ハーレム系ラノベ主人公を修羅場に突き落とすのが愉しくて止められない。 作:夢泉
★★★
「ただいま。お風呂沸かしてあるよね?」
最悪だ。本当に最悪だ。
持って産まれた最強の武器を使わず、剣も銃も使わず、ただ己の肉体のみで戦う。
遥か昔に立て、頑なに守り続けてきた誓い。それをこれだけ後悔することになろうとは。
何はともあれ、早く風呂に入りたい。体中にこびりついたドロドロのダークマターを洗い流してさっぱりしたい。
だのに――
「おかえり。そして、ごめん。風呂は沸いてない」
「死ね」
「カップ焼きそば用に沸かした熱湯の余りならあるけど、使う?」
「星座になるくらい惨たらしく死ね」
ズルズルとカップ焼きそばを啜るクソ男……偽十字 九栖狸の態度に、一瞬で怒りが最高潮に達する。
アタシの玉のような肌を熱湯で傷つけるなど言語道断だし。
カップ焼きそばを作っている時間があれば風呂くらい沸かしておけという話だし。
そもそも、食事しながら明後日の方向を見ているなど、まかり間違っても謝罪する者の態度ではない。
要するに死ね。惨たらしく死ね。具体的にはサソリの毒で苦しみながら死ね。
使命の為とはいえ、こんなクソ男と一つ屋根の下で同居しなきゃならないとか最悪過ぎる。
「しかし、流石は黄道だね。軽く50人はいたはずだけど、あっという間に片づけちゃった」
「AEを摂取しただけの一般人が相手だったし。普通、あんな紛い物の殲滅に時間なんてかけないだろ」
さっきアタシが殲滅したのはアステリズム・エネルギー……AEに適性を持たない人間が、無理やりAEの力を得た結果の出来損ないたち。
彼らは放っておいても直ぐに死んでしまう。血、肉、骨、神経……肉体のあらゆるものがダークマターへと変わっていく、人間の限界なんて軽く超えた激痛に苛まれながら。全てが泥となって消えゆく定めの、愚かな者たちだ。
だけど。死ぬまでの僅かな間に巻き散らす被害は見過ごせない。彼らの暴走によって、無関係の善良な人々が涙して良いわけがないのだ。
それに何より。
たとえ、禁忌に手を出した罪人であろうとも。
たとえ、力の代償にも考えを巡らせられない、浅慮な愚か者であろうとも。
たとえ、それが自業自得の結果なのだとしても。
それでも。あんな風に苦しみながら死んでいい命なんて一つもない。
この身に毒を宿して生まれたアタシだからこそ、そう強く思うのだ。
一分一秒でも彼らが苦しむことがないように。少しでも安らかに眠れるように。そのためにアタシは彼らを殺す。それだけだ。
「はは。そりゃあ頼もしい。……彼らと同じ一般人の僕としては、ちょっと複雑だけどね」
「アンタが一般人? 寝言は寝て言えっつーの」
ふと、ピーっと甲高い音が鳴る。
お風呂が沸いたことを知らせる音だ。どうやら、アタシが奴らを殲滅するのが早すぎただけで、ちゃんと沸かしてくれていたらしい。
……こういうところがあるから、完全に憎み切れないのだ。
そういえば。以前、いて座のクソ女が「それ、DV彼氏に依存するダメ女の典型パターンでは?」と言ってきて大喧嘩になったが………絶対に違う。アタシはこんなクソ男には、これっぽっちも惹かれちゃいない。絶対ったら絶対だ。
奇妙な方向に走り始めた思考を打ち切るべく、アタシは無理やり話題を変えることにした。そう、先ほどから彼が目を逸らすことなく熱心に見続けている映像――科学の力ではなく、AEの力によって映し出された遠隔地の盗撮映像――について。
「また偽十字 来栖のことを覗いているんだな?」
「うん、そうだよ」
コイツは毎日毎日、曲がりなりにも自分の息子を、あたかも実験動物を観察するように眺め続けている。単純に気持ち悪いと思う一方、よく飽きないものだと感心するのも事実。
……しかし、今日は昨日までと少々異なっているようにも思う。瞬き一つせず、前のめりになって、あまりにも観察に熱が入り過ぎている
そのことを尋ねてみると、彼は映像から目を逸らさないままに応えた。
「そりゃそうだよ。なんてったって我が息子の晴れ舞台だからね。入学式、卒業式、運動会、授業参観……そういうイベントごとには参加できなかったし、親らしいことなんて全くできていないけれど。ちゃんと元気に成長しているようで嬉しい限りさ」
晴れ舞台。つまり、何か特別で目出度いイベントがあったのだろうか。
そう思って映像を覗き込めば。
全裸白衣のカス女――ヒューカスに抱かれている偽十字 来栖と、それ以外に7名の星群少女が映っているではないか。
どうやら、“へび座”が単独で“はくちょう座”“こと座”“わし座”“子ぎつね座”“とけい座”の5名をあしらっているらしい。……ヒューカスの毒やら何やらのサポートもあるのだろうが、それでも流石は“へび座”。黄道にすら匹敵する力は圧倒的だ。
“りゅうこつ座”が静観しているのが気になるけれど……いや、彼女の性格を考えれば当然だ。レクシィが望むのは死闘。どちらかの陣営に加担して一方的に蹂躙するなんて絶対にありえない。むしろ両方をまとめて相手取ってしまうのが彼女だ。
……そこまで戦況を分析して、思う。これのどこが目出度いイベントなのだ?
そもそも、主役であるはずの来栖は完全に気を失っていたぞ? 十中八九、ヒューカスに毒でも盛られたのだとは思うが。
「これが晴れ舞台? ……どう見ても、一歩間違えれば即死の修羅場に見えるが?」
「…? 修羅場は晴れ舞台だろう?」
「は?」
「自分の子供がモテていて嬉しくない親はいないだろう? つまりは、そういうことさ」
「どういうことだよ」
「星群少女が8人も勢ぞろいとは、我が息子ながら凄まじいプレイボーイっぷり。将来有望だね」
「将来絶望の間違いでは。痴情のもつれで背中を刺される未来しか見えないんだが」
「背中の傷は男の勲章だよ。プレイボーイという意味合いでね」
「いっぺん死ね」
会話をしているうちに、画面の向こう側にも変化があったらしい。
どうも、ひとまずは話をするという方向でまとまりそうである。
最終的には“へび座”のサペアが裏切り、ヒューカスを一発殴って気絶させ捕縛。そのまま身柄を差し出して話し合いに持っていったようだ。
「……うーん。もうちょっと修羅場になって欲しかったんだけどなぁ。まぁ、後の楽しみにとっておこうか」
「惨たらしく死ね」
「あ、どうだろう。君も息子と仲良くなってみないかい? 修羅場要因は増えれば増えるほど面白いんだ」
「星座になるくらい惨たらしく死ね」
【後書き】
申し訳ございません。
七夕に、ゆっくり再開します。