監督生は空白の書の持ち主   作:大瑠璃音葉

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空白プリンセス

ナイトレイブンカレッジでは現在入学式が執り行われている。

新入生も揃い、そろそろ入学式も終わるかと考えている生徒たちも多いが、学園長の姿がない。

どうやら、新入生が1人足りないと探しに鏡の間を飛び出したようだ。

ナイトレイブンカレッジの生徒たちは我が強く、個人主義の生徒の集まりであり、少し根に持ちやすい質である。

入学式を長引かせている学園長と最後の新入生に対して怒りを覚えるのは当然だろうを

ようやく扉が開き、学園長が現れた。

「皆さん、お待たせしてすみません!」

そう言って鏡の間に入る。

そして、学園長の後ろに立っている人物に驚愕した。

そこにいたのはディアソムニア寮寮長のマレウス・ドラコニア。

しかし、彼はこの学園の3年生であり、新入生ではないはずだ。

そのマレウスの後ろを・・・正確に言うと、マレウスに手を引かれて鏡の間に入って来た新入生を見て、さらに驚愕した。

その新入生は・・・単刀直入に言えば、ポムフィオーレ寮寮長のヴィル・シェーンハイトと余裕で並び立てるほど美しく愛らしい容姿をしていた。

式典服のフードから覗く髪はホワイトからスカイブルーのグラデーションになった特徴的な髪色で、前髪には時計の針を模したヘアピンをつけている。

とても目新しい事ばかりなのか、好奇心旺盛な小動物のように忙しなく周りを見る瞳はラベンダーの様な美しい色合いだ。

そしてなにより、体格は丸みを帯びており、胸元には膨らみがある・・・つまり・・・自分達と年の近い少女という事だ。

ナイトレイブンカレッジは男子校。

美少女に対する歓喜と困惑が生徒たちを襲った。

そして、マレウスに対して少し苛立ちを覚えた生徒もいた。

なんたってあんなに可愛くて綺麗な女の子と共に行動をしていたのだ。

正直に言わせてもらおう。羨ましいったらありゃしない。

羨ましいが、彼に表立って苦情を言えるような度胸のある生徒なんてそうそういない。

表立ってマレウスに喧嘩を売る様な事はしたくない。

心の中でマレウスに悪態をつきながら、血涙を流しながらその光景を眺めていた。

 

 

私はクロウリーさんとマレウスさんに連れられて、目を覚ました部屋に戻ってきました。

グリム君も一緒です。

周りを見ると・・・私と歳の近い男性ばかりで、女性は1人もいません。

なるほど、だからマレウスさんとクロウリーさんは私を見て驚いたんですね。

「さて、寮分けが終わっていないのは君だけですよ。」

「あの・・・りょうわけって?」

「眼の前に大きな鏡があるだろう?」

マレウスさんの言葉聞いて、前にある鏡を見ました。

金の縁取りのされている黒い鏡で、形状は白雪姫の想区で歴代の毒林檎の王妃様が使っていたり、レイナちゃんの使っている『箱庭の王国』の『魔法の鏡』を連想させました。

そして、鏡の中には仮面のような存在が映っています。

「その鏡は闇の鏡。その鏡にお前の名を告げると、お前の魂の資質に見合った寮を選定してくれる」

そう言ってマレウスさんが優しく教えてくれました。

正直、ここの事も何も分からないけれど、やるしかないって事ですよね・・・?

私は闇の鏡と呼ばれている鏡の前に立ちました。

 

《汝の名を告げよ》

 

「鏡さん鏡さん、私はアリア。アリア・クロックベルです」

 

《汝の魂の形は・・・》

 

そこまで言うと、闇の鏡さんは逡巡・・・してるのかな?

そんな感じに意味ありげに黙りました。

そして、次の言葉が紡がれました。

 

《分からぬ》

 

「・・・何ですって?」

闇の鏡さんのその返答は予想外だったのか、クロウリーさんが闇の鏡さんに聞き返します。

よく見ると、りょうわけ?っていうのが終わった人達も少しざわついているような気がしました。

 

《この者の魂は例えるのであれば、物語の描かれぬ戯曲。自らの運命を頁に綴っている最中・・・よって、どの寮にも相応しく、どの寮にも相応しくない!》

 

物語の描かれぬ戯曲、ですか・・・

的を得た判断ですね。

私は、運命の書に運命や役割を与えられていない空白の書の持ち主。

物語の描かれぬ戯曲というのは、確かに例えに相応しいでしょう。

私は自らの物語を、旅を通じて綴っている最中なんですから。

「ふなー!じゃあ俺様が変わりに入学してやるんだゾ!」

「わぁ!?」

グリム君が急に前に躍り出ます。

この子、どれだけこのナイトレイブンカレッジ?に入りたいんですか!?

「ちょっ、何ですかこの魔獣は!君の使い魔でしょう!?」

「いえ、使い魔じゃないです。この子も入学?でしたっけ?したいみたいですよ」

「俺様はコイツの使い魔じゃねー!あと、ちゃんと警備はしとくんだゾ。俺様黒い馬車の屋根に引っ付いただけで此処に入れたんだからな?」

なるほど、名門と謳うことは警備も凄いはず・・・

それなのに、本来なら生徒になる予定のなかったグリム君が入ることができたのは、馬車に掴まっていたからなんですね。

それなら小動物がいても気づかれないでしょう。

私はグリム君が闇の鏡さんに名前を言いやすいように、グリム君を抱えて闇の鏡さんに目線・・・目線?でいいのかな?・・・を合わせてあげました。

「お、ありがとな、アリア!」

 

《汝の名を告げよ》

 

「俺様はグリム様なんだゾ!」

 

《汝の魂の形は・・・分からぬ》

 

私と同じ判定(私と違ってグリム君は『魂の形が不安定』だそうです)を闇の鏡さんから貰ったグリム君は、入学できないと分かり、私の胸の中で泣いていました。

(ど、どうしよう・・・!?こういう時はどうすれば・・・!?)

「と、兎に角、入学式は終わりです!新入生は皆寮生の指示に従ってください!」

ここの責任者であるクロウリーさんは、えっと・・・桃太郎の想区や御伽草子の想区でいう・・・あれだあれだ。鶴の一声でざわめきを収め、他の人達を帰しました。

そして、マレウスさんの引率する寮・・・ディアソムニアだっけ?だけが戻るだけだったんですが、マレウスさんがこちらにやってきました。

「人の子よ、災難だったな」

「いえいえ、問題ないですよ。それより、良かったですねマレウスさん。式典、ずっと参加したかったんでしょう?」

「あぁ、ささやかな祝福とお礼だ。」

そう言ってマレウスさんは万年筆を私に向けて一振りします。

すると、私の体が先程のマレウスさんの様に淡い光に包まれます。

光が収まった時には、いつも着慣れている金銀の糸で時計の文字盤のような模様が刺繍された白いワンピースドレスに、白いタイツに、ブーツは水色のローヒールのリボンパンプスに変わり、頭には銀色のティアラが乗っています。

どうやら、マレウスさんは私の服を魔法で着替えさせてくれたみたいです

フェアリー・ゴッドマザーに魔法をかけてもらったシンデレラお義姉様もこんな感じだったのかな?

「・・・!ありがとうございます、マレウスさん」

「このくらい造作もない。人の子よまたいつか会おう」

そうマレウスさんは言って、寮生さん達を連れて寮に戻りました。

「すっげぇ!まるでお姫様みたいなんだゾ!」

・・・『お姫様』・・・私が一番言われたくない言葉・・・

・・・グリム君は私のことを何一つ知らない。

だからこそ本心から言ったんだと思う・・・

でも・・・

「お姫様なんて言わないで!」

「ぶな!?」

「あ・・・ごめん、グリム君・・・」

「びっくりしたんだゾ・・・」

これは失敗・・・本当に失敗しました・・・

「兎に角、君をここに置いておくわけにはいきません。闇の鏡に君の故郷の名前を言えば、君は帰ることができます」

故郷、ですか・・・

「あの、クロウリーさん・・・」

「どうしました?」

「私には、帰る場所がありません」

「「・・・え!?」」

その言葉を聞いた2人・・・クロウリーさんとグリム君だから、1人と1匹が正しいのかな?・・・は目を見開いて驚きました。

 

 

場所を変えて話しをしたいと言われ、私とグリム君は学園長室と呼ばれる部屋にやってきました。

「クロックベルさん、帰る場所が無いというのはどういう意味ですか?」

「その前に、確信を得たいので少し質問をさせていただいても大丈夫ですか?」

「・・・構いませんよ」

「この世界には、運命の書やストーリーテラーは存在するんですか?」

その言葉を聞いたクロウリーさんとグリム君は首を傾げました。

「運命の書?ストーリーテラー?何なんだゾ?」

「聞いたことのない言葉ですが・・・それが、君の故郷と何か関係があるのですか?」

2人の言葉を聞いて、私の中で点と点が繋がって一本の線になりました。

私の予想は、どうやら当たっていたようです。

「私の予想が当たっていたみたいです。私はこの世界の人々とは違う世界にいました。つまり、異世界と言うやつです」

「い、異世界ですって!?」

「運命の書とかストーリーテラーだけで、そこまで分かるもんなのか!?」

「はい、私の世界では、運命の書が無いという事と、ストーリーテラーがいないという事は、過去にも未来にも有りえないことです。」

まずは運命の書とストーリーテラーについて説明しなければいけませんね。

「まず、私の故郷・・・想区というのは、先程言ったストーリーテラーが生み出した空間です。想区は1つの同じ物語を延々と繰り返し続ける世界です」

「堅苦しそうなんだゾ・・・」

運命の書のない世界では、そう思うかもしれませんね。

「それでは、あなたの生まれた想区はどの様な物語が繰り返されているのですか?」

と、クロウリーさんが問いかけました。

やっぱり気になりますよね。

私も、お義姉様やお兄様の事、話したいです。

私は2人からたくさん聞かせてもらった物語(運命)を話します。

 

昔々あるところに、シンデレラという優しく美しい娘がおりました。

意地悪な継母や義姉達から嫌がらせを受けるシンデレラでしたが、ある時お城で舞踏会が開かれることになります。

継母達は着飾って舞踏会に出席しますが、シンデレラには舞踏会に参加するためのドレスがありません。

そこに魔法使いのフェアリー・ゴッドマザーが現れ、シンデレラに魔法をかけます。

フェアリー・ゴッドマザーの魔法は、シンデレラの灰や埃だらけになった服を美しいドレスに、小さくて重い木の靴は美しいガラスの靴に、カボチャを馬車にして、鼠を馬と御者に変えてくれました。

舞踏会に向かう前に、フェアリー・ゴッドマザーは忠告しました。

『気をつけてねシンデレラ。貴女にかけた魔法は12時の鐘と共に解けてしまうわ』と

そして、舞踏会に向かったお城でシンデレラは王子様に見初められ、一緒にワルツを踊ることになります。

時間を忘れるシンデレラでしたが、12時の鐘がなり、慌てて帰ります。

その時にシンデレラはガラスの靴を片方落としてしまいます。

王子様はシンデレラを忘れられず、片方のガラスの靴を頼りにシンデレラを探し始めます。

義姉達もガラスの靴の靴をあの手この手で履こうとしますが、小さすぎてガラスの靴の靴を履けません。

そして、シンデレラはガラスの靴を履くことができ、王子様と再び巡り合うのです。

そして、シンデレラは一夜の魔法を永遠のものとして2人は結ばれて幸せに暮らしましたとさ

 

「これが私の生まれた世界(想区)・・・シンデレラの想区で語られ続けている物語です」

「ふなぁ・・・シンデレラ、報われてよかったんだゾ!」

「えぇ!彼女の苦難は全て幸福に変わってくれて良かったです!」

・・・お兄様と結婚したあと、お義姉様がものすごい嫉妬と軋轢に晒されたことは口が裂けても言えませんね・・・

まあ、お義姉様に陰口を叩く使用人さん達は全員叱り飛ばしましたけどね!

そして、私は重要な事柄である運命の書について説明するために、

「そして、運命の書というのは、ストーリーテラーが想区の住民たちに与えし戯曲・・・持ち主本人にしか読めない物語。想区に住む者達は、運命の書に記された人生(役割)を演じ続けるのです。生まれてから死ぬまで永遠に・・・」

「ふな!?それってつまり、本に書かれた運命しか歩めねぇって事か!?」

「そうですよ。そして、私は故郷であるシンデレラの想区では異質の存在でした。」

「それはどうしてです?」

私は自らの運命の書・・・空白の書をクロウリーさんに渡して、『私の運命の書を見ればわかりますよ』と渡しました。

クロウリーさんは訝しげに受け取って、グリム君はクロウリーさんの肩に乗って、私の運命の書を見ました。

2人はとても驚いた様子でした。

「なんにも書いてねぇんだゾ!」

「どういう事です!?」

「それが、私が故郷で異質の存在だった理由・・・ストーリーテラーから運命の与えられなかった空白の書の持ち主だったからです」

「運命が与えられないって事もあるのか!?」

「人伝に聞いたのでどれだけいるかは分かりませんが・・・1つの想区に1人か2人の割合しかいませんね。お陰で、使用人達からは煙たがられていましたもの。」

「「・・・」」

何とも言えないといった感じの表情で考え込んでいます。

しかしクロウリーさんは、私がいった言葉に「ん?」と反応しました。

「使用人・・・?ということは、故郷では貴族だったりしてたんですか?」

あ〜・・・やっぱり気になりますよね・・・

使用人達って言ったのは失敗でした・・・まあ、ここでは隠す意味もないでしょうね

「私は空白の書の持ち主でありながら、役割を持っていました。その役割は、本来なら運命の書に存在しない『シンデレラが結ばれる王子の妹』です」

「ふーん、王子の妹か・・・え?王子の妹・・・?」

「「・・・」」

私の言った『王子の妹』という言葉の意味を理解したグリム君とクロウリーさんは、非常に驚いたような表情をしています。

エクス君やレイナちゃんやタオ君にシェインちゃんにこのことを話した時も、同じ様な反応していたな・・・

そして、沈黙を突き破ったのは他でもないグリム君とクロウリーさんの驚愕の声でした

「「本物の王女様!?」」

「王女様って言わないでください!王女としての私は飾り物で、王女としての私には価値はありませんから!」

「す、すみません・・・」

「だからさっきオメーはお姫様って言われた時怒ったのか・・・」

「気にしないで。グリム君たちは私のことを知らなかったし仕方ありません」

私はクロウリーさんから空白の書を返してもらい、表紙を一撫します。

「私は空白の書の持ち主だから、自分の人生を好きなように選択できる・・・想区を飛び出すことができる・・・だから私は、想区を飛び出して旅に出ました。」

「なるほどな・・・」

「闇の鏡の言っていた物語の描かれぬ戯曲といった例えは、まさに的を得ていたわけですね」

「そういう訳です!だからこそ・・・」

そして、私は導きの栞を取り出して、グリム君とクロウリーさんに見せます。

「こんな事もできるんですよ!赤ずきん!」

導きの栞の表面の模様・・・万能職(ワイルド)の紋章が赤ずきんちゃんに変わります。

接続(コネクト)!」

そう叫んで導きの栞を私の空白の書に挟みます。

空白の書から光が溢れ、私の体を包み込みます。

身長と髪は短くなり、白から水色のグラデーションになっていた髪色は金髪に、紫の瞳は新緑の葉のような緑の瞳に変わります。

着ていた服は白いブラウスに赤い膝丈のスカートに、太ももまでの長さの白い靴下と膝までのまでの長さの焦げ茶色のブーツに変わります。

前髪の両サイドには白い日々草の髪飾りが付けられ、耳の垂れた兎や子犬を連想させる耳の飾りの付いた赤い天鵞絨(ビロード)頭巾(フード)の付いたマントを羽織り、胸元には紫のリボンが結ばれています。

そして、右手には葡萄酒(ワイン)とパンと数多の花が入ったお使いのバスケット、左手には薔薇を始めとした沢山の花で彩られた木造りの両手杖(ロッド)が顕現されます。

「私のことは、赤ずきんって呼んでね!」

光が収まると、私の姿は赤ずきんちゃんの姿に変わりました。

「どう?びっくりした?」

「ふな!?アリアが変身したんだゾ!?」

「これが空白の書の持ち主にしかできないこと・・・接続(コネクト)だよ!」

接続(コネクト)・・・?」

「ヒーロー達は誰からも憧れの存在・・・だから、運命を持たない空白の書の持ち主(私達)と繋がることができるんだよ!」

そう言いながら私は空白の書から導きの栞を取り出します。

「だから、私には帰る場所がありません」

「なるほど・・・では、ここにいて大丈夫です。使われていない建物があるから、そこを拠点に使ってください」

「え、良いんですか!?」

何だか至れり尽くせりな気がするけど・・・良いんでしょうか・・・?




用語説明
・ストーリーテラー
想区(後述)を生み出し、住民に運命を与える神様のような存在。
空白の書の持ち主やヴィランなどの異常事態への対応は其々異なる。

・想区
ストーリーテラーが生み出した物語を延々と、繰り返し続ける世界。

・運命の書
ストーリーテラーが想区の住民に授ける戯曲。
そこには自分の運命が全て書かれており、この運命の書に従って想区の住民は人生を全うする。
そこに書かれている内容に疑問を覚える者や反発を覚える者はほぼいない

・空白の書
ストーリーテラーから運命を与えられなかった運命の書。
運命に縛られない為、他の想区に移動したり、想区の住民の運命を変えたり、ヒーローの魂と繋がる接続(コネクト)をすることができる。
しかし、それ故に恐怖心を抱かれたり迫害されたりしている

登場人物
赤ずきん
『赤ずきんの想区』の主役。
赤い頭巾が似合う素直で優しく賢い女の子
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