極東の剣聖   作:ミノたん

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1話

 

 イチジョウ・光は極東出身の冒険者である。

極東の中央政府『朝廷』。小さな島国を統べる国家系【ファミリア】であり、大神アマテラスのもと多くの従属神が仕える巨大複合派閥。その中でも歴史が古い九つの一族は高位の貴族として執政を行い、国の舵取りを行っていた。『一条』の家はその『九家』の一つである。

 

執政における各家の役割は決まっており、大神にまつわる神事を担当する『三条』、暗部を担当する『五条』などが存在しており、中でも『一条』は他の八家と比べても特別な立ち位置にある。大神アマテラスから直接恩恵を授かり、国の頂点に位置する他国で言うところの王族こそが一条家だ。そしてイチジョウ・光は、そんな家に生を受けた。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 ――気が付いたら俺は転生していた。

 

 正確には前世の記憶を思い出したと言う方が正しいだろうか。自分が別人になったと言う感覚はないし、過去を思い出してイチジョウ・光の自我が消えたなんて事もない。どちらの記憶も俺だと断言できる。そしてこの世界がダンまちの世界と言う事に気付き、今自分が住んでいる所は極東と言われる原作にも登場したタケミカヅチファミリアの連中の故郷であることがわかった。原作をある程度知っている俺はとりあえずこれから先の目標を考えた。

 

そしてこの世界を生きていく上で考えなければならないのが、『黒竜』と『ダンジョン』だ。原作知識を知っている身としてはラスボス的位置に存在するこの二つをどうにかしないことには恐らく薄氷の上に生きているのに等しいだろう。だがお前が頑張った所でどうにかできるような物でもないと言うのは当然の意見かも知れない。

 

しかし、どうやらこのイチジョウ・光という人間はかなりの天才らしい。主神であるアマテラスから恩恵を授かり、ステイタスも剣技も極東建国以来最も優れた才だと太鼓判を押された程だ。

 

そうとわかれば俺はオラリオに行きたい。もしかすると何も出来ないまま死ぬかも知れないが、ダンジョンにモンスター、恩恵にステイタス。ゲーム好きには堪らない設定に溢れている。そしてかの迷宮都市オラリオは英雄の都、英雄が生まれる約束の土地とされ世界一の軍事力を誇る。世界の中心とされあらゆる種族が集まり鎬を削るあの場所は正に強さを求めるにはうってつけの場所だろう。正直英雄になりたいなんて思わないが、ただ俺はモンスターよりも冒険者よりも英雄よりも、そして神々よりも強くなりたい。この強さへの渇望は果たしてどちらの記憶の影響なのか。今世では兄弟も姉妹もいる為、国を運営する後継ぎには困らないだろうし、まずはオラリオに行けるように主神と家族を説得しようか。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 ーーーダメでした。

 

どうやら自分が思っていた以上に主神であるアマテラスに気に入られていたらしい俺はオラリオ移住の件を伝えた瞬間に猛反対された。

 

それでも諦めきれなかった俺は、10歳で恩恵を受けてからの約2年間必死に説得を続けた。そして『ある魔法』の発現とLv3になりダンジョン外の環境では俺のLvはもう上がらないという事実に後押しされ、ギルドの主神であるウラノスとアマテラスの大神同士の取り引きによりなんとかオラリオ移住の権利を勝ち取ったのだ。

 

そしてオラリオに来てから6年後の今、イチジョウ・光は冒険者の頂点である『Lv7』まで上り詰めた。

 

 

 

 

 

アミッドからの冒険者依頼(クエスト)であるカドモスの泉の採取を終えたヒカルは泉があるルームから離れようと足を進めていた。

 

(何か来る…)

 

鍛え上げられた感覚機能が自らが入ってきた通路から何かが迫る音と気配を拾う。警戒態勢に切り替え腰に差している刀に手を添えた瞬間、それは通路からヒカルの視界に飛び込んできた。

 

「…芋虫か?」

 

それは巨大なモンスターの群れだった。全身を占める色は黄緑。ぶくぶくと膨れ上がった柔らかそうな緑の表皮には、ところどころ濃密な極彩色が刻まれており異様に毒々しい。無数の短い多脚からなる下半身は芋虫の形状に似ている。ダンジョン深層を探索して長いヒカルでさえ、一度も見たことがないモンスター。

 

 ─────新種のモンスター?

 

切り替えは一瞬だった。こちらへ向かってくる芋虫の群れに照準を合わせる。ヒカルの後方に現れる金色に輝く十の魔法円(マジックサークル)。発展アビリティ魔導を発現させる事で使用可能になる魔法円は威力強化、効果範囲拡大、精神力効率化など魔法を使用する上で様々な効果をもたらす。

そして展開された全ての魔法円から速攻魔法である【カグラ】が放たれた。着弾。同時に爆発。魔法の連射という前代未聞の荒業。速攻魔法でありながら単体で破格の威力を誇る【カグラ】の連続行使は殲滅魔法を擬似的に再現し、それに勝るとも劣らない。次々と放たれる閃光(レーザー)にモンスターから苦悶の叫び、破鐘のような鳴き声が轟く一方、ヒカルは目を細める。敵の傷口から体液が飛散する度に──じゅぅっ、という音とともに地面を溶かしていた。恐らくあの腐食液は並の武器など容易く溶かす危険性を持っている。

 

「近接専門ならちょっとキツいかな」

 

武器を溶かし得る腐食液を持つモンスターは近接戦闘を専門にする者にとっては一部を除いて天敵になることは容易に予想出来る。だがその腐食液も当たらなければ問題ない。モンスター達は次々と着弾する光の雨を結局突破出来ず全て一掃された。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

数分後モンスターを倒し終えたヒカルは一旦休憩を挟もうと50階層の安全階層(セーフティポイント)を目指していた。

 

50階層と51階層を繋ぐのは傾斜面の岩壁だ。ほぼ崖という険しい坂を跳躍の連続で駆け上がる。ここまで来るまでに至る所に付着していた粘液に予想は出来ていたが、50階層に辿り着き、聞こえてくる人の掛け声と、けたたましい炸裂音。

 

「ロキファミリア… 遠征か」

 

ロキファミリアはフレイヤファミリアと並ぶ迷宮都市オラリオを代表する二大派閥だ。深層を探索するファミリアは移動時間を含めて大量の物資を必要し、それに伴うサポーターを同行させる為、一人の例外(バカ)を除いて遠征という形で大量の人員で探索を行うのが一般的だ。

 

腐食液による武器破壊の影響で本来の力が出せていない様だが流石は都市最大派閥の片割れか。風を纏うヒューマン、蹴りを放つ獣人、怒り狂うアマゾネスが中心に既に戦闘は終息しつつあった。

 

「【終末の前触れよ、白き雪よ。黄昏を前に渦を巻け】」

 

ロキファミリアが奮戦する中、幾つもの詠唱が折り重なる。傷付いた野営地からエルフの団員を中心にした魔導士達が、一斉砲撃を準備する。

 

「【閉ざされる光、凍てつく大地。吹雪け、三度の厳冬─────我が名はアールヴ】!」

 

「【ウィン・フィンブルヴェトル】!!」

 

壮絶な魔法砲撃が戦場を覆った。体液を撒き散らしながらモンスター達が粉々に砕け散った。

 

ロキファミリアが勝利の喝采をあげる中、ヒカルの瞳が視界の奥の一点に止まった。

 

「何だ、あれは…」

 

その直後、音が響いた。

木をいっぺんにへし折る、遠方から響いてきた破砕音が。およそ六メートル。先程までのモンスターの大型個体より、更に大きい。芋虫を彷彿させる下半身は変わらない。ただ小山のように盛り上がっていた上半身は滑らかな線を描き、人の上体を模していた。腕は二対四枚。後頭部から垂れ下がる何本もある管。階層主にも匹敵しようかという巨体と、腐食液が溜め込まれているだろう黒い腹部があまりに醜悪で、ドス黒い。

 

おもむろに、女体型のモンスターが動いた。四枚の腕を開いた瞬間。舞う光。七色の粒子群。鱗粉、あるいは花粉か。極彩色の微細な光粒がロキファミリアのもとに漂い始める。瞬間、第一級冒険者達は直感に任せて、その場を離脱する。間を置かず、無数の爆光が連続した。

 

「きゃあああああああ!?」

 

散乱していた腐食液ごと、地面が爆砕される。エルフの甲高い悲鳴が響き渡り、凄まじい熱気が頬を叩く。大気中にばら撒かれる極小の粒子が全て凶悪な爆弾だ。

 

「総員、撤退しろ」

 

ロキファミリア団長であるフィン・ディムナが告げる。

 

「おい、フィン!?逃げんのかよ!」

「あのモンスターを放っとくの!?」

 

「僕も大いに不本意だ。でも、あのモンスターを始末して、被害を最小限に抑えるにはこれしかない。月並みの言葉で悪いけどね」

 

ファミリア同士で意見が衝突し合う中、フィンは風の付与魔法と不壊属性の武器で腐食液に対抗できる『剣姫』アイズ・ヴァレンシュタインによる単独での討伐を考える中、指示を出す前にモンスターが侵攻を開始する。瞬間。女体型モンスターの地に縫いつく多脚の片側が剣閃にまとめて断ち斬られる。

 

『!?』

 

片側の脚を全て失いバランスを失うモンスター。その隙にヒカルがフィンの横に降り立つ。ばっと多くの目が振り返る中、端的に要点だけを伝える。

 

「俺が()りますから他の人達を撤退させて下さい」

 

「…ああ、わかった。援護は必要かい?」

 

「いりません。撤退が終われば何か合図を貰えますか?」

 

ヒカルの登場に一瞬驚愕を浮かべたフィンだったが、流石の切り替えの速さで頷き、団員達に撤退の合図を出す。

 

「総員、撤退しろ!あのモンスターは彼が受け持つ!」

 

ロキファミリアの視線を感じながら、ヒカルは一人、女体型のモンスターと対峙する。地を這う多脚。揺らめく複腕。極彩色に彩られる怪物的な威容。迫る巨大な敵を前に、気負いも動機もなく、不敵に笑みを浮かべる。

 

トンッと、モンスターからはヒカルの姿が消えたように見えた。そして気付いた瞬間既に自らの腕の一本が斬り飛ばされていた。

 

『アアアアアアアアアアアアッッ』

 

女体型の悲鳴が響き渡る。それは蹂躙だった。ロキファミリアは撤退しながら眼前の戦闘に絶句する。ヒカルはロキファミリアの撤退の時間を稼ぐ為に、モンスターから付かず離れずの距離を保ち、幾重もの斬撃を放っていた。その速度は第一級冒険者の目を持ってしても捉えるのがやっとの正に神速。金光に包まれた緋色の刀。刃に神聖文字(ヒエログリフ)が刻まれたそれは、装備を溶かす腐食液をモノともせず、モンスターを斬り続けていた。

 

(やっぱり《不知火》なら腐食液も問題ないか)

 

ヒカルの主武装、《不知火》。最硬精製金属(オリハルコン)に並ぶ、極東が開発した奇跡の精製金属(インゴット)である日緋色金(ヒヒイロカネ)。それをメインに極東の鍛治神ヒノカグツチとその眷属がアマテラスの髪と神血(イコル)を使用し作りあげた渾身の一品だ。神聖文字が刻まれた緋色の刀は文字通り生きている。日緋色金を使用したその武器は当然不壊属性を有しておりヒカルがLv1の時から共に成長してきた刃は、不壊属性の弱点である攻撃力の低さを感じさせない切れ味を誇る。

 

ヒカルの動きを全く捉えられない女体型のモンスターが焦った様に三枚になった腕を胸の前で×の字を作るように、大振りされる。目を疑うような夥しい量の光粒が、ヒカルの頭上を覆った。煌めきを放つ極彩色の粒子群が、広範囲へ拡散し、降りそそぐ。周囲一帯を焦土とする規模だがヒカルの敏捷ならば射程外への離脱も可能だろう。

 

(一々離れるのも面倒だし、まとめて吹き飛ばす)

 

「【カグラ】」

 

魔法名を唱えると同時にヒカルの全身から閃光が放出され粒子群ごと爆発も吹き飛ばす。手や魔法円からの魔法の放出を拡張した全身からの魔法行使。複数の魔法円を利用した同時発動しかり、詠唱知らずの速攻魔法故に使い手の技量次第で型にハマらない柔軟な使い方も可能になる。

 

魔法を発動した直後、すぐに耳を聾する爆発と轟音が襲った。巻き起こる煙を突き破り、ぬうっと黄緑色の巨体が現れる。空間ごと引き裂きながら薙がれた扁平型の腕。それに対して、一閃、ニ閃、三閃。

開戦と同時に斬り飛ばした腕と含めて、モンスターのニ対四枚の腕全てが斬り飛ばされる。やがて、ドンッ、と。後方の遥か上空に閃光が打ち上がる。撤退完了の信号。

 

ヒカルは信号弾の輝きから、再び眼前のモンスターに視線を戻す。戦闘を終わらせる為、右手に持つ緋色の刀を両手で持ち直し上段に構える。いつの間にか刀に金の光粒が纏わりついていた。金の光粒は溢れ出しては収束の流れを繰り返し、やがて金色の粒子により刃が神々しい極光を放つ。

スキル【聖剣伝説】(ラスト・レガリア)。その効果は剣撃、つまりは剣による攻撃に対してのチャージ実行権。

 

「10秒畜力(チャージ)【聖剣解放】(レクス)

 

スキルの起動鍵(スペルキー)の発言と共に聖剣の一撃たる光の大斬撃が解放される。女型のモンスターに向けて一直線に進んだそれは着弾と同時にモンスター全てを飲み込む光の柱となる。

 

(腐食液ごと消し飛んだし撤退もいらなかったなぁ)

 

呑気にそんな事を考えながら極大の光がモンスターの肉体も腐食液も絶叫も全てを消滅させるのを見届けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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