ハーレム系ラノベ主人公を修羅場に突き落とすのが愉しくて止められない。   作:夢泉

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3話:転校生が来て「可愛い子か!?」って騒いでる奴、そうそう見かけない。

 

☆☆☆

 

 

 ――目を覚ます。

 なんだか、随分と懐かしい夢を見ていた。

 朝のヒンヤリとした空気を肌で感じながら、(過去)現実()の境界が定まっていくのを自覚する。

 まるで堰き止められていた水が流れ込むように。2つの記憶が別たれていく。9年という時間の隔たりが、想い出を彼岸へと連れ去っていく。

 

「……そうか。あのまま寝落ちしたのか」

 

 どういう流れでなったか良く覚えていないが、親睦を深めようと兄妹でのテレビゲーム大会に突入。

 これが大いに盛り上がり、ズルズルと深夜まで続けてしまって。もういっそ徹夜しようか等とレクシィと話していたのだけど。やはり案の定というか、俺も彼女も耐え切れずに寝てしまったらしい。

 下にはソファ、上には爆睡中のマイシスター。珍妙なサンドイッチ状態で眠っていたせいだろうが、身体中が痛い。

 

「でも、これは起こせないよなぁ……」

 

 レクシィは何とも幸せそうな寝顔を晒している。

 一体全体、何の夢を見ているのやら……

 

「焼きそばの…城…むにゃ」

 

 ……なるほど。焼きそばの夢か。あのカップ焼きそばが余程お気に召したらしい。

 ただ、焼きそばの城って何だ。どんな城だ。

 和風なのか、洋風なのか。焼きそばで出来た城なのか、焼きそばが城主の城なのか。駄目だ、超絶気になる。

 ……気にはなるが、起こしたところで覚えているとは限らないのが夢というもの。それに、これほど気持ちよさげに眠る人間を起こすのは流石に忍びない。

 時刻は未だ午前5時45分。残念ながら眠気は既に無い。

 とはいえ、このままボーっとしているのも退屈だ。せっかくだから、さっきまで見ていた夢のことでも考えることとした。

 あの9年前の日の事を。星と初めて出逢った、小学2年の初夏の記憶を。

 思い出すたびに恥ずかしい黒歴史。大馬鹿者の若さゆえの過ちの記憶を掘り起こすとしよう。

 

 

☆☆☆

 

 

 ――あの頃の俺は、救いようのない大馬鹿者だった。

 なにせ、恥ずかしくも「自分がハーレムの主になる」ことを本気で夢見ていたのだから。

 まぁ、誰でも一度は抱く願望だ。モテモテになりたい、チヤホヤされたい、女の子にキャーキャー言われたい……そういう、ありふれた願いを幼少期の俺は抱いていた。

 だから、転校するとなった時に期待した。

 だって、そうだろう? 転校生なんて物語性の塊じゃないか。古今東西いついかなる時も、転校生は新しい物語の始まりと相場は決まっている。

 転校して、たくさん友達をつくって、女の子たちにモテモテになって。そういう小学生ライフを期待していた。

 

 ――本当に、馬鹿げている。

 今の俺なら分かる。断言できる。

 ハーレムというのは、眺めてこそ楽しいものだ。漫画小説ゲームで散々描かれて、それでも尚ハーレムものが好まれ続けるのは、あれらが眺めて楽しいものだからに他ならない。

 主人公がいったい誰を選ぶのか。ヒロインたちは如何なるアプローチを仕掛けるのか。正々堂々真正面から対決するのも、権謀術数渦巻くのもワクワクする。プレゼントにデート、誕生日、体育祭に文化祭、ハロウィン・クリスマス・バレンタイン・ホワイトデー……目白押しのイベント。夏に水着に祭りに花火。せめぎ合う『女の戦い』と『女の友情』。突如として現れる幼馴染やら憧れの人、ダークホースの大暴れ。“推し”のヒロインを応援する時は娘を見守るような心地にさえなり、その子の敗色が濃厚となれば作者を憎みさえする。〇〇派□□派などと派閥に分かれて仁義無き争いを繰り広げる事もしばしば。一発逆転の波乱の展開が巻き起これば手に汗握り。最後の最後に“推し”が勝とうものならガッツポーズを掲げて喜んで、同好の士と共にSNSにて大いに盛り上がる。

 ――翻って。自分が当事者となる場合を考えてみよう。そもそもあり得ないという話は置いておいて、億が1にも実現してまった場合を考える。

 まず世間の目が厳しい。軟派な奴として見られるのは間違いなく、二股三股の誹りを受けるかもしれない。民衆は不倫に厳しい。SNS炎上待ったなしである。

 そして、何より心労が凄まじかろう。誰かを選ぶといういうのは誰かを選ばないということ。言葉を飾らずに言えば“捨てる”ということに他ならない。また、その選択によって人間関係は決定的に変化する。勝者/敗者の境界が生まれ、選んだ者・選ばれた者・選ばれなかった者はそれまでと同じではいられない。「誰が選ばれても恨みっこなし」は現実にそうそう遭遇する台詞ではないのだ。

 誰を選んでも角が立つし、すべてを選ぶのは法的にも倫理・道徳的にも経済的にも世間的にも不可能。

 そも、ハーレムがドロドログチャグチャの地獄であるのは少し歴史を紐解けば誰でも理解できる。

 畢竟、言いたいことは1つ。ハーレムなるものは見て楽しむものだということ。

 誰かが言った。ハーレムは男の夢だと。

 だが、それはアメリカン・ドリーム的な『夢』を指すのではない。一富士ニ鷹三茄子的な『夢』を指すに過ぎないのだ。徹頭徹尾、見て楽しむものなのだ。

 そんな単純明快な真理に、当時の俺は全く気付いていなかった。愚かにも転校から始まる学園ラブコメに心躍らせていたのである。

 そんな訳で。

 期待に胸を膨らませ、教室の外で名前を呼ばれるのを今か今かと待っている時のこと。これから仲間入りする教室を覗き見た、その時。俺は雷に打たれたような衝撃を受けた。

 教室の一番後ろ、窓際の席。そこに今まで見たこともない美少女がいたからだ。

 白髪金色のアニメキャラ的なカラーリング。物憂げな眼差し、小さな唇。

 その瞬間、彼女こそ俺のハーレム物語のメインヒロインだと直感した。

 だが、その子は転校生に…俺に全く興味を示すことはなく。ならばと直接口説きに行った。

 ……まさか「男」だとは思わなかったが。

 こうして。俺の初恋は儚く散った。見るも無残にバラバラになった。

 これが俺の黒歴史。ハーレムという夢に惹かれ、メインヒロインと見定めた女の子に全クラスメイト+先生の前で特攻をかました挙句、見るも無残に爆発四散した恥ずかしい記憶。

 今思い出しても身悶えする黒歴史。

 しかし、これで終わるならば救いようはあった。まだマシだった。

 そう。俺の暗黒時代はまだ終わらない。天下泰平の世たる『修羅場ニヤニヤ時代』の幕開けは未だ遥か遠い。

 ハーレムの夢は折れず曲がらず燻り続け、次なる暗黒の時代の火種となる。

 あれは名付けるならば、そう『当て馬ナンパ産業革命時代』――

 

「……もう6時か。そろそろ起きないとな」

 

 だが、かの激動の時代を語るには、今は時が足りなさ過ぎる。

 なにせ今朝は妹に料理を教え込まねばならぬのだから。

 あの時代は、いずれ来たるべき時に語るとしよう。

 

「ほら、起きろマイシスター。朝食と弁当を作るぞ」

「むにゃ…?」

 

 あの頃の無知で愚かな少年はもういない。

 時代はとっくに変わった。今の俺の全ては修羅場を想像し眺める為にこそある。

 さあ、新しい一日が始まる。

 日曜の遊園地デートを巡って起きた3度のインパクトを経て、新世紀へと突入した修羅場を楽しむとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

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