迫真転移! ~異世界の主人公と化した先輩!~ 作:ゼフィガルド
「ソイ、ツが。例の?」
「はい。三浦さんです。なんでも『カラテ』部? って場所では、鈴木さんの先輩だそうです」
襲撃者を返り討ちにし、周囲に潜伏している者がいないかを探索してから、トルノ達は拠点へと戻って来ていた。
遭遇した時は冷ややかな目線を向けていた豚人(オーク)達も、今やすっかり三浦の虜となっており、甲斐甲斐しく彼の世話を焼いていた。
「いいゾ~コレ。あ、おい。鈴木。さっき、俺の方をチラチラ見ていただろ?」
「は?」
「ポッチャマ…」
マウントを取ろうと鈴木に視線を向けたが、睨み返された。それ以上に言葉を紡ぐことが出来ず、三浦は泡のように頼りない鳴き声を漏らすだけだった。
この遣り取りだけを見れば、鈴木は三浦のことを尊敬している訳でもなさそうだが、気心が知れた仲なのかもしれない。そんな二人の遣り取りを見て、イサアクは深く頷いた。
「片方、残し、て。もう、片方、遠く、まで、行け、る」
「そうですね。ただ、遠出が出来たとして、何をするか。なんですよね」
豚人(オーク)達と交渉が上手く行ったのは、偶然に依る所が大きい。
彼らの気性の荒さと鈴木の暴力性が見事に噛み合った結果。手を組むに至ったが、他の種族を立ち上がらせるのは難しそうだった。
「あっ、おい。待てぃ。諦めるのは早いゾ」
こういった対談の場に鈴木が口を挟むことは殆ど無いが、三浦は自分から入って行った。トルノ達も予想していなかったことなので目を丸くしていた。
「何か、考えが?」
「直接的な力を期待する訳じゃなくて、俺や鈴木みたいな奴を拾っている可能性がある所を繋げる。っていうのも、必要なことだと思うゾ」
トルノとイサアクはハッとした。彼らが三浦を勧誘できたのも、イサアクが近隣の状況を把握し、トルノが効果的な説得を出来たからだった。
自分達が直接戦う力が無くても、強大な力を持つ者達を結びつける橋渡し役になれば、それは十分に意味があることではないか。と考え、トルノとイサアクは躊躇った。
「だが、俺達、の為、だけ、に。お前、達を、戦わ、せる。良い、のか?」
「どうせ、何もしていなくても襲撃されるし、それならコッチから殺ってやるゾ。空手部として、売られた喧嘩を買うのは当たり前だよなぁ?」
「良いよ! 来いよ!」
先程までのノリの悪さとは打って変わって、鈴木は獰猛な笑みを浮かべて返事をした。彼らの反応を見て、イサアクは膝を叩いて笑った。
「本当、に面、白い。でき、る気、がす、るぞ」
「そうだよ。ここまで来たら、木村も秋吉先輩とも会いてぇなぁ。俺もなぁ」
「FOO↑」
盛り上がる3人を傍目にトルノは眉間に皺を刻んでいた。
確かに、鈴木や三浦の様な存在が他にも居るなら、彼らと手を組むことが出来れば、人間達が支配する世界に風穴を空けることも夢ではないかもしれない。
「(でも、仮に僕達がGOを打ち破って、人間の時代を終わらせたとして。その先に何が待っているんだろう?)」
トルノが生まれた頃から、人間達は異種族を迫害・弾圧していた。
彼らの支配から解き放たれて、全ての異種族が手を取り合い、恒久的な平和を築けるか。と言われれば、疑問であった。ふと、イサアクを見る。
「どう、した?」
今は肩を並べているが、初対面の時の会話でも分かった様に、お互いの性質は真反対と言えた。もしも、平時であればどの様な関係になっていたかと考えると、空恐ろしい物があった。
そんなことを考えていると、ふと。トルノは先日に見た夢のことを思い出していた。積み上げられた遺骸の頂で、天に向かって哀しみを叫ぶ男の姿。
「(そもそも。GOは何を考えて、こんな世界にしたのだろう?)」
現状の世界の在り方は、あまり効率的な物だとは思っていなかった。
人間は全ての異種族を等しく迫害している。畏怖を集めもするだろうが、同時に不満や憎悪なども一身に引き受けてしまう。これらを全て打ち払う程の力があるからこそ、この様な体制が続いているのだろうが……。
「(僕なら、従順な異種族を厚遇したり、あるいは異種族同士を仲違いさせたりして、自分達に憎悪が向かないようにするけれど……)」
自分達に従う者を厚遇すれば、支配はより盤石になるはずだ。血を流し続けなくてもいい、誰からも尊敬され敬われる存在となることも出来たはずだ。
逆に全ての異種族を見下し、軽蔑しているにしても。ひたすらに弾圧するやり方が賢いとは思えないし、GOならばもっと効率的にやれると考えていた。
「(僕はこの順調さを喜んでいいのか?)」
だからと言って、この話を止めることは出来ない。止める理由もない。既に自分達は、この暴力の渦に飲み込まれている。今更、振り上げた拳を降ろすことなど、出来はしないのだ。
戦うことを止めれば、待ち受けているのは凄惨な未来だけ。逃れられないなら、立ち向かしかなかった。トルノはイサアクを見た。
「近隣の異種族の集落を教えて下さい。僕と鈴木さんで交渉に向かいます」
「ヌッ」
「分か、った。近く、にあ、る異、種族、の集、落は。ライ、カン。の、物だ」
ライカン。人狼とも呼ばれている種族は豚人(オーク)達に負けず劣らず、血気盛んな者達だ。今回の様な呼びかけにも応じてくれる可能性は高そうだった。
「交流とかはされているんですか?」
「昔は、あっ、た。だが、今は、移動、中に。人間、に襲わ、れる。だか、ら。交流、して、ない」
人間達は何処にでも居て、何処からでも襲い掛かって来る。拠点近くですら動き回れない現状、他種族の拠点へと向かうのは困難を極めるだろう。
「今回も、道案内の方を付けて貰えるんですか?」
「それ、でも、いい、が。辿り、着く、まで。生き、てい、られ、るか。だか、ら。これ、を。持って、行け」
イサアクは懐から鞘に入った短剣を取り出した。刀身を確認してみれば、それは金属ではなく骨を削って作られた物だった。
「ひょっとして、ライカンの?」
「見せ、れば、分か、るハ、ズだ」
手招きをすると2匹の豚人(オーク)がやって来た。彼らはしゃがみこむと、鈴木達を見上げて鼻を鳴らした。
「これは?」
「忠誠、を誓、って、いる。命に、替え、て。送り、届ける」
文字通り、この案内は命懸けなのだ。途中で2匹を失えば、自分達が目的地にたどり着くことは無くなってしまう。
今まで以上に困難な旅路になるだろうことにトルノは息を飲んだ。一方、鈴木はと言うと、満面の笑みを浮かべながら言った。
「行きますよ~。イクイク」
まるで、これから遠足にでも向かう様な気楽さに、場を包んでいた緊張感は笑いと共に解けていくのであった。