ダンジョンにELSクアンタが居るのは間違っているだろうか 作:ユーグクーロ
G-WOODさん、評価有難う御座います!!
初めて気が付いた時は見知らぬ洞窟の中だった。
(ここは………一体何処だ?)
記憶が定かであれば、確か仕事に向かう途中、工事中に引き起こされた不慮の落下物によって下敷きになってしまいそうだった子供を助け、そこから意識が途絶えてしまった。
我ながらによくもまぁ咄嗟に動けたものだと自画自賛してしまいそうになるがそれと照らし合わせても今の状況に繋げることは出来ない。
(特に痛みは……ないようだ)
大の大人を挽肉にすることが可能な質量が襲い掛かってきたのだ。
即死、痛みを感じずに天に召されてしまったとのだろうと想像できるのは容易だった。
ならばここは天国、或いは地獄と言えるのだろうか?こんなにも薄暗く、確認できるのは荒っぽい岩肌が覆われたドーム状に構成されたこの場だけだ。
(とにかく動かなけ…れ……ば?)
周囲の探索、まずそれが急務だと悟った俺は恐らく膝立ち状態になっているであろう体を動かそうとするもぴくりとも動かせる気配が感じられなかった。
重たい、まるで全身が鋼で出来ているかのような硬さだ。
辛うじて視点だけは動かせることが出来たのが幸いだ。その目を下に向けるとそこには見慣れない金属の結晶体が足元を包み込んでいた。
そして金属の一辺が鏡のように反射し、そこに映っていたのは…………ガンダムの顔だった。
理解できなかった。俺は思考が完全に停止してしまったのだ。
我に返ったのは数分先の事。
何度見返しても鏡のように映るのはかつてアニメ作品、機動戦士ガンダム00に登場する機体、ダブルオークアンタ。
しかも周りにある金属、恐らくELSと思われるそれが存在するという事は2つが融合した姿、ELSクアンタのそれだ。
(俺が………ELSクアンタに………ガンダムになったというのか?)
すると色を帯び始めた。銀色一色からトリコロールへと染まっていき、指一つ動けなかった体が軽くなった。
(動……けた?)
ゆっくりと立ち上がり、四肢を確認し始めた。
丸みを帯びた装甲、背中には触手らしきものが数本生えており、羽の形状になっている。
そして何よりその中央からは緑色の発光体、GN粒子が際限なく飛び出していた。
(現実………なんだよな?)
天井を仰ぎ、しばしの間思考を巡らせた結果、一度死に、新たな命と共に別の世界で謳歌する。俗に言う異世界転生と呼ばれているものなのだろうかという答えに至った。
(もしそうだというなら、折角の第二の人生………いや、ガンダム生を楽しんでみるのも一興って奴か)
せめてこうなるのであれば家に積み重なった
その日からはこのELSクアンタの体について色々と調べる為にこの洞窟にて動き回った。
ELSの事、GN粒子の事、この洞窟の事、やることは腐る程あったがそれに見合うだけの膨大な時間があったお陰でそこまで苦労することはなかった。
まず分かっていることはここには時折人が訪れることが分かった。
その人達は皆武装している。だが俺が知っているような銃を持った軍隊でもなければ野盗の類ではない。
分厚い鎧を身に着け、剣、槍、弓矢、杖といったまる中世の御伽噺に出てくるかのような格好をしていた。
この時、久し振りに人類に巡り合えたことに俺は我を忘れて彼らに接触を図ったのだが、これが大きな間違いだったのだ。
「お前達に尋ねる、ここが何処か分かるか……?」
(あのーすみません、ここって何処か分かります?)
ふと大きな違和感を感じたのだ。
俺は今、なんと言った?
丁寧に声を掛けたつもりが何故か別の口調へと変換されてしまった。
「ひぃ!?モ、モンスターが喋った!!?」
向こうがこちらの姿を確認したと思ったとたん驚愕を露わにし、切っ先を向けて来たのだ。
「待て、争うつもりはない」
(い、いやちょっと待てって!?)
「や、やれ!!」
こればっかりは焦ったものだ。覚えたばかりのELSの変異を使ってどうにか無力化出来たのでどうにか事なきを終える事が出来た。
原理は分からないがどういうことか口にした言語はELS刹那に変換してしまうようだ。
おのれ、なんて事してくれるんだ。お陰で最終的に取り残した人は精神崩壊して命乞いの言葉しか話せなくなってしまったではないか。
次からは慎重に進まなければならないと猛省した。
初めての人類との遭遇から半年が経つ。
この体が不眠不休でいられたことにより、50年という歳月を必要とせずにELSと相互理解を達成することが出来た。
とはいっても作中通り彼ら自身に個々の意識はなく、体の中で微かに響いてくる感覚があると表現した方が概ね正しいだろう。
慣れるのは苦労したもの、そのお陰でELSが擬態したGNビットを生成することが出来た。
自由自在に扱えるようになって最初に喜んでいたのも束の間、これを試す機会がない。
次第に空中浮遊を行うしか能がなかったビット達だったがすぐに役目が訪れた。
怪物が……モンスターが目の前に現れたのだ。
新たな遭遇、異世界ならではの未知の生物、実に好都合な相手が現れ、枯れていた心に潤いが訪れた。
取り敢えず出現したモンスターに生成されたビットを放つと結果は残酷なまでにモンスターを細切れにした瞬殺であった。
一方的な蹂躙を前に少しばかり犠牲になったモンスターへの哀れみが込み上げてしまった。
更にそれから半年が経った。
今いる場所では少しばかり手応えが感じられなくなったため深い方へと潜ってみることにした。
この洞窟はどうやら下に潜れば潜る程モンスターが強くなっていくらしい。
だがここの構造は複雑でまるで迷路のように入り組んでいて、いちいち下に降りるための入り口を探すのも時間を要してしまう。
いや、正直に言えば面倒くさいというのが本音ともいえよう。
そこで活躍するのはクアンタが使用していたワープ方法である。
これのお陰でどんどん下の方へと続いていくと見慣れない景色が広がっていた。
灰色の霧が彷徨い、松の木のような木々が歪に生えている。
(ここは何処なのだろう……?)
周囲を見渡していると大きな光と轟音が聞こえてきた。気になってしまってゆっくりと近付いていくと大きなくぼみから複数の少女達が瓦礫を押し退けて姿を現した。
そこから現れた赤髪の少女、金髪の鋭い耳の少女が大声を上げ、敵対していると思われる者達に啖呵を切っていた。
(ちょっと待て…………あれって、アリーゼとリオン!?)
少女達の姿には身に覚えがあった。
同じくアニメ、ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか、略してダンまち。
その作品に登場していた二人が今目の前にいた。
(という事は………ここはオラリオの地下ダンジョンという事なのか!?)
そして今は本編から5年前の話だという事になる。そうなればこの後何が起こるのかは明白だ。
もし史実通りに事が運ばれるというのであれば俺がやることはたった一つ。
そう確信し、ワープホールを生み出した。
数秒後にはダンジョンの駆逐者、ジャガーノートが姿を現し、最初の標的に狙いを定め、その鋭利な爪が食い込まれる前にGNビットで吹き飛ばした。
大きく土埃を撒き散らした上空でワープホールを発生させて、アリーゼ達の眼前に姿を現した。
いきなりの出来事であったのだろう少女達は両目を見開き、瞳孔を小さくしている。
「やらせはしない………!」
(誰も殺させない!)
ジャガーノートは再び体を起こすと赤く光る両目をこちらに睨みつけてくる。恐らくは最も邪魔な存在だと認知したのだろう。
すぐさまこちらに飛んで噛みつこうとするが思いっきり蹴り飛ばしてやった。
「当てる………」
(これならどうだ?)
GNビットを生成し、ジャガーノートに向けて放った後、こちらは右腕をブレードに変異させ、再びワープホールで近くまで移動した。
高速移動するビットに対応できないのか目で追うばかり、どうにか引っ搔いて落とそうとするも空振りの結果を得るのみ。
やがてビット達が突き刺さり、金属体の結晶が侵食するかのようにジャガーノートの体を覆っていく。
そのままワープホールから飛び出し、高速移動したままELSに包まれて身動きが叶わなくなったジャガーノートを切り裂き、追撃で背中から刃を形成した触手で攻撃し、再びビットを追加。
最早姿形が見えなくなった標的から一旦距離を置いた後、右腕を別のブレードに形を変えさせ、左手を添えて切っ先を目の前にいるジャガーノートに定める。
「トランザム」
体内のGN粒子を高濃度に圧縮し、体が朱色に染まる。
そのまま一気に加速し、突き刺した。
更にELSの浸食が進み、ジャガーノートは大きな爆発と共に砕け散ってしまった。
(案外呆気ないものだな……)
劇中では圧倒的な強さを見せつけていたのだが、相手が悪かったとしか言いようがないのだろうか?
まさかこうもあっさりと決着がつくとは予想外の為、俺はその場で呆然してしまった。
(さて彼女達にはどう接すれば良いのだろうか……)
ふと我に返り、彼女達に視線を向けようとしたその瞬間、目の前に現れたのは綺麗な刀身だった。
咄嗟の出来事に対応出来ることなく、顔面を叩かれてしまうも大きな響きと共に弾かれ、大きく後退した。
「ちぃ!!」
「輝夜!!?」
いきなり顔面に切り込まれるとは思わなかった。
もう切られたと錯覚してしまった。良かったぁ、この体が頑丈で本当に良かったぁ………
一度距離を置こうと飛翔すると他の団員も動き始めたその時だ。
「セルティ、砲撃!合わせて!!」
両サイドに髪を編み込んだ少女が炎を纏った杖を掲げ、ロッドを手にしている少女もこちらに向けて雷を生み出し始めたのだ。
これってもしかしなくても…………俺、
「「はああああああああああ!!!」」
あ、駄目っぽい。
炎と電が入り混じった砲撃がこちらに一直線に向かってくる。
それに対し、ビットを前方に展開し、GNフィールドを発生、難なく受け止めた。
「嘘!?」
「モンスターが防御魔法を!!?」
「ぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおお!!」
「リオン、駄目!!」
「あの馬鹿!!」
甲高い雄叫びが聞こえてくると思ったら金髪エルフことリュー・リオンがこちらに飛び掛かり、木刀で叩き落そうとしてくる。
それを生成されていたブレードにて受け止め、押し付ける形で地面に突き落とす。
「リオン!!」
大きな土煙と共に大きく肺の中の空気が吐き出される様子が確認された。そのまま下降し、切っ先をリオンの眼前に突き付ける。
すると漸くこちらの存在を再認識できたのかその表情は殺されるという絶望の一色に染まっていた。
戦意喪失を確認したと同時に右手のブレードを下ろす。
少女リオンはこちらの行動を理解することが出来なかったのか呆けた顔へと変貌していた。
「落ち着け、危害を加えるつもりはない………」
(大丈夫だって、殺すつもりはないから)
「っ!?やはり喋った!!?」
「嘘………モンスターが?」
アリーゼを初め、アストレアファミリア全員が困惑し始めた。
まぁ確かに本編では彼女達がゼノスと接触した描写は無かったし、モンスターは討伐すべきを行動理念とする冒険者では今の攻撃も納得は出来る。
当然この戦力で戦い続ければどうなってしまうかも容易に想像できたのか、ゆっくりと各々の得物を下ろした。
まぁ戦うつもりは毛頭無いのだけれども………
「こちらはお前達と戦う意思は無い…………」
(先ずは落ち着けって、な?)
「戦う意思は無い………だと?」
益々困惑の顔を仲間同士で合わせるアストレアファミリア達、このままでは埒が明かない。
しかし、このまま話がしたいから一緒にオラリオに行きましょう………なんて言おうにもその結末は混乱の一言に尽きてしまう。
致し方ない、この場は素直に消え去るとしよう。
その場を後にするように彼女達に背を向け、別の階層へと移動しよう。
「あ、あの!!」
「アリーゼ!?」
不意に声を掛けられゆっくりとそのまま振り向くとアリーゼが戸惑いの表情を浮かべながらこちらをジッと見つめていた。
「あ、あなたは一体……何者?」
「…………」
「さっき、モンスターを倒したのも、私達を助けようとしたってこと?」
「そうだ………」
(そのつもりだが?)
改めてアリーゼは驚愕していた。
後ろではリューと輝夜が必死にアリーゼを引き留めようとしているが、赤き少女は勇気を振り絞って震える口を動かし続けた。
「どうして………私達を助けたの?」
彼女の疑問は正しい、何せいきなり未知のモンスターに襲われそうになったと思ったら更に別のモンスターが乱入して来た上結果的に自分達を助ける事になったのだから、不思議になるのも無理はない。
さて、どう答えようものか……………
「人間の命は、失えばもう、二度と戻りはしない…………」
(いや、その………死なせたくなかったから?)
あーこのクソ翻訳機能が!!!
「失えばって………だから助けたっていうの?」
駄目だ、これ以上話をしても誤解を招いてしまいそうだ。
早々に瞬間移動しよう。
「ま、待って!!」
アリーゼの呼び止める声を背中で受け止めながら俺は再び中層辺りまで撤退することを余儀なくされた。
私達は聞き覚えのない歌と共に現れた謎のモンスターに助けられ、静寂に包まれたダンジョンの中、呆然と立ち尽くすことしか出来なかった。
「アリーゼ…………今のは………一体…………?」
「訳が分からん、モンスターが冒険者を守るなんぞ聞いたことがない………前代未聞だぞ、これは」
此方の疑問に答えることなく、緑色の発光体を放つモンスターが消えた空を見続けたまま、少女達は怯えた。
「と、取り敢えずは地上に戻りましょう……他にもやらなきゃいけないことが私達にはある」
「確かに、今回の件は
「え…えぇ………そう…ね」
恐る恐る来た道へとつま先を向け、各々歩き始めた最中、アリーゼだけがもう一度モンスターが居た場所に視線を向けた。
「あなたは………本当にモンスターなの?」
後に、オラリオのギルドにて似せ絵と共に要捕縛対象と書かれるのは数日後の事になる。
当の本人には知る由もなかった。