ハーレム系ラノベ主人公を修羅場に突き落とすのが愉しくて止められない。 作:夢泉
★★★
思えば、愚生の命も随分と長く続いている。
二千年近くの時を生き、星群少女の中でも古参に分類される存在となった――が、そんな愚生の存在を知る者は限られる。精々、十二星座と数名の星群少女が知っている程度だ。
愚生は徹底して、そのように生きてきた。己の存在を隠し続けて来た。
何故ならば、愚生は……“へびつかい座”の星群少女ヒューカス・アスクレピオスは、“最弱”の星群少女なのだから。
“人間の星群少女”……そんなイレギュラーを含めて考えても、最弱は文句なしに愚生。いっそ最近あちこちで好き勝手暴れている星群少女モドキよりも弱い。なんなら、完全な一般人にすら負けるかもしれない。
それもそのはずで。愚生は特別な能力を何1つ振るうことが出来ないのだ。
竜に変ずることも、空を飛ぶことも、火を出すことも――癒すことも。如何なる超常の力も、この身には許されていない。
正確に言えば、能力はある。が、ワケあって使えない。永遠に使用を禁じられている。
使えぬ力は初めから無いのと等しい。それ故、愚生は『最弱』の星群少女と呼ばれている。
ちょっと体が丈夫で、不老ではあるけれど。通常の星群少女ならば共通して有している能力に過ぎない。愚生だけの特別な力では無いのだ。
それでも。愚生は生き残り続けて来た。誰にも殺されることなく。この二千年の時を生き続けた。
そんな事が出来たのは、ひとえに――
★★★
「……というわけさ。あのド畜生に一泡吹かせたくてね。ずっと同志を探していたのさ」
――磨き上げたペテンの技術があったから。
「そういうことなら早く言ってくれ! ヒューカスさん、だっけ? 一緒に奴を地獄に突き落としてやろうぜ!」
ほら、この通り。愚生の嘘をもってすれば、敵意100%だった存在でも容易に丸め込めてしまう。
この家の所有者が「偽十字 九栖狸」であり、その息子の「偽十字 来栖」が事実上の独り暮らしをしている……その程度の事は少し調べれば直ぐに分かる。
もっとも、この父親とされる人物。いくら調べても足取りがつかめず、どこで何をしているのか全く分からない不気味な存在だった。“極星機関”や“時金”を始め、如何なる組織も情報を掴めていない有り様。
そのせいで事前情報が不足し、少々アドリブが多くなってしまった……が、その程度はハンデにもならない。二千年の研鑽は伊達ではないのだ。
既に意識は覚醒していたにもかかわらず、あえて気絶した振りを続けて。それでレクシィが来栖クンを「兄上」と呼んだのを聞いた。
これだけで“妹”と偽って転がり込んだことは容易に想像がつく。それ故、まずは“父親の知り合い”を名乗って反応を見た。
……まさか「クソ親父の知り合いならクソ」という暴論で、そのまま外へ投げ捨てられそうになるとは思わなかったが。
しかし、これによって彼が父親を蛇蝎の如く嫌っている……どころか、いっそ殺したいほどに憎んでいることは明らかとなる。
そこからは簡単。お涙頂戴の話をでっちあげて、被害者の振りをすれば良い。今回は“九栖狸のせいで家庭が崩壊した”、というエピソードをドラマチックに仕立て上げて話した。
あとは敵意の源泉たる“妹に危害を加えようとした”という誤解を解くだけ。言葉巧みに話を誘導して終了。ほら、簡単だろ?
まぁ、他にも小細工を弄してはいたが……。
「……おっ?」
「よっと。おいおい、気を付けてくれよ。せっかく見つけた同志が何も無い所で転んで死んだ……なんて笑い話にもならないさ」
「はは、支えてくれたのか。ありがとうな、ヒューカスさん」
危ない危ない。バラ撒いて吸わせた『毒』が効きすぎてしまったようだ。
AEを主原料として調合した、愚生特製の『毒』。
最近は『Typhon』なる組織が何やらAEを悪だくみに使っているらしいが……愚生から言わせれば“まだまだ”だ。使い方がまるで駄目、未熟極まりない。
一度に過剰に摂取すれば、人間の肉体など直ぐに崩壊する。当たり前、基本中の基本だ。精々が使い捨ての駒が出来る程度。
だが、AEは元を辿れば人間から……人間の願いから発生したエネルギー。用法容量を見極めて使えば、様々な使い道が存在する。例えば、今回のように。
この『毒』を吸い込んだ
後々人体へ悪影響が出る事もないし、時間が経てば直ぐに消え去るので証拠も残らない。
しかも便利な事に。この『毒』、AEの結集存在である星群少女には効かない。使用者である愚生に効果が出ないのは勿論のこと、レクシィにも影響が全く出ないのだ。
AEと共に生きてきた星群少女には効かず、AEに触れる機会が殆ど無い人間にだけ効果を発揮する。
それ故にバレない。そういう代物である。
「せっかくだ! もっと詳しく話を聞かせてくれよ、ヒューカスさん!」
「あぁ、勿論さ」
こうして。愚生は来栖クンの案内でリビングへと通されることとなり、
いやー、なんともチョロいものである。簡単すぎて欠伸が――
「……賢者様の嘘は巧妙じゃな。完全にしてやられたのじゃ」
「やっと手に入れた唯一の武器でね。そう睨まないで欲しいのさ」
「少しでも妙な真似をすれば殺す」
「大丈夫、大丈夫。安心して欲しいのさ。君の獲物を奪うような真似はしないよ」
――ありゃりゃ。そうそう上手くは行かないか。
すれ違いざまに小声で告げられた警告。どこまでも冷たい声音と眼差しは、正に“絶対零度”。
うーん。これじゃあ、あんまり大それたことは出来そうもないな。
なるべく大人しくしていよう。まだ死にたくはないしね。
★★★
机を挟んでヒューカスと兄上が会話を進めていく。その様子を兄上の横に座って眺めながら、思う。
してやられた、と。
そもそもの発端は、ワシが兄上に無断で家宅捜索を敢行したことにある。加えて、嘘でまかせで罪を押し付けた負い目も有る。バレたら兄上に叱られることは明白。最悪の場合は追い出されてしまうかもしれない。
ヒューカスは、そんなワシの負い目を利用して話を進めていったのだ。
視線やら何やらを駆使して“バラされたくなければ”とワシの言葉を封じ、むしろ思い通りの言葉を引き出した。全てのイザコザは“誤解だった”という言質を取られたのだ。
……成程。ワシがヒューカスと最後に出逢ってより千と数百年。
まさか、賢者が詐欺師となっていようとは思わなかった。その類まれな頭脳をフル活用し、千年の研鑽の果てに至ったのが
あぁ、全く。つくづく、本当に、どうしようもなく、つまらん奴だな。
どいつもこいつも星群少女というのは退屈な奴ばかり。例外的に面白かった白鳥たちも死んだ今、ワシの心を揺さぶる存在は残っていないのだろう。
もはや完全に興味も失せた。ワシと兄上の家から早々に失せてもらいたい……が。この女が何の目的で訪れたのか。それだけは明らかにする必要があるだろう。
それ故、兄上が家へと招き入れるのを止めたりしなかった。
だが。
だが、もしも。少しでも不審な動きを……兄上に手を出すような動きを見せたら、殺す。
兄上の眼前だろうが関係ない。本来の姿となって、金剛の牙で噛み殺す。
そんな事を考えながら、兄上とヒューカスの会話を眺めていたのだが。
……何故だろうか。無性にイライラする。内容は“どこから来たのか”“どうやって来たのか”程度の他愛無い会話なのだが、見ていると不自然に腹が立って仕方がない。
口内で、奥歯がダイヤモンドと化していくのを自覚する。これは怒りが抑えられずにいる証拠。ここまで腹が立ったのは数百年ぶりかもしれない。
一体何が原因なのだろう?
「のぅ、兄上」
「お、どうしたレクシィ?」
原因は分からないままだが、目の前の光景が……ヒューカスと兄上がにこやかに談笑する光景が原因であることは疑いようがない。
それ故、無理やり話しに割って入った。兄上がワシの方を振り返って言葉を紡げば、不思議とイライラは収まった。ダイヤモンドの牙も普通の歯へと戻ったのが分かった。
「父上とは如何なる人物なのじゃ? ワシ自身は名前しか知らぬ故、詳しく教えて欲しいのじゃが」
「奴には敬意なんて払う必要ない。父上なんて呼ばず、クソ親父で十分だぜ」
……む。ここまで憎しみが深いか。
まだ出逢って2日目だが、兄上の基本的な性格は温厚だ。それくらいは分かる。
そんな兄上が斯様に憎しみを露わにするとは。一体、偽十字 九栖狸とは如何なる人物なのだろうか?
「そうだな、ヒューカスさんもいることだし。良い機会だから話しておくか。奴の……クソ親父のことを」
簡単な要約。カス(ペテン師)とカス(快楽主義者)が出逢っちゃいました。