ハーレム系ラノベ主人公を修羅場に突き落とすのが愉しくて止められない。 作:夢泉
月曜日、放課後。
ボクらは天文部の部室に集まって今後の方針を話し合っていた。
というのも、貨月ちゃんが来栖から“頼み事”をされたそうなのだ。
ある少女を“見つけて欲しい”“出来れば友人になってやって欲しい”と。
それで蓋を開けてみれば、件の少女は既に瀕死の状態。身体は泥に侵され、生きているのが奇跡と言える状況だったらしい。
「その子、もしかしたら知ってるかも、です」
そして。少女の容姿と能力を聞いて、てうちゃんには思い当たる節があったようで。
「黒髪と赤い瞳の女の子。あの頃、一度だけ見たことがあるかも、です」
てうちゃんが『Typhon』の研究所にいた頃、日常的に非道な“実験”を押し付けられていた頃。
同じような境遇の少女たちの中に、そんな容姿の子がいたらしく。
常に番号で呼ばれていたから名前も知らないし、互いに別の檻にいたから面識もなかったそうだけれど。
でも、きっと彼女はそのまま酷い実験をされ続けて。それで今ボクたちの前に“刺客”として現れた。
「もしかしたら、だけど。何か奴らの情報を、知っている、かも」
昔。てうちゃんを助けて、直ぐにボクたちは研究所を探した。極星機関も全力を注いだ。
でも、駄目だった。最終的には広大な更地が見つかっただけ。『Typhon』は影も形も掴ませず、今も社会の裏で暗躍を続けている。悲劇を拡大し続けている。
そんな組織から送り込まれた刺客。てうちゃんと同じく“使い捨ての駒”なのだとしても、それでも何らかの情報を知っている可能性は高い。
もしかしたら来栖は、それをボクたちに掴ませたいのかもしれない。彼女を救って仲間に引き入れる事が、ボクたちに有利に働くのかもしれない。
……或いは、彼の優しさ故の単なる同情なのかも知れないけれど。
何れにせよ。ただ1つ確かな事は、来栖は彼女を救おうとしているということ。悲劇の中で生きてきた少女を、ボクたちに救って欲しいと願っている。それだけは確かだ。
だって、わざわざ死にかけの少女を指して“見つけてくれ”“友達になってくれ”なんて、それが言葉通りの意味である訳が無いのだから。
そして、今のボクたちには――
「へびつかい座の星群少女、か」
「えぇ、かの星座のモチーフとなったのは医神アスクレピオス。死者さえ蘇らせたとされる伝説を有しております。その星群少女ならば、或いは」
貨月ちゃんが思いついた、この打開策がある。
太陽の道筋に存在する13の星座、『黄道星座』の1つ“へびつかい座”。
医術の神と神話に謳われるアスクレピオスを象るアステリズム。そんな星群少女の有する力ならば、もしかしたら少女を死の運命から救えるかもしれない。
もっとも――
「とはいえ。これは蜘蛛の糸より尚細い可能性。加え、繋がっている先が希望かどうかも分からない有り様ですわ」
そもそも『黄道』は南天にも北天にも属さない。
常に中立……と評すれば聞こえは良いが、実際は高みの見物を決め込んでいる傍観者に過ぎない。誰かの為に善意で動いたという話は全く聞かない存在だ。面識もないボクらに快く手を貸してくれる……とは考えにくい。
また、真偽不明ではあるものの、へびつかい座は他の12星座から嫌われている。仲間外れにされている……との情報もある。
ともかく、へびつかい座の星群少女は『黄道』の定例会合にも出席する事は無く、何処にいるのかも完全に不明。既に死亡しているとも、そもそも最初から存在していないとも噂されているとのこと。
そんな存在である故、当然ながら力を振るった場面を見た者も皆無。
船の部品である“竜骨”を司るレクシィさんの能力が、ティラノサウルスの骨だったように。星群少女の力は星座が象るモチーフそのものとは限らない。むしろ、そんな事例は少数派。折角見つけても、少女を救う“医術”の力を有しているかは未知数だ。
しかも、最悪な事に。
「どれだけ多く見積もっても、リミットは精々1週間が限度。それも彼女が力を発動しなければ、の話でしかありません」
少女の肉体は既に限界を迎えようとしている。
あと1週間で確実に死んでしまうし、僅かでもAEの力を使用すれば浸食は加速度的に速まる。リミットは急速に縮まってしまう事だろう。
そんな時間制限の中で、何処にいるかも分からない少女1人を、この広い世界から見つけ出して連れて来なければならない。
更に、助けてくれるよう説得しなければならないし、ボクたちの命を狙っている少女本人も説得する必要がある。
まさに絶望的。
だが、それでも――
「それでも、やる以外の道は無ぇ。だろ?」
「えぇ。その通りですわ、麻琴さん」
それでも、膝を屈する理由にはならない。苦しむ少女を見捨てる理由にはならない。
ボクの……キュクノス・リグリアの白き翼は、『護りたいモノ』への想いに応じて際限なく加速できる。どこまでだって速くなれる。
貨月ちゃんの……タイム・イズ・マネーの金色の鎧は時間を加速する。ボクの翼に劣らぬ速度を実現できる。
ボクたち5人の力を合わせれば不可能なんて無い。奇跡だって起こせるはずだ。
「決まりだね! へびつかい座の星群少女を探そう! そして、その女の子を絶対に助けよう!」
ボクの言葉に、仲間たちは力強い肯定で応じた。
☆☆☆
一方その頃。
真っ直ぐ帰宅した来栖は――
「さっさと出て行け変態」
「いやいや、一先ずは話を聞いて欲しいのさ」
「生憎だが。白衣一枚しか羽織ってない変質者。そんな奴の言葉を聞く耳は持ち合わせてない」
「……ん? じゃあ聞くけどさ。こういう格好は嫌いかい?」
「いや、嫌いではないけれども。むしろ好きだけれども」
「ほらねー!」
「黙れ変質者。何が“ほらねー”だ。さっさと俺の家から出て行け」
「んぎゃーー! イダダダっ!!
――変態と戯れていた。
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