迫真転移! ~異世界の主人公と化した先輩!~ 作:ゼフィガルド
「決して、彼らを許してはいけません」
「多少はね?」
トルノは憤りを露わにしながら、鈴木と共に森の中を駆けていた。
周囲の自然を考えない上での戦闘。そして、同胞の命を弄んだ所業。彼らの無念と憤りが風の音に乗って流れているような気がした。
木々の合間を抜け、気が立った生物達に襲われそうになりながらも突き進んだ先。視界が開け、粗末な家屋が立ち並ぶ場所に出た。そこに立っていたのは1人の男だった。
「お前は、あの時の!」
「改めまして、GO陛下直属。他種族祝福調教師のタクヤと申します」
「鈴木。24歳。学生です」
鈴木もまた、彼に倣い自己紹介をした。奥ゆかしい挨拶は実力者同士の習わしの様に思えた。トルノは、気を飲まれない様に声を張り上げた。
「皆をどうした!」
「バカじゃねぇ? 答える訳無いだろ。ガハハ!」
火に油を注ぐようにして、タクヤは大口を開けて笑っていた。彼の笑い声に釣られるようにして家屋が倒壊し、中からは赤豚や白豚を始めとした猛獣達が現れた。いずれも、不自然なほどに眼球が肥大化していた。
何処まで人間以外の生命を侮辱すれば気が済むのだろう? 自分達以外の全てを見下しているかのような振る舞いに、怒りを覚えた。
「頭に来ますよ!」
これには鈴木も同じだったようで、先ほど手に掛けてしまったスーヴのことを思い出したのか、一直線にタクヤへとむかった。しかし、彼を阻むようにして赤豚と白豚を引き連れたヒゲクマが立塞がる。
「おいおいおい、何やってんだ。赤豚ァ! 白豚ァ!」
「ファッ!?」
何と。ただの畜生に過ぎないと思っていたヒゲクマが言葉を発した。名前を呼ばれた2頭の獣がトルノへと迫る。
「何してんですか!? 本当止めて下さいよ!?」
彼は急いでこの場を脱したが、鈴木もまさかの展開にたまげていた。
その隙を逃さまない大木の様な腕が振り下ろされたが、難なく攻撃を避けると、待ち構えていたタクヤが得物を振るった。
「バァン!」
「オォン!」
しなやかな鞭が鈴木を打ち据える。当たった個所は赤く腫れ上がり、痛みが臓腑にまで響く。ただ、力任せの攻撃には存在しない『技術(テク)』を感じられる一撃だった。
「こんなんで俺達に立て付こうだなんて。嗤っちゃうぜ」
「見ろよ、見ろよ」
彼の挑発に対し、鈴木はふてぶてしく返した。その不遜な態度が癇に障ったのか、タクヤはヒゲクマに対して鞭を入れた。
「殺されてぇか…」
「見えねぇと言うのは怖いな」
ヒゲクマの口からは世界の趨勢を見渡せない鈴木を罵倒する言葉が出て来た。タクヤの言葉を代弁で吐き出した後は、目の前の敵を食らい尽くして大便としてひり出すべく、四つん這いになった
城壁さえ破壊しかねない程の突進を人間が食らえば、一溜りも無い。だが、鈴木は正面から構えていた。
「良いよ! 来いよ!」
「ぜってー、動くなよー」
両者共に駆け出し、2体の野獣がぶつかり合う。衝撃で地面が揺れる。
暫く、膠着が続いたが、痺れを切らしたタクヤは取り出した鞭で、活を入れるようにしてヒゲクマを打ち据えた。
「全然ゆるケツじゃんお前! もっと、引き締めていけ!」
「あったまきた」
猛獣達を従えていることから察する通り、タクヤには他の生物を従える能力があった。『祝福』との相性も良く、現地で瞬く間に他種族へ知恵を授け味方へと引き込む姿から『調教師』とも称されていた。
彼の応援を得たヒゲクマはもはや魔獣と呼んでも差支えが無い程の力を得ていたが、相対している存在もまた怪物であった。
「よっし、じゃあぶち込んでやるぜ!」
自分を遥かに上回る巨体を担ぎ上げ、跳び上がった後。勢いを付けて地面へと叩き付けた。あまりの勢いに、全身の骨が砕け、臓器が潰れた結果。夥しい量の血を吐いて、ヒゲクマは二度と動かなくなった。
周囲にいる獣達も祝福と調教を受けたはずだというのに、鈴木が持つ圧倒的な暴力を前に逃げ出そうとして、その悉くがタクヤの鞭で調教された。
「逃げんじゃねーよ!」
「バモォオオオオオ!!」
生存本能を度外視したかのように突撃を始めたのは、タクヤに歯向かうことこそが死に繋がると言うことを信じていた故か。だが、鈴木は無慈悲にも襲い掛かって来た獣達の全てを殺害していた。
周囲に死臭が立ち込め始めた頃、タクヤは不機嫌を隠そうともせずに踏み出して来た。
「マジムカツクなぁ。コイツ」
「いやー。そうでもないですよ」
少なくともお前よりはマシだと言外に言われていると感じたのか、彼は鞭を振るった。不意打ち気味だった1発目と違い、鈴木は正眼に捉えて鞭を掴み取ったが、タクヤは不敵に微笑んでいた。
「堕ちろ!」
鞭のボディに幾何学模様が浮かび上がると同時に焼ける様な痛みが走った。一瞬、意識が落ちそうになったが耐えた。
直ぐに鞭を手放すも、得物が自由になれば食らいついて来ると言うことである。全身を強か打ち付けられ、鈴木の浅黒い肌が赤く腫れ上がって行く。一方で、タクヤはこの一方的な状況に股間を腫れ上がらせていた。
「気持ちいいか? 気持ちいいだろ!」
「あー痛いっ痛い! 痛いんだよお!!」
別にマゾでもないし、力加減もしていないバカみたいな攻撃を食らって快楽が伴う訳も無かった。このままでは痛みのあまり、意識が落ちてしまう。
攻撃しようにも彼に近付くことは出来ず、かと言って石などを色い上げて投擲しようにも撃ち落とされる。どうすれば良いのかと考えた時、ふと周りの獣達の死骸が目に付いた。あ、そうだ。と閃いた。
「ぬわぁああああああああああああんん!!!」
「ウッソだろ、お前!?」
鈴木は先程やって様に、獣達の以外を持ち上げるとタクヤに向って投擲した。これ程の物量は流石に落とせないのか、彼も避ける外なかった。
「ホラホラホラホラホラ!!」
有効だと判断したのか、次々と獣達の死体を投擲して来る。もしも、直撃すれば押し潰されるのは目に見えていたからだ。
だが、投擲は狙いも単純なので避けられやすかった。と、すれば。もっと近づけばいい。今度は巨体を掴んだまま、ハンマー投げの様に回転しながら突っ込んで来た。
「で、出ますよ!」
「すわわっ!?」
さながら台風の様に近付いて来られたのなら、避けることも出来ず。タクヤは鈴木の回転攻撃に巻き込まれて吹き飛ばされた。
生死を確認するべきか迷ったが、優先するべきことがある。鈴木はトルノを助けるべく、一旦踵を返した。