ハーレム系ラノベ主人公を修羅場に突き落とすのが愉しくて止められない。   作:夢泉

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何度でも言います。ヒューカスさんはカスです。





14話:ママ属性は色々と業が深すぎるけど、やっぱり魅力的なのは否定できない。

 

★★★

 

 

 愚生には願いがある。

 願いより生まれた星群少女の身でありながら、決して譲れぬ願望を抱いている。

 強くなることではない。

 富でもない。

 名声でもない。

 

 ――ただ、()()()()()()

 

 愚生は死にたくない。生きていたい。ずっとずっと生きていたい。

 怠惰でも良い、惰性でも良い、退屈でも孤独でも構うものか。どんなに過酷でも、惨めでも、地獄のような日々であろうとも。

 それでも、愚生は生きていたい。

 例えば、この星が滅亡する時が来ようとも、最後の最後まで生き残りたい。

 例えば、愚生を“先生”と慕い、守り続けてくれているサペアちゃん。彼女が眼前で惨たらしく殺されようとも――

 ――それでも愚生は仇討ちもせず逃げ出すだろう。

 ――助かるのならば、その仇の靴だって舐めるだろう。

 ……まぁ、その類の経験は無いのだが。それでも断言できる。できてしまう。

 だって。愚生は1分1秒でも――否。永遠に生きていたいのだから。

 

 遥かな昔、医神とさえ呼ばれた男がいた。

 命を愛し、慈しんだ男。

 あらゆる傷を、病を癒したいと……叶う事なら死すら覆したいと望んだ男。

 果てに悲願たる死者蘇生を実現し、世の理を壊す者として――世界の病理として抹殺された男。

 名を“アスクレピオス”。

 

 そして。愚生はヒューカス・アスクレピオス。

 ()の者を象りし星座……“へびつかい座”より生まれた星群少女。

 この身には流れているのだ。願望、渇望、無念、執着……医神の抱いた、あらゆる“想い”が血潮となって。

 それ故に。愚生は知っている。知り過ぎている。

 “生”の(いた)みを。その価値を。

 “死”の(おも)みを。その価値を。

 この世には、決して崩してはならぬ理がある事を知っている。

 死んでしまえば、何も成せぬ(救えぬ)事を知っている。

 『生』と『死』を知る故に『命』の重みを知っている。この身に宿る奇跡(いのち)の価値を知っている。

 

 だから愚生は死にたくない。

 この唯一無二の命を失いたくない。

 それだけが、たった1つの願い。

 

 

★★★

 

 

 来栖クンの話を聞きながら、思う。

 そもそも、なぜ愚生が彼の元を訪れたのか。

 愚生なんか足元にも及ばない、圧倒的強者である星群少女がバンバン死んでいく……そんな地獄染みた北天なんぞに、わざわざ来たのか。

 隠れる事を止めてノコノコ出て来たのは何故なのか。

 

 簡単なこと。生き残るため。それだけだ。

 

 思い出すのは、千年以上も昔のこと。まだ“アルゴ座”として活動していたレクシィと……ほか数名と共に行動していた、あの頃。

 あの頃も同じ理由で愚生は動いていた。

 荒れ狂う台風は地上の全てを吹き飛ばし、押し流して進む。この最弱の身に抗う術はない。

 だが、その中心には比較的()()な領域が存在している。

 それこそは台風の目。時代・世界の中心地。

 そこは危険なように見えて、実は最も生存可能性が高い。何故ならば、そこには英雄(怪物)たちが集うから。あらゆる理不尽を跳ねのけ、運命すら捻じ曲げる逸脱者たちが。

 その中で上手く立ち回れば、最弱の身であろうとも嵐を乗り越える事が出来る。生き残る事が出来る。死なずに済む。

 だからこそ、愚生は今ここに居る。

 今の世界の中心だと予測した場所。偽十字 来栖の近くへ。

 

 今、この世界は激動の時代を迎えようとしている。

 10年前の事件とやらも、今の北天の惨状も、全ては前座に過ぎない。それらが、そよ風に思える程の嵐が……大いなる災いが訪れようとしている。少なくとも、愚生はそう確信している。

 それは恐らく、これまでに無い……ともすれば神話の時代さえ凌駕する厄災となるかもしれない。

 

 故に。愚生は何としても彼の……来栖の“仲間”になる必要がある。

 彼が守ろうとする存在に。彼の仲間たちが助けようとする存在にならなければならない。

 だから――

 

「俺以外の玩具を見つけたんじゃないかな、とは推測していたんだが。それがヒューカスさんへ迷惑をかけていたとは。本当にすまなかっ……」

 

 愚生は彼を優しく包み込んだ。

 あたかも、我が子を慈しむ“母”のように。

 

 

★★★

 

 

「ヒューカス、さん……?」

「良いさ。それ以上、何も言わなくて」

 

 正直、レクシィは上手くやったと思う。

 “妹”なんて庇護欲を掻き立てる最高のポジションじゃないか。彼女がなっていなければ愚生がなりたかったくらいだ。

 でも。二番煎じは駄目だ。貴重さが半減してしまう。生き残れなくなるかもしれない。

 ならば、どうするか。

 簡単だ。それ以外の大切なポジションに収まれば良い。

 彼の話の中には徹頭徹尾“母”が存在しなかった。理由は分からないが、彼を慈しむ“母親”が不在だった。

 そして。父親を憎んでいる……そう語る彼の中には“父親(おや)に愛されたかった”という感情があるのは明白。

 そこに、つけこむ隙がある。

 

「な、貴様、何を……!」

 

 当然のように抗議しようとするレクシィへは、1つジェスチャーを送る。

 来栖クンの背に回した右手を口元へ。人差し指を立てて、唇に当てる。

 “静かに”、と。

 そのまま、その指で来栖クンの後頭部を指す。

 “彼を見ろ”、と。

 

「……っ!」

 

 レクシィの表情が驚きと……幾分かの悔しさが混じったようなソレになる。

 抱きしめている体勢ゆえ、生憎と愚生からは伺えないが。どうやら、レクシィにはハッキリと見えたらしい。

 彼の和らいだ顔が。母に抱かれる幼子のように、安堵し落ち着いた顔が。

 

「来栖クン。今は唯、愚生に身を委ねていれば良い。何も考えず、静かに。それで良いのさ」

 

 まぁ、種明かしをすれば。

 そういう気持ちにさせる()()を……『()』を愚生が放っているからこそ、なのだが。

 ともかく。これでレクシィは手を出せない。

 いくら嫉妬しようとも、“兄”の平穏を壊すなんて彼女()には出来ない。

 安らぐ彼の眼前で、恐ろしい竜の姿となって、愚生を噛み殺す……そんなこと、絶対に出来ない。

 

 白状しよう。

 愚生は、彼の境遇に同情なんて全く抱いていない。

 親に愛されなかった子など、この長い生で数えるのも馬鹿らしくなるほど見てきたし。

 何より、愚生にとっては自分の命が一番大事だ。それ以外は割と()()()()()()

 それ故。彼の過去に対し、同情も、慈しみも、母性も何も無い。

 けれど、その過去()を利用できると――それだけは思った。

 

「……どうやら眠ったらしいのさ。よほど安心したのかもね」

 

 どれくらい、そうしていただろうか。いつのまにか、彼はスヤスヤと眠ってしまっていた。

 母の腕の中で眠る、無垢な赤子のような表情で。何とも無防備に。そういう『毒』だったから仕方ないのだが。

 

「だから、その剣をしまって欲しいのさ。彼が起きてしまうよ」

「ぐ、ぬ……」

 

 おーおー、怒ってる怒ってる。

 辛うじて人間体は保ってるけど、身体中がダイヤモンドになりかけているじゃないか。

 けど、手は出せない。愚生の予想通りだ。

 あとは静かに彼から離れて、今日の所はお暇するとしよう。これ以上レクシィを刺激すると、後々に支障を来すから……ん?

 あれ? 離れられない? あれれ? これ、もしかして来栖クンも愚生にしがみついてる? いつの間に?

 

 ――そして。そのタイミングで、()が。

 ()()()()()()()()()()が、鳴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 






それでも。そんなヒューカスさんが作者は好きです。
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