風を斬るには。 作:鎌鼬
古来より、刀を持つ妖怪というのは限られてきた。
人を切りつける妖怪はいたものの、明確に刀を持ち活動する妖怪というのは滅多にいないものである。
私、今の名を「
ただ一つ私の異なる点は、その手に持つ物が「
つむじ風に道行く者を斬る、それは何ら普段と変わらない。
表皮を切りつけ、痛みや出血なく傷跡を残し次へと向かう。
それの意味など問うものではなく、ただそうあるのが妖の定めであった。
今日も風に乗る。
行く道の先に佇む男を見つける。白髪の男、侍らしく刀を帯刀している。
だが関係ない。風は斬れず、ただ気付かぬまま斬られるのみである。
ほら、ひゅーと風が通り過ぎ気付いた頃には斬られ、地に伏した。
・・・ん?地に伏した?それほど強く斬ったつもりはない。
なら何が地に伏したのか。
「良い剣だ・・・だが儂には届かん。」
・・・他ならぬ私である。抜刀の瞬間も見えぬまま袈裟斬りされ、刀を投げ出し地に落ち空を見上げている。
「鎌鼬。良い太刀筋であった。」
こちらを一目見やり男は去る。
一刻ほど経ったであろうか、傷が埋まり体が自由に動かせるようになる。妖怪の傷の治りは早い。
むくりと起き上がった私は溜息を一つ吐く。
「"良い太刀筋"とな。世辞の言葉も良いところではないか。」
こちらに対して一目見やったのみなのだ。良い太刀筋ならばもう少し惜しむような別れになるだろうに。
「・・・癪なものだな。斬られるというのは。」
鎌鼬としての定めで考えるのであれば、何も気にせずにまた風に乗れば良い。
だが無性に腹が立つ。鎌鼬としてではなく一妖怪として初めて抱く感情であった。
「このような感情があるとは、悔しいと思えるとは思いもよらなかった。」
自らの持つ物が鎌鼬として異端な刀であったからであろうか、この異端が私にとって想像以上の誇りになっていたことに気付かなかった。
ひゅーと再び風に乗っていく、道行く人を斬る、斬る、斬る・・・。
自ずと体が帯剣する人間を狙っていく。
1人目、胸元。2人目、肩。3人目、背中・・・。
思うとおりの場所を簡単に斬れる。老齢の達人のような風貌の侍も、笠を被る旅人のような侍も、誰もが気付かずに斬られていく。
鬱憤晴らしに近い行為であったが鎌鼬としての誇りはだいぶ回復したと言えよう。
だが、斬れば斬るだけ私を軽々斬ったあの白髪の男との大きな差を知ることとなる。
人影のない道の端にて風から降り一息つく。
「・・・私が弱いわけではない。ならあの男は何なのか?」
その存在に苛立ちと恐怖を覚える。しかし興味が絶えない。男を斬りたくてたまらない。
「・・・探すか。」
まずは男を見つけ出す。そしていずれ斬ってみせよう。
独り言をつぶやき、私は再度風に乗って男の歩き去った方へと飛んでいくのであった。