迫真転移! ~異世界の主人公と化した先輩!~ 作:ゼフィガルド
鈴木は冒険者の少女から引き抜いた眼球を拾い上げていた。
彼が住んでいた世界において、人間の目玉の大きさはピンポン玉(24mm)程だそうだが、この眼球は明らかにソレより大きい。
もしも、頭部にこれが納まっていたとすれば脳を始めとした重要な器官が納まる場所がないのではないか? 胸に沸いた疑問を確かめるべく、彼は頸椎が握り潰された青年の死体を調べた。
「お邪魔するわよ~」
友人宅に上がり込むような気軽さで、遺体の頭部を破壊した。砕かれた頭骨が飛び散り、ゴロリと巨大な眼球が転がる。そして、僅かながら灰色の生々しい何かが零れ落ちた。
「うせやろ?」
実際の脳は灰色に近しい色をしているというが、頭部から零れた落ちた灰色の物体は、眼球の大きさと反比例するようにして小さかった。
ここで、ふと鈴木が思い出したのはダチョウだった。ダチョウと言う生物は眼球よりも小さな脳しか持っておらず、自分がなぜ走っているのかも忘れるほどのクソザコ知能をしていると解説されていた。
「あ、そっかぁ」
故に、腑に落ちたことがあった。いきなり現れた人間に対するヘイトスピーチ、知性ある種族を容赦なく切り刻む残虐さ。それらは全て、彼らの縮小した脳が引き起こした物だったのだ。
これらの仮説を立てている間に、喚き立てていた少女は丁寧に解体されて豚人(オーク)達の腹の中に収まっていた。
「や、はり。あな、たは救世主です」
「多少はね?」
スーヴは跪き、目の端に涙を浮かべながら感謝していた。如何に、彼らが虐げられて来たかと言う辛苦が滲み出ていた。
表に打ち捨てられた遺体も回収して、手際よくばらされ食材となって行く中。鈴木は、どうして豚人(オーク)達が虐げられているのかを訪ねていた。
「人間、とて、も。数、多い」
「なんで?」
「オス、すぐに、興奮する。女、すぐ、に。胸、尻、出す。発情、する」
こんがりと焼き上がった乳房を見れば、歯型らしきものが付いている様な気がした。口に運ぶことはカニバリズムを意味するが、生理的な拒否反応は何一つとして出なかった。
先程、狩ったばかりの獲物に味わったことのない風味。非常に新鮮で、非常に美味しいと。自然と笑顔になっていた。
「うん、美味しい!」
「人間、のオス。いつも興奮する、すご、く、強い。わだす、達。勝てない。他の奴ら、も。殺されている」
他の奴ら。と言うことは、人間と豚人(オーク)以外にも種族がいると言うことだろうか。人並みにゲームもプレイして来た鈴木は思いつく限りのモンスターの名前を上げていくこと、概ねに反応があった。
「ゴブリン、いる。リザードマン、いる。エル、フ? いない。ウェア、ウルフ。あ、ライカン。いる」
彼らも同じ様に虐げられているのだろうか? 膂力的にも人間と互角の勝負は出来そうだというのに、どうして一方的な勢力図が築かれているのだろうと首を傾げた所、背後から悲鳴が聞こえた。
「ブゴゴゴッ! グギギッ!!」
「ガッッ!!」
何事かと振り返ると、青年の切り分けられた股間部分が屹立していた。立ち上がるモノの先には、こんがりと焼かれている少女の臀部があった。
「人間、す、ぐに立つ。メスみる、強くなる」
繁殖と個体の戦力を同時に強化する特製を備えているらしかった。死んでもなお、反応がある所を見るに。脳に由来しない、肉体自体に宿っている機構と思っても良さそうだった。
既に手を出した以上、彼らと和解するのは困難だろう。物理的にオツムが足りていない相手と会話が成り立つとも思わなかった。
「まずうちさぁ、力。あるんだけど(アイツらを)焼いて行かない?」
対話も和解も望めないと言うならば、先に相手を滅ぼすしかない。豚人(オーク)達に動揺が走るが、座していても殺され続けるだけ。ならば、奇跡が舞い降りた瞬間に立ち上がらねば未来はない。
「グギーッ!!」
彼らが一斉に鳴き声を上げた。自分達は殺されるばかりの存在ではない、ここからは反旗を翻すのだと。
出会って1日にも満たない相手に賛同するのは正気と言い難かったが、対峙している相手が狂気に見ているのだからしかたがない。
「たい、へんな、ことに。なった」
「ほら、いくどー」
豚人(オーク)達は一切に鼻を動かし始めた。彼らの嗅覚は凄まじく、冒険者達の足取りを辿る位は出来る。鈴木と共に勇敢な豚人(オーク)の若人達は、人間達が拠点にしている場所へと向かって歩き始めた。
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冒険者達が宿場に使っていた街。灯りの消えた街では、喘ぎ声が響き渡っていた。食って、ヤって、寝る。これからも一生、このサイクルを繰り返し続けるのだと信じていた彼らは。
「お邪魔するわよ~」
クッキーの様に歯切れのいい挨拶を交わしながら入って来た1人のブ男によって、未来を閉ざされた。突き出した正拳は心臓をぶち破り、驚愕に目を見開いていた男は首を180度回転させられていた。
「オギャーッ! ギャーッ!」
部屋の片隅で泣いていた赤子が鳴き声を上げた。顔を覗き込んでみれば、やはり異様に巨大な眼球が印象に残ったので、鈴木が合図を送ると豚人(オーク)達が入って来た。
彼らは死体となった夫妻の血肉と臓腑を残さず噛み砕き、嚥下した。残されたのは何も知らずに鳴き声を上げる赤子だけだったが。
「食って、どうぞ」
「ブギギギッ」
今更、躊躇う良心などある訳もなく。彼らは小さな体に牙を突き立て、存在していたという痕跡すら消していた。シーツと床に真っ赤な染みを作りながら、邪険に扱われて来た者達が次なる獲物を求めて、夜に行く。