度重なる咆哮、地響きを伴う足跡。ダンジョン51階層。オラリオの冒険者の中でも選ばれた強者しか立ち入ることが許されない深層域。
そこで激しい剣舞が行われていた。斬撃に次ぐ斬撃。強悪な竜種を圧倒する剣戟の嵐。華麗にして残酷な斬撃が向かってくる怪物をすり抜け、胴を、翼を次々と斬り飛ばしていく。
モンスターの中でも高い潜在能力を誇る竜種。中でもこの層域を縄張りとする『強竜』は怪物達の親玉とされる階層主に匹敵する強さを持ち合わせている。その力は51階層最強。むしろ他層で出現する階層主を抜きにすれば、現在発見されているモンスターのなかでも間違いなく最上位に君臨する。第一級冒険者でさえ複数での戦闘が必要とされるだろう怪物は、今たった一人のヒューマンに蹂躙されていた。
『剣聖』イチジョウ・光。
極東出身の剣客にして、冒険者の頂点、世界にたった3人しかいない『Lv7』の一人。最強派閥、美神率いるフレイヤファミリアの『猛者』オッタルと都市最強の評価を二分する彼は現在、単独で深層のダンジョン探索を行っていた。
『ガアアアアアアアアアアアアッッ』
もはや瀕死のカドモスの咆哮が響き渡り、最後の抵抗と言わんばかりに竜の代名詞たる咆哮を放とうとする。口内に収束していく熱光が放たれる直前。
「─────【カグラ】」
光が突き出した左手から放たれる光閃がブレスを放とうしていたカドモスより先に頭部に直撃する。同時に収束していた熱光が暴発し怪物を怯ませる。
速攻魔法。
本来ならば詠唱が必要な魔法が無詠唱で発動されるという常識外れの魔法であり、使い手が一人しか確認されてない正真正銘『稀少魔法』だ。弱点として威力の低さが挙げられるが、【カグラ】の威力はLv7まで底上げされた魔力のアビリティと使い手のスキル効果により第一級冒険者の砲撃魔法にも匹敵するという規格外の性能を誇る。
魔法の直撃からカドモスが衝撃から立ち直った時には既に黒髪の剣士が眼前に肉薄していた。瞬間、空中に剣の軌跡が描かれ竜の首が斬り飛ばされる。こうして蹂躙ともいえる戦闘はあっけなく終了した。
モンスターの残骸である灰とドロップアイテムの『カドモスの皮膜』に囲まれながら、今回の冒険者依頼目的であるカドモスの泉に向かう。戦闘の影響で至る場所が破壊し尽くされた中、そこだけは聖域のように守られていた。美しい蒼色の水面を揺らす清冽な泉。蒼い煌めきを宿す神秘的な泉水は、草花が広がる窪みに徐々に溜まっているところだった。どこからともなく瓶を取り出し、窪みから泉水を汲み上げる。クエスト要求量に達した瓶はドロップアイテムであるカドモスの皮膜と共にいつの間にか現れていた半透明の鏡のようなものに吸い込まれる様に消えていった。
「これでアミッドからのクエストは完了か」
友人とも言える銀髪の少女を思い浮かべながらその場を後にした。