ハーレム系ラノベ主人公を修羅場に突き落とすのが愉しくて止められない。 作:夢泉
★★★
――時金。
其は、星と人の狭間にある者。
遥かな昔。時計職人の青年と、「とけい座」の星群少女が恋に落ち子を成しました。
その子孫こそが我ら時金。長く星群少女と人間の『調停役』を果たしてきた一族。
星の世界と人の世界。これらは世界の裏表。
決して、星々の争いが人々に害を及ぼさないように。
間違っても、人が星の力を悪用しないように。
2つの世界を別つことこそ、我らの使命。
各国政府機関をはじめ大小様々な組織とパイプを繋ぎ、星群少女の存在を徹底的に隠匿し続けてきました。
代々の当主が商いを拡大して富を蓄えたのも、全ては影響力を高めるため。金が集まる場所に情報と力が集まるは自明の理。事業を拡大するとともに、調停者としての立場を盤石としたのです。
ですが。
10年前。あの事件から全てが狂ってしまったのです。
ヘルクレスを筆頭とした北天の星群少女たちの暴走。これに端を発する数多の事件。
災害と見紛う程の大規模な被害もあれば、戦争と表現するしかない地獄もありました。
一般人が闇ルートでAEへと触れ、その身を破滅させる事例も後を絶ちません。
もはや民草に隠し続けること自体に限界が訪れようとしています。
そう遠くない未来、ほんの些細なきっかけで全てが瓦解してしまうことでしょう。
それでも。
それでも我ら時金は……時金家次期当主たる
絶望する時間、弱音を吐く時間、慌てふためく時間、泣きわめく時間――全てが無駄の極み。
最後の最後の、その一瞬まで。我ら一族は調停者として全力を尽くし続けるのです。
――それに。
今の私には頼れる仲間たちがいます。
“ビジネスパートナー”という意味でのソレではなく。損得を念頭に置かない、浪費される時間すら愛おしい存在。金では買えない宝物。
星さん、麻琴さん、韻子さん、てうさん。
初めは北天における異変の象徴として、問答無用で排除しようとしてしまいましたが……。
ですが、対話によって相互理解を果たし、今は共に戦っています。
この北天の異常事態を究明・解決するべく、「人」の世界を守るべく。
そう。今の私は、かけがえのない友人と共に戦っているのです。
そして、大切な友人は
★★★
「貨月お嬢様、ターゲットを見失いました。申し訳が……」
「謝罪の言葉を紡ぐ暇が?」
「……はっ!」
――偽十字さん。……偽十字 来栖さん。
私の唯一の殿方の友人。
私と友人たちの対話のきっかけを作ってくれた方。私に産まれて初めての友人をくださった男の子。
どれだけ金を積んで調べても、その全てを見通すことは出来ない謎に満ちた存在。
時金の次期当主としては、裏切者かもしれないと疑わなくてはならなくて。
されど友人としては、この命果てる時まで敵対したく無いと願ってしまう存在。
不思議で面白い、私の友人。
そんな方から託された“頼み事”。
“
その一心で学校を飛び出してきてしまいましたが……まぁ、構わないでしょう。
なにせ、あの
それに高校程度の学問ならば、とっくに頭脳に叩き込んであります。あの場所は唯々友人たちと青春を謳歌する……その為だけに通っているに過ぎませんから。
故に、こうして飛び出してきたことに何ら問題はありません。
えぇ、何の問題もないのです。そのこと自体には。
ですが――
「お嬢様。流石に今回の任務は……ターゲットの“救命”は不可能と断ずるしかありません。早々に“排除”へと方針を転換すべきです」
「その様な事とっくに承知しておりますわ。無駄口を叩く暇があれば打開策について思案を巡らせなさい」
「しかし……!」
「これは命令です。時金の名に懸けて、この任務を放棄する事は許されません」
「……はっ!」
……部下の忠言は正しい。
私の理性的な部分は既に諦めるべきと結論を出してしまっている。
この身体に流れる時金の血が……『時は金なり』の信念が早々に見切りを付けろと叫んでいます。
偽十字さんから“見つけて欲しい”と頼まれた少女。彼が語った少女の容姿はAEを無理やり注ぎ込んだ非適正者特有のモノ。……それも末期も末期。
惜しくも逃げられてしまいましたが、部下が一度姿を確認しました。既に肉体のほとんどが
そこまで進行しているのなら、もう救えません。
――確かに、かつて同じような状態から救われた少女がいるのは事実。
私は当時合流していませんでしたが……聞きしに及んだ、てうさんが救われた時の状況と酷似しています。
しかし、あれは奇跡に等しい御業。未だに解明されていない未知の現象です。
泥となって死にゆく直前、星さん・麻琴さん・韻子さんの願いの力が……AEが尋常ならざる値に上昇。その力を受けて「
そうとしか説明できない未知の現象が起き、それによって“狐咲てう”は一命を取り留めたらしいのです。
ですけれど。
今回の少女に宿る能力は“ケルベロス”。
その星座は既に存在せず、存在しない星座を依り代として星群少女が顕現する事は不可能。
近い星座として南天の『おおいぬ座』、北天の『りょうけん座』が存在するものの、この2星座の星群少女は健在。
てうさんが救われた当時、『こぎつね座』の星群少女は既に死亡していて空席だった。今回とは前提が全く異なります。
……それに。
仮に、条件が同一だったとしても、当時と同じ奇跡はきっと起こせない。
あれは、なぜ救えたのか本人たちすら分からない正真正銘の奇跡。奇跡は何度も起こらない故に奇跡なのです。
……悔しい。
悔しい。悔しい。悔しい。悔しい。悔しい。悔しい。悔しい。悔しい。悔しい。悔しい。悔しい。悔しい。悔しい。悔しい。悔しい。悔しい。悔しい。悔しい。悔しい。悔しい。悔しい。悔しい。悔しい。悔しい。悔しい。悔しい。悔しい。悔しい。悔しい。悔しい。悔しい。悔しい。悔しい。悔しい。悔しい。悔しい。悔しい。悔しい。悔しい。悔しい。
でも。
――申し訳ございません。偽十字さん。
「……確かに。これ以上は時間の無駄、かもしれませんわね」
――時は金なり。
我が家の家訓は初めから破綻しています。
何故なら、金で過ぎ去った時を買い戻す事は不可能なのだから。
それでも。その致命的な破綻を理解した上で。それでも尚、この言葉を掲げて突き進むことこそ『時金』の在り方。
いくら金を持っていても。力を持っていても。それでも出来ない事が世界には溢れています。
失った命は買い戻せないように、金の力には限界があるのです。
「時」と「金」を扱い続けて来た時金の血筋は、それを良く良く知っています。誰より深く知っています。
「お嬢様、それでは」
「えぇ、方針を転換いたします。ごめんなさい、私の意地で無茶を押し付けてしまいましたね」
「いえ。お嬢様の願いを最大限叶える事。それこそが我ら時金家使用人の誇りであります故。此度は私共の力が及ばず、誠に申し訳ございません」
「ふふ。お互いに謝罪していては切りがありませんわ」
今回も、その類。
そろそろ結論を出しましょう。絶望的で、屈辱的で、最悪の結論を。
――あそこまで泥に浸食されてしまえば、もう絶対に救えない。
星群少女の振るう“
「――
何かが引っ掛かった。
これは、もしかして――