個性──生態模写   作:月見月 月魅

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怪人

 個性──神通力。神の如き異能をもって、USJの内側に異界が生まれる。それは俗に結界と呼ばれるもの。何もない空間に非物質の壁を張ることで、何物も外へと逃さない牢獄を作り出す。

 

「これは……」

 

「うちの神社にも使われてる緊急時用隔絶結界です。今ここでビッグバンやジャイアントインパクトが起きようと、ブラックホールが現れようと、外には砂一粒すら漏れることはありません」

 

 体内にブラックホールを内包する13号は、直感的にこの空間が宇宙からも切り離されていることを認識した。目で見ても、大気の流れを感じても何も違いはないはずだが、鳴の言葉に偽りがないことを本能で確信する。

 

「なるほど、なるほど。確かにこれでは、この狭さでは、全速力を出し続けるのには骨が折れますわね」

「だがそれは、自分達の逃げ道も塞いだようなものなんじゃあねーのかぁ?」

 

 壱参は言いながら目に見えて速度を落とし、13号が指先を向ける頃には停止する。人命優先を捨てた真のブラックホールを前には、光速に劣るマッハ20では足りないと判断したのだろう。片側ずつの男も女も、ニヤニヤと卑しい笑みを浮かべて三人を見下ろす。

 

「合図は不要です、13号ちゃん。あなたのタイミングに、私が合わせます」

 

「…………」

 

 生徒優先。時間優先。さっさとこの怪人を捕らえ、USJ各地に散らされたという生徒たちを無事に避難させねばならない。行動不能な相澤を含めた二十人以上の命を背負わされた13号は、返事も忘れて敵を見る。

 

「いいぜ! さあこい!」

「受けて立ちますわ、ヒーロー」

 

 13号のコスチュームの、指先につけられたキャップのようなものが内に吸い込まれるように消滅する。

 その正体は地球の重力を遥かに上回る巨大な吸引力。上空に浮遊していた壱参も、大気も砂も、一切合切無差別に吸い寄せる。

 

 混合個性(ミックスアビリティ)──大いなる守護霊(ジャイアントスピリット)

 

 そしてその先で待ち受けるは、巨人のような何かを背後に権限させた鳴。ブラックホールの吸引力を脚力で強引に突破し跳躍すると、背後の半透明な巨人も共に飛び立つ。

 

 上空に向けて放たれるは、半透明の巨大な拳。

 

「うふふふふ。仮初といえどブラックホールの重力圏からの脱出とは、流石は鳴ちゃんですわ」

「だがパワーロスは免れねぇだろ! ──火竜の煌炎!!」

 

 身長よりも大きな拳に、両手の炎が合わさった巨大な炎が叩きつけられる。背後にいる13号のブラックホールによって威力を殺された巨人のパンチは、壱参の炎に打ち負けた。

 

 あっけなく。それはもう、煙でも殴ってしまったのかと勘違いするほど軽々しく。

 全体重だけでなく加速力まで乗せた勢いは、ブラックホールの吸引力でさらに加速する。

 

「ちょっ、マジか!?」

 

「捕まえた」

 

 個性──念動力

 

 ブラックホールの吸引力に身を任せた鳴は、自分と同じく吸い寄せられる壱参をついに、念動力で捕らえた。

 しかしそれは、鳴との位置関係が固定されただけで、二人揃って吸い込まれている現状に変わりはない。もうあと五秒ともたずやってくる地上は、13号と相澤の足元だけを残したクレーターのような有様。このままでは、13号の制御が間に合っても地面に叩きつけられ、制御を誤れば鳴も壱参も塵となる。

 

「まずい! 間に合いません!」

 

 どうやら後者が濃厚らしい。久しく全力で個性を振るってこなかった13号は、ブレーキを踏むタイミングを間違えた。吸引力は弱まるも、間に合わない。

 

 パリン、と。硬いものが割れる音がした。

 

「言いたいことは山ほどあるが──よくやった。音無、13号」

 

 まるで消えたように、吸引力は収まった。

 

 誰が触れるでもなく砕けたのは、相澤の頭部や手足を固定していた拘束具。目隠しが外れる前から、音と気配だけで状況を常に把握し続けていた相澤は、迷うことなく13号の個性を抹消した。

 

 ブラックホールが消えたおかげで体制を整えられた鳴は麗日の個性──無重力(ゼログラビティ)をもって、ブラックホールの吸引力を殺し、慣性も地につけた足先で殺し尽くす。

 相澤もすぐに立ち上がり、念動力で縛られ動けない壱参をさらに捕縛布で縛り拘束する。

 

「音無、お前は避難だ。全速力で職員室に向かって、状況を伝えるんだ。その後は校長がなんとかしてくれる」

 

 まず両手を縛り、流れるように足まで、まるでミイラのようにぐるぐる巻きである。

 

「…………」

 

 鳴はチラと壱参を見つめる。そして書かず、答えず、ただ首を振った。

 縦ではなく、横に。

 

 戦場を包んでいた結界が消えると、まず届いたのは戦闘音。相澤も13号も理解する。

 

 戦場(結界)の外もまた、戦場だった。

 

 生徒たちが戦っている。ヒーロー科の教師たちも戦っている。

 敵は大きな脳がむき出しになっている、黒い怪人。それがたくさん、全く同じ姿の怪人が数えられるほどの数で暴れている。

 他には、体のあちこちを手のようなもので掴ませた色白の男が一人。

 

「なんだ……あれは……」

 

 オールマイトのパンチでも倒れない。

 轟が氷漬けにしても止まらない。

 爆豪が爆破しても怯まない。

 上鳴の電撃は気にもかけない。

 麗日が触れて浮かせれば、空を蹴り自由自在に飛び回る。

 耳郎が耳たぶのイヤホンジャックを突き刺せば、逆に耳郎の方が攻撃を受けたように悲鳴をあげた。

 

 全身に手をつけた男──死柄木弔だけが、声を上げて笑っている。

 

 相澤の言葉に、手足を縛られて動けない壱参が嫌味ったらしい笑みを浮かべて嬉々と答えた。

 

「十三のドクターによる実験の十三番目。その完成形にして中間位(ミドルレンジ)モデルですわ」

「いわば俺や鳴の後継機にあたる、ドクターの傑作怪人──脳無シリーズ」

「単体性能なら負ける気はありませんが」

「アレのヤベェところは、材料さえあれば量産が可能ってとこだな」

 

 畳み掛けるように、包み隠さず。

 ゴリ、という頭蓋で地面の砕ける音を壱参は聞いた。死角の位置で見えないが、頭部を相澤に踏まれている。

 

「無駄話は後でたんまり聞いてやる。今は合理的にいこう。つべこべ言わず、あれの対処法を吐け」

 

 現在の戦況は、決して良いとは言えないが危機的とまでは至っていない。二十、三十の敵が侵入してきている時点で異常事態ではあるし非常事態でもあるが、ヒーローなら退けられて当然の状況である。

 しかしどうやら、オールマイトと校長という文武両道コンビですら、脳無という、足元の怪人以上に怪物らしい怪人を相手に苦戦している。

 

 壱参には忠誠心や協調性が欠けているのか、敵として持つべき他の何かが欠けているのか。つべともこべとも言わず、嫌なほど素直に”嫌な答え”を長々と口にする。

 

「脳無を構成する材料は、複数の人間の死体と複数の個性ですわ」

「あいつが連れてきた脳無の個性はざっくり言えば、超再生とショック吸収。そして()()だ」

「それと個性ではありませんが、製造時の改造により、個性に寄らない怪力を持っていますわ」

「倒し方その一は、全身手首の男、(とむら)に『脳無、止まれ』と言わせることだ。俺たち怪人に植え付けられた絶対命令の権限が、オール・フォー・ワンから譲渡されてるから、それだけで終わる。が、あいつを洗脳でもしねぇとまず無理だな」

「倒し方その二。あの脳無はどれだけ殴ろうとノーダメージですが、木っ端微塵に切り刻めば流石に停止しますわ」

「分体の個性の性質上、ダメージは他の分体全てに分散される。オールマイトの全力も効かねぇ原因は、ショック吸収以上にそこにある」

「しかし一体でも倒すことが出来れば、全てに死が分散し停止しますわ」

「殺しは御法度なんて気にする必要はねーぜ。何せ脳無は死体から作られている。既に──

 

 ゴリ。

 

「長い。そしてもういい」

 

 再度、より強く踏みつけて黙らせる。

 相澤は戦場を観察し、未だ死者が出ていないことに安堵しながらも鋭く言う。

 

「音無。恥を忍んで先の指示を撤回する。そして戦闘を許可する。13号と協力して生徒全員集め、避難するんだ」

 

 入学したての生徒に戦闘許可を出すヒーローのなんて情けないことか。しかし鳴ならやろうと思えば、この事件を木っ端微塵に完全無欠に一片の悔いもなく解決することも出来ただろう。

 

 しかしそうさせないのは、できないのは。最も合理的で効率的な一手を打てないのは。

 

 それはスペックではなくプライド、子供と大人という重なることはあれど覆ることのない価値基準にして優先順位の問題である。

 

 ギャハハ、と。足元の怪人だけが笑った。

 





 後書き。というか、音無鳴の設定集。その八。

 怪人

 オール・フォー・ワンの下で、ドクターの手によって生み出された改造人間。あるいは人造の生命体。

 個性の複製や攪拌、人体改造、記憶の改竄、削除。あらゆる技術をもった十三人のドクターによって、十三種類の実験が同時並行されていた。

 脳無は十三人目のドクター、十三番目の実験によって生み出された怪人で、単体での性能よりも量産性、作成難易度の低さを重視した、兵器運用を前提とした設計で作られている。
 材料と設備さえあれば、理論上、脳無を百億体作り地球を侵略することが可能。
 材料は複数の人間の死体と、複数の個性である。

 (にのまえ)(にのち)は生きた人間を生きたまま混ぜ合わせる実験によって生み出された怪人。あらゆる性能が偶然の産物であり、二人の人間を組み合わせてなぜ生き続けているのか、製造したドクターにすら分からなかったため、2.5次元(ドットファイブ)の再現性も絶望的。
 量産性、繁殖力は皆無だが性能は高く、究極の万能型、コピー系個性のハイエンドモデルともいわれる鳴に匹敵する。

 そして音無鳴もまた、ドクターの手を加えられた怪人である……?
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