幸薄少女の世話係   作:直江

9 / 14
クレーンの達人②

 美少年のクレーン妙技に感心していると、寧々が俺に何かさせたいのか、袖を引いた。

「与一」

「ん?」

「あの人にクレーンゲームのコツ聞いてきたら?」

「何でだよ」

 

 突然の寧々の提案に俺は当然の疑問を返す。

 

「コツ、知りたくないの?」

「まあ、知りたいか知りたくないかで言えば知りたいけど、別にわざわざ聞きに行くほどでもないな」

「......使えない」

「はぁ!?」

 

 なぜか不満げな顔をした寧々はボソッと吐き捨てるように言った。

 何だよ、急に...

 今の一連の流れで、俺が寧々に罵倒される要素あったか?

 そこそこ付き合いが長くなってきたが、未だによくわからない女の子だ。

 

「ホッチキスの方がまだ役に立つ」

「あのなぁ。言いたいことあるなら、はっきり言え」

 

 俺の言葉に寧々は少し沈黙した後、モジモジしながら美少年の方を指差した。

 

「......あー。あのイケメンとお近づきになりたいけど、自分で行くのは恥ずかしいから、俺に行けと?」

 

 なるほど。さっきの遠回しな問答はそういうことか。 

 なんだ。意外と乙女なところあるんだな。

 

「違う。わたしがクレーンのコツ知りたいから、聞いてきてってこと」

「当たらずとも遠からずだな。要は自分から行くのは緊張するってことだな」

「いいから早く」

 

 肯定するのが恥ずかしいのか、顔を伏せた寧々が急かすように俺の背中を押してきた。

 人を頼るのが苦手な俺が言えた話じゃないが、もっと直接的に頼ってくれてもよかったのに。

 

「わかった。わかったから、急かすな」

「あ、ありがとう。与一は忠犬だね」

「誰が忠犬だよ」

 

 

「すみません、少し良いですか?」

 

 集中しているところに声を掛けるのは気が引けたので、少し間を置いてから、ひと段落ついたようなところを見計らって、俺は美少年の方をぽんと叩いた。

 年齢差が把握できていないし、何より初対面だから、当然敬語だ。

 

「...俺に何か用でしょうか」

 美少年は肩を少し跳ねさせると、すぐにこちらを振り返って、要件を尋ねてくる。

 顔見知りでもない男が急に話かけてきたことに多少驚いたようだが、警戒の色は無いみたいだ。

 俺の後ろからそーっと顔を覗かせる寧々がいい感じに作用しているのだろうか。

 

「凄い腕前だなと思って。どうやったらそんなにうまくなるんですか?」

「他の人が遊んでるのを見て、真似しただけです。あとは、何度もプレイしている内に自然と」

 

 上手い人に習ったとか、ネットで攻略法を調べるとかじゃなくて、我流で上達したってことか。

 何回やっても一向に上手くなる気配のない俺とは大違いだ。

 路上ライブでも、歌声に途轍もない精密さを感じたが、その精密さはクレーンゲームでも通用するということか。知らんけど。

 

「だってよ、寧々。天才肌っぽいから、コツを聞くのは難しそうだ」

「......そ、そう」

 

 一言も喋らず俺と美少年の会話の経過を見守っていた寧々に声を掛けるが、反応は悪い。

 これはそこそこの付き合いの中で気づいたことだけど、俺と二人でいる時以外での、寧々は基本大人しい。

 もし、この美少年がこの場にいなかったら「諦め早すぎ。もっと粘ったら?甲斐性無し」ぐらいの言葉を呆れたような顔で言っていただろう。

 

「クレーンゲームのコツを聞きたいんですか?」

 

 寧々のあまりの反応の悪さに困っていると、美少年が沈黙を破った。

 気を遣わせてしまったのかもしれない。

 

「は、はい。そのつもりだったんですけど、やっぱり──」

「完璧とは言えませんが、ある程度の言語化はできるので、教えましょうか?」

「ま、まじですか」

「はい。役に立てるかはわかりませんが」

「あ、ありがとう」

 

 伏し目がちだが寧々がお礼を言った。

 微かに見える表情には柔和な笑みが浮かんでいる。

 ──にしても、突然話しかけてきた根暗そうな男と無言の少女相手に優しすぎるぞ、この男。

 歌が上手いイケメンとかけしからんから、せめて性格だけでも悪くあれとか失礼なことを思ってたが。

 イケメンは性格もいいという俗説はあながち間違っていないかもしれない。

 

「ですが、条件があります」

「条件ですか」

「はい」

 

 クールな表情は崩さず、美少年が妙に熱のこもった目をこちらに向けた。

 この真剣な眼差し...コツを教える代わりに寧々の連絡先がほしいとかそんなとこだろうか。

 もしそうだったら、即あげよう。元々、寧々の提案だし。

 

「その条件とは...」

 

 ゴクリと息を呑む。

 寧々も緊張したような面持ちで美少年の言葉を待っている。

 様々な音が飛び交うゲームセンターだが、俺達がいる半径二メートルの領域はその喧噪から隔離されたかのように静謐な空気が続いた。

 そして、静寂が破られる。

 

「俺にゲームを教えてほしいです」

「え?」

 

 美少年の口から飛び出してきた言葉は予想外のものだった。

 

「ゲームって...クレーンゲームじゃなくて」

「はい。ここに来る前に俺もあっち側のエリアにいたんです。そこで、貴方達のプレイを少しだけ観察させていただいていました」

 

 俺と寧々の熱戦が繰り広げられている中、そこそこの見物客が集まっていたがが、どうやらこの美少年もその中に混じっていたらしい。

 負けられない勝負に気が張りすぎていて、この間の路上ライブの美少年がいたことには全く気付かなかったが。

 

「ゲームについて造詣は深くありませんが、貴方達のプレイは他のプレイヤーとは一線を画しているように見えました。研ぎ澄まされた技術とそれに裏打ちされた自信のあるプレイングには目を見張るものがあり、俺に衝撃を与えました」

「そ、そうですか」

 

 な、長い。

 口数が少ない寡黙なキャラクターだと思っていたけど、こんなに饒舌になるんだな。

 立て板の水の如く、雪崩れ込むような言葉に思わず俺は唖然としてしまう。

 後ろを見やると、案の定寧々も驚いて、口をパクパクさせていた。

 

「俺も貴方達のような熱いプレイがしたい。ご教授願います」

「お、おお。もちろん」

 

 こちらがお願いしている立場だったのに、いつの間にか逆転していた。

 

「俺は青柳冬弥といいます。中学三年生です。よろしくお願いします」

「あー、俺は立石与一。高校一年です」

「...草薙寧々です...よろしくお願いします」

 

 ゲームの腕前を褒められて嬉しかったのか、緊張が少しとけた感じの寧々も流れに続くように自己紹介をした。

 

「立石さん。俺のことは冬弥でいいですよ。草薙さんも俺のことは──」

「あ、青柳くんって呼ぶね。あと、『さん』はつけなくていいよ」

「ああ、よろしく。草薙」

「俺のことも与一でいいぞ」

「では、与一さんと呼ばせていただきます。自分は年下なので」

「ああ、よろしくな」

 

 お互いの自己紹介が終わって、呼び名が定まったところで、俺達はゲームエリアへと向かうことにした。

 

 ──────────

 

 

「やっぱり強いですね。全く歯が立たない」

 

 結果としては完勝、ストレート勝ちであった。

 ただ、内心穏やかではなかった。

 俺が主戦場とする格闘ゲームで初心者に負けることはありえないと確信していたが、想像以上に食い下がられた。

 ある程度のコンボを縛っていたとはいえ、冬弥のプレイスキルは何度か俺をヒヤヒヤさせた。

 今でこそストレート勝ちできるが、冬弥が本気で格ゲーに打ち込めば、将来的にはどうなるかわからない。

 それほどだった。

 

「初心者とは思えないな」

「うん、どのゲームも強かった」

 

 俺の言葉に寧々も同調した。

 冬弥のプレイスキルに驚愕させられたのは寧々も同じだ。

 先ほどの『2SP〇CY』においても、負けはしたものの、冬弥は確かな実力を見せたからだ。

 元々ゲームの適正が高い人間はいるが、冬弥はその中でも桁違いだ。

 幼い頃から努力と時間を費やして、力を積み上げてきた俺のような、所謂努力型の人間からすれば、羨ましい限りだ。

 

「今日は遅くまで付き合ってくださってありがとうございます...ってあ、クレーンゲームのコツを教えるのをすっかり忘れていました」

 

 申し訳なさそうに、冬弥が眉尻を下げた。

 

「いいよ、また今度で」

「では、連絡先を交換しましょう。お互いの都合があった時に集まるということで」

「おう」

「草薙もいいか?」

「う、うん」

 

 ぎこちなさは残っているが、ゲームを通して、少しは馴染めているようだ。

 寧々が他の人間と頑張って交流していることに和やかさを感じていると、ふと冬弥の路上ライブのことを思いだした。

 

「そうだ。この間の日曜日に冬弥が渋谷の路上で歌っているのを見たと思うんだけど、人違いじゃないよな」

「日曜日...そうですね。確かにあの日は路上ライブをしていました。与一さんも見てくれたんですか?」

「たまたま通りかかってな。めっちゃ歌上手いイケメンがいるってなった。終盤だけだけど、つい聞き入ったよ」

 

 改めて冬弥の顔を見ると、本当に顔が整っている。それも相当レベルが高い。

 隣にいる寧々も確実に美少女に分類されるから、このゲーセンエリアは一時的に全体の平均顔面偏差値が急上昇している。  

 俺が足を引っ張ってしまっているのが忍びない。

 

「路上ライブはあくまで練習で、普段は友人とタッグを組んで、イベントに出たりもしてるんですよ」

「イベント?それはすごいな」

「エントリーするだけなら誰でもできますよ。熱い歌を届けたいという思いがあればですが」

 

 冬弥の目に微かに炎が燃えているように見えた。

 きっと本気で打ち込んでいるのだろう。

 観客の規模はわからないが、人前で堂々と歌うというのは並大抵の覚悟ではできないはずだ。

 

「俺の歌に少なからず興味を持ってくれたなら嬉しいです。──今度の日曜日に相棒とイベントに出場する予定なのですが、どうでしょう。見にきませんか?後悔はさせません」

 

「歌のイベントか...そうだな、行ってみたい」

「ありがとうございます」

「今度の日曜日が楽しみだ。な、寧々」

「え、わたしもいくの?」

 

 

 




奏と絡ませていくなら、ニーゴ方面。
寧々なら、ワンダショ。
穂波なら、レオニ。
みのりなら、モモジャン。
冬弥なら、ビビバスって感じです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。