ハーレム系ラノベ主人公を修羅場に突き落とすのが愉しくて止められない。   作:夢泉

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※タイトルは主人公の主観に基づき、彼の独断と偏見で構成されたモノです。





6話:タケノコ派である以上、キノコ派などという存在を容認するわけにはいかない。

 

 

☆☆☆

 

 

 突然だが。

 俺、偽十字 来栖には愛して止まぬ魚がいる。

 名を、ニセ()()()ジギンポ。なんといっても、名前に『クロス』が入っているのが素晴らしい。『ニセクロス』というのも、俺の姓に似ていて親近感が湧く。

 ……クロスじゃなくて“黒筋(クロスジ)”じゃないのか等という野暮なツッコミは知らん。細かいことは割とどうでも良い。小3の俺が何となく好きになったのだから、それで良いのだ。

 ともかく。俺はこのニセクロスジギンポが好きだ。生憎と実物を見たことは無いが、一方的に好いている。

 で、だ。

 この魚、実に奇妙で不思議な生態をしていることで知られている。

 驚くべき事に。こやつ、自分より遥かに大きな魚へ難なく近付くと、その体表を齧り取ってムシャムシャ食べてしまうのである。

 何故こんな事が可能なのかと言えば、この魚が『掃除魚』に擬態しているからに他ならない。

 掃除魚とは、他の魚の寄生虫などを食べる魚。魚たちは皆、掃除魚の掃除を拒むことはない。警戒心も抱かず身を委ねてしまう。

 ニセクロスジギンポは、これに擬態。スイスイと悠々自適に泳いで魚たちへと近づき、バクリとご馳走にありつくのである。

 本当に素晴らしい生き方だ。

 俺も()の魚のように完璧な擬態をしながら、修羅場というご馳走を心行くまで堪能したい。

 そう考えて日々を生きているのであり、ニセクロスジギンポは正に人生の指標とでも呼ぶべき存在なのだ――

 

 

☆☆☆

 

 

 ――さて。マイフェイバリットフィッシュの話は脇に置いておくとして。

 一般人が犯罪者と遭遇した際、まず真っ先に為すべき事は何か分かるだろうか。

 通報? 取り押さえる? 説得する? はたまた命乞い? あるいは動画を取ってSNSに投稿?

 違う。どれも間違っている。正解とは程遠い。

 答えは単純明快。一目散に「()()()」、だ。

 犯罪の内容に関わらず、逃走こそが最も賢明で安全な道である。テロや強盗といった凶悪犯罪であろうとも、万引きや未成年飲酒といった軽犯罪であろうとも、この答えは決して覆る事は無い。

 何故ならば、()()()()()()()()()()()()()()

 犯罪を犯罪と知らなかったり、意図せず巻き込まれたり……そういう特殊な事例を除けば、普通の人間は犯罪に手を染めたりしない。

 誰もが日夜それぞれの艱難辛苦を抱えている。俺だって毎日のように悩み苦しんでいるのだ。最高の修羅場とはどんなものか、どうすれば生み出せるのか、バレずに楽しむには何が必要か……等々、悩みが尽きることはない。

 だが、それでも。それでも、誰もが歯を食いしばって生きている。定められたルールの中、必死に我武者羅に足掻いている。俺も含めた誰もが、そうしてルールを守ってきた。

 だというのに。犯罪者はそれを平然と破る。自らの不運不幸を理由に、他者へ悲劇を押し付ける。犯罪者なる存在はそういう異常者なのだ。逸脱者であり、冒涜者であり、裏切者なのである。

 当たり前のことだが、異常者は()()であり普通ではない。我ら凡庸万歳一般人のザ・パンピー思考で推し量れる存在ではないのだ。

 服の下にナイフを数十単位で隠しているかもしれない。拳銃を躊躇いなく撃ってくるかもしれない。身体に爆弾を巻き付けているかもしれない。どっかのマジシャンの如く日本刀を飲み込んでいるかもしれないし、胃の中が毒物で一杯かもしれない。目玉焼きにケチャップをかけて食べる邪教徒かもしれないし、タケノコよりキノコの方が素晴らしいと考えているかもしれない。

 そういう異常者なのだ、彼らは。通報やら撮影やらをしようとした瞬間、殺しにかかってくる可能性も決して否定はできない。

 だから逃げるのだ。

 古代ギリシアにおいて最大の弁論家とも称されたデモステネスは言った。『逃げた者はもう一度戦える』と。

 通報は逃げてからでも出来る。だが、殺されてしまえば何1つ成し遂げることは出来ない。それ故、逃げるのだ。脇目も振らず一目散に。脱兎のごとく逃げるべきなのだ。

 

 ……当然、今回もそれは変わらない。

 目の前にいるのは、「覗き」などという犯罪行為に手を染めている異常者。

 身長は160くらいだろうか? 真っ黒でブカブカのパーカーを身に纏い、フードを目深に被って顔を隠している。どっからどう見ても怪しさ100%の不審者だ。

 そんな存在を前に俺がすべきことは逃走。その一択である。

 

 だが、しかし。

 生憎と、今の俺は逃げられない。

 というのも、俺が登っている樹、その真下に不審者がいるからである。

 逃げようとすれば不審者に補足される。100%確実に。

 樹から降りる時に音を立てないなど、忍者でもない俺には不可能だ。

 それでは、このまま動かず息を殺して、不審者が立ち去るまでやり過ごすことが正解であろうか?

 否。これもNG。

 例えば、不審者が振り返ったり周囲を確認したりした場合を考えてみよう。その時、樹の上に必死に気配を殺す人物が――目撃者がいたらどうするか。異常者がどんな行動に出るだろうか。想像するだけでも恐ろしい。デッドエンドまっしぐらである。

 故に。今の俺が為すべき事は――

 

「やぁ、お前さんも誰かを消しに来たのかい?」

 

 ――眼前の不審者以上の異常者を演じる事だ。

 我が敬愛するニセクロスジギンポのように。完璧な擬態で窮地を乗り切ってみせよう。

 

 

 

 

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