、そこで一番安い剣を買う。

 そのままステータス画面からアイテム画面を開き、今買った『スモールソード』をステータス画面の右腕部分にドラッグドロップ。

 すると、背中に装備される。

 そのまま剣を引き抜きながら、フィールドに飛び出す。 

 

 「...っは」

 

 息を吐いて、集中する。

 仮にミスって死んだところで広場の奥の方にある『黒鉄宮』と呼ばれる建物で蘇生されるのだが、ここまで戻ってくるのは結構めんどくさい。

 なので、たとえ初期フィールドだろうと油断はしない。

 

「湧いたな」

 

 丁度良く目の前に沸いた敵対Mob、フレンジー・ボア(イノシシ)をターゲットし、剣を構える。

 構える、といっても剣道のようなきっちりとした構えではなく、両腕からできる限りの力を抜いた脱力状態を作る。

 

 そこから目の前にいるイノシシをまっすぐ見据えながら、右手を引いて左半身を前に出す。

 俺がターゲットしたイノシシは俺のことを視界に捉えると、一つ大きなうなり声をあげこちらに向かってきた。

 イノシシと俺の距離がいい感じになったところで、右手の剣を思いっきり突き出す。

 すると体は勝手に動き、剣には青みがかったエフェクトがかかる。

 この現象こそSAOにおける固有のアクション、《ソードスキル》だ。

 ある程度の型を取っていれば後はシステムが動きをアシストしてくれるので、ある意味ではこの世界で武器を振るうのは楽といえる。

 まぁ、ちゃんとキャンセルできないと変な体制で吹っ飛んでくけど。

 

 

 で、もちろんそんな便利システムがデメリットなく使える訳もなく、硬直時間(クールタイム)というのが存在する。

 簡単に言えば、スキルを使った後に来る何もできなくなる時間だ。

 今のイノシシを屠った技、『片手剣突進技:レイジスパイク』は、初期の初期の技。

 故に回転率は良いが、威力は控えめ。

 熟練度が上がればその分だけスキルが多くなり、その分だけ威力も上がり、その分だけ固まる。

 まぁ、強い技は長く固まると考えていればリスク管理はできる。

 

「...疲れた」

 

 現実の体は1ミリも動いていないのに、何だろうこの虚脱感。

 近くの石に座って力を抜いた。

 休憩ついでにドロップ品を確認する。

 

「...まぁ、だよな」

 

 コルも2桁、ドロップはなんかの薬草。

 1層だし、レアドロップなんか聞いたことないし、何ならさっきのイノシシは王道RPGでいうところのスライムだし。

 そのままイノシシのポップ待ちをしようと思ったが、メニュー画面の時刻表示が5時を過ぎている事に気付く。

 そろそろ母親が晩飯の仕込みを始めるので、それの手伝いに呼び出される頃合いだ。

 アイテム画面を閉じ、メニューの一番下、ログアウトボタンを押すーー

 

「...あれ?」

 

ロ(・)グ(・)ア(・)ウ(・)ト(・)ボ(・)タ(・)ン(・)が(・)な(・)い(・)。

 

 いや、ログアウトボタンの場所自体はあるのだが、《log out》の文字がない。

 他のプレイヤーもその事態に気付いたのか、パーティの仲間とウィンドウを見せ合ってみたり、目を擦ったり、どこからか「コマンド、ログアウト!」と聞こえたが、結果は同じ。

 

 かれこれ5分は経つが、公式が何もアクションをしない所を見ると、何かしらのイベントか?

 

 そう考えた瞬間、俺の体は青い光に包まれた。

 

「強制転移!?」

 

 通常、転移というのは特定の場所か、特殊なアイテムを使って「転移:都市名」と唱えればそこに移動するようになっている。

 しかしここは一層、転移アイテムもなければ、転移コマンドを唱えていない。

 それなのに転移は実行され、数時間前にログインした場所に転移している。

 周りを見ずとも、ほかのプレイヤーによる不安や泣き言が聞こえる。おそらく、この場所に今SAOにログインしている全プレイヤーが集められたのだろう。

 ゲームマスターが出てきて説明するか、それともプレイヤー全員の強制ログアウトか、はたまた告知なしイベントの始まりか。

 期待半分、不安半分で何かを待っていると、誰かが「空が!」と言った。

 その声で空を見ると、《system alert》の文字が六角模様に広がる。

 そして、その六角形の間から、血のような赤いどろっとした液体が流れ落ち、地面に垂れーーず。

 空中で浮遊し、その液体はフードを被った人間のような形を作った。

 しかし、フードの中には暗闇が存在するだけ。顔がない。それが、いっそう赤ローブの不気味さを際立たせた。

『プレイヤーの諸君、私の世界にようこそ。』

 

 その挨拶が、このSAOを、ゲームから現実になる、合図だった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。