ハーレム系ラノベ主人公を修羅場に突き落とすのが愉しくて止められない。   作:夢泉

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「設定が分かりにくい」との指摘がありました。
なので、当初の予定を変更。過去回想を捻じ込んでから進めます。
明日の投稿で過去回想を終えて元の時間軸に戻ります。ご理解いただけますと幸いです。






【一章】
1話:過去回想で良いことをしていても、悪事はチャラにならない。(前)


 

 

★★★

 

 

「…………寝れない」

 

 全然寝付けない。

 右に寝返り、左に寝返り。何度も続けて、もう諦めて起き上がった。

 少しでも眠くなれば、と電子レンジで牛乳を温めて飲んだけれど、かえって目が覚めた気がする。

 

「来栖を問い詰める、か」

 

 そう。ボクは明日、長年見て見ぬふりをしてきた謎に終止符を打つ。来栖の目的を明らかとする。

 正直、憂鬱だ。でも、なあなあで流すのも限界だとは薄々感じていた。

 彼が敵だとは思えないし、裏切るとも思わない。けど、彼の行動が不自然であるのも事実。偶然という言葉では片付けられない事が続き過ぎている。

 だから、問い詰める。彼が敵ではないという確認をするために。ずっと友達でいられるという、その確信を得るために。

 

「…………なんか腹立ってきた」

 

 こうして悩んで寝る事も出来ずにいる間、来栖は間抜けな顔でグースカ寝てると思うと無性にムカつく。

 だいたい、彼は昔からそうだ。いつも無茶苦茶やってボクを振り回して。

 …………昔。昔、か。

 思えば、彼との付き合いも随分と長くなる。小学校2年生からだから……かれこれ9年になるのか。

 ふと、写真立ての写真が目に入った。

 映っているのは3人。ブスッとして不機嫌そうなボクと、何が楽しいのか満面の笑みでピースをする来栖、そして、小学2年生とはいえ子供2人を軽々と抱きかかえる背の高い女性。

 真っ黒で綺麗な髪を、こだわりなんか無く乱雑に切った女性。化粧っ気なんか微塵も無くて、でも無駄なく鍛えられた筋肉が美しい女性。身体中に生々しい傷があって、でも全く気にせずに、来栖に負けじと快活に笑う女性。

 名を夜白(やしろ) (きわみ)。彼女こそは2代目ノーザンクロス『キュクノス・ヒュリエ』。5年前に28才の若さで亡くなった、ボクの育て親だ。

 

 

★★★

 

 

 10年前。5歳の時、(ボク)は両親を失った。

 2人とも星群少女の戦いに巻き込まれて死んでしまった。

 そういう悲劇を防ぐべく、星群少女たちは戦う時に『アストロラーベ・フィールド』を展開する。これは古来より守られ続けてきた絶対の法。

 だけど、あくまでも星群少女同士の戦いにのみ適用される決まり。星群少女が普通の一般人を殺戮する……そんな場合には適用されない。

 それでも問題なんて無かった。数千年の間、問題が起きる事は無かったのだ。

 何故ならば。星群少女は人間を無暗に殺そうとは考えない。元より、()()()()()()()()()()()

 そもそも、イレギュラーのボクたちを除いて、普通の星群少女は()()()()()()。『AE』……『アステリズム・エネルギー』の結集存在だ。

 AEとは『想い』の力。古来より地上の人々が星々を見て馳せた想い……願い、夢、畏怖、絶望、希望、怒り、悲しみ、喜びといった想念が集まって物理的な力を得たもの。

 星群少女は、このエネルギーが結集して生まれた生命体。星々へ捧げられた無秩序で無際限の想いが飽和し、溢れ落ちた存在。その際に、多くの人々が共通して信ずる形として……即ち「星座」という依り代を得て顕現した結果が、星群少女である。

 彼女たちにとって人間は、『脆弱で下等な生物』であると同時に『生みの親』でもあるという特殊な立ち位置となる。それ故、可能な限り人間には危害を加えないというのが、古来よりの不文律であったらしい。

 だけど、10年前は違った。10年前から違ってしまった。

 あの日、最強の大英雄を象った『ヘルクレス座』の星群少女が突如として暴走。目についたものを片端から壊し続ける殺戮者となり。引きずられるように、何体もの星群少女が理性を失って暴走し始めて。

 この暴走に巻き込まれて父さんと母さんは死んだ。(ボク)を庇うように倒れていた2人の姿は、今でも瞼に焼き付いている。

 当然、狂わなかった北天の星群少女たちは暴走する彼女たちを止めに入った。これ以上の被害を出さないよう、フィールドを展開して。

 でも――

 

 

★★★

 

 

「彦星様! 白鳥様! 人間の童が領域内に…っ!」

「適正者にござるか…! よりにもよって斯様な時分に……!」

「オッケー、何としても守り抜くよ! 織姫は後方で彼女を庇いながら支援! 彦星は私に続いて攻撃!」

「お待ちくだされ、白鳥殿! へるくれす殿を相手に童を庇いながら戦うと!?」

「女の子たちの憧れ彦星様が、なーに弱音なんか吐いてるの! 堂々と仕事放棄してイチャついてた根性見せなさいな!」

「それは作り話であって拙者のことではないと何度も……!」

 

 その時、(ボク)はずっと呆然としていた。

 目の前で両親が死んだ事実を心が受け入れられなかったのもあるが、目まぐるしく変わる事態に頭が付いていけていなかった。

 ただただ、目の前の非現実的な光景を……人が空を飛びながら炎や雷を飛ばして戦う光景を、アニメでも見るみたいな心地で眺めていた。

 

「いやー、君は強い子だ! こんな状況でも落ち着いている! 将来有望だな! あ、逃げられると守りにくいから出来ればそのままで!」

 

 戦っていたのは4人。

 一人は、天使のような白い翼を広げて空を翔る白髪の少女。

 

「有望も何も、単純に理解が追いつかぬだけかと存じますが!」

「七夕の星が夢の無いことを言うんじゃないよ、バカタレぇ!」

 

 もう1人は、青い髪を頭の後ろで1つに束ね、日本刀を巧みに扱う少女。

 身に纏った青い羽衣を自由自在に大きくしたり伸ばしたりしながら、それを足場にして空を()()()()()

 

「ちょっと彦星様! 白鳥様! 軽口を叩いている場合ではありませんよ!」

「軽口でも叩いてなきゃ、やってらんないよ! ……うおっ、あぶなっ!」

「ほらぁ! 攻撃を弾く妾のことも考えてくれませんか!?」

「ありがとう! 相変わらず良い音色だね! 惚れちゃいそう!」

「話を聞いてくださいません!?」

 

 手に持った楽器……琴を鳴らすだけで、飛来する矢の雨を全て弾き返すのは、桃色の髪の少女。当時の(ボク)は知らなかったが……十二単と呼ばれる煌びやかな着物を纏っていた。 

 そして――

 

「危ないじゃないか、この怪力ゴリラ女! ずっと家畜小屋掃除でもしてろ! 今度はズル無しで糞まみれになってな!」

「挑発するのは止めるにござる!」

「……む。鳥退治か。3羽だけとは拍子抜けだな」

「え、待って。今まで認識すらされてなかったの!? それであの強さ!? 大英雄ヤバ過ぎない!?」

 

 巨大な大弓を軽々と放つ、金髪の女性。

 優に3メートルはある巨躯を躍らせ、3対1でありながら圧倒的優位に立ち続ける。

 

「とりあえず、あと5分耐えるよ! (きわみ)ちゃんが来てくれるから! そしたら子供預けて全力戦闘!」

「2分でも厳しそうでござるが!」

「このネガティブ彦星! 365日も織姫を待つより余程短いぞ!」

「それは伝承だと何度も……否。そうでもござらぬな、確かに」

「ちょっとお!? 前に約束すっぽかしたのは謝りましたよね!」

 

 それでも。それでも3人は引かない。挫けない。

 彼女たちこそは星群少女。人が憧れ、怖れ、夢を馳せた遥か彼方のアステリズム。

 星の輝きが曇らぬように、彼女たちも輝き続ける。

 

 ――その気高い輝きを目に焼き付けて、少女は過剰なストレスに耐え切れず意識を手放した。

 

 

★★★

 

 

 目が覚めた時、(ボク)は病院のベッドの上にいて。

 両親が死んだこと。あの3人が自分を庇って殺されたことを教えられて。

 

「選べ。このまま全てを忘れて仮初の平穏を生きていくか。両親の仇を討つため戦い続けるか」

 

 1つの問いを、見知らぬ女性から投げかけられた。

 正直、全く理解ができていなかった。そもそも「仮初」だの「平穏」だの「仇」だのと言葉が難しくて、何を言っているのかさえ不明だった。そういうところ、女はあまりにガサツで配慮に欠けていた。

 でも。

 

「戸惑うのも無理はない。だがな、失ったものを覚えていたいのならば――戦え。アタシに言えんのは、それだけだ」

 

 その言葉に(ボク)は決意を固めた。

 父と母と、あの3羽の輝きを忘れたくないと思ったから。

 だから。

 この日、「私」は「ボク」になった。住む街も変え、白鳥 星は「男」としての人生を歩み始めた。

 

 

★★★

 

 

 その女は『極星機関』所属、星群少女殲滅特殊部隊『CLOUD』の若きエース、夜白 極。

 彼女はボクを養子とし、自分の家に迎え入れた。

 全ては、AE適正者であるボクを「星群少女」とするために。既存の兵器で太刀打ちできず、それでいて甚大な被害を振り撒く存在……「災厄」と化した星群少女を駆逐し、人々の命と平和を、人の社会を守るために。そのために人間の手で制御可能な、人間を守る、人間の星群少女が必要だった。

 故に。彼女はボクを養い、星群少女に関するあらゆる知識と、そして戦うための術を授けた。

 あとは、極が回収した「はくちょう座」「わし座」「こと座」の3つの『核』……星群少女の心臓部分に存在する超高濃度のAE結晶体を受け取るだけ。

 それだけで、ボクは星群少女として戦うことが可能となる。両親を殺された復讐を果たすべく戦える。

 だけど――

 

「どうして!? どうして渡してくれないの!?」

「駄目だ。お前はまだ相応しくない。もっと輝いてから出直してこい」

「意味わかんないよ! じゃあ何でボクを拾ったんだ! ボクに色々教えたんだ! 極の言ってること、全っ然わかんないよ!」

 

 2年経っても、ボクは星群少女に成れずにいた。

 

 

★★★

 

 

 仇の存在を教えて、復讐心を植え付けて、そのための才能があることを教えて、力の使い方を教えて。……それで肝心の力そのものを授けない。

 極のやっていることは、そういうことだった。そういう残酷なことを彼女はしていた。

 結局与えないのなら、いっそ何も知らないままでいたかった。星群少女のことも、仇のことも知ってしまえば止まれない。それなのに走りだすことすら許されない。

 走り出す準備を整えてスタート地点にいるのに、いつまで経っても号砲が鳴らない。そういう状態が2年も続いていた。

 

「今日は転校生を紹介しまーす!」

 

 その当時のボクは非常に荒れていた。極への不信感と、何もできない自分の無力感、そして暗くてドロドロした復讐心。それらが綯交ぜになって、目に映る全てを憎らしく思うほどの精神状態だった。

 

「みんなー仲良くしてあげてねー!」

 

 クラスメイトとも常に距離をとっていて。基本的に一言も交わさず、友達なんて一人もいなかった。

 普通に家族と暮らせている、星群少女のことなんて何も知らずに笑っていられる……そんな同年代の子供たちを見ると憎らしくて仕方なかったというのが理由の1つ。

 少女しかなれない星群少女……その前提を利用した「男の子」という嘘がバレてしまう危険を回避するというのが2つ目の理由。

 そして、3つ目は……もう二度と大切な人を失いたくなかったから。両親のように、守ってくれた3人のように。かけがえのない友人をつくって、それを失ってしまうことが怖かった。あんな悲しみを感じるくらいなら、ずっと独りでいれば良いと信じて疑わなかった。

 

「じゃあ、来栖くん。自己紹介できるかな?」

 

 だから、小学校2年生の6月、奇妙な時期にやってきた転校生にも興味なんてなかった。教室の一番後ろの窓側の席で、流れる外の雲を眺めているだけ。自己紹介とやらも聞き流して終わらせるつもりだった。

 ただ。1つだけ誤算があったとすれば――

 

「俺は、にせじゅーじ くるす! 好きなことは楽しいこと! 嫌いなことは楽しくないこと! よろしくな!」

「……っ!?」

 

 その声がボクの耳元にて、大音量で炸裂したことだった。

 そう。一体何を考えたのか、彼はわざわざ教室の一番後ろまで歩いてきて。それで面識なんてないボクの耳元で自己紹介をしたのだ。

 

「お前、つまらなそうだな! 名前は!」

 

 非常識な奴だと思った。星群少女の事が無くても仲良くなりたいとは思えないタイプだったし、徹底的に無視する事にした。

 無視を続けていれば、その内に諦めて帰るだろうと。

 今思えば、実に最悪の対処法を選んでいる。偽十字 来栖はその程度で諦める男では無いのだから。

 

「名前!」「お名前は!」「氏名!」「ネーム!」「名前!」「名前!」「名前ーーーーーーっ!!!」

 

 言葉が通じていないとでも思ったのだろうか。1つ1つ語彙を変えていたが、そのうちに尽きて最初に戻った。

 その微妙な変化に意識を持っていかれる。無視したくても出来ない。それが腹立たしくて、ムカついて。

 

「うるさいなぁ!!!!」

 

 それでボクは遂に耐え切れなくなって、声を荒げた。

 その時、ボクは初めて彼の顔をちゃんと見た。黒髪の少年は、黒い瞳を星のようにキラキラ輝かせて笑っていたのを覚えている。

 

「そうか! ()()()()()ちゃんか! よろしくな!」

「もう放っといてくれ! ボクは一人で静かに過ごしたいんだ!」

 

 何故それを名前だと思うんだとか言いたかったけど堪えた。

 可及的速やかに彼との会話を終わらせたかったから。

 

「どうして!? 一人はつまらないじゃないか! うるさいなちゃん!」

「そんなのボクの勝手だろ! 君こそ、なんでボクに構うんだ!」

 

 もう一言も会話を続けたくなかったが、ずっと付きまとわれたら最悪だ。

 だから、何が彼をここまで駆り立てるのか明らかにしようとしたのだけれど。

 

「教室に入って来た時、うるさいなちゃんが空を見ているのが見えた! それが理由だ!」

「……は?」

 

 意味が分からなかった。

 

「俺は楽しいことが好きだ! 転校生として来れば教室がわーわーきゃーきゃーなると思っていたのに、お前は超つまらなそうだったからな!」

「……え?」

 

 彼が何を言っているのか、これっぽっちも理解できなかった。

 

「つまらなそうな奴がいると俺は本気で楽しめない! そんなわけで俺は、うるさいなちゃんの友達になると決めた!」

「なんでだよ!」

「はーはっはは! 俺の勝手だ!」

 

 もう理解しようとするだけ無駄だと悟った。

 この男の子はバカなのだ。ボクが今まで見てきた人の中で一番のバカなのだと、それだけを理解した。

 そして。何がどう転がっても、失って辛い友人になんてならないと確信できたから。だから、せめて名前だけは訂正しようと決めた。これからもずっと“うるさいなちゃん”なんて騒がしい名前で呼ばれたくは無かったから。

 

「……はぁ。ボクは“うるさいな”じゃなくて、白鳥 星。それと女の子じゃなくて男の子だよ」

「なぬぅ!? 男ぉおおおおおお!? ……じゃ、星でいいや」

 

 この世の終わりとでも言いたげに大声で叫んだかと思えば、次の瞬間には落ち着いて馴れ馴れしくも呼び捨てにしてくる。

 さては情緒不安定なのではないか。彼は何かしらの心の病気を抱えているのではないか。そう本気で疑った。

 そして、そのように割り切ってしまえば驚かない。もう何を言われても、彼はそういう子なのだと納得できる。そう思った。

 

 ――あぁ、本当に当時のボクはバカだった。自分の小さな物差しで彼を理解できると考えるとは。

 

「男ってなら、やることは1つだな! ()()()()()()()()()()、星!」

「…………は?」

 

 これが偽十字 来栖との出逢いだった。

 

 

 

 

 

 

 

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