個性──生態模写 作:月見月 月魅
持って産まれてきた異形系個性──生態模写は音無鳴を最も美しい人間へと作り変えたが、同時に音無鳴の何もかもを消し去ってしまった。
目視した生物の好ましく思えた部位を自動的に記録し、肉体へと反映させるという個性は、中学三年生にして生けるモナリザと評されるほど完成された美貌を生み出した。
そんな自分の外見を、音無鳴は心底嫌っている。持って産まれてきた個性を憎んでいる。
洗面所に立てば、ただの鏡は忽ち絵画へと早変わりする。歯を磨いている最中の間抜けな顔ですら美しい。
声は聞いたものの脳を蕩かし、吐息は掛かれば石化する。臓器や筋肉まで最適化されたその身体は、つま先から脳天、歌声から吐瀉物に排泄物まで汚点が一切ない。究極の美体に魅せられた誰が言ったかまるで──
──この世全ての美──
母にも父にも似ていない、人間離れした美貌が、しかし音無鳴には醜くて仕方がない。まるで他人の体で生きているような、自分だけゲームのアバターで生活しているような異物感が、恐ろしくて仕方がない。だけど誰にも、助けてと言えない。恵まれた人間が恵まれぬ人間に助けを求めるなど、あってはならないというのが美しき人類、音無鳴の道徳だ。
だったら助ける側になればいいじゃない。
生物であればどんなものでもコピー出来るこの個性も、完全に制御して使いこなせば少しくらい、愛着を持てるのではないか。そう考えてからの鳴の行動に、中学校の教職員達は目を回す。
先日まで進路指導から勧められるままに有名進学校へと向けられていた進路が直角に曲がったのだ。
雄英高校ヒーロー科。この国で最も偏差値が高く、最も入学の難しい高校。一見武闘派とは程遠い可憐な美少女である鳴が受けるには危険すぎると多くの生徒、教師が止めた。
しかし彼らの妄想は裏切られる。
生物の生態をコピーする個性──生態模写に例外はない。魚類だろうと、爬虫類だろうと両生類だろうと鳥類だろうと、植物だろうと、個性だろうと。全てコピーし、その生態を己がものとする。
オールマイトの怪力も。
エンデヴァーの火力も。
ホークスの速力も。
トップヒーローだろうと年下の子供だろうと無差別にコピーし、本人と同じレベルで扱えるその個性。ただの人間が勝てる筈がない。
ヒーロー科志望だけを集めて行われた試験対策戦闘訓練を通して、また鳴は自分の個性が嫌いになった。
どこまでも他人頼り。
他人の努力を模写しただけの借り物の技。
どうして好きになれよう。どこに愛着をもてよう。
それでも、こんな個性で生まれてきてしまったのだから、せめて社会の役に立てよう。借りた分を利子付きで返せるくらいに。本来の持ち主が許してしまうくらいに──清く正しく美しく。
自分の顔も声も忘れてしまった少女、音無鳴の