ダンジョンにELSクアンタが居るのは間違っているだろうか 作:ユーグクーロ
オラリオを包み込む大きな光が途絶え、既に半日近く経とうとしていた。太陽は既に沈み、今は月光の優しくも儚げな明るさが街を映している。
本来であれば子供は寝床に、冒険者のような荒くれ者達は酒に溺れている頃だったであろう………今は、誰しもがそんな一時を味わう余裕さえなかった。
「おい、こっちの瓦礫を片付ける!誰か手を貸してくれ!!」
「負傷者の治療はまだか!?」
「待ってくれ!もうポーションの在庫が無くなっちまったんだ!!」
四方八方、耳に入り込んでくるのは怒号と苛立ちが募った声のみ、あっちこっちへと走りこむ者も居れば崩壊した建造物の成れの果てを持ち上げようとする者、皆が自分に課せられた役割に四苦八苦して作業は困難を極めていた。
激しい往来の最中、白髪の少年は街の住人と共に掘っ立て小屋を建てようとしていた。
「すまないな。忙しい状況なのにこんな事を君に頼んでしまって………」
「いえ、大丈夫ですよ!」
申し訳なさそうに声を掛けてきた男性は騒動が起きる前は質素ながらも細々と食事処を営んでおり、以前にヘスティアファミリアに食糧関係の援助をしてもらった人だ。それこそリリやヴェルフが加入するずっと前、僕と神様の二人っきりの駆け出しだった頃からだ。
ゴブリンを相手にするだけでやっとだった時期は碌な収入がなくて満足に腹を満たせることが出来なかった時はこっそりと店の売れ残ってしまった物をこっそりと譲ってくれたりと陰ながら助けられていた。
今は店の一部に崩壊があった為に閉店中とのことで再開するには少しばかり時間が要してしまうらしい。
閑古鳥にならない為にもという理由はあるがただ黙っている訳にもいかず、簡易的にでも良いから炊き出しを行いたいとのことで行動を起こしたらしい。その助力をヘスティアファミリアに依頼し、今現在に至るという訳だ。
「でも、今回の騒動で一番の功労者だったろうに、本当に助かるよ」
「えぇ、それは……まぁ………」
向こうは労いの言葉を掛けているのだろうが今の僕にとってそんな思い遣りが悪い意味で心に響いていた。店主の微笑みから目を背けるように全ての要因となった場所へと視線を移した。
オラリオの町全体を膨大な光が覆い隠すという未曽有の現象、そしてその中心地………すべてはそこから始まった。
「何度言えば分かる!彼は敵対しようとしているのではない!」
一人の女神が声を荒げ、必死に抗議している。貞潔を司る処女神が一人アルテミスが眷属達を背に槍を携える
「申し訳ありませんがそれは無理な相談ですと、前にもお伝えした筈です。アルテミス様」
「お前達の立場も分かっている。だがそれでも____」
「彼等は意図的にこちらを敵対している訳ではない、だから〘調停の場〙を設ける………理屈は間違っていません」
「だったら!」
「ですがアルテミス様、我々は人、相手は
女神の言葉を遮り、淡々と面を向き、口を開く。
「知性がある、敵意は無い、向こうがそう述べていたとしても、その確固たる証明すらないというのにそんな真似をすればオラリオ内外に大きな波乱が起きてしまいます」
「現に刹………ガンダムは誰も殺してはいない、違うか?」
「えぇ、確かに仰る通りです、ですが、それでも無理でしょう」
「何故………何故だ!?」
「そう簡単に受け入れられる程、人とは完璧では無いからです………すみませんが今は緊急事態ですのでこれにて失礼します」
つま先を反転させ、番人と己の眷属達から止められながらも何度もこちらを呼び掛ける声が遠退いていく。
「調停………か………」
ガンダムが発した光の中心、その場には瓦礫が散りばめられ、街中でも最も被害が甚大であろうにも関わらず、誰一人復興作業に準じる者は居ない。
その代わりというべきかロキファミリアを始め、名の有る冒険者達がその場で武装に身を包み、緊張を張り巡らせながら立ち往生している。ダンジョンに潜りこんでいる訳でもないのにこれから戦いに挑むかのようなひりついた空気が辺り一帯を埋め尽くしていた。
その原因はただ一つ、その場に居る者達の視線が集うその先に………今回、街に甚大な被害をもたらした存在、ガンダムが鎮座していた。
かつての輝かしい光は一欠けらも零れることは無く、それどころか全身が銀色一色に染まっており、瞳の部分であろう箇所からは輝きを失っている。何も知らない者からすれば貴金属から作り出された彫刻に見えただろう。不気味でありながらも何処か神秘的な美しささえ感じ取れる存在が跪く形でその場に両膝を地に突くように静かに座していた。
「やぁ、あれから何か変化はあったかい?」
ガンダムを監視している冒険者に対し、沈黙を破る様に声を掛けたのは自身の身の丈を超えるロキファミリアの団長、フィン・ディムナはさながら昼過ぎの挨拶を交わすかのような穏やかな声色を発した。
「いえ、あれから此れといって………あの騒動が嘘みたいに思えるくらいですよ」
「………そうか」
異状なし、それすなわちこれ以上の進捗は得られていないとも取れる結果を前にしてもフィン団長の顔は穏やかだった。
始めはガンダムが何らかの予備動作の類かと警戒したものの、その後何も起きることなく時間が過ぎ去った。
ロキファミリアを筆頭にガンダムと周囲から発症される超常的な現象の調査が行われているが、そこには進展なしという態のいいお題の下、ただただ時間ばかり浪費されていく一方でしかない。
さてはてどうしたものかと思考を張り巡らせているところに後ろから軽い足音が近付いてくる。
「フィン、ガンダムの様子は?」
振り向くとそこには緑色の長髪を靡かせるファミリア幹部が一人、リヴェリアが凛とした佇まいで歩み寄って来た。
「見ての通りさ、残念ながらね。そっちは………その様子を見るにそろそろ向こうも痺れを切らしたか」
「あぁ、それも今度はギルド長自らときた。」
ガンダムが身動きを取らなくなってからすぐさま動きを見せたのはギルドだった。活動停止した今、ガネーシャファミリアとの共同の下、ダンジョンに連行するというのが彼らの意向だった。
それをあれやこれやと理由、もとい難癖をつけてこの場を我々だけで占拠しているのが現状だ。
「流石にこれ以上の時間稼ぎは無理があるぞ」
「分かった。出来ることなら或いはと思っていたんだけどね………」
「何か策があると?」
「………いや、何でもない。忘れてくれ」
リヴェリアからも諭される様に警告された。ここらへんが引き際なのだろうかとそう思った瞬間、大きな爆発音が街全体を駆け巡ったのだ。
「なんだ!?何が起きた!!?」
「あ、あっちだ!」
空を見上げると大きな黒煙が狼煙のように高々と昇り始めていくのが確認される。位置はダイダロス通り、例の高度な知的を持ち合わせたモンスターが溢れ出た洞穴だ。
「十中八九、ガンダムが引き連れていた知性の高いモンスターだな」
「どうやら、痺れを切らしたのはギルド長だけではなかったようだ…………他のファミリアに市民の安全を優先せよと伝達!モンスターは我々のみで迎撃する!」
復興に追われていた群衆は再び引き裂けるような産声をまき散らしながら濁流のごとく流れ始めた。
僕はそれを掻き分けるように群れとは反対方向へと掻き進める。
「一体何が………」
突然の出来事に思考が追いつかない。しかし、今この状況から察するにそれはあまりにも認めたくない予測が滲み始めてくる。
そんな筈はない。起きてほしくない…………
「クラネルさん!!」
固くなった意識を引き戻され、振り向くと正義を掲げるアストレアファミリア、リューさんとアリーゼさんだった。
「リューさん、この騒ぎは____」
「例の知能の高いモンスター達が再び各所から出現しました」
「そんな!!?」
やはり、そうだったのかと心の中で大きく跳ね上がった。
今のゼノスにオラリオの全てとぶつかり合うには戦力が無さ過ぎる。
フェルズさんにウィーネを預けてダンジョンとまでは行かなくても何処か安全な場所まで一緒に引き上げると聞かされていた。
どうしてですか、フェルズさん………
「アストレアファミリアはロキファミリアと合同で出迎えます。クラネルさんは市民の避難を。アリーゼ、行きましょう!」
リューさんは的確に指示を出し、行動に移そうとしたが、名を呼ばれた団長はその顔に影が大きく浮かんでいる。
「アリーゼ?どうしたのですか?」
「っ!?な、何でもないわ、行きましょう……」
仲間が顔を覗き込んで漸く気を取り戻した赤毛の少女はすぐに面を上げるもその陰りはかつての天真爛漫な人物とは酷くかけ離れていた。
こちらの返事を待たず、正義の使者は颯爽と戦いの場へと
向かっていった。
「リドさん…………」
「リド!何をしている!!?エルスクアンタは
オラリオの工業区、人気がなくなった倉庫、微かに扉から入り込んでくる陽光が全体をうっすらと照らしている部屋の中で身につけた小さな水晶から独断で突出したリーダーに向けて必死に問いかける。
再び切って落とされた火蓋の幕開けの様子を耳にし、焦りがより一層の拍車が掛かる。
『んなこと言っても、その肝心のギルドも口先で何にも出来てねぇじゃねぇか!』
「今はそう簡単に終わらせられる状況ではないのだ、気を見計らって安全な手段を____」
『もう限界なんだよ!こいつ等寄ってたかって何も出来なくなったエルっちに好き放題やりやがって………こうなったら実力行使で取り返すだけだ!』
『俺はリドの意見に賛成だ、フェルズ』
「グロス!」
『もう我慢の限界だ、結局エルスクアンタがどれだけ歩み寄ろうとも、人は変わらなかった。浅ましく、愚かで、神々から与えられた使命に、自分達のやる事に何の疑問も持たない者にこれ以上情けを掛ける道理はない!』
「止せ!ただでさえ今エルスクアンタの周囲にはロキファミリアが陣を取っているのだ!今からでも遅くはない、奴等と鉢合わせになる前に早く地下へ潜るんだ!」
フェルズが必死の警告を打ち鳴らすももう既に耳を傾ける者達は一人として居なかった。
響くは怒号、斬撃がぶつかり合う響鳴、どちらかが敗れたであろう断末魔、最早事態を収拾どころの話ではなくなった。
これでは彼が望んでいる対話への未来が離れるどころか崩壊しか訪れない。
迂闊だった。ウィーネを地下にいるゼノスの非戦闘員達に預けようとしているその一時、その一時に目を離してしまった。彼に対する人望がこうも仇となるとは、皮肉としか言いようがない。
「どうすれば……………」
「お困りのようだね?」
人目を避け、自身以外は誰も居ないと思っていた薄暗い部屋の中、ゆっくりと革靴の音を奏でながら現れたのは____
「神ヘルメス…………」
「いやぁ、中々に荒れているね。もしこれが暗黒期だったら
ケラケラと笑い、あまつさえ楽しんでいるようにも見える。
今は構っている暇などないと微かに芽生えてきた怒りを摘んで兎に角現場に行って連中を止めなくては。
「すまないが相手をしている暇はない」
「おっと、待ってくれ。何も茶化しに来たわけじゃないんだぜ?それに………俺個人としてもこの状況は面白くはないからな」
「………何?」
帽子を傾けながら愚者に向け、策略を浮かばせる瞳をちらつかせる男神が居た。
「さて愚者よ。一つ………たった一つしかない打開策を提示しよう」
ヘルメスは懐から1枚の紙切れを取り出しそれをこちらに差し出してきた。
「
あかん、書いていく内にゼノスがユニコーン編に出てくるジオン残党軍に見えてしまう…………