迫真転移! ~異世界の主人公と化した先輩!~ 作:ゼフィガルド
「そんなことがあったんですか」
トルノは救い出した女子供の同胞達から事の顛末を聞いていた。
祝福を受けた男達は死ぬか、自分の家族を見捨てる蜥蜴人(リザードマン)のクズになっていたこと。兵士達が死の恐怖から仲間割れを始めて、互いに盛り合っていたこと。そして
「私の見間違いでなければ、盛り合っていた兵士達の肛門から大便の様に例の目玉がひり出されていたの。夫達はあんな物を入れられて!」
彼女達は怒りと悔しさで涙を滲ませていた。一方、トルノは怒りよりも困惑が勝っていた。あの目玉達がどの様に作られているかと言う一端を知ったからだ。
「どういうことなんだ? 人間と言う種族は雌雄関係なく繁殖できるのか?」
「ヌッ」
今の話が本当だとすれば、大の字になって寝転んでいる鈴木も女性としての側面を持っているのではないかと言う説が浮かび上がったが、ひとまず置いとくとした。何故なら、優先するべきことがあるからだ。
「トルノ族長。私達はどうすれば?」
彼女達の保護である。狩りや採集に出かけている男手が全滅してしまった故、族長に繰り上がったトルノとしては、この集団を生かすことは困難だった。
本来なら子供に伝えられるはずの知識の継承も無かった為、彼女らがこの先も自然で生き抜いていくのは難しいだろう。だとすれば、残された数少ない男手である自分が彼女らを導く責任があった。
「(確かに、優先させるべき話だけれど)」
もしも、立て直している最中に再び人間達に襲撃されたら、今度は一溜りも無いだろう。今回以上の被害が出るかもしれない。
逃げ回っていても今回の様に補足される可能性があるとすれば、残された選択肢は一つだけだった。
「戦うしかありません」
「え?」
「このまま逃げ回っていても、僕達は怯えながら暮らすしかないんです。それに、僕達は幾人もの兵士や冒険者達を返り討ちにして来ました。きっと、彼らは血眼になって報復をして来るでしょう」
これは何も怨恨の話だけではない。もしも、今回の話が他種族に伝われれば人間が敷いて来た盤石な支配が崩れる可能性すらあるのだ。
今後も変わらぬ体制を続けるなら、この綻びは必ず塞ぐ必要があった。つまり、反逆者達に対する制裁である。
「私達に逃げ場はないと言うこと!?」
「はい。ですが、このまま黙っているんですか? 皆さんの父親が、兄弟が、伴侶が殺された怒りを呑み込んで生きていけるんですか!?」
戦いに巻き込むなら、せめて彼女らを奮い立たせてからにしようと考えていた。死者達を利用して鼓舞することは気が引けたが、それ以上にトルノを突き動かしていたのは怒りも混ざった祈りでもあった。
「すっげぇ、白くなっている。ハッキリ分かんだね」
自分でも気づかない内に、強く拳を握り締めていらしい。
そう。この鈴木と言う怪物に出会えた奇跡が無ければ、自分は女子供達を取り返すことすら出来なかったのだ。既に平穏は失われたというのならば、後は相手の喉笛を噛み千切りに行くだけだった。
「そうよ。このまま座して死を待つなら! 切り込んでやろうじゃない!」
「アカブさん」
「皆殺しよ! 私達が味わった痛み、奴らにも思い知らせてやるのよ!」
気の強い女性が声を上げたことを皮切りに、次々と抗戦の意思が叫ばれて行く。勿論、全員が賛同している訳では無く雰囲気に言わされている者が居たことは分かっていた。だが、今しかなかった。
「僕達は悪逆国王GOに反旗を翻します。その為に、周りの他種族と手を組む必要があります。まずは! 異世界からやって来た勇者、鈴木さんも身を寄せた『豚人(オーク)』達と手を組みます!」
「ファッ!?」
突然、話題を振られた鈴木はたまげていた。まるで縁のない相手よりかは希望もある気はしたが、交渉がうまく行くかどうかは疑問だった。彼らが盛り上がっている中、控え目に手を上げた女性が疑問を投げた。
「あの、私達は何をすれば?」
「辛く、苦しい旅となりますが。僕達と一緒に行動をして欲しいのです」
既に襲撃が行われた以上、今までの拠点を使う訳にはいかない。
だが、安定した根城も持たないで行動する負担の大きさは計り知れない。それでも、生きて復讐を成し遂げる為には必要なことだった。
「僕らも戦うぞ! 父さん達の仇を取るんだ!」
「それでは、早速ですが向かいましょう! 豚人(オーク)達の拠点に!」
女性達だけではなく子供達も同調を始めた。鈴木以外の全員が心身共に疲れ切っていたが、それでも進んだ。進まなければ、躯となるしかなかったからだ。
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豚人(オーク)達の拠点へと向かう道のりは平坦な物では無かった。
凶暴な獣や追手として差し向けられた冒険者に関しては鈴木が処分することで糧にもなっていたが、偶発的に発生する病気や怪我については防ぎようがなかった。
「明日は、何人生き残っているんでしょうか?」
「んにゃぴ。よく分かんないです」
最初から、この行軍が無茶であることは分かっていたとしても。犠牲者が出る度に、トルノの心は擦り減って行った。誰かのせいにすることも出来ず、全てを背負っていた。
もしも、逃げに徹していたら怯えながら過ごしてはいたが、皆生きていたかもしれない。と、惰弱な思想を振り払う様にして頭を振った。
「では、すみません。鈴木さん、今日も見張りをお願いします」
「おかのした」
戦いについては鈴木に頼りっぱなしで、女子供達には辛苦ばかり掛けている。一体、自分の何処に族長たる資格があるのか。それでも、やってくる明日に備えて、トルノは目を閉じた。