ハーレム系ラノベ主人公を修羅場に突き落とすのが愉しくて止められない。 作:夢泉
こちらは七夕スペシャルの番外編です。
時系列は本編の1年前。
来栖たちが高校1年生の頃の物語です。ですが、本編とは関係ありません。
皆様の願いが、夢が、叶いますように。
夏。――其は正に修羅場フェスティバル。
俺は常々思っている事がある。「修羅場」は夏の季語として歳時記に登録されても不思議ではない、と。
無論、修羅場は年中を通して楽しめる極上の果実である。
しかし、忘れてはならないのは「修羅場」が「ハーレムラブコメ」の一部であるという事。そして、ハーレムラブコメには往々にして“王道”が存在する事だ。
出逢いの春から増え続けた“火種”は、ギラつく夏の太陽によって一気に燃え上がる。ここで深めた“絆”を秋でじっくりと育て、冬の“クリスマス”や“バレンタイン”で決着をつける――これこそが1年構成タイプのハーレムラブコメにおける“定番”なのである。
確かに、2年・3年かけて熟成させるハーレムラブコメも多々あるが、これも基本的な流れは変わらない。
夏休みこそは良質な修羅場を育てる土壌。この長期の休みを土台として、数え切れないほどの修羅場イベントが実るのだ。
燃え盛る恋が灼熱の太陽に照らされて、夏だけの魅惑の味を演出する。
夏は修羅場の季節。これは絶対の真理なのである。
そして時は、高校生最初の夏休み。
中学時代の子供っぽさは鳴りを潜め、その恋は更に本気度を増してゆく。そんな時期の、夏。そんな時期の、修羅場。
あぁ、世界が輝いて見える……!
だが。
そんな素晴らしい夏に――
「ほら、これなんかどうかな!」
なんで
どうして、あんなに魅力的なハーレムメンバーの女子たちを放っておいて 男2人でショッピングなぞに興じているんだ。馬鹿だろ。馬鹿なんだろ。
この世の全てのモテない男子に謝れ。土下座して詫びろ。
「このブレスレット! 麻琴ちゃんに似合うと思うんだけど!」
……まぁ、今回ばかりは仕方がないか。
今日は7月6日。明日7月7日は鷹刈のバースデー七夕パーティ。彼女への誕生日プレゼントを一緒に選ぼう……俺は星にそう誘われたのだ。
恋敵への誕生日プレゼントの相談……当然、他の少女たちが快く協力する訳もなく。そういう意味では、俺を選んだのは賢明と言えよう。
故に、普段であれば“俺じゃなくて女子を誘え”と突っぱねる所を、こうして律儀に付き合っている。
「良いんじゃね? すごく似合うと思うぜ。買ってやれよ、星」
こうなったら、特大の火種となるプレゼントを買わせよう。そんなことを考えてアクセサリーショップに星を誘導した。
ブレスレットとか最高じゃん。「せっかくなら着けて♡」みたいな超オイシイ展開が期待できるし、貰った方は常に身に着けてライバルへのマウントが取れる。なんて素晴らしい爆弾だろうか。
そう思っていたのだが――
「ボクのじゃなくて、来栖の! 来栖が買ってあげるの!」
はぁ~~~~~~~~~?????????
馬鹿か? 馬鹿だよな? 馬鹿なんだよな?
はぁ~~~~~~~~~(クソデカ溜息)。
鈍感系ハーレム主人公ってのは、直で見ると本当に馬鹿だ。頭のネジが数本抜けてるって感じがする。
「いや星、お前が買ってやるべきだ。お前が似合うって思ったんだからな」
なんで俺が買うんだよ。いくら仲が良くても、友人に過ぎない異性からアクセサリープレゼントとか重すぎるだろ。引くわ。ドン引きだわ。
だけど、それも惚れている男からとなれば話は別だ。鷹刈が惚れているのは星。星から貰えば、鷹刈は絶対に喜ぶ。
プレゼントにおいて最も重要なのは、“何を貰うか”では無く、“誰から貰うか”なのだ。
「それに、俺はもう買ってあるんだよ」
「……え? そうなの?」
勿論だとも。
これまで数々の修羅場スポットを調査してきた、この俺のリサーチ力を舐めるな。
今回の場合、俺に求められる役割は
その為にあらゆる物品を調べ上げ、何度も何度もシミュレートを重ねた。正直、一般モブ親友として、これ以上ない最高のセレクトが出来たと自負している。
俺の計画に狂いはない! ぬぅわはははははは!!
★★★
7月7日、夜。
毎年恒例、
といっても、私が皆さんと友人になったのは中学2年の冬でしたので、まだ2回目なのですが。
ともかく。麻琴さん、星さん、韻子さん、てうさん……皆様とても満足してくださっているようで何よりですわ。時金の総力を結集したパーティですので、当然と言えば当然ですけれど。
……それでも、何かが足りないと感じてしまう。大切なピースが1つ欠けていると感じてしまう。それはきっと私だけではなく、他の皆さんも同じで。
それもそのはず。ここには偽十字さんが居られない。成績が悪くて補習漬けになっているらしく、到着が遅れているのです。
とはいえ。どれだけ遅刻しても顔だけは出すと仰っていたので、今は彼の言葉を信じるとしましょう。
「さて、皆さん。願い事を笹に吊るしましょう。この特製の純金の笹に……!」
「何度見ても慣れねぇな、それ。天の川よりギラついてんじゃねぇか」
「当然ですわ! どうせ願うなら絶対に見逃されないようにすべきでしてよ!」
「むしろドン引きしてスルーされる気がするんだが」
「こんなに、裕福なら、後回しでも、良い。そう思われ、そう」
……一理あるかもしれませんわね。
まぁ、良いでしょう。別に構いませんわ。
麻琴さんと韻子さんからの野暮な発言は無視です。こんなもの、どうせ形だけなのですし。
願いとは己の力で叶えるモノ。神頼みなんて時金には似合いませんもの。
ですから、私は――
――Time is Money. 時金 貨月
己の決意を込めて、自らの信念を刻むのみ。
さて。皆さんは如何なる願いを捧げるのでしょうか。
気にはなりますが、他者の願いを覗き見る……そのような無粋な真似はいたしません。
掲げた願いを知るは、本人と星空のみ。それで良いのですわ。
★★★
ボクの願いは……やっぱり、これかな。
もう何も失いたくないから。失わせたくないから。
ずっとずっと、今日みたいに笑い合っていたいから。
だから――
――友人みんなが笑って過ごせますように。
★★★
オレの願い、か。
恋愛成就………………………
……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
……………………っておい!
オレは一体全体なにを書こうとしてんだ!
…………………………って、別にアイツと何かなりたいわけじゃ………………………………でも最近身長が抜かれてドキッとして……
………………って違う! ぬわあああああああああああああああああああ!!!!
―― ■■■■ 誰よりも強くなる。
★★★
彦星の力を持ってる私が、七夕に願いを書くのは変な気もするけど。
ま、細かいことは良いか。
そうだな……どうせ書くならコレかな。
――世界平和。 鷲平 韻子。
あぁ、そうだ。一応。
――追伸。存分にイチャつけ、彦星&織姫。
そういえば。
1年ぶりに1日だけ会えた彦星と織姫って何するんだろう。
恋人らしく、初々しいデート?
それとも夫婦らしく、情熱的な情事?
すっごく気になる。
★★★
皆サマ、とっても楽しそうで良かったです。
この光景を見ていれば願いは1つしか思いつかないですね。
てうの願いは1つだけ。ただ――
――ずっと皆と一緒に居られますように。
★★★
そして。皆が願いを吊るし終わり。
続いて、各々が麻琴さんにバースデープレゼントを渡していきます。
私は世界中から厳選した美容用品の詰め合わせ。……といっても、殆どが我が時金ブランドですが。贔屓目無しに最高の物を選んだら、たまたま自社製品ばかりになってしまったのですわ。流石、お母様が直々に指導・経営する美容部門。
ともかく。スキンケア・化粧品から小道具まで、ほぼ一通りが揃っています。鷹刈さんは元より美しい方ですが、その美が更に磨かれる事でしょう。美に終わりは無いのですわ。
てうさんは、星さんと一緒に作ったという手作りお菓子の詰め合わせ。とっても美味しそうでした。
韻子さんは、可愛らしいミニスカート。麻琴さんは口では「オレには似合わない」などと仰っていましたが、満更でもなさそうで。流石は韻子さん。付き合いが長いだけあって、麻琴さんの好みを熟知していますわね。
そして星さんは――
「これ、来栖と一緒に選んだブレスレット。2人で、麻琴に一番似合いそうなのを選んでみた」
「っ……! ……そ、そうか! ありがとうな、星!」
……? 何だか、麻琴さんの反応が妙な気が……?
「みんな、本っ当にありがとうな! すっげぇ嬉しい!」
…………ふーむ?
皆さんのプレゼントが嬉しくて感極まっているだけ、でしょうか?
えぇ、多分そうですわね。他に理由も思いつきませんし。
そして。このタイミングで――
「……っ! すまねぇ、遅れた!」
――最後の一人、偽十字さんが到着。
よほど無茶をして走って来たのでしょう、息も絶え絶え、汗だくになりながら。
まったく……信じていましたわよ、貴方は必ず約束を守る殿方だと。
これでやっと全員集合ですわね。
☆☆☆
「よぉ、鷹刈。誕生日おめでとう」
「あ、ありがとう、来栖。……その、えっと。それで、これ、どうだ?」
む?
とりあえず、全力疾走で失った水分を時金家特性の高級ジュースで潤していると、鷹刈が妙にモジモジしながら話しかけてくる。
……何だ? 腕に付けたブレスレットを見せつけてきているような気もするが。
「来栖が星と選んでくれたって聞いて、さ。その……似合ってる、か?」
星の野郎ぉおおおおおおおおお!!!!
怖気づきやがったな、このチキン野郎!
そこは「ボクが選んだんだ。君の美しい手に似合うと思ってさ☆」とか言っとけば良いんだよ! 律儀に同行者の……
「選んだのも買ったのも星だよ。俺は軽く相談に乗っただけで。……ま、凄く似合ってるぜ。流石は星の見立てだな」
「そ、そうか……!」
よし、これで良いだろ。ほとんど星の功績ですよ、俺は関係ないですよってアピールできたはず。
全く、世話の焼ける親友だな。鈍感ハーレム系主人公の尻ぬぐいは大変だぜ。
「んで、こっちが俺からのプレゼントだ。良かったら受け取ってくれ」
ふははははははははは!!!!!
何を隠そう! このピンクのぬいぐるみ、名前を『ガンヒヨ』! 『ガンを飛ばすヒヨコ』なる意味不明なシリーズの一体だ!!
何でヒヨコなのにガンを飛ばしたイカツイ顔なのか! なんで仙台土産でもないのに眼帯を付けて独眼竜なのか! ツッコミどころしかないピンクヒヨコ!
どうだ、この完全ネタグッズ! 正に『好感度教える系友人キャラ』が選ぶプレゼントに相応しかろう! 完ぺきに
「
「ん?」
「……あ、あー!! コホン! いや、随分と可愛らしい……来栖っぽくはないプレゼントだと思ってさ!」
「ははっ、だよな。俺もそう思う。ただ、これを見た瞬間、これしかない! って思えてなー。嫌だったか?」
「い、いや! 全っ然! すごく…すごく嬉しい! ありがとうな!」
ちょっとコメントに戸惑ってる感じ、まさに狙い通り!
どうやら俺は、無事に完全無欠の引き立て役になれたようだな!
「偽十字さん。ようこそいらっしゃいました」
「おう、時金。すまねぇ、挨拶もしないで。それに、こんな豪邸に汗だくの制服で駆け込んできちまって。流石に非常識過ぎたわ」
「いえ。それでこそ貴方ですわ。ちゃんと間に合ってくださいました。――改めて、時金は貴方様を歓迎いたします。至福の一時を刻んでくださいませ」
でた、時金家の挨拶。
何度見ても、礼の姿勢とか美しすぎてビビるんだよな……。パンピーには刺激が強い……。
「そうだ。偽十字さんも願い事を書いて行きますわよね?」
「あぁ、そうだな。せっかくだし書いて行くか」
「それでは、これが短冊とペンですわ」
「サンキュ」
☆☆☆
――時金から渡された短冊を眺めながら、思う。
七夕とは実に良く分からない行事だ、と。
だって、この短冊に書いた願いを一体誰が叶えるというのだ?
織姫と彦星? 馬鹿な。奴らは一年ぶりのイチャイチャタイムに忙しい。
元々仕事をサボってイチャつくようなバカップル。バイトテロの元祖みたいな奴らだ。そんな奴らが、自分たちのイチャイチャタイムを削ってまで見ず知らずの奴らの願いを叶えるわけがあるまい。
では、織姫の父だという天帝? それも有り得ない。だって、仕事もせずにイチャついていた二人を叱って罰を与えるような良識ある方だぞ。努力もせず願うだけの存在に手を差し伸べる訳が無い。
故に。もしも、この唯の紙切れに――短冊に願いを書く行為に意味があるとすれば。
それは、自分の願いを絶対に叶えるという決意表明に他ならない。
きっと、ここに集った少女たちは、自らの恋の成就を願い文字にしたことだろう。絶対に勝者になってみせるという強い決意と共に。
それなら、俺が書く願いは――
――全ての願いに幸あれ。
俺は最後の最後まで、この修羅場あふれるラブコメを――最高の喜劇を堪能するのだ。
★★★
あぁ、やっぱり凄いな、来栖は。
麻琴ちゃんは男勝りで、身長も高くて喧嘩も強くて、口調も荒っぽくて、常に男の子みたいに振舞っているけれど。それは家で無理やり男の子として育てられたから。そう振舞うことを押し付けられ続けたから。
彼女の本質は、小さくてカワイイ物や、ピンク色で可愛い物が大好きな、誰より“女の子らしい”女の子。
その趣味嗜好はバレたら家の人に叱られるから隠し続けていて。知っているのはボクら星群少女の仲間だけ。
彼女はヤクザの跡取りとして“強くて”“男らしい”“カッコイイ”仮面を被り続けている。
けれど、来栖は。
そんな偽りの姿じゃなくて、彼女の本当の姿を見ているんだね。
だから、あんなに彼女の好みドストライクな物を選べたんでしょ?
そして。
さっき、ぬいぐるみを渡された麻琴ちゃんの顔は凄く幸せそうだった。“女の子”の顔をしていた。
……やっぱり、勘違いじゃない。麻琴ちゃんは来栖を異性として意識し始めている。
お似合い、だと思う。
来栖なら、ヤクザの家だろうが何だろうが自分の思い通りに振り回せるだろうし。気に食わなければ組長だろうが何だろうが、全力でブン殴るだろうし。
ボクは戸籍が男だし、いつ死ぬかも分からないし………………だから、だから――だから、なんだ? ボクは一体何を考えているんだ?
………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………やめよう。これ以上考えてもなにも良い事は無い。この思考の先に幸福は無い。
だから、全て気のせいだ。
このチクリとした胸の痛みも、全て。
星空の物語書いてるくせに、今日が何の日か忘れていた……
なんとか、間に合いました。