ダンジョンにELSクアンタが居るのは間違っているだろうか 作:ユーグクーロ
評価者
GGEOOさん
仮初さん
おけいさん
箱庭の観測者さん
SINだったモノさん
評価ありがとうございます!!
夜が明ける中、僕はホームに向かって歩いていた。
傍から見れば朝帰りしているとしか言われても反論出来ない状況だ。
それもその筈、僕は数時間前までは歓楽街に居て、娼婦もとい、アマゾネスの集団に追いかけられていたからだ。
別に女性とのそういう事に興味があったわけではなく、事の発端は千草さんと命さんが夜な夜な何処かへ後を追いかけていったのが始まりだった。
運が悪くもヴェルフやリリ達からはぐれてしまい、アマゾネスの………イシュタルファミリアの人達に目を付けられ、命からがら逃げだした。
あのままあそこに居たら悪い意味で絶対に引き返せないところだった。大事な何かを失うと、搾り取られると本能的に理解した僕に出来ることは彼女達から遠ざかるようにただただ走り続けるだけだった。
腕が千切れると思うくらい振って、足がもげると思うくらい走って、右へ左へ、入り組んだルートを闇雲に走り続けた。兎に角走り続けた。
其処で窮地に追い込まれそうになったところを偶然居合わせた
其処からというもの、春姫さんは英雄物語が好きで時間が忘れてしまいそうになるくらいに話が弾んだ。
「春姫さんも英雄物語が好きなんですね」
「はい、そんな夢物語のようなお話が好きな私ですが、とあるお客様から最近とても面白いお話を聞かせて下さったこともあったんですよ」
「へぇ、どんなお話ですか?」
「光を纏う異端の戦士が命の危機に瀕した女神様を救うお話です」
その題材に大きく興味を惹かれた。小さい頃にお祖父ちゃんから色んな物語を聞かせてもらったけどそんな話は聞いたことが無い。
大いに興味を惹かれてしまったのか食い気味になってしまった僕は春姫さんにクスクスと笑われてしまったが春姫さんの口が開くと共に耳を傾けた。
『その女神は下界に住む弱き人々を守る為、己の眷属を率いて日々旅をしては魔獣を討伐し続けていた』
『女神は眷属と共に自ら武器を手に戦い続けていた、来るべき平和を手に入れる為に、戦うことが出来ない者達の代わりに力を振るい続けた…………そんなある時だった』
『ある日、いつものように魔獣の討伐に赴いた女神様と眷属達にとある魔獣が暗闇の中、獲物を狙うように潜んでいたのだ』
『女神様はその一瞬の不意を突かれ、その魔獣に囚われてしまった…………』
『あろうことかその魔獣は傍若無人の限りを尽くそうと女神様の力を奪い、世界を滅びの道に誘おうとしていたのです』
『眷属達は取り込まれてしまった己の主神を取り戻そうと必死に立ち向かうが神の力を前にその存在はあまりにも無力であった』
『自分の愛する眷属達が蹂躙され、己の力を奪われ成す術が無かった女神はその光景を見せつけられ、ただただ涙を流し、無意味な苦痛を耐え忍ぶことしか出来なかった…………』
『そんな中、女神を取り込んだ魔獣とそれに立ち向かう眷属の間に突如、光を纏った者が現れたのだ』
『皆がその光景に混乱するがその者は淡々と魔獣に立ち向かい、魔獣から女神を引き剥がし、救い出したのだ』
『魔獣はそのことに怒り狂い、光を纏うその者に牙を突き立てようとするも圧倒的な力を持って返り討ちにした』
『その戦う様はまるで神々の力を行使するかのようでもあった』
『瞬く間に魔獣を倒し、光を纏ったものは役目を終えたかのように颯爽と天の光の中へと消えていったのである』
『まるで天から遣わされた戦士のように………』
目を閉じ、淡々と語っていた春姫さんは物語の終わりを告げるかのようにゆっくりと口を閉ざした。
「これが以前、とある方から聞かせていただいたお話です」
春姫さんはにっこりと笑みを向けてくる。
どこかありふれた内容ではいるけれど、何処か惹かれてしまいそうな話でもあるのは確かだ。現に自分がそ内容を何度も頭の中で反復している。
しかし、聞かされた御伽噺のような内容にどこか疑問を抱いてしまった。
光を纏った者。
神々しい姿。
まるで人ならざる…………異端のような存在。
それらの単語を頭の中で並べていくと、それらが一塊になり、とある光景が浮かび上がる。
そう、ついこの前にダンジョンで遭遇したモンスター………ガンダムに…………
いや、まさかそんな事がある筈がない。
モンスターというのは地下に生まれ、其処を住処として動き回る存在なのだ。あの奇妙な光を使って姿を消したが、ダンジョンから、オラリオの外に出る事なんて不可能に違いない。
そうでなきゃ今頃この街は未曽有の混乱に包まれてしまう。
そう否定している筈なのに、どこか認めてしまう自分も居る…………
対立ではなく、対話を求めていたあのモンスターなら………あるいは…………
「クラネル様?」
話相手である春姫さんは怪訝そうな顔で俯いた僕の顔を覗き込んでいた。いけない、少しばかり物思いに耽ってしまった所為か自分の世界に入り込んでしまっていたようだ。
「す、すごいですね!そんな物語聞いたことが無かったですけどとても良いお話でした!!」
「お気に召して頂いて春姫はとても嬉しゅうございます」
其処からはあまり覚えていない、春姫さんから聞かせてもらった物語が僕の中で大きく膨らんでしまったからだ。
春姫さん自身の境遇も相まって、僕の頭の中は混然して思考と呼べるものが欠如している状態だ。
酒を飲んだ訳でもないのに、足元はおぼつかない、散々走りっ回ったからなのか一歩一歩足を前に出すのも一苦労なくらいに。
「
春姫さんから教えて貰った題名をそっと口ずさむ、唯々、かつてにない程の何かに覆いこまれそうになった。
あんな風に強かったら、あんな風になれたら、誰かを守れるように出来るのかな?
あのガンダムという存在と自分の身を守る事に必死な自分が相まって身勝手な惨めな感情が心を蝕んでしまいそうになる。
ついつい暗い考えが覆われそうになる自分の頬を何度も強く叩いた。
このまま嘆いていても仕方がない。もっと…………もっと鍛練が必要だ。またダンジョンで自分を鍛え直さないと………
取り敢えずは今の状況を打開しなきゃいけないのは確かだ。
きっと神様も怒っている筈だ。ヘルメス様との内密の約束もあって弁明する隙なんて一片たりとも無い、なんて言えばいいんだろうか。
「クラネルさん?こんな時間に何をしているのですか?」
不意に声を掛けられ、顔を上げるとそこには金髪を靡かせているエルフ、アストレアファミリアのリュー・リオンが不思議そうにこちらを見ていた。
「ベル君じゃん!どうしてこんなところに?」
その死角から顔を覗かせて来たのは同じファミリアの団長ことアリーゼ・ローヴェルだ。
「リューさんにアリーゼさん!?ど、どうして此処に!!?」
「どうしてって………私達は街の巡回に来ていたのですが………」
「そうそう!
今現在アストレアファミリアはガネーシャファミリアに並び、ここオラリオの守りを務めている。ダンジョンの攻略も行いながら街の警護を行うという苦労の多い役割をになっている派閥なのだがその成果が顕著に出ているのか、街の治安は比較的良くなりつつある。
しかし、その代償かアリーゼさんは今尚眠気と戦っているのか、答えとして欠伸が返って来た。
「た、大変そうですね………」
「うん、かなり大変だね!でもこれもみんなが笑顔になれるキッカケに繋がるからね!!帰ったらお菓子の自棄食いでもしようかしら!!」
「アリーゼ、また輝夜に小言を言われますからやめてください………」
「ア、アハハハハ…………」
二人の和気藹々なやり取りに今の自分がとても情けなく感じてしまい、その場を愛想笑いで誤魔化し続けようとするが、ふとアリーゼさんの手に持っている書類に目が留まった。
「アリーゼさん、それって?」
「ん?ああ、これ?ギルドから貰ったガンダムの資料!!ギルド長に粘って漸く貰えた貴重なやつなの!!」
ガンダム、その単語を聞き、僕は瞳孔を開いてしまった。
「ア、アリーゼ!?その件については内密にと向こうから言われたのを忘れましたか!!?」
リューさんがそう咎め、発言した本人もしまったと大袈裟に手を口に当てるが既に後の祭り、僕はその書類に釘付けになってしまっている。
「ク、クラネルさん!この事は内密にしてください!では私達はこれで!」
「あ、あの!!」
急ぎ足でその場を立ち去ろうとしていた二人を引き止めた。
「僕も、その……ガンダムというモンスターに会ったんです…………だからその……お願いします!少しでも良いので教えてくれませんか!?」
「なっ!?」
一刻も早くその場から離れようとしていた足取りがピタリと止まり、大きく開いた両目でこちらを見返していた。
余程重要な案件なのだろう、どう受け答えすべきかリューは俯きながら沈黙を続けていた。
「貴方もアレに出会ったの!?なら話は早いわ!後でうちのホームにおいで!」
「アリーゼ!!?」
すると手を引っ張られていたアリーゼさんが向き直り、両手に腰を当てながら活気あふれた声で受け入れてくれた。
半ばダメもとで頼んでみた気持ちはあるが、それを除いてもこうもあっさりと承諾してくれるとは夢にも思わなかった。
「何を言ってるのですか!この件に関しては極秘扱いだった筈です!!」
「そんなこと言ってもこの間、出没したって情報を頼りにダンジョンに潜ったけど結局なーんにも得られなかったじゃない」
「そ、それはそうですけど………」
「第一、アストレア様にだって言われてたじゃない、些細な手掛かりでもいいから探してきて欲しいって」
「だ、だからといって彼を巻き込ませるわけにはいきません!」
「でももうガンダムに会ったって言ってるのよ?もう無関係とは言えないわ」
「ぐっ………」
すっかりアリーゼに押され切ってしまったリューにこれ以上反論出来る事は無いと言わんばかりに溜息を吐いた。
「良し!それじゃあもう少ししたら私達も巡回が終わるから話の続きはホームでしましょ!」
「あ、ありがとうございます!!」
そう約束した僕は再び自分のホームへと急ぎ足で戻り始めた。
ギルドでエイナさんから何度もお願いしても何一つ得られなかったガンダムについてこれで漸く何か進展が得られる。そう思うと不思議と足取りが軽くなってくる。
そして、何故僕がこんな時間に帰路を辿っていたことに対して有耶無耶に出来た事にホッとしている。あれ以上追及されていたらきっと言い逃れは出来なかっただろう。本当に良かった。
そんな安堵に浸っているのも束の間、ホームの前には腕を組みながら満面の笑みで僕の帰りを待っていた神様とリリが仁王立ちしていた。
「ベールーくーん?こんな時間まで何処をほっつき歩いていたんだい?」
「ちょっとホームでお話をしましょうか?ベル様?」
「あ、あ………あ…………」
きっと僕の顔は太陽が覗き始めたこの夜明けの空よりも青く染まっていることだろう。僕の体は大災害と呼ぶべき地震よりも大きく震えていることだろう。
「ごめんなさいぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
きっと僕の断末魔はギルドの警報よりも盛大にオラリオ全体へ響き渡ったことだろう…………
漸く正座という地獄から解放されたのは太陽が頂点に達した頃の話だ。その時の記憶はなく、事実を確認したのは介抱してくれたヴェルフからだった…………
ダンジョンの奥深く、深層にて俺はフェルズに会っている。
無論、アイズやオッタルとの戦いについてあれこれとクレームが投げ掛けられたが、そんなものは本題の序でしか無い。
「では今後はそういう方針でお前は動くと認識して良いのだな?」
「あぁ、このまま行けばゼノスが冒険者との過剰な接触は避けられる筈だ」
(だって、そうしなきゃリド達が余計な争いに巻き込まれてしまうし、これが最善になる筈だよ)
「…………もしバレた際には私もギルドも手助けすることは出来なくなるぞ?」
「構わない、俺が望んだことだ………」
(別にいいよ、責任は自分で負うつもりだから)
「分かった、必要なものはこちらがギルドを通して用意しておこう」
フェルズは小さく頷き、暗闇の中へと消えていった。
完全に気配が消えたことを確認し、俺は心の中で大いに喜んだ。
この世界に身を投じてからというもの、何時かはと願っていたのだが、流石にフェルズを通してウラノスから止められたこともあってほぼ凍結していた案件だったのだが漸く陽の目を浴びることが出来る。
リドには悪いがこれは今後の為に必要な作戦なのだ。うん、必要な作戦である。
少しばかりリスクが伴う事は必須だが、それ以上に得られるものは大きい、この手を逃す理由は無い。
来るべき対話の為に………なんてね。