ダンジョンにELSクアンタが居るのは間違っているだろうか 作:ユーグクーロ
そして返信出来なくて大変申し訳ない。出来る限り応じるのでこれからもどうかお願いします………いや本当にありがとうございます!
一度訪れた静けさが掻き消され、オラリオは再び戦いの空気が包みこまれていた。
「このぉ!」
迫りくる冒険者達を薙ぎ払いながらもリドとグロス率いるゼノス勢力は僅かながらにも着々と虜囚となってしまった
「ったく、次から次へとキリがねぇ! さっきまで逃げ惑ってた癖に!」
「大方、ガンダムを墜とせたと勘違いして士気が上がっているのだ。一部を除けば数は向こうに軍配がある」
「クソッ! 待ってろよ、エルっち!」
冒険者達に上手く奇襲攻撃が成功したとはいえ、目の前にはこちらに刃を突きつける集団が目と鼻の先で待ち構えている。
「本当にやってのけるんだよな。あのカミサマはよ…………」
「俺に聞くな。だが、恐らく今を逃せば俺達に奪還の機会は一生訪れん」
リドやグロスに限らず、ゼノス達は理解している。冒険者達との戦い、彼等の実力を。
ゼノス全体を見れば多少なりとも場数は歩んでいるとはいえ、元々は生存目的で行動を軸にしている。
物資目当てを除けば、これまで遭遇してきた冒険者との戦闘だって不測の事態による副産物でしかない。
ましてや第一級冒険者なんて化け物じみた相手なんてそれこそエルスクアンタが全て引き受けてくれていたからこそ、ゼノス全体に未曾有の危機が訪れたことなんて極稀にしか無かった。
先の戦闘でもロキファミリアと対峙していた者なら今回で理解出来ていただろう。
自分達では相手にすらならないと………………
ウィーネを無事に保護し一時的に潜伏していた中、エルスクアンタが気を失い、ロキファミリアに捕らえられたと聞かされ燻っていた中だった。
「やぁ、化け物諸君♪」
何処からともなく一人の男がリド達の前へと姿を現した。
男は自らヘルメスという神であると名乗った。
始めは焦りを覚えた。冒険者ではないとはいえ、居場所を知られれば己の眷属か、近くにいるものに知られる可能性があると。
ただでさえ気を失っている
「おっと、勘違いしないでくれよ? 別にお前達が考えているような事はしない。寧ろその逆さ」
目の前にいる神はこちらの殺気を感じ取ったのか両手を上げながら宥めるように声を掛けていた。
「何だと?」
「ガンダム含め、君達が逃げられる算段を伝えに来た……と言った方が良いのかな?」
「どういう意味だ」
神ヘルメスは場の空気を調えるように咳払いをし、淡々と口を開いた。
「知っての通り、今オラリオではガンダムがどういう訳かあんな形で地上に取り残されてしまい、危うい均衡状態にある。誰かがちょっとでも突けばいとも容易く崩れ去るほどにね」
「………………」
リド達は口を開かなかった。相手は神だ。地上では己の力は使えないとはいえ、全知無能と呼ばれるだけあってその頭の中には底知れぬものが描かれていることだろう。嘘を見抜けることも含め、迂闊に一言でも話せば仲間が危険に晒される可能性が高い。ゼノス達はただ眼前にいる軽薄そうな男を睨みつけることしか出来ない。
「そう警戒しないでくれ。ちゃんとこの事はウラノスにも話はつけてるさ」
一同は目を見開いた。
神ウラノス、フェルズを通して
彼がいたからこそ少ない形ではあるがガネーシャファミリアの援助も受けられ、生活が成り立っている。
たが俺達の存在はあまりにも特殊すぎる為、存在そのものが秘匿されているのだ。
ウラノスやガネーシャが口を滑らす様な真似はしない。そう確信して一同は目を合わせる。
「一応聞かせてもらおうか。その算段とやらを」
「グロス?」
切り口を開いたのがまさかの人間嫌いなグロスかと、その場に居た者達は驚いた。
だが恐らくグロスが突き動かされた要因は間違いなくエルスクアンタの事だろう。普段なら『貴様らの手は借りん!!』と怒号一言で返す筈だ。
共に行動していた頃は何だかんだとエルスクアンタに突っかかることはあった。
それでも大事な仲間と認識してのことだと、彼の理念を全否定してるわけではない。
そう理解したリドはつい笑みが零れてしまい、肘でグロスの脇腹を突いた。
「…………何だ」
「何でもねぇよ♪」
和んだ雰囲気を一掃するようにヘルメスは咳払いをした。
「それじゃあ、承諾という事で続きを伝えようか。今現在、もっとも障害となっているのがガンダム周辺に滞在している
「つまり…………こっちから吹っ掛けて向こうを動かせるってことか?」
「それが出来たらとっくにやっている」
淡々と綴るヘルメスの説明を先読みするようにリドが答えるもグロスによって無情にもあっさりと切り捨てられた。
事実、ガンダムが欠けたゼノスにはさほど戦力は残されていない。第二級冒険者であればまだ幾らか対処は可能だが、それこそ第一級冒険者まで加われば彼我の戦力は絶望に等しい事だろう。
始めは勢いがあったとしてもすぐに巻き返されるのが関の山だ。
「いや、何もあの連中と直接衝突する必要はない」
「どういうことだ?」
ヘルメスはリド達の考えを見透かすように不敵な笑みを浮かべる。
「この作戦で最も重要なのはガンダムの回収だ。長期戦に持ち込まれればまずこちらに勝機は無い。だから短期戦で一気に決める」
「短期でって…………」
「街中で君達が派手に暴れれば冒険者全体は必然的に対処せざるを得なくなる。それはロキファミリアも例外ではない」
「仮に連中を惹き付けるとして、フレイヤファミリアはどうする?」
グロスの口からまた新たな問題が浮かび上がってきた。
そう、オラリオの代表はロキファミリアだけではない。
フレイヤファミリア。
ロキファミリアと肩を並べる現最強格の派閥だ。主神の側近とも呼べる幹部は全員第一級冒険者、加えて末端の眷属でさえも第二級冒険者並のかなりの実力者だ。
そんな存在が後ろに控えていると思うとこちらの存在など羽虫程度になってしまう。
「大丈夫、それならこちらで既に手は打ったさ」
「何?」
事の重大さとは裏腹にヘルメスは大して問題ではないと物語るように涼しい表情を浮かべていた。
「元より彼女はこの状況を静観…………と言うより、楽しんでいるようだが。ま、念には念をと思ってね。君達の前には現れないようにしておくさ」
神々は刺激を求めている。かつてフェルズはそう言っていた。自身の乾いた怠惰を満足させるのであれば道化のような茶番を演じるのも厭わないと。
自分達の反乱など眼中ではないと言われているようなものだ。そう思うと今を必死に生きようとしているゼノス達の間で不平不満の苛立ちを覚え始める。
「だから彼女にはこの状況が収まる間までは大人しくしてもらうさ」
目の前の男神がどのような策を講じているのか計り知れないし、ましてや素直に教えてくれる様子もない。だがかといって突破口が無かったところにこの申し出は藁にも縋る気持ちだ。どのみち俺達に選択の余地はない。
「それじゃあ君達にやってもらうことを伝えよう。先ずは_______」
ヘルメスが言うにはこうだ。
『ゼノスが突発的な奇襲を仕掛け、都市全体に再び混乱を引き起こす。その際に自分達の存在を大きく主張するように見境なく戦闘を行う事。無論、冒険者以外の一般市民には被害が及ばない程度にだ』
『一先ずロキファミリアがこちらに接触してこなければ話にならない。当然、
『君達が戦闘、もとい彼等の注意を逸らしている間にガネーシャファミリアがガンダムを回収し、その場から退去する』
そうなれば体裁上、ダンジョンに戻すまでは出来なくともガンダムが意識を戻すまでの時間稼ぎが生まれる。いくらオラリオで名を轟かせる派閥でも迂闊に手出しは出来なくなる筈だ。そうなれば後は自力で抜け出すことが出来るだろう』
『無論、そうなれば君達も何の憂いも無く撤退が出来る。その際にもこちらが助力しよう』
これが男神ヘルメスの考えだった。
「今更だが、あのヘルメスって神様も退屈凌ぎってやつで俺達に会いに来たのかな」
「本当に今更だな。だがもう後には引けんぞ」
「分かってるよ」
今もこちらを討伐しようと迫りくる冒険者に対しリド達が出来る事は武力行使による混乱、目立つことだ。
「ああ畜生! 駒使いされているみたいで癪だがやるしかねぇ!!」
「あいつが来るまでの間暴れていれば良い、やるぞ!」
バベルの塔、オラリオの迷宮を蓋をするように鎮座する巨大な建造物の頂上、街を見下ろすように美の女神が微笑みを浮かべながら見下ろしていた。
「中々面白いことになっているわね」
まるで演劇を楽しんでいるかのように眺めている最中、一人の巨漢が女神の後ろで佇んでいた。
「フレイヤ様、オラリオの郊外にてラキア王国の軍勢が攻め込んできたようです」
「また
「現在、ヴァン達が対処に当たっています。今日中には片づけられるかと」
女神は顎に指をなぞらせながら笑みを崩さず一時の間が流れるとゆっくりと椅子から立ち上がり、窓際まで歩み寄った。
「ヘディン達も向かわせなさい。騒ぎが終わる頃までには追い返して」
「よろしいのですか?」
「今この状況に水を差されるのは面白くないわ…………オッタル」
女神はゆっくりと側近の巨漢に顔を向け、端的に告げた。
「
「承知しました」
巨漢はそう命じられると軽く頭を下げた後、ゆっくりと静かに重い足音とすれ違うように静寂が訪れる。
その場に誰も居なくなった女神はもう一度街へと視線を戻す。
「いいわヘルメス、貴方の悪戯に付き合ってあげる。けどごめんなさいね?」
神為的に引き起こされた
「最後は私が貰うわ」
いつの間にか俺は生まれていた。
暗闇と静寂が支配している見知らぬ洞窟、俺と同じ姿形した見知らぬ存在が襲い掛かってくる。
俺は戦った。我武者羅に戦った。
特に生きる為の明確な目的は無かった…………なのに抗った。
何故かは分からない、何かが俺を駆り立てるのだ、体の中にある何かが脈を打つのだ。
戦え、戦え、戦って勝てと…………
何と戦う? 誰に勝つというのだ?
自分自身を含め、理解出来ないまま戦い続けた。体中から血が溢れようと、骨が折れようと、肉が腐れ落ちようとも、戦い続けた。
そんな時だった。
俺の目の前にまたモンスターが現れた。
だがそのモンスターは他のそれとは違った。
神秘的な光を放ちながら浮遊していたモンスターはあろうことか言葉を投げ掛けて来たのだ。
「待っていた……お前が現れることを…………」
当時の俺は恐怖でしかなかった。
今まで経験したかったことない出来事、未知の相手、本能的に肌から感じる圧倒的な強者の圧力、意識が混濁していた中、拳を振り上げるには十分な理由だった。
其処からの記憶は定かではない。ただ…………夢を見ていた。
また違う暗闇の中、俺の前に白い光の何かが構えていた。
俺はそれに立ち向かっている。
お互いが身を削る鮮烈な戦いを繰り広げていた。
それはとても苛烈でありながらも痛みさえ充実感が見出せる程の一時だった。
そして次に気が付いた時は後に『同胞』と呼ぶべき存在だった。
「おい! 気が付いたぞ!!」
「大丈夫か!?」
次に視界が晴れた時は俺を気に掛ける者達が顔を覗かせてたのだ。
その日から俺は『アステリオス』を名乗ることとなった。
後から聞いた話ではあの光を放つ存在、後にエルスクアンタと名を名乗る同胞が俺を助けたというのだ。
だが俺は知っている。エルスクアンタに戦いを挑んだのだと、そして俺はあっという間に倒されたのだと…………
また敗けたと…………
無論、感謝はしている。この命を救ってくれたこと、また戦う機会を得られたことに。
だからこそ、勝ちたい。
エルスクアンタにも、あの夢で見た真っ白な光の存在にも。
あの日から俺は日々修行の為に心身共に潜り続けた。
そして今は地上へと向けてゆっくりと、確実に足を踏み固めるように進める。
『急いでくれアステリオス! もう地上では戦闘が始まった!』
首から下げられた
きっと向こうは緊迫した状況なのだろう。こんな時不謹慎とは思うのだが不思議と心は落ち着いている。むしろ嬉しさ余って昂りさえ感じ取れる。
徐々に目の前から太陽の眩しい光が大きくなっていく。
さぁ‥‥……始めようか。