迫真転移! ~異世界の主人公と化した先輩!~   作:ゼフィガルド

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第16話:復讐者にした先輩!

 棒立ちしていては的になるだけだ。取り出した短剣の刃に毒を塗り付けた後、トルノは地に伏せ、四肢を大きく開いた。

 彼らの種族は『蜥蜴』の名を冠する様に、多くの性質を受け継いでいる。膝立ちすらしない本物の四つん這いになりながら、彼は地を這うようにして高速移動をしていた。

 

「(今までに見て来た人間の冒険者達から察するに、基本的なPTは前衛2人と後衛2人だ)」

 

 人数が多すぎれば固まって動くのが困難となるので、役割分担のことを考えれば一番合理的な人数なのだろう。既に鈴木が3人始末していたことを考えれば、残されたのは後衛1人のみということになる。

 

「(前衛がやられた時点で去らなかったのは、僕達程度なら1人で仕留められる自信があるからか。あるいは)」

 

 仲間をやられた恨みか。感情がある以上、全てを合理性で片付けることが出来ないのはトルノもよく分かっていた。

 もしも、これが敵討ちのつもりで行っているのだとしたら、トルノの中に怒りが沸き上がった。

 

「(仲間を失った痛みが分かるなら。どうして、僕達から奪うんだ!)」

 

 彼らにとってみれば、自分達は異種族の化け物かもしれない。自分達とは全く違う生き物だから、殺すことにも抵抗が無いのだろう。

 彼らが殺した誰かは、誰かにとっての友人だったかもしれないし、恋人だったかもしれないし、家族だったかもしれない。

 

「(こんなことを続けていたら、永遠に奪い合うだけだ)」

 

 それでも、今までは人間達が持つ圧倒的な力による蹂躙が罷り通っていた。

 だが、鈴木と言う存在が現れ、ほんの小さな綻びが見え始めた。理不尽な支配に対する、理不尽な存在。彼の復讐劇に相乗りする形で一族を巻き込んでしまったが、今更引き下がることも出来ない。

 

「(逃げることも出来ないなら、僕達は彼の復讐に付き合うしかない。でも、彼の行動に付き合うなら。こういった事態も避けられない)」

 

 今更、彼の暴力と言う庇護から外れることが出来るはずもない。

 風切り音が聞こえ、飛来してくる複数の矢が見えた。前進しながら、横移動も織り交ぜて回避していく。女性蜥蜴人(リザードマン)の頭部を貫いたことを考えれば、1本でも当たれば致命傷になるだろうと踏んでいた。

 

「(飛来してくる方向から考えて、相手の場所は掴めた。姿が見えないのは、気配遮断と透過を使っているからか)」

 

 この手の潜伏方法は以前にも見ている。如何に姿を消し、気配を絶とうとも存在までは消せない。殺るか殺られるか。極限状況に追い込まれたトルノの神経は研ぎ澄まされて行く。

 まるで、感覚が拡張していくようだった。見えない射手が矢を番え、ギリリと弦を引く音が聞こえ、所作が風に乗って伝わってくるようだった。

 

「(良いですよ。来て下さいよ!)」

 

 鈴木が普段から呟く言葉を真似てみた。全てを感じ取れたのなら、何処に何が飛んで来るかも想像に容易い。矢が飛んで来るよりも先に避け、立ち上がり走り出す。

 普段は開いていない感覚が開く。死と言う恐怖を凌駕する興奮は、身体の限界をも取り払っていた。

 

「ッチ!!」

 

 視界に捉えた射手は魔導具(アーティファクト)のマントを脱ぎ捨て、弓を放り捨て、腰に下げていた剣を引き抜いた。

 慌てて逃げ出すことも無く、応戦の構えを見せたことから、この射手が手練れであることは察していた。

 

「アッーンン!」

 

 威嚇をしつつ、相手を怯ませる為に甲高い叫び声を上げたが動じる気配は一切なく、冷淡に剣を振るって来た。身を屈め回避しようとした所で、顔面に膝蹴りを入れられた。

 

「死ねぇえええええええ!!!」

「!?」

 

 腹の奥から憎悪と怒りを乗せた声は、人間の物とは思えなかった。態勢を立て直して白兵戦に持ち込む。

 正眼に見据えた相手は女性だった。巨大な眼球を血走らせながら、確固たる殺意を持って剣を振るっている。ここまで激しい怒りを見せるとは、殺された者達は大切な者達だったのだろうか。

 

「殺したから! 殺されるんだ!」

「ふざけるな!! 皆が何をしたって言うんだ!!」

 

 これにはトルノも怒りを滾らせた。罪のない豚人(オーク)を殺し、同胞を葬った連中の罪すら認めないのかと。

 尻尾を鞭の様に扱い、打ち据えようとしたが避けられた。毒が塗布された短剣で切り裂こうにも、全て避けられていた。返す一撃で尻尾を切り飛ばされ、嬲る様にして腹筋をボコボコに殴られ、地面に転がされていた。

 

「ゴホッ」

 

 消えかけのランプの様に、目の前が点滅していた。取り落としそうになった短剣の刃に舌を這わせようとして、奪い取られ、遠くへと投げ捨てられた。

 

「アイツには勝てないとしても。アイツが戻って来て、殺される前に。私と同じ苦痛を味合わせてやる。答えろ、アンタらは何処に向っている! 何をするつもりだ!」

 

 全てを打ち明ければ、同胞達も含めて皆殺しにされるだろう。死んでも口を割る訳には行かなかった。

 

「そうやって、自分達の罪も認めず。凌辱を繰り返すつもりですか!」

「罪?」

「彼らは僕達の同胞を殺し、豚人(オーク)達をも手に掛けました。殺したなら、殺されるんですよ!」

 

 殺したなら殺される。当たり前のことだ。目の前の女は激昂するかと思っていたが、返って来たのは凍てつくように冷たい声だった。

 

「それって。言葉を覚える前の赤子も含まれているの?」

 

 一瞬、意味が分からなかった。先程、豚人(オーク)達を殺していた者達が赤子な訳がない。では、自分達が人間の赤子を手に掛けたかと言えば、そんな訳がない。倫理観的にもそうだが、実力的にも不可能なのだ。

 だが、トルノは一つだけ思い当る節があった。実力もあり、倫理観も欠けた男。かつて、牢屋の中で聞かされた『近場の人間を皆殺しにした』と言う話を。

 

「じゃあ、まさか。貴方は」

「ねぇ、答えてよ。私の姪っ子は、誰かを殺したの? アンタらになんかしたの? 答えなさいよ。答えろよ!!!」

 

 首に掛けられた手に力が込められた。死にたくない。その一念だけがトルノを突き動かした。先程、短剣から舐め取っていた毒を霧状にして女の眼球に吹きかけた。

 

「ギャアアアアアアアア!!!」

 

 全く予期しなかった反撃を食らって崩れ落ちた。すかさず、トルノは予備の短剣を取り出して、女の眼球に刃を突き入れた。

 

「ギュィイイイイ!!」

 

 眼球からも断末魔が響き、絶命したかに思われた。だが、倒れた女はトルノの足を掴み、言った。

 

「許さない」

 

 そして、事切れた。命の危機が去ったことで徐々に冷静さは戻って来たが、代わりに到来したのは、凄まじいまでの罪悪感だった。

 

「殺したら。殺される」

 

 その通りだった。先に殺していたのは自分達だった。

 鈴木が勝手に起こした行動だが、彼を頼りにしている以上。自分達は関係ないと言う訳にはいかなかった。

 

「うわぁあああああああああああ!!」

 

 断ち切らねばならない怨嗟の輪。自分達もまた、これらを作り出していたのだ。だからと言って鈴木を突き放す選択を取れる訳もない。

 彼の様に敵対者に対して完全に無慈悲になることも出来ない。トルノは、心が上げる軋みを悲鳴に換えて叫んでいた。

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