ハーレム系ラノベ主人公を修羅場に突き落とすのが愉しくて止められない。 作:夢泉
1話:商店街の福引で当たったチケットを渡してくるクラスメイト、現実で見たことない。
「おい
「……なにコレ?」
俺――
背も小さいし、声も高いし、体つきは丸みを帯びているし、目はクリっとしているし、眉は細いし、なんか良い匂いもする……けど、正真正銘の男だ。
幼馴染の俺ですら時々疑わしくなるが、幼い頃にちゃんと付いているのを確認している。この目でバッチリと。超凄い技術で作られた精巧なレプリカか、逆に非科学的な魔法で作られた幻影とかでも無い限りは本物だった。そして、そのどちらも現実的に考えて有り得ない。
なので、彼が男であるのは間違いない。どっからどう見ても少女にしか見えないけれど、そういう美少年であるのだ。
「ほら、新しく出来た遊園地あるだろ? あれのチケットだよ。日にちは今度の日曜」
「え、凄い! 全然取れないって有名なのに!」
会話を続けながら、チケットを入手するまでの道のりを思い出す。
いやー実に大変だった。
PCの前に張り付いて予約キャンセルを待ち、それでも無理だったから最終的に転売ヤーから高額で買い取る羽目になった。
おのれ転売ヤー共、足元見やがってからに。バイト代が吹き飛んだじゃないか。
というか、そもそも奴らが買い占めるせいで買えないのであり、本当に転売ヤーとは醜悪な存在だ。頭の上に鳥の糞でも落ちやがれ。
とはいえ。そんな苦労話を明かす必要はない。
「なんか、たまたま商店街の福引で当たってな」
「……また? 来栖って運良いよね。色んな所の福引とか懸賞とか当ててばかり」
ふむ。流石に使い過ぎたか。なんやかんやで嘘に使わせて貰うのは3回目くらいだしな。
商店街の福引云々という文言は暫く控えるとしよう。懸賞も駄目となると……あとは来店100万人目とか、親戚から譲り受けたとか、SNSのお年玉企画に当選したとか……うーむ。全部何度も使ったことがあるぞ。困ったな。
次までには新しい嘘を考えておかなければならない。
「ま、なんてったって俺はサザンクロスの男だからな」
「はは、またそれ。でも、君が当てたんだから君が行きなよ」
「いや。これも毎度の如く、用事があって行けない。捨てるのも勿体ないんで貰ってくれると助かるんだわ」
「なんというか……流石は“クロスラッキー”だね。二つ名に恥じない」
「うるせぇ」
「クロス」に近しい「来栖」の名と、「十字」の姓。そこから自称して「
「うん、でも。そういうことなら有難く貰っておくね。ありがとう、来栖」
「良いって事よ。……あぁ、そうだ。1つ言い忘れてたんだが――」
「……?」
だが! 無論、この俺が時間と手間となけなしの金をかけてチケットを入手したのは善意からではない!
人間はそんな利他的な生き物では無いのだよ! 性善説など片腹痛し! 全ては俺の人生の楽しみの下ごしらえに過ぎんのだ!!
「――これ2人用だからさ。
瞬間。教室内でガタガタっと幾つかの椅子が激しい音を立てる。
ククク、釣れた釣れた。大漁、大漁。チョロくて助かる。
やべぇ、顔がニヤけそう。
耐えろ。耐えるんだ、俺。ここで笑ったら怪しまれてしまう。
「遊園地デートしたいヤツ……?」
「隠さなくても良い。俺は知ってるぜ。誘いたいヤツがいるって。ソイツを誘って行けよ」
数℃教室の温度が下がった気がする。いや、むしろメラメラと燃えているのかもしれない。
そう。我が幼馴染はモテる。女みたいな顔だが、それは非常に整っているという事の裏返し。友人としての贔屓目無しでも彼はイケメンである。
それに加え、性格は社交的で天真爛漫のお人好し、スポーツ万能で成績優秀と来ている。これがモテないはずがなく、彼の周りには常に女の子がワラワラと群がっているのである。何なら男より女と居る方が多い。良く一緒にいる同性の友人なんて俺くらいのものだ。
そして、その少女たちの中には彼に惚れている……ガチ恋勢が何人もいるのであって。故にこそ、彼の周囲ではハーレム系主人公の運命とでも言うべき修羅場タイムが日常的に繰り広げられているのである。
「ふっ。それじゃあ、邪魔者は去るとしますかね。馬に蹴られたくはないしな」
「馬? 馬って何…」
命短し恋せよ乙女。
一斉に星の所へ向かう少女たちを尻目に、俺は颯爽と教室を去る。
さてさて。今回は誰が一緒に行く権利を握るのだろうか。そこに至るまでのドタバタ劇を想像するだけで楽しくて仕方がない。
★★★
「せせせせ星サマ!? で、ででででででデートとは何です!?」
「まさかの、恋人、スキャンダル」
「おぉ!? 何処のどいつだ!? もうヤッたのか!?」
“クールに去るぜ”とばかりに矢鱈と格好つけた仕草で少年が去って行った教室。
そこでは少女たちが一人の生徒に詰め寄っていた。
発言は順に、茶髪のツインテールが愛らしい
詰め寄られている生徒の名は、白鳥 星。白い肌に珍しい白髪。色素の薄い中にキラキラと金の瞳が映える。少女に見える男子……
「違うってば! ボクに恋人も好きな異性もいないよ! 多分、来栖が何か勘違いしてるだけだって!」
「ちっ、なんだ。いつものかよ。相変わらず意味不明だな、アイツは」
「納得、いつもの、お騒がせ。目的は、不明」
「あの人、本当に何がしたいのです……?」
三人の疑問の声を聞いて、白い髪の少女は昔日を思い出すかのような遠い目をしながら呟いた。
「ボクも分からない。分からないけど、1つだけ分かる。どうせ今回も多分――」
☆☆☆
はーはっはっは!!!
今頃、教室では修羅場が繰り広げられている事だろう!
だが、まだだ。まだ俺の下ごしらえは終わらない。
俺はグルメなのだ。デザートまで含めたフルコースでなければ満足など出来ない。
「よぉ、
「あら、偽十字さん。ご機嫌よう。本日は
教室を去った流れのまま隣の教室へと向かい、そこにいる金髪の少女へと話しかける。
お嬢様然とした彼女の名は
「星がデートをするらしいんだが、詳細を聞くか?」
「…っ! 聞きましょう」
ふっ。計画通り食いついた。
何を隠そう。こいつもまた、我が親友に好意を寄せるハーレムメンバーの一人である(俺調べ)。
星のデートなんて話を持って来れば、時金は必ず遊園地へ向かうだろう。チケットが取れないとか関係ない。この女の財力なら遊園地を貸し切る事くらい造作も無いのだから。
まぁ、時金は絶対にそんなことしないだろうけど。ちゃんとチケットを買った人たちの楽しみを奪ったりしない。ただ大株主として特別枠で招待されるだけだ。
しかも。時金は正々堂々と戦うことを信条としている。唯一のデート相手に選ばれなかった哀れな敗残兵たちにも平等に機会を与えようとするのは間違いない。彼女はライバルである他の少女たち全員を招待することだろう。
つまり、結果的にどうなるのかと言うと――
★★★
「――ほら、やっぱり。また今回も揃った」
日曜、遊園地にて白鳥 星は呟いた。
そこに集った仲間たちを見渡しながら。
「この時金 貨月ともあろう者が踊らされたようで癪ですわ」
「これこそ彼が意図的に仕組んでいる事だと、星サマは思うのです?」
「分かんない。ボクは長く彼と一緒にいるけど、彼が本当に考えている事が分かった事は一度も無いのかもしれない」
そこで白髪の少女は一度言葉を切る。
そして――
「なー、どうでも良いけどよ。オレって浮いてねーか? 遊園地とかガラじゃねぇんだよ。この服ヒラヒラして落ち着かねーしよー」
「はぁはぁ……。へへへ、大丈夫。麻琴は、誰より、可愛い」
「ぅひゃぁ! てめっ、韻子! どこ触ってんだ!」
「ぐへへ。麻琴の、公衆の面前では、言えないトコ」
「相変わらずキモイんだよ! この淫子! 離せ、離せぇえええええ!」
普段はロングスカートと竹刀袋で往年のスケバンスタイルで過ごす鷹刈 麻琴は、今日は打って変わってミニスカートを軸とした女の子らしい格好をしている。
そして、その恰好を恥ずかしがる彼女に向かって突撃し、荒い息を吐く鷲平 韻子。
強い口調で嫌がってみせるピンク髪の少女だが、どことなく楽しんでいるようにも見える。そもそも、高身長の彼女が本気で抵抗すれば、小さな黒髪の少女など簡単にあしらえるはずなのだ。
そんな見慣れた、けれど得難く大切な光景を見ながら、白髪の少女は「でも」と続けた。
「もしかしたら、ボクたちが少しでも一緒に居られるようにしてくれてるんじゃないかなって。そんなことを時々思うんだ」
その言葉を聞いた少女たちは互いの顔を見合わせる。
直前までワチャワチャと揉めていた少女2人も馬鹿騒ぎを止めて皆と目線を合わせ、そして――
「ぷふっ」
――誰ともなく小さく吹き出して笑い合う。
「まぁ、いつだって血生臭ぇ事ばかりだもんな」
「こういう、息抜きは、大切」
「思えば。
「確かに、そうかもです!」
そんな風に、大切な仲間たちが笑い合う姿を見て、白髪の少女も笑う。
そして、彼女は皆に呼び掛けるように言葉を紡いで――
「じゃあ、せっかくだし! 日々の戦いを忘れて今日は目一杯遊んで――」
――瞬間。遊園地に響き渡る、絹を裂くような悲鳴。
誰かが助けを求める声を耳にして、少女から笑顔が消えた。
彼女の表情は既に友達と休日を楽しむ女の子のものではなく、過酷な戦いに身を投じる戦士のソレとなっていた。
「ちっ。また来やがったか。クズ共が」
「残念ですわね。休暇はここまでのようですわ」
「最悪の気分です。ボコボコにしてやるです」
「塵も、残さない」
それは他の少女たちも同じ。
彼女らは、それぞれ星型のネックレスを握りしめると叫んだ。
「――変身っ!」
☆☆☆
そして、その頃。少年は――
「ねぇ、君。ヒロインになってみる気はない?」
「……なんじゃ、人間の小童。ワシは貴様如き小物に構っている暇はないのじゃ。ワシの気が変わらぬうちに去れ」
「おぉ! のじゃロリ属性か! 最高じゃん! うんうん、そこそこヒロインの数が増えてきた段階で加わるダークホースとしては最高だな!」
「……お主、何を言っておる?」
「ちなみに、主人公の写真はこんな感じ。かなりのイケメンだろ?」
「な!? 其の首飾りは…! 貴様、此奴を知っておるのか…っ!」
「あ、なに。もう知ってる感じ? 流石イケメンは顔が広くて助かる」
「知ってるに決まっておろう…! 此奴らはワシらから大切なモノを奪ったのじゃ……!」
「ふむふむ。ツンデレ系ヒロインか。まぁ、アイツが人様のモノを盗むわけも無いし。すれ違いや誤解を乗り越えて深い信頼関係を築くパターンで間違いないな。素晴らしい」
「おい小童! 此奴は今どこにおる…!」
「あそこの新しく出来た遊園地にいるはずだぞ」
「感謝する、小童! 後で必ず褒美を取らせるでな!」
「いってらっしゃーい」
――なんか敵を増やしていた。