迫真転移! ~異世界の主人公と化した先輩!~ 作:ゼフィガルド
「ぬわぁあああん。疲れたもぉおおおお!」
大会も近いので空手部で合宿をしていた頃の話である。彼は自らの疲労を喧伝する様に高らかに叫んでいたが、部員達は白い眼を向けるばかりだった。
「コイツいつも疲れてんな」
「俺も疲れているんだからさ」
自分が感じている苦痛は皆も同じだ、と。同調圧力を呈する様子は実に日本的だった。だが、鈴木は違和感を覚えていた。
「この辺にぃ。三浦と木村居た気がするんですけど」
「三浦と木村? 誰だよ、お前の恋人か?」
一笑に付されたが、何時しか彼らの姿を見なくなっていた気がする。
空手部の練習がキツいから辞めてしまったのだろうか? だとしても、声位は掛けて欲しかったというのが正直な所だった。
「しょうがないね。この辺にぃ、美味いラーメン屋の屋台があるから1人で行きましょうね」
1人で夜食を食いに出かける姿にはストイックさは微塵も感じられなかった。しかし、彼が向かったのはラーメン屋の屋台ではなく……。
~~
「目を覚ましましたか?」
「ウーン……」
鈴木は目を覚ます、肛門に違和感があることと傍に誰かがいることに気付いた。松明の薄明かりで照らされた姿は、人間に近しいフォルムをしてはいたが表皮の大半は緑色の鱗で覆われており、背骨から尾骨に掛けて伸びている尾が特徴的だった。
ボンヤリした頭で辺りを見回す。周囲は冷たい土壁で覆われており、格子状の柵で閉じられている。平たく言えば『牢屋』の中に居た。
「あの、大丈夫ですか?」
「んにゃぴ。よく分かんないです……」
何故、自分が閉じ込められているのか。ここは何処なのか? 思った疑問を口に出した所、目の前の青年は快く答えてくれた。
「僕はトルノと申します。種族は蜥蜴人(リザードマン)です。ここにいるのは、冒険者の人達に連れて来られたんです」
「鈴木です。24歳、学生です」
「はぇ~。学生だなんて、頭が良いんですね」
大学内でも下から数えた方が早いが、この世界においては学徒であるだけで褒められるらしい。久々の賞賛に、自分が置かれた状況も忘れて笑みを浮かべていた。
「多少はね?」
「豚人(オーク)でも通える学校なんてあるんですね。僕も行ってみたいです」
「ファッ!?」
あくまで『異種族』として頭が良いという賞賛だったらしい。だが、この世界における偏見とパワーバランスを考えれば、異種族が学校に行けるのは夢のような話なのかもしれない。
「それで、どうして連れて来られたんですか?」
「まずうちさぁ、迫害されていて……」
近場の街に居た人間達を皆殺しにしたこと。騙し討ちを食らって、昏睡させられたこと。迫真の供述にトルノも思わず『えぇ……』とドン引きしていた。
「まずいですよ! 犯罪者じゃないですか!」
「なんのこったよ」
年端も行かぬ赤子を手に掛けていたことも含めて、紛れもない人間の屑。いや、もはや人間とすら呼べない野獣の如き所業であった。
そんな男と同じ檻に入れられていると言うことは、自分の処遇を察してトルノは誰かに訴えかける様に叫んでいた。
「こんな男と同じ檻に入れるなんて、止めて下さいよ! 本当に!」
「おっ、大丈夫か、大丈夫か」
お前のせいだよ。と言わんばかりに、トルノは鈴木を睨みつけていた。当の本人はと言えば、不敵な笑みを浮かべるばかりだった。
「なんで、そんな余裕なんですか!?」
「ほら、見ろよ見ろよ」
自分には授かった異能【スキル】がある。こんな所、一瞬で脱出できる。勇ましく、格子を捻じ曲げて出て行こうと力を籠めるがビクともしなかった。
「ファッ!?」
「ほんと、何やってんですか!?」
驚いたことに力が入らない。今の自分は、大学に居た頃と同じく一般人男性と同じ程度の力しかない。先程まで見ていたのは夢か幻か、涙を流しながら困惑していると足音が聞こえて来た。
「目を覚ましたか」
現れたのはレンだった。傍には甲冑を着た騎士達を引き連れており、今の自分では抵抗も空しく抑え込まれるだろう。3人に勝てる訳がない。
「これもうどうなるか、わかんねぇな」
「さっきも説明しただろう。お前達は選ばれたんだ。光栄に思え」
「え?」
牢屋の扉が開かれ、2人は連れ出された。一体、何処へと向かっているのだろうか? そんな疑問を口に出すことも許されない中、歩き続ける。
更に薄暗い処刑場的な場所に連れて行かれると思いきや、階段を上がって行き、等間隔で兵士達が並んでいる廊下を進んで行く。
「レン様。陛下がお待ちしております」
「ご苦労」
並んだ兵士達の双眸も巨大な物であったが、今まで遭遇して来た者達よりは幾らか理知的な様に思えた。彼らに労いの言葉を掛けつつ、重たい扉を開く。
部屋の奥部には、権力を象徴するかのごとき豪奢な椅子にずっしりと腰を落としている男が居た。彼の姿を見て、鈴木は思わず声を上げた。
「ファッ!?」
黒く焼けた肌を持つ金髪の青年。この世界に来たばかりの頃、散々にボコボコにされて意識が混濁していた時に、自分に異能【スキル】を授けてくれた男とうり二つの容姿をしていた。違った所があるとすれば、眼球が肥大化していたことだったが。
「誰が声を上げていっつったぁ! オラァ!」
「オォン!」
突如として叫んだことを咎めるようにして、レンから背中を殴打された。目の前の虐待劇を見かねたのか玉座に座っている男は人差し指を掲げながら言った。
「まぁまぁ、レンさん。そう怒んないで」
「は、はい。失礼しました」
直前までの怒りも全て収めて、レンは直ぐに跪いた。一連の流れを見ていたトルノもまた声を上げることも出来ず、同じ様に跪いていた。ちなみに鈴木はもんどりを打っていた。
緊張しているレンとトルノを見かねたのか、青年は穏やかな笑みを浮かべながら言った。
「そんな固くならないで。俺の名前はGOって言うんだ。よろしくな」
不思議と心地の良い声音だった。話を聞いているだけで緊張も疑問も解けていく様な気がした。
「ねー、本当に痛い。ねーホモ・・・ねーホモ・・・」
直後に不愉快の擬人化を見たせいで、この場に居た者達全員の眉間に皺が寄った。だが、GOは怒ることもせずに快活に笑っていた。
「いやぁ、面白いね! 道理でねぇ! さっき、俺のことを見て驚いていたけれど、俺達何処かであったっけ?」
「こ↑こ↓」
鈴木は自らの頭を指差しながら言った。礼儀作法を知らぬホモガキでもかくたるやと言わんばかりの狼藉であったが、GOは一生に付すことも無く。目つきを鋭くさせながら言う。
「ひょっとしてさ……。その俺、もうちょっと目が小さくなかった?」
「そうだよ」
まるで見透かされているかのような物言いに、鈴木の胸中はバッチェ冷えていた。一体、彼は何を知っているのだろうか? と。
「おぉ。いいねぇ! 道理でねぇ! 2人とも。名前、名前なんて言うの?」
「ぼ、僕はトルノです」
「鈴木。24歳、学生です」
トルノの控えめな自己紹介に対し、鈴木は胸を張りながら答えた。ここまで来ると度胸があるのか、ただのバカなのかは判断し難い所だった。
「早速だけれどね。2人には祝福を受けて欲しいんだ」
「祝福。ですか?」
トルノの疑問に答えるようにして、側近達に木箱を運ばせて来た。恐る恐る蓋を取ると、中には巨大な眼球が収められていた。まるで、意思を持っているかのようにギョロギョロと瞳が動いている。
「そう。2人にはもっと世界を見渡して欲しいからね。そんな小さい目じゃ見れる範囲も限られちゃうでしょ? レンさんもした様にさ。2人にもして欲しいんだ。これは誰にでもやっている訳じゃないからね」
「有難い祝福だ。特に鈴木。GO陛下は罪深いお前にも慈悲を掛けて下さっているんだ。受ける以外はあり得ないぞ」
「ど、どうして僕達なんですか? 自分は特にえらい訳でもないというのに」
「そんなことは無いよ。2人は適合者だからね。『レシート』の刻印を持つトルノ君に、転移者の鈴木君。2人だからこそ、仲間にしたいんだよ」
「やべぇよ、やべぇよ」
こんな物が埋め込まれたら化け物になってしまう以前に、自分の体内に収まるかさえ疑問だった。この窮地を脱しようと異能【スキル】を発動させようと、先ほどから何度も試しているが、反応する気配がない。
彼が身じろぎしている様子を見て察したのか、GOの傍に控えていた男が威圧するようにして言い放った。
「無駄だよ。お前の体内には、異能【スキル】の発動を防ぐ魔道具【アーティファクト】が埋め込まれているのだよ」
「やめろぉ」
道理で起きた時から肛門に違和感があると思ったら。と、考えた時、鈴木は天啓を受けた様な衝撃が走った。トルノの尻尾を掴み、自らの肛門へと突き刺したのだ。
「何してんですか!? ホント、止めて下さいよ!」
「で、出ますよ」
ブッチッパ! と、豪快な排泄音が鳴った。大便と共に体内に埋め込まれていた魔道具【アーティファクト】がひり出された。即ち、直ぐに異能【スキル】を使える状態になったと言うことだが、いきなり暴れ出す様な真似もしなかった。
ぶつかり合えば抑え込むことはできるだろうが、それまでにどれだけの被害が出るか。そこまでする価値が鈴木と言う男にあるのか? すると、GOは直ぐに交渉へと切り替えた。
「お、いーねー。何が望み?」
その場のノリだけで交渉に応じたが、特に何をするか考えていた訳でもなく。暫し、鈴木は考えていた。