迫真転移! ~異世界の主人公と化した先輩!~ 作:ゼフィガルド
花岡を撃破した一同は、亡くなった豚人(オーク)の躯を埋める暇もなく旅を続けていた。新たな刺客が送り込まれて来る前に目的地に辿り着かねばならないという焦りもあったが、もう一つ危惧していることがあった。
「ブゴゴゴ。ブギ?」
「大丈夫ですって。そう何度も心配しなくていいですよ」
トルノに起きている異変である。先の戦いで半ば強制されるような形で、片方だけではあるが例の巨眼を埋め込まれた。
現状、分かっている変化としては性格や言動が攻撃的な物になっている。元の人格の穏やかさを考えれば、望ましくない物だった。
「暴れんなよ、暴れんなよ……」
「冗談はよして下さいよ」
鈴木もなだめるようにして話しかけるが、トルノは冷たく払い除けるばかりで、道中の空気は最悪な物になっていた。
豚人(オーク)は、命の恩人である鈴木への無礼な振る舞いに対して憤りを覚えていたが、亡くなった同胞の為に下らぬ感情を出す訳にはいかないと。己の感情を殺しながら、彼らを案内していた。
「暑いねー」
花岡の件以来、襲撃も無かったが穏やかに思える時間でも安心できるということは無かった。また、姿の見えない敵が襲い掛かって来るのではないか。と思うと、豚人(オーク)の休まる時は無かった。
そんな彼の気も知らず、鈴木は呑気にガチゴチ食料を齧っていた。トルノは俯いて、ブツブツと何かを呟きながら苦しそうに股間を弄っていた。
「お、大丈夫か大丈夫か?」
「うわ、ぶっさ」
「オォン! ホォン!」
そんな彼を心配して近づいて来た鈴木に対して、トルノは容姿を中傷するような言葉を投げつけるばかりだった。
豚人(オーク)の感覚からすれば、勇壮で力強く、美しい鈴木に対しての暴言はいよいよ看過できないことであったが、ふと気づいた。こうしている間は、トルノは俯きもしなければ股間を弄っていないということに。
「フゴ……」
ひょっとして、トルノもまた何かと戦っているのではないのだろうか?
同胞が戦死した戦いで唯一五体満足で生き残った自分に、彼らを咎める資格があるのだろうか? そう考えると、胸中に湧いた憤りは雲散霧消するばかりで、彼らの遣り取りを眺めるばかりだった。
「頑なってんぜ?」
「何言っているんですか! 本当、止めて下さいよ!」
いつも通りの遣り取りに見える気もするが、アレだけ追い込まれていた者が普通に見える状態まで戻れることに意味がある。そう思いながら、豚人(オーク)は体を休めていた。
~~
鈴木の存在もあってか、襲撃されることは殆ど無く。花岡の様な存在も現れなかった為、思いの外あっさりと人狼(ライカン)達の拠点に辿り着いていた。
「彼らは縄張り意識が強いとは言いますが……」
犬や狼の修正を色濃く残す彼らは縄張り意識が強い。それらを誇示する方法は一定の間隔で自らの臭いを残す。と言ったマーキング方法ではなく、外敵に対する威圧を含めた物になっていた。
「ブゴッ」
豚人(オーク)は畏怖していた。辺りには死臭が漂っている。目玉をくりぬかれ、服を剥がれ、肛門付近を手ひどく荒らされた人間の死骸が転がっていた。
通常、異種族と人間が戦えば後者が勝つと言われている。余程、油断していない限りは人間が不覚を取ることは少ないはずだが、こうも一方的に死体が積み上げられているのを見れば、とある可能性を想像せずにはいられなかった。
「まさか、人狼(ライカン)達にも鈴木さんや三浦さんみたいな存在が?」
「多少はね?」
そうとしか思えなかった。だとすれば、そんな戦力を抱えている者達と同盟を結べれば人間達と対峙することも夢ではないと考えたトルノであったが、直ぐに関心は別の物へと向けられた。
野ざらしにされている人間達の死体。損傷の激しい物も多いが、その中で比較的綺麗な状態で転がっている女性の遺体にくぎ付けになっていた。そんな彼の様子にいち早く気付いた鈴木が声を掛けた。
「大分溜まってんじゃん。アゼルバイジャン」
「2か月くらい……。早く、行きましょう」
鈴木と会合してからの日々は処理する間もなく、2か月も経ってはいなかったが、2か月分に相当する位に立っていた。
幾ら敵対している種族に対してとは言え、尊厳を凌辱する気にまでならなかったトルノは屹立した愚息を抑えながら拠点へと向かった。その際も、名残惜しそうにチラチラと見ていた。
~~
オォーン。オォーン。既にトルノ達が縄張りに入ったことは知られているのか、人狼(ライカン)達の遠吠えが響いていた。
周囲には幾つもの気配を感じた。不審な動きを見せれば、直ぐにでも始末をしてやる。だから、黙って進め。と言われている様だった。
「オォーン! ホォーン!」
そんな脅しも気にせず、いつもの様に喘ぎ声とも鳴き声とも付かぬ声を上げている鈴木の奇行については、トルノも豚人(オーク)も無視していた。なんなら、人狼(ライカン)達からも無視されていた。
そうして、進んでいた折のことである。鈴木達の前に人影が現れた。前進を体毛で覆われ、側頭部ではなく頭頂部に耳を生やした人狼(ライカン)の男だった。
「貴様ら、ここに何の用だ?」
「僕達は同盟を結びに来ました。異種族に対して圧政を強いる、人間達に対抗する為の同盟です」
単刀直入に用件を切り出した。表で転がしていた人間達の死体を見るに、彼らも反抗心を持っているのは明確でありトントン拍子で話は進む物だと考えていたが。
「断る。俺達には英雄がいる。力のない者達と手を組んだ所で、足を引っ張られるだけだからな」
「な!?」
「にしても、気持ちの悪ぃナリしてやがるな。なんで、そのデケェ目ん玉。まさか、人間の仲間か?」
自分達を侮るばかりか、まさか自分達を人間達の仲間だと決めつけて来た。まさか、この眼球がその様な弊害を呼び込むとは考えもしていなかった。
「違います。これは連中に強制的に埋め込まれた物で……」
「埋め込まれたというのに生き残ってんのか? 連中が態々生き残らせるとは思えねぇ。お前ら、もしかして間者か?」
実際に、目の前の人狼(ライカン)が言うことは殆ど正しかった。彼らの残虐性や容赦のなさを考えると、基本的には異種族は駆除される物だった。
祝福と言う名の人体改造を施すにしても生き残らせることは殆ど無い。故に、トルノが置かれた状態と言うのは実に奇妙な物でもあった。
「これは連中に埋め込まれようとした所で、そこにいる鈴木さんに助けて貰ったんです」
「ヌッ!」
「スズキ?」
自分の功績と言わんばかりに鈴木は胸を張った。人狼(ライカン)は鈴木のことを舐め回すに観察し、鼻を鳴らして臭いも確認していた。
「気持ち良くなっちゃう、もういいよ。ヤバイヤバイ」
「きっしょ」
臭いを嗅がれていることに興奮したのか鈴木の表情は笑顔で満たされていた。そして、何かを確信したのか。彼らに問うた。
「お前、もしかして。タダノ達の仲間か?」
彼らが鈴木達と同じく、異世界からの戦力を抱えていることはもはや疑いようもなかった。