迫真転移! ~異世界の主人公と化した先輩!~ 作:ゼフィガルド
一触即発の中、交渉を持ち掛けられた鈴木に何かしらの考えがあった訳ではない。だが、何もせずにいたら化け物の仲間入りを果たしてしまう。それだけは避けたかった。そもそも。どうして、この様なことをしているのだろうか?
「これもうわかんねぇな」
何故、この世界ではここまで大きな目という価値が尊ばれているのか?
祝福と言っていた所を聞くに、目玉を取り換える施術は、これまでも行われて来たのだろう。これは明らかに人権を侵害する行為だ。
「さっきも言ったでしょ。この世界を広く見渡す為だって」
「嘘付け。絶対見えてないゾ」
鈴木は知っている。この巨大な眼球のせいで、脳が縮小してしまった冒険者達が生殖猿になってしまっていたことを。
視界に大量の情報を収められるようになっても、それらを処理運用する為の脳が小さくなっていたら何の意味もない。
「あの、僕からも質問です。見識を拡げたりするのが目的なら、どうしてGO陛下は他種族の迫害を禁じて下さらないのでしょうか?」
鈴木が捲し立てるのを見て、トルノも恐る恐る声を上げた。
本当に世界を広く見渡すという割には、他種族への迫害を止める気配もなく。まるで人間以外の種族には興味がないという、極めて視野の狭い見方をしている様な気がしたからだ。言動のチグハグさを指摘した所、やはり変わらぬ様子で返事をされた。
「大丈夫だって。安心しろよ~。徐々に融和政策も進めているからさ~」
本当にそうだろうか? だとしたら、どうして自分は正体ではなく拉致されたのだろうか? トルノの中に疑惑が膨れ上がっていく。即ち、この男の吐いている言葉は全て欺瞞ではないかと。
だからと言って、断れるような雰囲気でもない。申し出を拒否した所で、向こうには力づくで従わせることのできる戦力がある。どうした物かと、一縷の望みを掛けて鈴木を見た所。
「良いよ。来いよ!」
「嬉しいこと言ってくれるねぇ! 俺達一族に歓迎するよ!」
鈴木は木箱の中にある目玉を手に取った。やはり、力には従った方が利口だというのか。と思っていた所、彼は手にした物を握り潰していた。
「ギィイイイイイイイイ!!!!!!」
「!?」
奇妙な光景だった。発声器官が備わっているハズの無い目玉から、不快感を凝縮したような断末魔の叫びが挙げられた。
堪らず、その場にいた者達が耳を伏せた一瞬を見逃さず、鈴木はトルノを担ぎ上げて壁に向かって走り出した。
「鈴木さん!?」
「で、出ますよ!」
分厚く、頑強な壁を突き破って外へと出た。僅かな浮遊感の後、強烈な重力に襲われた。口を開くことも出来ない恐怖の中、鈴木はトルノを抱えたまま着地していた。
「居たぞ! あの顔面土砂崩れとトカゲ野郎を捕まえろ!!」
追撃の通達は凄まじく早かったようで、直ぐに兵士達に囲まれていた。しかし、異能【スキル】を取り戻した鈴木の敵では無かった。
「ホラホラホラホラ!」
「ギャッ!!」
空手部で鍛えた技に力が乗るとなれば弱い訳がない。立塞がる相手を尽く粉砕し、何処とも知れない場所に向って走って行く。
「何処に向っているんですか!?」
「んにゃぴ。よく分かんないです」
つまり、考えも無しに走っている訳である。このまま、闇雲に走っていても捕まるのは時間の問題だと思った。故に、トルノは叫んだ。
「でしたら、このまま真っすぐ走って下さい! この街から出れます!」
「おかのした」
言われた通りに鈴木は突っ走る。あまりの速さに走るだけで、周囲の物を巻き上げ撥ね飛ばしていくので、半ば天災めいた存在となっていた。住民達の悲鳴が響き渡り、兵士達の怒号が響く中を駆け抜けていった。
~~
暫く走り続け、追手も振り切ったことを確認した後。鈴木は抱えていたトルノを下ろした。2人は腰を下ろして現状の整理に勤めていた。
「ふぅ、少し整理してみましょう。まず、GO陛下が僕達を拉致した理由は、あの巨大な目玉を埋め込んで仲間にする為でした」
「そうだよ」
本人曰く、世界を広く見渡す為にはアレだけ大きな目玉が必要と言うことらしいが、当の本人達の視野と了見は広がっているとは言い難かった。
「そして、鈴木さんはあの目玉を潰した所、悲鳴を上げていました。ひょっとしたら、アレは目玉じゃなくて。何かの生物だったのかもしれません」
「そうだよ」
便乗ばかりで、物事の整理に何の寄与もしないクソハゲと言う評価を下しそうになっていたが、トルノは堪えた。もしも、彼が居なければ、こうして整理するだけの余裕も貰えなかっただろうからだ。
「それを頭の中に入れたりしたら、どうなるのか。想像もつかないです」
「当たり前だよなぁ」
頭部は生物にとって重要な器官の詰まった場所である。その内部に目玉とも生物とも付かない物の存在を許してしまえばどうなるのか、ロクでもないことが起きそうな気はするが、具体的な発想には至らなかった。
ここで、GOの考えばかりを推測していても仕方がない。折角、逃げ果せたのだから、今後。どうして行くべきかを考えていた。
「鈴木さんは何か目的とかありますか? 豚人(オーク)の拠点に戻るとか」
「(場所を覚えて)無いです」
そもそも、鈴木には豚人(オーク)の拠点が何処にあるかも分からなかった。案内を頼んだ若人達は皆殺しにされたのだから、自力では帰れるはずもなかった。
「でしたら、僕達の拠点に来てくれませんか? 食事とかなら出せますし、寝床もありますよ」
「FOO↑」
身を寄せる場所のない鈴木にとっては朗報だった。何せ、この世界の貨幣を持っていなければ常識も無いのだ。
豚人(オーク)達とも違って、流暢にコミュニケーションを交わせるトルノが付き添ってくれるなら、嬉しい限りだった。
「お前のことが! 好きだったんだよ!」
「はいはい」
鈴木の大胆な告白を受け流しながら、トルノは歩き出した。目的地が何処にあるのか把握している様な足取りであった。ひょっとしたら、自分と同じ様にテキトーに進んでいるだけなのではないかと思い、つい口に出してしまった。
「おっ、大丈夫か。大丈夫か?」
「大丈夫です。僕、仲間達の中でも結構頭が良い方なんですよ。その証拠に、背中に刻印があるでしょう?」
言われた通り、彼の首筋下には小さな白い長方形の柄があった。中には、文字とも言えない黒い羅列が並んでおり、パッと見た感じ。『レシート』っぽい印象を受けた。
「やりますねぇ!」
「本当に分かって言っています?」
「(分かって)ないです」
「仲間内で次期後継者に付けられる刻印なんです。僕が居なくなって、皆。大慌てして無いでしょうか」
連れて来られるだけの理由がある程度には能力がある人間らしい。思い返せば、先ほどの逃走の最中も向かうべき道を支持してくれたりと判断力が優れていることは確かだった。
「大丈夫か、大丈夫か?」
「心配です。早く向かいましょう。その前に……」
「ガァアアア!」
彼らを見つけた野犬の群れが襲い掛かって来たが、一瞬で鈴木に頭部を砕かれた。その以外から瞬く間に皮を剥ぎ取り、身にまとったトルノが言う。
「この付近の歩き方や生き方は僕の方が詳しいので、狩りとかの指示をしますから。鈴木さんはその通りに動いて下さい」
「おかのした」
偶然、力を手に入れることは出来ても。知識ばかりはそうは行かない。トルノの豊富な知識を頼りに、2人は目的地へと向かった歩き始めた。