ダンジョンにELSクアンタが居るのは間違っているだろうか 作:ユーグクーロ
高濃度に圧縮されたGN粒子を放出し、オラリオを覆いつくされた。光はその場にいた人々の意識が拡張、それらが津波の様に押し寄せてくる。
多種多様にあったが大半が恐怖によるものだった。
その対象は考察するまでもない。自分、ガンダムに対するものだ。
まぁそれもそうだろう。元々モンスター(この世界の者ではないが)でもあるし、散々暴れ回る結果になったのだ。
だって考えてみ? 相手から見たら『仲良くなりましょう♪』って言いながらビーム吐き散らすわ剣を振り回すわ好き放題第一級冒険者を叩き潰してしまった。
正当防衛とはいえ、ここまで引っ掻き回したとあればゼノスとオラリオとの和解が遠退いたことだろう。
またフェルズから小言を言われてしまう。
などと考えていると光に包まれた意識世界は急に暗闇へと変貌した。
俺は焦った。なぜこんな状況に陥ったのか。膨大な情報量はELSを介して必要なものしか提示されないようになっている筈だ。今までこんな事態になった事例は存在しない。
次に起こったのはELSとの繋がりがぽつんと途絶え、何度呼びかけても何の反応も示さなくなった。文字通り孤独の檻と化した世界の中で手探りで歩き回るも意味を成さなかった。
本格的に成す術が無くなったと途方に暮れていたら目の前にうっすらと光が浮かび上がってきた。
目を凝らして観察してみるとそこには一輪の花が姿を現していた。
その花には見覚えがあった。原作で刹那に大きな印象を与えたあの白い花が悠々と浮かんでいる。
それにゆっくりと手を伸ばそうとしたら激しい頭痛が前触れもなく襲ってきた。
前世でも味わったことすらない程に鮮明に、壮絶に頭の中で弾ける。何処からともなく光の粒子が周囲を埋め尽くしていく。
次に意識が戻った時には俺は街中の路地を歩いていた。
たどたどしく、千鳥足で壁を伝いながら歩く。
酷い気分だ。こんな感覚は新卒になったばかりの頃、初めて酷い二日酔いになった時以来だ。
視界も定まらない。目に見えるものが回っているようにさえ感じる。前に進んでいるのか後ろに進んでいるのか立ち止まっているのかさえ判断できない程に。
飛ぼうと思っても飛べない。量子テレポートも発動出来ない。
何がどうなった? どうして俺はここに居る?
次から次へと浮かび上がってくる疑問に答える情報がない。駄目だ。思考が全く定まらない。
「あ___大丈___か!?」
視界の外から声が聞こえてくる。とても若々しく、不安げそうな声色。瞼が閉ざされる最中に声の主の顔を見ようと顔を上げるとそこには真っ白な髪の少年がこちらを覗いてくるも視線を合わせる事すらままならない。
「お前は…………」
再び暗闇の奥深くへと意識が溶けてしまった。
時は流れ、場所はヘスティアファミリアのホーム、竈火の館の中。
「全く、君はいっつも不安要素のあるものを担ぎこんでくるね?」
「す、すみません神様…………」
両手に手を当てながら己の初めての眷属であり、ファミリア団長を務めるベル・クラネルに対し女神ヘスティアは呆れ顔をしながらももう恒例行事のようなものだと半ば諦めた感情で説教染みた小言を並べていた。
「まぁ、
ホームのリビングにてファミリア全員が集合、皆それぞれ神妙な面をしている。
「絶対、
リリルカは腕組しながら連れ込まれた男性に疑惑の言葉が零れる。
「だが見捨てる訳にもいかず、うちの団長様は……ってことだ。いつもの事だろ、リリ助」
隣で今更だと宥めるように冒険者兼ファミリアの鍛冶職人であるヴェルフは笑みを浮かべている。
「はい、それにそんなことを迷わず出来ることがベル様の良いところでもありますし」
「私も同じく」
タケミカヅチファミリア出身の冒険者の命と幼馴染でもある春姫は互いに微笑んでいる。
「そうですけど…………そうなんですけどぉ!」
皆の言い分も愛しい団長の
皆の優しい対応に団長は申し訳なさそうに頬を掻く。
「それにしても…………まさかこんなことになるとはね」
和やかな空気を区切るようにヘスティアは物思いに耽った。
ガンダムを巡り、再び武力蜂起を起こしたゼノスとそれに対抗するかのようにロキファミリアを筆頭とした冒険者達の正面衝突。
始めはゼノスが有利に見えたかもしれないが数と質は格段にオラリオ勢が上だった。
戦況は瞬く間に変わり形勢逆転、討伐か運が良ければ捕縛の二択という未来しか無かった。
先の戦闘でヘスティアファミリアもとい、僕の存在はあまりにも悪目立ちしている。半ば強引に神様達に引き止められてしまう。
苦い表情を浮かべるリドさん達に何もしてあげられなかった。
とてつもなく歯痒い立場に足踏みをしているとそれは大きな変化を見せた。
突如、街のとある場所を中心に大きな光が噴水の様に溢れ出てきたのだ。
止まることを知らないそれは街の隅々にまで行き届いたであろう。まるで別世界に飛ばされたのではないかと錯覚するする程に。
何かが見えた気がした。何かが聞こえた気がした。
見渡す限り光の世界、まるで夢でも見ているかのような感覚だった。
半ば頭の中が呆けていく最中、目の前に一つの影がうっすらと揺らぐ様に姿を現す。その正体を確かめようとした矢先、幻想的な光景は瞬く間に消え失せてしまった。
気が付けば昼間だった筈の空は夕焼け色に染まり、街中の住人達は皆この現象に戸惑い、右往左往することしか出来なかった。
あれは何だったのだろうか?
その現象を後にガンダムは忽然と姿を消した。ロキファミリアも近くに居たのに何処かへと逃げた形跡はないと公表している。
リドさん達の奪還が上手くいったのだろうか、ゼノス全員も街から姿を消し、再び街中に虚しさにも等しい静けさが訪れている。恐らくだがダンジョンまでは逃げきれていない。きっとまた何処かで息を潜めている筈だ。
オラリオ側も未だ油断は出来ないと冒険者全員が協力して巡回警備に力を注いでいる。時折すれ違う同業者達からは鼠の痕跡すら見逃さないと言わんばかりに周囲を見渡している。
かくいう僕もこの出来事があまりのも突発過ぎた所為なのかあまり眠れず、リドさん達にこっそり会えるのではないかという淡い期待を抱きながら街中を散策していた。
「クラネルさん?」
不意に名を呼ばれ足を止めると通りの曲がり角から金髪が特徴的なエルフ、リュー・リオンが姿を現した。
「あらベル君、こんな所で何してるの?」
更にその後ろから赤髪を揺らす女性アストレアファミリア団長ことアリーゼさんが赤髪を揺らし、屈託のない笑みを浮かべながら覗き込んできた。
「リューさんにアリーゼさんまで、どうしてここに?」
「街の巡回です。今のところは事態が収まりつつありますが未だ知性を持ったモンスターがダンジョンに帰ったと確信は出来ていません」
「…………あの、リューさ____」
「リーオーン♪」
会話を遮るように陽気な声が割り込んできた。
「お待たせー!」
一人の女性が満面の笑みを浮かべながら後ろからリューさんに抱きつく。
「ア、アーディ!?」
「ごめんね、もうちょっと早く戻るつもりだったんだけど途中でティオナに会って話が盛り上がちゃった♪」
やや困惑気味になりつつあるリューさんを他所にアーディと呼ばれた女性は軽快に会話を続ける。
「い、いきなり抱きつかないでください!」
「えー? 外の遠征からやっと戻って来たんだよ? 感動の再会する場面だよ?」
「また会えたのは嬉しいですが、もう少し節度というものを!」
普段は冷静沈着とも言い表せるあのリューさんが珍しく取り乱している。とても不思議なやり取りを見つつも傍に居るアリーゼさんはクスクスと笑いを堪えている。
「お帰りなさい、アーディ」
「アリーゼもただいま! それから…………君は?」
ふと声を掛けられ、漸く会話の輪に参加できることが出来た僕は軽く会釈した。
「は、初めまして、ヘスティアファミリアのベル・クラネルです」
「ベル・クラネル…………ヘスティアファミリアの…………白髪の少年…………」
全身を注意深く観察され、一時の間が流れる。
「あ、あのー…………何か?」
「あー!! 君が噂の!?」
何かを思い出したかのように大声を上げられ、ついたじろいでしまった。
「君がオラリオで話題になっているあのリトルルーキーって子!」
「は、はいそう呼ばれているみたいです」
半ば勢いに押される形で肯定するとリューさんから離れ、こちらの手を強引に掴み、握手をしてきた。
「初めまして! 品行方正で人懐っこくてガネーシャファミリアのシャクティ・ヴァルマの妹こと、アーディ・ヴァルマだよ! じゃじゃーん!」
両手を腰に当て、大きく胸を張って自己紹介を始めた。なんだかこういう人に会うのはこの街に来てから初めてかもしれない。
「いやー、いろいろと噂を聞いて実際に会って話をしてみたかったんだよ!」
「は、はぁ…………」
確かにオラリオに来てからというもの、色々と騒動を引き起こすという意味では話題にされてもおかしくはないとは思っていたがこう興味を惹かれたと言われるとあながち悪い気分ではないかもしれない。
「血塗れでダンジョンから戻ってきたり、街中で両手に女の子を侍らせたり、別のファミリアから女の子を掻っ攫ったりしてるって、それから_______」
「殆ど碌でもない噂なんですけど!!?」
期待を大きく裏切られた。無論、悪い意味で。
「アーディ、それは語弊があります。わざと揶揄うような真似はやめて下さい。彼は敬意を払うに値するヒューマンです」
「リューさん…………」
「半分は間違っていませんが…………」
「リューさん!?」
「ええそうよ! きっと美女を見つけるや否やムラムラしちゃって暴走してるのよ!」
「違いますから!? アリーゼさんも悪ノリしないで!!」
和やかに話が進んでいるかと思いきや三対一で話の種にされ、弄ばれるように笑われ、違う疲労感が更に背中を圧迫されそうな感覚に襲われる。
「さてと、冗談はここまでにして、そろそろ戻りましょうか。昔話に華を咲かせるには
「…………えぇ、そうですね」
「うん、そうしよっか……」
アリーゼさんの言葉を区切りにリューさんとアーディさんは何処か悲しそうな声色と瞳で応えた。
「そうだ! ベル君、君も来ない?」
「え? 僕もですか?」
「ええ、私達だけじゃもう話の種が丸わかりだからちょっと味気なくって、それに…………」
「それに?」
「……何でもないわ!」
『世界一美女である私についてきなさい! バチコーン☆』と強引に背中を押され、僕はアストレアファミリアのホーム、『星屑の庭』へと足を運んだ。
外見、内装と共に僕達のホームとは異なるけどどこか質素だけど趣がある建物に共感を覚え感嘆した。
「美女だらけの家に足を運んで興奮するのは分かるけど我慢してね!」
「興奮なんかしませんから!!?」
ここに来ても茶化され、もう既に疲弊し始めているこちらを他所に三人は各々腰を下ろした。
「アストレア様は輝夜達と何処かに出掛けたみたいね……仕方ないわ、私達だけで盛り上げるとしましょうか」
アリーゼさんがそう仕切ると紅茶を淹れた陶器をなぞりながらどこか遠い何かを見つめ始めた。
「何処から話しましょうか。そうね、まだリオンがベル君と同じ年頃…………7年前の頃にしましょうか」
「7年前?」
「ええ、当時世界に混乱と破壊をもたらそうとした
「
「ええ、私達アストレアファミリアや他の派閥もこれに対抗していたわ。血が流れる日が絶えない、そんな地獄のような日々があったの。でもね、他にも居たの」
「???」
「ベル君、これはね_______」
《7年前》
満点の星々が浮く夜空の下、アストレアファミリアのホーム《星屑の庭》の玄関扉が勢いよく開いた。
そこから団長であるアリーゼを始め、輝夜、ライラ、リオンが入ってくる。
「だぁー! クソ、また空振りかよ!」
「ライラ、帰ってきて早々に口が悪いです」
「だって仕方ねぇだろ?
「仕方あるまい。現に連中は虫の息、死人が出ていないのは奇妙な事この上ないとは思うが、尋問含めて後はシャクティに任せるほかないだろう」
ライラの愚痴に言葉を添える輝夜だったが彼女からも疲労感と行き場のない苛立ちがちらほらと窺える。
「でもお陰で被害はほぼ皆無に等しいわ! 何処の誰かは分からないけど一先ず感謝しておきましょ!」
アリーゼに関しては平常運転の天然をかましていた。
「皆、お帰りなさい」
奥の部屋から気品溢れた姿を見せるはアリーゼ達の主神、女神アストレアが微笑みながら出迎えた。
「主神様、今回も手柄なしに帰還してきましたよっと」
「ライラ!」
リオンが叱責するもどこ吹く風か口笛を吹くライラ。
「その様子だとまた現れたようね」
「そう、例の
ライラがふざけるように答え、またしてもリオンの眉間に皺が寄る。
「何にせよ、
そう己の眷属達に労いの言葉を掛けるも大半が納得のいかない表情を浮かべるばかり。
「ほらほら! 皆そんな暗い顔していないで、私達は私達なりに戦うだけよ!」
手を叩き、皆に号令を掛けるアリーゼだが、もう既に見慣れた流れに皆は無言を貫いた。
そんな歪な空気を変えるかのようにもう一つの足音が彼女達の下へと近付く。
「各部屋の清掃作戦、及び全員の補給作戦の用意が完了した」
場に集まっている女神とその眷属に対し、一人の少年が淡々とそう告げる。
「続いてこのまま衣類の浄化作戦へと移行する為、提供を求む」
「あら! 相変わらず準備がいいわね!」
黒髪の少年にアリーゼはサムスアップを向けた。
「いつもありがとね! ソラン!!」
これは、もう私達の記憶にしか残っていない………………
たった一つの《星屑》の物語。